やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか 作:星乃 望夢
ユーラシア連邦の駐留部隊が下した決断は、味方であるはずの同盟国の狂気を徹底的に利用し尽くすという、悪魔めいた冷徹な「時間稼ぎ」であった。
アラスカ基地地下の広大なモビルスーツ工廠。
そこでは、大西洋連邦の将兵が見向きもしなかったユーラシアの莫大な予備パーツと生産ラインが、フル稼働で火花を散らしていた。
彼らは並行する2つのラインでティエレンを狂ったような速度で組み立て続けると、組み上がった機体を無慈悲なまでの合理性で二つのルートへと振り分けた。
片方は、リニアガンタンクの残骸と共に地下通路の絶対防衛線を構築するための「籠城戦」の要として。
そしてもう片方は──地上へと我先にと飛び出し、ザフト軍への玉砕万歳突撃を敢行しようとしている、ブルーコスモス派の狂信的なアホ共に「くれてやる」ための機体としてである。
ユーラシアの将校たちは冷酷に計算していた。
ストライクダガーやリニアガンタンク、自走砲で真っ先に突っ込んで行った狂信者たちは、確かにザフトの目を引きつけてはいる。しかし、大西洋連邦の兵器は装甲が薄すぎる。高機動を誇るジンハイマニューバ2型のビームカービンや、ディンの爆撃を浴びれば、彼らは文字通り数秒から数分で「蒸発」してしまい、時間稼ぎの役割すら十分に果たせずに消滅してしまうのだ。
だが、ティエレンならば話は全く異なる。
この機体の極厚の正面装甲と、何層にも塗り込められた特殊な耐ビームコーティングは、ビームライフルの直撃を「全く同じ箇所に数発」連続で叩き込まれなければ、本体装甲を剥がして貫通することができない。さらには、分厚い脚部シールドに至っては、要塞砲の直撃すら一発ならば耐え切るという、規格外の物理的頑強さを誇っている。
そして何より、TC-OSの恩恵により、モビルスーツの操縦経験など皆無の素人が乗ったとしても、コックピットに座ってレバーを倒せば「歩いて、狙って、撃つ」ことだけは即座に可能となるのだ。
「おい、そこのお前。外へ出て化け物どもと刺し違える気か?」
メインゲートへ向かう薄暗い通路で、歩兵用のアサルトライフルや対戦車ロケットを震える手で握り締め、地上へ出ようとしているブルーコスモス派の兵士たち。
その教義に脳髄まで染まっている彼らの中にも、かろうじて「なけなしの理性」が残っている者はいた。
いくらコーディネイターが憎くとも、歩兵のライフル一丁で、空を飛ぶ悪魔のようなモビルスーツをどうにかできるとは流石に思っていない。それでも、狂信的な同調圧力と引くに引けないプライドから、死地へ向かわざるを得ない半端なアホたち。
ユーラシアの整備兵は、そんな彼らの前に立ちはだかり、背後の巨大な緑色の装甲を親指で指し示しながら、悪魔のように言葉巧みに囁きかけた。
「歩兵のオモチャでモビルスーツに挑むとは、随分と勇敢だな。だが……そんな装備で大丈夫か?」
「……ッ! だからと言って、俺たちにはもう乗る機体が……!」
「なら、俺たちの機体を使えよ。一番いいのを頼む、って顔をしてるぜ?」
ブルーコスモス派の兵士は躊躇した。ティエレンを動かしているのは、彼らが毛嫌いし、根絶やしにすべき対象としているコーディネイターが組み上げたTC-OSだ。
そんな汚らわしい代物に乗るなど、ブルーコスモスの教義に反するのではないか。
しかし、整備兵はすかさずその脆い自尊心を突く。
「中身のOSが誰の作だろうが、化け物を殺すための道具に過ぎねえ。素の身体で踏み潰されて無駄死にするのと、このブ厚い装甲に守られながら、憎き化け物どもに大砲の弾をぶち込んで一矢報いるのと……青き清浄なる世界のためには、どっちが『正しい』死に方だ?」
その誘惑は、死の恐怖と憎悪の板挟みになっていた狂信者たちにとって、あまりにも甘美な劇薬であった。
「……貸せ。その鉄屑で、宇宙の化け物どもを一人残らず駆逐してやる……!」
