やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか   作:星乃 望夢

71 / 72
PHASE-70 舞い降りる刃

 

「アラスカ基地はまだ落とせんのか?」

 

 プラント最高評議会議長パトリック・ザラは冷ややかな、しかし明確な苛立ちを孕んだ声で問い詰めた。彼の視線は手元の端末に表示された戦況報告にのみ注がれていた。

 

「はっ、いえ……何分、基地より湧き出て来たティエレン部隊による頑強な抵抗に遭っておりまして」

 

 報告に立つ副官の額には、冷たい脂汗が滲んでいた。

 

「フンッ。……『民生用MS』が聞いて呆れる」

 

 パトリックは鼻を鳴らし、苛立たしげに椅子に深く背を預けた。

 

 彼とて、コーディネイターの英知を結集し、ザフトという軍隊とモビルスーツという兵器体系を一から育て上げた絶対的な自負がある。前線で血を流す兵士たちが不甲斐ないなどとは微塵も思っていない。ジンやバクゥを駆る彼らは、間違いなく人類史上最強の戦士たちだ。

 

 だが、ザフトが誇る純然たる「戦闘用MS」の猛攻を、泥臭く、無骨に、そして完璧に防ぎ切っているのが、あろうことか『ジャンク屋組合』が出自のMS、ティエレンであるという事実。

 

 その異常極まりない厄介さは、カオシュン、ビクトリア、そして今アラスカで、報告書という名の紙切れを通して嫌というほど見せつけられている。

 

 パトリック・ザラという冷徹な指導者をして、慢性的な頭痛の種となるには十分すぎる存在であった。

 

 こちらが対抗策として急遽開発し、投入した小型高出力ビーム兵器であっても、幾度も同じ箇所を狙わねば装甲を破れないほどの異常な耐熱・耐弾性。

 

 さらにパトリックを戦慄させているのは、砲弾が飛び交う最前線の真っ只中で、破壊された味方の機体からパーツを剥ぎ取り、即座にレストアして戦線に復帰してくるという、兵器としての常識を根底から覆す「泥臭い再生能力」であった。

 

 兵器として転用されれば、元々の200mm滑腔砲の連射性能に加え、拠点防衛用として300mm砲という大口径をも難なくマウントし、撃ち放つことができるパワーとフレームの恐るべき堅牢さ。

 

(……もし時間が戻せるのならば)

 

 パトリックは、誰もいない空間を睨みつけながら奥歯を噛み締めた。

 

 当初、ティエレンが「民間向けの作業用MS」として世に出た際、その劣悪極まりない機動性と鈍重なフォルムを見て、「MSとしての兵器価値は皆無。あれはただの動く的だ」と一蹴し、鼻で笑ったのは他でもないパトリック自身であった。

 

 だが今となっては、出来ることならば過去に戻り、その傲慢な己の横面を力一杯拳で殴り飛ばしてでも、大金と特権を積んでジャンク屋組合とティエレンのライセンス契約を結んでいたことだろう。

 

 機動性がなければ、後付けでバーニアを増設すれば良いだけの話だったのだ。

 

 実際、バルトフェルド隊から送られてきたアフリカでの交戦データには、脚部にホバーユニットを増設し、砂上を高速で滑走する『陸戦高機動型ティエレン』の存在がはっきりと記録されていた。

 

 さらに、「足付き」の部隊で運用されていた、ジンハイマニューバの推力すら凌駕する機動性を持った『紺色のティエレン』の脅威。

 

 基本フレームが異常なまでに頑強だからこそ、いくらでも後付けで推力や武装を盛ることができる。

 

 その事実に気づかされた時、パトリックは、ティエレンの開発者による「ただの作業用機械です」という最初の見事な印象操作に、完全に手玉に取られていたことを悟ったのである。

 

「議長。……アフリカのビクトリア戦線からも一時撤退の要請が来ておりますが」

 

 副官の声が、パトリックを忌まわしい回想から現実に引き戻した。

 

「……仕方あるまい。あれは元々、アラスカへの攻撃を隠すための陽動だ。これ以上無用な血を流す必要はない。ビクトリアからは速やかに手を引け」

 

 パトリックは冷徹に切り捨て、しかし直後に鋭い眼光を副官に向けた。

 

「だが、洋上に展開しているボズゴロフ級艦隊はそのまま残し、海上前線基地として封鎖線を維持させろ。いくらあの鉄案山子が陸で無敵を誇ろうとも、重量過多のあいつらは決して海には入れん。制海権は完全にこちらで押さえ、水際で封じ込めるぞ」

