やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか   作:星乃 望夢

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PHASE-67 外を目指して

 

 『オペレーション・スピットブレイク』。

 

 本来の歴史において、それはプラント最高評議会議長パトリック・ザラが立案した極秘軍事作戦であった。

 

 表向きの攻撃目標を、宇宙へのマスドライバーを擁する南米の『パナマ基地』であると全軍へ布告しつつ、作戦発動を宣言したその瞬間に、真の標的である『アラスカ地球軍最高司令本部JOSH-A』へと全軍の矛先を急反転させる。

 

 「敵を欺くには、まず味方から」という冷酷な鉄則を文字通り地で行くこの欺瞞作戦の真実を知っていたのは、パトリック本人と、彼の息のかかった極少数の側近のみであった。

 

 だが、その極秘情報の中枢には、あの白き仮面の男──ラウ・ル・クルーゼが潜んでいた。

 

 クルーゼの手によって、その情報はムルタ・アズラエルをはじめとする地球軍の上層部へと密かに漏洩される。結果として、ザフトが地上の総戦力の実に「三分の二」を投入したこの大攻勢は、地球軍の冷酷な罠に利用されることとなった。

 

 アラスカ本部の中へとザフトの大軍を誘い込み、地下に仕掛けられた巨大なマイクロ波発生装置『サイクロプス』を起爆。撤退を知らされず置き去りにされた自軍の将兵たちごと、ザフトの地上戦力を文字通り「蒸発」させ、決定的な打撃を与えるという、あまりにも凄惨で狂気に満ちた結末を迎えるはずであった。

 

 ──しかし、この世界線において、戦局の歯車は全く異なる回転を始めていた。

 

 パトリック・ザラは、同じくパナマを攻撃目標と偽装しつつも、その「陽動」としてアフリカの『ビクトリア基地』に大規模な戦力を投じ、血みどろの攻防戦を演出したのである。

 

 ユーラシア連邦のティエレン部隊が防衛するビクトリアは、ザフトにとって予想を遥かに超える肉挽き機となった。

 

 だが、パトリックにとってそれは、地球軍の目を釘付けにするための「極上の餌」として十分に機能した。

 

 そして、作戦発動と同時に真の牙を剥く。

 

 台湾のカオシュン宇宙港、オセアニアのカーペンタリア基地、そして大気圏外で待機していたダイブシェル降下部隊。

 

 これらの真の主力部隊に対し、突如としてアラスカへの電撃的な侵攻命令が下されたのだ。

 

 ここで、一つの大きな「物理的なラグ」が生じた。

 

 ザフトの地上部隊の要であるMSを多数搭載した『ボズゴロフ級潜水艦艦隊』である。

 

 彼らは偽装作戦を完璧なものとするため、作戦発動の直前まで本気で太平洋を南米・パナマ方面へと向かって航行していた。そこへ突如下された、北極圏アラスカへの転進命令。

 

 いかにボズゴロフ級が高性能な潜水艦であろうとも、広大な太平洋を縦断してベーリング海を抜け、アラスカの沿岸へと到達するには、全速航行を行っても丸一日を要したのである。

 

 ここで、ザフト軍の指揮官たちは極めて冷徹かつ合理的な判断を下した。

 

 宇宙からコロニーの残骸を用いたメテオストライクを敢行し、アラスカの地表施設と対空網を完全に消し飛ばした。

 

 だが、いくら地表を灰燼に帰したとはいえ、アラスカの主機能は地下要塞が生きていることを前提に設計されている。

 

 そしてザフト軍には、決して忘れることのできない苦い教訓があった。

 

 かつて行われた『第一次ビクトリア攻略戦』の悪夢である。

 

 当時、モビルスーツという人類史上最強の兵器を初めて重力下へ大量投入したザフトは、その性能を過信し、大気圏外からの空挺降下部隊「のみ」で拠点の制圧を図った。

 

 しかし、結果はどうであったか。

 

 強固な拠点防衛網の前に孤立し、重火力を備えた地上支援部隊の援護が得られなかった降下部隊は、凄惨な包囲殲滅戦の末に手酷い惨敗を喫したのである。

 

『モビルスーツの単独降下のみでの拠点攻略は不可能。重火力を持った地上・海上支援部隊との連携をもって初めて、堅牢な要塞は陥落する』

 