こうして、半端なアホたちは最後の理性ごとティエレンのコックピットへと飲み込まれ、最後の一歩をこの「極上の肉壁」として踏み出していくこととなった。
外で待ち受けるザフト軍からすれば、これはたまったものではない。
先程まで紙切れのように撃破できていた連合の部隊の中に、突如として、ビームを弾き返し、ミサイルの爆炎の中から無傷で歩み出てくる無骨な緑の巨神たちが混ざり始めたのだ。パイロットの動きは素人同然の直線的なものだが、とにかく異常なまでに硬い。倒すためには足を止め、照準を固定して一箇所に火力を集中させるという「手間」を強制される。
ザフトの侵攻速度は、この鈍重なティエレンの玉砕部隊によって目に見えて鈍り始めた。
「ハッ……バカな連中だ。せいぜい長生きして、ブリキ野郎どもの足を引っ張ってくれよ」
次々と地上へ出撃していくティエレンの背中を見送りながら、ユーラシアの将校は冷笑を浮かべた。
格納庫に残されている膨大なパーツ群をすべて組み上げれば、ざっと『連隊規模』のティエレンがこのアラスカの地下から産声を上げることになる。
その総数からすれば、地上の壁とし20機程度のティエレンを気前よく分け与えることなど、痛くも痒くもない。
ほんの少しの鉄屑を狂信者たちにくれてやるだけで、籠城戦の要となる防衛陣地を完璧に構築するための「極めて貴重で、絶対的な時間」が稼げるのであれば、これほど安い投資はないのだ。
自らの命を散らすためだけに地表へと向かう者たち。
そして、その命を燃料として冷徹に時間を買い漁り、地下の暗闇で絶対不落のキルゾーンを完成させていく者たち。
アラスカ基地の攻防戦は、もはや戦術や思想といった高尚なものをとうに通り越し、剥き出しの狂気と冷徹な生存本能だけが支配する、地獄の業火へとその身を投じていた。
◇◇◇
崩落したアラスカ基地のメインゲート。
その真っ暗な地下への大穴から、地響きを伴って『それ』はのっそりと姿を現した。
泥濘に沈み込む分厚い足。洗練さとは無縁の、ただひたすらに装甲を重ね合わせた無骨極まりない緑色の巨躯。
大西洋連邦のスマートなダガーシリーズとは対極に位置する、ユーラシア連邦の異形の鉄塊──『ティエレン』である。
「……チッ、出やがったな。あのクソ忌々しい鈍亀め!」
前線へ到着し、包囲網を形成しつつあったザフトの地上支援部隊のパイロットたちが、モニター越しに憎々しげに顔を歪ませた。
無理もない。彼らにとって、ティエレンという機体は単なる敵の新型モビルスーツという枠を超え、一種の『トラウマ』として深く刻み込まれていたからだ。
彼らの脳裏にフラッシュバックするのは『カオシュン宇宙港攻防戦』の悪夢である。
当時、ビーム兵器を持たない通常のMSで挑んだザフト軍は、このティエレンの物理的な極厚装甲の前にあらゆる攻撃を弾き返され、作戦開始から実に丸一ヶ月もの間、戦線を完全に膠着させられるという屈辱を味わった。
「ハイマニューバのビームがあれば、あんな鈍亀ども!」
「バカ野郎、油断するな! 相手はさっきのヒョロガリみたいに一撃で溶けるようなヤワな装甲じゃねえぞ!」
現在のザフト部隊にはビームカービンやビームクロー内蔵対ビームシールドが標準装備されるようになって来ているが、しかしまだまだ全体に行き渡る数には到底足りてはいない。
だが、あの鉄案山子は、ビーム兵器を持ち出したからといって紙のように簡単に切り裂ける相手ではないのだ。
本体装甲を守る分厚い耐ビームコーティングを剥がすためには、『全く同じ箇所に数発のビームを連続して叩き込む』か、あるいは装甲の薄い『関節部を狙い焼き切る』しかない。
飛び交うミサイルと砲弾の嵐の中で、足を止めてそんな精密な連続射撃を強いられる。接近するも逆にパワーで押し込められる。
それは、機動力を最大の武器とするザフトのパイロットたちにとって、己の長所を殺される「果てしなく面倒くさいことこの上ない」最悪の苦行であった。
「……だが、一機や二機じゃないぞ。なんだ、あの数は……ッ!」
通信回線に、ザフト兵の戦慄の声が混じる。
大穴からは、最初の一機に続いて、次から次へと緑色の巨神たちが途切れることなく這い出してくるのだ。
その歩みは素人くさく直線的だが、一切の躊躇なく弾幕の中へと前進してくる。
あっという間にクレーターの荒野を埋め尽くし始めた『鋼鉄の鉄人兵団』を前に、ザフト兵たちは舌打ちと共に重い事実を悟った。
(……当然だ。そもそも、ここは地球軍の『本部』なんだからな)
むしろ、今の今までこのティエレンが戦場に一機も姿を見せなかったことの方が、軍事拠点としては異常であり、不気味ですらあったのだ。
大西洋連邦のダガーや戦車部隊が、まるでパニックを起こしたように次々と無防備な突撃を繰り返して死んでいく中、連合軍の中で最も堅牢な盾であるはずのティエレン部隊だけが、なぜか地下に息を潜め続けていた。
「くそっ、今までの連中はただの囮か! 地下で陣形を整える時間を稼いでいたんだ!」
その推測は半分当たりで、半分間違っている。出てきたティエレンに乗っているのは、時間稼ぎの捨て駒にされたブルーコスモスの狂信者たちであり、本命のユーラシア駐留部隊は未だ地下の奥深くで「真の防衛線」を構築している最中なのだから。
しかし、外から見れば、地球軍がついに重い腰を上げ、本命の重装甲部隊を戦線に投入してきたようにしか見えない。
「各機、カービンの一斉射で迎え撃て! 関節部を狙え、足を止めさせるなッ!」
「ええい、鬱陶しい! シールドを構えたまま突っ込んで来やがる!」
ザフト側の戦場を支配していた「一方的な蹂躙」という名の狂熱は、急速に冷水を浴びせられたように消え失せた。
ジンハイマニューバ2型の放つビームカービンの直撃を浴び、装甲を赤熱させながらも、ティエレンは倒れない。
逆にその分厚い脚部シールドを突き出しながら、200mm滑腔砲の轟音と共に、肉薄してくるザフトの機体へ反撃の鉛玉を叩き込む。
倒すのに恐ろしいほどの手間と時間がかかる、歩く肉挽き機。
アラスカの凍てつく荒野は、ティエレンという名の泥臭い鉄壁が投入されたことで、ザフト軍が最も嫌悪する「果てしない消耗戦」のフェーズへと強制的に引きずり込まれていったのである。
◇◇◇
玉砕万歳突撃という名の狂気の肉壁を地上へと送り出したユーラシアの駐留部隊は、その背後から、地下要塞防衛の真打ちとも呼べる「ダメ押しの機体」をひっそりと、しかし確実な殺意を持って前線へと投入した。
その異形のシルエットがメインゲートの暗がりから姿を現した時、ザフト軍のパイロットたちは己の目を疑うこととなる。
ビクトリア基地防衛戦において、アウトレンジからの大口径水平射撃でザフトの降下部隊を文字通りミンチに変え、猛威を振るい続けている悪魔の機体──『ティエレン長距離射撃型』である。
頭部の上から被せるように装備された、巨大な300mm×50口径長滑腔砲。
発射時の莫大な反動を吸収するため、両脚には極厚のシールドがバラストとして装備されているが、この機体はそもそも「歩く要塞砲」として設計されているため、前面防御力が通常のティエレンと比較してもさらに桁違いに高い。
ユーラシアの整備兵たちは、この極限の籠城戦において、その防御力をさらに『狂気の領域』へと引き上げていた。
ただでさえ分厚い長距離射撃型の両腕に、予備パーツとして転がっていたティエレンの脚部シールドを『持たせた』のである。
それらをメインゲートの入り口にずらりと横隊に並べる。巨大な脚部シールド、腕部シールド、そして機体そのものの装甲が完全に重なり合い、アラスカの地下への入り口は、物理的に突破不可能な『鋼鉄の要塞砲陣地』へと変貌を遂げた。
さらに、その陣地を死角から護衛するように、空いている左手に脚部シールドを構え、或いは両腕に200mm滑腔砲をダブルでマウントさせた通常のティエレン部隊が周囲を固める。
対地・対空を問わず、接近する敵に弾幕の雨を降らせる『即席の野戦砲兼対空砲陣地』の完成である。
後方には、頭部に強化センサーブロックを戴き、両肩にシールド兼用の大型通信アンテナと追加センサーを装備した『地上指揮官型』が控える。