 この血の教訓が、ザフト軍の末端に至るまで深く刻み込まれていた。

 

 ましてや、相手はあのティエレンを生み出したユーラシア連邦も加担している地球軍の総本山。

 

 コロニー落としで混乱しているとはいえ、地下には無傷の戦力がどれだけ潜んでいるか分からない。

 

 故に、海から重火力を持った地上支援部隊が到着し、完璧な包囲・殲滅陣形が整うまで、衛星軌道上の降下部隊は静かに牙を研いでその時を待ったのである。

 

 皮肉なことに、ザフトのこの「軍隊としての正しい戦術的教条」が、地獄の底に突き落とされたアラスカ本部の地球軍将兵たちに、予想外の恩恵をもたらすこととなった。

 

 頭上を覆う数十メートルの岩盤と、完全に崩落したゲート。

 

 光も電波も届かない、サイレンと非常灯だけが明滅する地下の暗闇の中で、彼らは「今すぐ、崩落した瓦礫の隙間からザフトのモビルスーツが雪崩れ込んでくるのではないか」という恐怖に震え上がっていた。

 

 だが、数時間が経過しても、敵は来ない。

 

 大質量爆撃の直後、間髪入れずにザフトのエース部隊に蹂躙されるという最悪の即死展開は免れた。

 

 地下に閉じ込められた大西洋連邦の将兵たちは、恐怖と絶望を怒号に変え、ストライクダガーやリニアガンタンク、重機を総動員して、血みどろの発破・掘削作業を開始した。

 

 ザフトの本隊が到着し、この地下要塞が真の処刑場と化す前に、何としてでも外へと通じる『出口』を抉り開け、脱出路を確保しなければならない。

 

 閉ざされたアラスカの地下空間で、命と時間を天秤にかけた、息の詰まるような死のカウントダウンが幕を開けたのであった。

 

「ビームサーベルを連続で使い続けてバッテリーが切れるだと!? なら、基地の動力炉からケーブルを引いて、機体にダイレクト給電しながらやれば良いだろうがッ!」

 

「荷電状態の維持でサーベルのデバイスが熱に耐えきれず溶ける!? 馬鹿野郎! そんな下らない泣き言を喚いている暇があるなら、手を動かせ、手をッ! 溶けたら予備のサーベルと即座に交換しろ! 武器庫には腐るほど在庫があるだろうが!」

 

「いいか、よく聞け! サーベルが何百本溶けようが、ストライクダガーの腕部マニピュレーターが焼き切れようが、知ったことか! ここで外に出られなきゃ、俺たちは全員、この極寒の地下要塞で窒息するか餓死するかの二択なんだよ!」

 

「グズグズして掘り進めるのが遅れてみろ! やっとこさ外の空気が吸えた瞬間に、ザフトの連中が笑顔で『コンニチワ』してたら、俺がお前らを直接この手で撃ち殺してやるからな! 死に物狂いで掘れェェェッ!!」

 

 酸欠と熱気で視界が歪む地下通路の最前線で、発破作業を指揮する現場将校の血を吐くような怒号が絶え間なく響き渡っていた。

 

 アラスカ基地の地下要塞を塞いでいるのは、ただの土砂ではない。大気圏の摩擦熱を帯びたまま激突した数万トンのコロニー残骸と、それに押し潰されて融解し、再び極寒の地で急速冷却されて固まった超高硬度の『複合岩盤』であった。

 

 通常の掘削機や爆薬など、鼻先であしらわれるほどの分厚さと硬度を誇るその絶望の蓋を抉り開けるため、大西洋連邦の将兵たちは軍の常識をかなぐり捨てた狂気の手段に打って出ていた。

 

 ロールアウトしたばかりの最新鋭量産機『ストライクダガー』。

 

 その機動力と汎用性をすべて放棄し、臀部のコネクターには基地の動力炉から直接引かれた、高圧送電ケーブルが突き刺されていた。

 

 機体は両腕でビームサーベルを構え、それを巨大なバーナーの如く岩盤へと突き立てる。

 

 本来、モビルスーツ同士のすれ違いざまの斬撃や、ごく短時間の接触を想定して設計されているビームサーベルのデバイスは、岩盤を溶断するための『連続照射』など微塵も考慮されていない。