機能不全に陥ったアラスカの司令部に代わり、ティエレン自身が強力なデータリンク網を構築し、寸分の狂いもない射撃統制を行う『野戦移動司令部』として機能し始めたのだ。
「撃て! 前を走るバカどもを巻き込んでも構わん、照準軸に群がる蝿どもをすべて叩き落とせ!」
指揮官型の号令と共に、300mmの大口径砲と無数の滑腔砲が火を噴く。
突撃していくブルーコスモスのティエレン部隊を後方から援護する形で放たれる圧倒的な弾幕。ザフトのモビルスーツ部隊は、肉壁の対処に追われている隙に、背後の巨大な要塞砲陣地からの精密射撃を浴び、次々と吹き飛ばされていく。
この鉄壁の陣形を維持するための『弾薬の枯渇』という弱点すら、彼らはティエレンで解決していた。
背部に大型カーゴを増設した輸送仕様のティエレンが、安全な地下格納庫と前線陣地の間を往復し、武器弾薬を満載にしてピストン輸送を行っているのだ。
モビルスーツそのものを補給車両として運用することで、生半可な攻撃では壊れない前線への火力を途絶えるさせることは絶対にない。
前線の狂信者たちが戦っている間に、後方から安全に敵の数を減らし続ける。もしザフトが強引に突破を図り、状況がヤバくなれば、そのまま陣形を崩さずに地下の奥深くへと後退し、再び狭い通路でキルゾーンを作り直せば良い。
何よりも、この戦術には極めて重要な「別の目的」があった。
大質量爆撃によって地上の光学カメラやレーダーを全て失ったユーラシア駐留部隊にとって、この陣地は『外部観測所』でもあったのだ。
外のザフト軍の戦力規模、編成、そして戦術。それらの生データを指揮官型が収集し、地下の生産ラインへとフィードバックする。外の様子が分からなければ、どのティエレンをどれだけ組み上げれば良いか分からないという最大のボトルネックを、彼らは最前線での砲撃戦のついでに解決してしまったのである。
狂信者たちが稼いだ時間と、ユーラシアが誇るティエレン一本化の極意。
泥臭く、しかし徹底的に合理的な即席砲陣地が火を噴き続ける限り、アラスカ本部は持ち堪えるどころか、ザフト軍の勢いを完全に削ぎ落とし、泥沼の膠着状態へと持ち込める可能性すら見え始めていた。
攻めには向かない。だが、こと『守り』に関して、この機体の右に出る者はいない。
歩く重戦車。
歩く重装甲機兵。
歩く要塞砲。
歩く対空砲。
歩く野戦砲。
歩く指揮所──そして、歩く重装甲補給車。
地上戦におけるありとあらゆる『兵科』のすべてを、たった一つのモビルスーツのプラットフォームへと統合したというユーラシア連邦の軍事ドクトリン。
その真髄たる狂気の汎用性が、世界が終わるかのようなアラスカの絶望の淵において、これ以上ないほど見事に面目躍如を果たしていたのである。
◇◇◇
アラスカの凍てつく大地に、ユーラシア連邦の狂気的な防衛ドクトリンが牙を剥いた。
ザフトの降下部隊および地上支援部隊は、突如として形成されたティエレンの『要塞砲陣地』からの猛烈な十字砲火によって、完全にその足を止められていた。
「死ねェェェッ! 宇宙の化け物どもォォォッ!!」
オープンチャンネルから、割れんばかりのボリュームで撒き散らされるコーディネイターへの呪詛。
先陣を切って突撃してくるティエレンに乗っているのは、間違いなく先程まで自分たちがスクラップにして遊んでいた、大西洋連邦の「ヒョロガリMS」や通常兵器に乗っていた狂信的なパイロットたちの同類だ。
ただの素人集団が乗るティエレン。それ単体であれば、ザフトの精鋭からすればまだ何とか排除できる代物だった。
複数のジンやバクゥで取り囲み、集中砲火で耐ビームコーティングを削り切るか、機動力を活かして背後に回り込み、装甲の薄い関節部をビームサーベルやビームクローで焼き切って「ダルマ」にしてしまえばいい。
カオシュン戦線で彼らが血を吐きながら編み出した、対ティエレン用のマニュアル通りの戦術である。
だが──後方から『歩く要塞砲』と、それを護衛する部隊の凄まじい援護射撃が加わった途端、そのセオリーは完全に崩壊した。
「くそっ、関節を狙えない! 足を止めたらこっちが吹き飛ばされるぞッ!」
ティエレンの関節を精密に狙い撃つためには、どうしても一瞬だけ機体の動きを止め、照準を固定する必要がある。しかし、その一瞬の隙に、後方の要塞陣地から放たれた300mm大口径砲や200mm滑腔砲の雨弾が、ザフトのモビルスーツを無慈悲に粉砕していくのだ。
さらにザフト兵たちを戦慄させたのは、後方のユーラシア部隊が放つ砲撃の『異常さ』であった。
「あいつら……イカれてるのか!? 味方ごと撃ってきやがる!!」
ユーラシアの砲兵たちは、突撃するブルーコスモスのティエレンが射線に入ろうがお構いなしに、ザフト機目掛けて滑腔砲を連射していた。当然、前を走る味方のティエレンの背中にもその砲弾はガンガンと直撃する。
だが、ティエレンの桁違いの極厚装甲は、味方からの200mm砲弾の直撃を火花と共にやすやすと弾き返してしまうのだ。
味方の砲弾を背中に受けてもビクともしない、緑色の異形の鉄塊。
彼らは強固な脚部シールドを前面に構えたまま、呪詛を喚き散らしながら、一歩、また一歩と泥濘のクレーターを踏み越えて、じわじわとザフトの陣形へと躙り寄ってくる。
それはまるで、絶対に倒れない鋼鉄のゾンビの群れであった。
「……冗談じゃない。遊びは終わりだ」
先程までの「一方的な虐殺」から一転、地球軍の苛烈な反転攻勢。
この死の重圧を前に、後方で事態を静観していた「まともな感性」を持つザフト兵たち──アスランやイザーク、ディアッカ、シホ、そしてミゲルといった精鋭たちも、もはや戦線に加わらざるを得なくなっていた。
彼らはナチュラルをいたぶる趣味など持ち合わせてはいなかったが、殺さなければ自分が殺される。戦況が「狩り」から「戦闘」へと移行したことで、ザフトの真のエースたちがその牙を研ぎ澄まし、本格的にアラスカの泥沼へと身を投じていく。
とにかく、このティエレンという存在が現れたことで、アラスカの戦況は劇的に変わってしまった。
アラスカ地下本部へと続く、唯一の出入り口であるメインゲート。
そこに物理的な要塞陣地を構築されてしまった以上、ザフト側はこの厄介極まりない『鈍亀の鉄案山子』の群れを正面から削り倒さなければ、本来の目標である地下司令部へ到達することができなくなったのだ。
だが、プラント最高評議会議長パトリック・ザラの執念を具現化したこの大軍勢に、決して策がないわけではなかった。
「正面の要塞に付き合う必要はない。……『アレ』を出せ。地下のネズミどもに、真の恐怖を教えてやれ」
ザフト軍前線指揮官の冷徹な指令により、後方のボズゴロフ級潜水艦から、少数の異形な機体がアラスカの大地へと投下された。
それは、通常の水陸両用MSグーンをベースに、地中侵攻用として特殊な改造を施された局地戦用モビルスーツ――『ジオグーン』であった。
ずんぐりとしたジオグーンは、硬い永久凍土と岩盤を瞬時に『液状化』させ、泥のようにドロドロに融解した大地の中へ、ジオグーンはまるで水中に潜るかのようにその巨体を沈めていく。
彼らの狙いは明白であった。
地表のメインゲートにどれほど強固な要塞陣地が築かれていようと、関係ない。地中深くを掘り進み、岩盤を溶かして『新たな出入り口』を作り出してしまえば良いのだ。
正面のティエレン部隊を陽動とし、地下深くで生き埋めになっていると安堵しているであろう連合軍の真下から、液状化した岩盤を突き破って直接司令部中枢を強襲する。
アラスカの血みどろの攻防戦は、地上の砲撃戦から、見えない地底での死のカウントダウンへと、その戦局をさらに深く、そして絶望的な次元へと引きずり込んでいった。
そして彼らザフトの不運というのは、この『オペレーション・スピットブレイク』が発動されてから、一体何度目のことなのだろうか。
ジオグーンが特殊な振動波で硬い永久凍土と岩盤を液状化させ、ついにアラスカ地下要塞の中枢へと続く分厚い壁を穿ち抜いた、まさにその直後であった。