 

 凄まじいプラズマの熱量によって、岩盤がドロドロのマグマへと変わるのと同時に、サーベルの発生器そのものが赤熱し、耐熱限界を超えてアメ細工のように溶け落ちていく。

 

 だが、作業の手が止まることは一秒たりともなかった。

 

 サーベルが融解して火花を散らすと、即座にダガーはそれをその場に投げ捨てる。

 

 すかさず後方で待機していた別のストライクダガーが入れ替わり、ビームサーベルを突き立てる。

 

 溶けた岩盤は他のストライクダガーが対ビームシールドで灼熱の泥水のように掻き出していく。

 

 泥と、汗と、オゾンの焦げた悪臭。

 

 空調設備もクソもない坑道内の気温はサウナの方が涼しく感じられる程だろう。パイロットも作業員も、誰もが脱水症状と極度の睡眠不足で幻覚を見るギリギリの精神状態に追い込まれていた。

 

 それでも彼らは、死のタイムリミットに急き立てられ、ただひたすらに不眠不休で前へ前へと光刃を突き立て続けた。

 

 何十機ものストライクダガーの腕が熱で使い物にならなくなり、ビームサーベルがただの鉄屑と化し、幾人もの兵士が熱中症で倒れ伏した。

 

 そして。結論から言えば、彼らのその常軌を逸した生存本能と狂気は、物理的な絶望を凌駕した。

 

「……ッ!! 抜けました! 前方、外の光です!!」

 

 センサーではなく、己の肉眼で亀裂から差し込む白い光を捉えたパイロットの絶叫が、ノイズ混じりの通信機から響き渡った。

 

 最後の分厚い岩盤が、数機がかりのビームサーベルの飽和照射によって完全に融解し、外側へと向かって豪快に吹き飛ぶ。

 

 灼熱の地獄と化していた坑道内に、アラスカ特有の、肺が凍りつくような極寒の風が勢いよく流れ込んできた。

 

 温度差によって発生した猛烈な白煙を割って、満身創痍のストライクダガーが地表へと躍り出る。

 

 視界に広がったのは、クレーターだらけに変わり果てた見慣れぬ祖国の光景。

 

 しかし、彼らが最も恐れていた『最悪の事態』は、そこには存在していなかった。

 

「……間に合った。間に合ったぞッ!」

 

 現場将校が、涙と泥で汚れきった顔を歪ませて狂乱の咆哮を上げた。

 

 アラスカの地球軍将兵たちは、ザフトの攻撃部隊が完全な布陣を敷く前に、自らの手で死の棺桶から脱出する出口を確保することに成功したのである。

 

「全機、ケーブルをパージしろ! 奥に居る連中を呼んでこい! 直ちに戦闘態勢へ移行!」

 

 外へ出られたのは良い。だがそれで終わりではないのだ。

 

 この後に控えているのはザフトとの戦闘だ。

 

 降下部隊に、それを支援する陸上部隊が来るはずだ。

 

 その前に対空砲も野戦砲陣地も、要塞砲も、皆吹き飛んだこのクレーターの中で迎撃準備を整えなければならなかった。

 

 

◇◇◇

 

 

 地表に展開した守備隊は、息をつく暇もなく直ちに迎撃準備へと奔走した。

 

 かつてアラスカを地上最強の要塞たらしめていた、自動対空砲陣地も、重厚な要塞砲座も、敵を面で制圧するための野戦砲兵陣地も、最初の大質量爆撃によって全てが原子の塵へと変わっている。視界を埋め尽くすのは、爆発の熱で雪が融け、ドロドロの泥濘と化した無数のクレーターだ。

 

 その歪んだ大地の窪みに、満身創痍のストライクダガーが身を潜め、キャタピラを泥にまみれさせたリニアガンタンクが銃口を空へと向ける。

 

「何が何でもここで食い止めろ! 本部を、地球の盾を守り抜くんだ!」

 

 通信機能がかろうじて生きている無線から、前線指揮官の悲壮な叫びが響く。

 

 自分たちがここで引けば、地下に眠る無数の物資も、地球軍のプライドもすべて化け物どもに蹂躙される。

 

 将兵たちは不眠不休の疲労を精神安定剤で強引にねじ伏せ、死に物狂いで泥の防衛線を構築していった。

 