崩れ落ちる土砂の向こう側。本来ならば、無防備な地球軍の司令部や、パニックに陥る非武装の兵士たちがいるはずの空間。
だが、暗闇の中から真っ先にジオグーンのセンサーに映り込んだのは、不気味に発光するモノアイであった。
「なっ……!?」
その機体は横を向いており、頭部のメインカメラだけがギロリと侵入者へと向けられていた。
ジオグーンのパイロットが息を呑み、視界が晴れた先で目撃した光景は、彼らの戦術的優位を根本から粉砕する絶望の光景だった。
そこは無防備な司令部などでは断じてなかった。
広大な地下空間には、既に何十機もの『ティエレン』が完全武装で立ち並び、途切れることのない重低音を響かせていたのだ。
忙しなく土嚢や装甲板を運んで強固な内部防衛陣地を築き上げる者、コンテナを背負って補給路を往復する者。
そして格納庫のゲートからは、今まさに組み上がったばかりの真新しいティエレンが次々と産声を上げて歩み出してくる。
地表で狂信者たちが乗り回し、ザフトを足止めしていたあの鉄の群れは、あくまで外の様子を探り、時間を稼ぐための『ただの先発隊』に過ぎなかったのだ。
本隊はこの地下要塞の奥深くで、獲物がメインゲートを通って飛び込んでくるのを万全の態勢で待ち構えていたのである。
「バカな、こんな数が地下に……ッ!」
ジオグーンのパイロットが腕を振り上げようとした瞬間、振り返ったティエレンたちの腕にマウントされた200mm滑腔砲が、一斉に侵入者へと向けられた。
次の瞬間、轟音と共に放たれた無数の徹甲弾と榴弾が、身動きの取れないジオグーンへと容赦なく殺到した。
特殊な地中潜行能力と引き換えに装甲の薄いジオグーンは、悲鳴を上げる間もなくハチの巣にされ、あっという間に原型を留めないバラバラの鉄屑へと吹き飛ばされた。
そして、真の惨劇はここからだった。
前方で発生したジオグーンの爆発。その凄まじい閃光と衝撃波を、ジオグーンが掘り進めたトンネルを通って後続していたザフト軍のMS部隊は、暗い地中の中で明確な『死の気配』として感じ取った。
「前衛がやられた!? 一体何が──」
後続機がトンネルの先、ぽっかりと空いた地下要塞への出口にカメラを向けた時、彼らは見てしまった。
土煙の向こう側。どっしりと両脚のシールドを大地に突き立て、砲撃姿勢を完璧に固定した異形の巨神──『ティエレン長距離射撃型』が、その頭頂部に備えられた巨大な300mmの大口径砲を、一直線に伸びるトンネルの中へとピタリと指向している姿を。
逃げ場のない、一本道の極狭なトンネル。
その先で待ち構える、歩く要塞砲。それはまさに、砲身の中に自ら並んで入ってしまったも同然の『死の直列』であった。
「にげ──」
パイロットが絶叫を発するよりも早く。
長距離射撃型の300mm砲が、鼓膜を破るような轟音と共に火を噴いた。
放たれたのは、絶大な運動エネルギーを秘めた大質量徹甲弾。
逃げ場のない地中のトンネルを、まるで巨大なボウリングのレーンを突き進むようにすっ飛んだ一発の砲弾は、先頭のラゴゥの装甲を紙切れのように貫通し、そのまま背後のゾノを串刺しにし、さらにその後続機をも次々と物理的に粉砕しながら直進した。
モビルスーツの残骸とひしゃげた装甲を引き連れながら、岩盤のトンネルを一直線に駆け抜けた砲弾は、ついにアラスカの地表──ザフトが陣取るクレーターの荒野へと勢いよく飛び出し、大音響と共に炸裂した。
ザフト軍が意気揚々と掘り進めた「必勝の抜け道」は、ユーラシアの鉄案山子が放ったたった一発の大砲によって、文字通り敵を纏めて串刺しにする最悪の『処刑トンネル』へと変貌したのである。
アラスカ守備隊の将兵たちは、自分たちが血反吐を吐きながらせっせと掘り進めたメインゲートの穴とは別に、こんなにも短時間で地下要塞の中枢へ至る「新たな大穴」をぶち抜かれたという、ザフト軍の脅威的な技術力に一瞬だけ背筋を凍らせた。
だが、それも束の間のこと。
無惨に吹き飛ばされたジオグーンの残骸と、ぽっかりと空いた直線のトンネルを見つめるユーラシア駐留部隊の将官や先任曹長たちの顔には、やがて──悪巧みを思いついた悪ガキのような、ひどく邪悪な笑みが浮かび上がっていた。
「……おい。さっきの300mm砲の一撃を見て、この穴に自分から飛び込んでくるようなバカな真似をするザフト兵はいると思うか?」
「まさか。いるとすれば、余程の自殺志願者くらいでしょうぜ」
ならば、話は早い。このトンネルは今、完全にザフト軍の侵入が途絶えた「空き道」となったのだ。
そして、地中潜行部隊が地下要塞制圧のために掘り進めたルートである以上、この穴の出口が繋がっているのは、激戦区であるメインゲートの最前線ではない。これから地下要塞へと後続のMS部隊を次々と送り込もうと待機していたであろう、ザフト軍の『後方陣地』のど真ん中である。
当然、こちらからトンネルを抜けて外へ出ようとすれば、出口で待ち構えているザフト軍の猛攻を正面から受けることになるだろう。
「だが、そんなもの……コイツの分厚い装甲を、さらにブ厚くすりゃあいいだけの話だ」
整備兵たちは狂ったような手際で、格納庫に山積みになっていたティエレンの巨大な脚部シールドを何枚も持ち出し、それらを高出力の溶接バーナーで幾重にも積層結合し始めた。
出来上がったのは、もはや盾というより「規格外の鋼鉄の城壁」そのものだ。
大西洋連邦のスマートなMSであれば、そんな異常な重量物を持ち上げるどころか、支えることすら不可能だろう。
しかし、ティエレンの無骨な駆動系が誇る圧倒的なトルクならば、この分厚い鋼鉄の塊を『壁』として前面に押し出しながら、トンネルの中をブルドーザーのように前進することが可能なのだ。
「盾を4枚でも8枚でも重ねて、通路いっぱいの栓にして押し進め! 後ろからは長距離射撃型を追従させろ! 穴から顔を出した瞬間にぶっ放せるよう、弾を装填しておけッ!」
ユーラシアの将校が歓喜に満ちた号令を飛ばす。
このままトンネルを押し通り、敵のど真ん中である後方陣地へと文字通り「蓋を開けて」飛び出す。そして、その場で瞬時にティエレンたちによる即席の要塞砲陣地を再展開できればどうなるか。
アラスカの地表で、メインゲートの要塞陣地と玉砕突撃部隊の対処に気を取られているザフト軍の前衛部隊を、メインゲートと後方陣地という二つの拠点から完全に『挟み撃ち』にできるのだ。
「まさか、ザフト自らが俺たちに『最高の裏口』をプレゼントしてくれるとはな……! さあ、野郎ども! せっかく道を作ってくれたんだ。お礼に、ユーラシア流のパーティで出迎えてやれ!!」
防御から、悪魔的な反転攻勢へ。
絶望の淵にあったアラスカ地下要塞の中で、緑の巨神たちが獰猛な駆動音を響かせながら、分厚い盾を押し立てて新たなトンネルへと進軍を開始した。
なんなんかなぁ。
ザフト側をどうにかこうにか出来ると思ったMSを出すと、それ全部ティエレンがどうにかしてくのどうなっちゃってんの?
ザフト側の動きに、それならティエレンでこうできるよな?って勝手に思考が回るの何なんだ?
海からジオグーン突入させろ?
いやそれだと陸上部隊が中に入れないでしょ。
海水入れて水攻め?
出来たトンネルをそれこそティエレンのシールドとかトンネル事態発破して防げば良いだけだからなぁ。
基地施設制圧の為にはジオグーンだけじゃなくてそこそこの数のMS部隊を入れるなら必然的に地上から穴掘って後続の陸戦部隊入れるのが自然だし?
ホントに何でもかんでも便利過ぎて、唯一の弱点が海に潜れないってのに、状況戦術判断予想から海じゃなくて陸から穴開けるよな?っていうのが離れられなくてザフト側の戦術までティエレンに忖度してる様に見えちゃうのなんなんだ?
因みにマジでティエレンに忖度してるつもりないんです。
いやホントに、ホントにホントにホントに〜ティエレンだぁ!!
便利過ぎちゃってどうしよ?ゴツくってどうしよう?
アラスカ〜ティエレンパーク!
もうホントに手に余るというか、ザフトをどうやって優勢にするのかってそれを考えてるのにティエレンがひっくり返してくるのなんなんだ。