 そんな前線将兵たちの、血を吐くような執念と悲壮な覚悟を尻目に──アラスカ基地の最深部、メテオストライクの衝撃すら届かなかった地下深くの潜水艦ドックでは、全く異なる光景が繰り広げられていた。

 

「急げ! ぐずぐずするな、化け物どもの本隊が来ればここも安全ではない!」

 

 ブルーコスモスの盟主、ロード・ジブリールは、狂信的なシンパの将官や身内の指揮官たちを引き連れ、潜水艦へと足早に乗り込んでいた。

 

 地表の軍事施設がどれほど叩き潰されようとも、海へと直通する深層の潜水艦ドックと発進ゲートは無傷のまま生き残っていたのだ。

 

「ジブリール様、地上の守備隊が自力で出口を確保し、現在ザフトの降下部隊を相手に防衛線を構築中ですが……彼らへの通達は?」

 

 随行する将校の問いに、ジブリールは嫌悪感を隠そうともせず、冷酷に言い放った。

 

「必要ない! そもそも、アラスカの防衛力を見誤り、宇宙の害虫どもにここまで舐められた真似を許した無能どもだ。ここで私を護るための盾として果てることこそが、奴らに残された唯一の存在価値というものよ」

 

 ハッチが重々しく閉まり、潜水艦は静かにドックの汚水へと身を沈めた。

 

 ジブリールにとって、「コーディネイターの化け物どもを前にして、戦わずに逃げる」という行為は、生涯最大の屈辱であり、怒りで腸が煮えくり返る思いだった。

 

 しかし、彼は自らの傲慢な選民思想でその屈辱を強引に塗り替えた。

 

(私が生き延びれば、ブルーコスモスはいくらでも再起可能だ。私がここで無駄死にすることこそが、地球にとって最大の損失なのだからな……!)

 

 潜水艦はアラスカのゲートを抜け、凍てつく北極海から深海へと潜行を始める。

 

 目指すは、アイスランドの巨大要塞──ムルタ・アズラエルの息がかかっていない、真のブルーコスモスの絶対聖域『ヘブンズベース』である。

 

 ジブリールは、深海の暗闇を進む潜水艦のキャビンで、冷徹な打算を確信に変えていた。

 

 自分たちが脱出したことも知らず、アラスカのクレーターで泥と血にまみれて戦う何も知らない兵士たち。

 

 彼らが絶望的な抵抗を続ければ続けるほど、ザフトの視線はアラスカの地表へと完全に釘付けになる。

 

 その泥沼の戦闘が長引けば長引くほど、自分たちを乗せた潜水艦がザフトの哨戒網を潜り抜け、安全にヘブンズベースへと辿り着くための「最高の目眩まし」になるのだ。

 

「フン……せいぜい励むことだな、無学な兵隊ども。青き清浄なる世界のために、その命を私に捧げろ」

 

 ジブリールを乗せた鋼鉄のクジラは、置き去りにされた数千の将兵たちの命を燃料にするかのように、静かに、そして冷酷にアラスカの戦場を離脱していった。

 

 残されたのは、要塞の頭脳を失い、ただ純粋な祖国への忠誠心と生存本能だけで戦う捨て駒たちの戦場。

 

 ザフトのボズゴロフ級潜水艦艦隊の接近を告げる不穏な地鳴りが、凍てつくアラスカの大地を揺らし始めようとしていた。

 

 

 




感想欄でご指摘があったので、そうだったっけ?と改めて調べた。

え?プラント寄りになった西側をデストロイで焼いておいてアンタマジでユーラシアの人間だった!?

うわぁ……。

その印象強すぎてユーラシアの出身だったの覚えてなくて勘違いしてたわ。

いやぁ、本当に申し訳ない。

でも、えぇ……。

コーディネイターに擦り寄り始めたからって、EU諸国ってあるからベルリンとかもそうだよね?

えぇ、ヤベーやつだけど改めてヤベーぞコイツ。

アズにゃんでもそこまでヤベーやつじゃねーぞ?

なに?ゆかりんと同レベルでヤバイやつ?

核の自作自演とコーディネイターに擦り寄った裏切り者だってデストロイで焼き払うのどっちがマシレベルだこれ?


取り敢えず前話少し手直ししました。
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