 

「はっ! 直ちに手配いたします!」

 

 副官が退室した後、パトリックは再び眉間を強く押さえながら、頭の中で冷徹に今回の作戦の損失と、今後の兵器開発プランの全面的な見直しを計算し始めた。

 

 期待の重火力機であったガズウートは、確かに通常のティエレンには有効な打撃を与えた。だが、あの300mm砲を備えた長距離射撃型の圧倒的なアウトレンジ攻撃の前には、あまりにも無力であった。

 

 それこそ、連合側がティエレンを改良し、ビーム砲でも搭載してくれば、より手も足も出ない究極の堅牢な砲撃機が誕生してしまう。

 

 ティエレンの唯一の弱点である劣悪な機動性も、彼らが既に実証している通り、バーニアの増設と強化で容易にカバーされてしまうだろう。

 

 ならば、ザフトのモビルスーツ開発ドクトリンそのものを、根底から覆す必要がある。

 

 制空権を取るためにディンは依然として必要不可欠だが、それも通常のジンを大気圏内用サブフライトシステム『グゥル』に乗せれば事足りる局面が多い。むしろ、あの異常に硬いティエレンを上空から確実に粉砕することを想定した、より重火力・重装甲の『空戦型MS』の新規開発を急がねばならない。

 

 ザウート系は、もはや存在価値が消滅した。あの程度の装甲と火力では、ティエレンの完全な下位互換に過ぎず、作るだけ資源の無駄である。生産ラインは即刻停止させる。

 

 そして、地上の要である四足歩行のバクゥは、マイナーチェンジを施す方面へシフトさせる。上位機種として量産を検討していた『ラゴゥ』に関しても、専用ラインを設けるコストが見合わない。

 

 生産ラインはバクゥに一本化し、ビーム砲をオプション武装として装備させることで、ラゴゥと同じ仕事を十分に可能とするべきだ。

 

 水陸両用MSについても再設計が急務だ。陸上へ上がった際の機動性を大幅に引き上げなければ、海岸線でティエレンの滑腔砲の良い的にされるだけで終わってしまう。

 

「……キラ・ヤマト……か」

 

 パトリックは、その忌まわしい名前を、まるで呪詛のように唇の端に乗せた。

 

 あの悪魔のような鉄の案山子、ティエレン。そして、それをナチュラルの素人にすら完璧に操縦させてしまう魔法のシステム『TC-OS』の開発者。

 

 中立国オーブの国防軍に所属する若き技術士官でありながら、同じく中立を掲げる『ジャンク屋組合』に所属しているという、極めて政治的に厄介な立ち位置にいる少年。

 

 プラントからすれば、今すぐ特殊部隊を差し向けてでも暗殺、あるいは拉致したいほどの最重要危険人物である。

 

 だが、オーブという国家を公式に批判し、圧力をかけようにも、「我が国の技術士官が、中立組織であるジャンク屋組合の依頼を受け、あくまで自衛・民生目的で開発した機械です」という建前を崩すことができない。

 

 ジャンク屋組合側に抗議をしたところで、「我々はただ、自衛のために作った作業用MSのライセンスと機体を、地球軍という顧客に売っているだけです。兵器への転用は関知していません」と、のらりくらりとかわされるのがオチだ。

 

 大西洋連邦が資源衛星ヘリオポリスで密かに新型MSを開発していた件をカードに使おうにも、それはクルーゼ隊が、中立国であるオーブのスペースコロニーを武力で攻撃したという消し去れない「事実」の前に、大義名分を失っている。

 

 政治的な圧力を、何一つとして掛けることができないという八方塞がりの現状。

 

 それは、プラント最高評議会議長であるパトリックにとって、血を吐くような屈辱であった。

 

 だが、その屈辱に耐え、泥をすする思いで、彼自身もまたプラント本国を防衛するための駐留MSとして『ティエレン宇宙型』を大量にライセンス購入し、採用しているのだ。

 

 本国の防衛をあの堅牢な鉄案山子に任せ、それで浮いたジンやシグーを少しでも多く前線への攻撃戦力として回すために。

 

 ザフト軍部の上層部は、この事態を密かに『ティエレン・ショック』と呼称し、畏怖している。

 

 事実、この地球圏の戦争は、ティエレンというたった一種の泥臭い量産機が登場したことによって、ザフトが思い描いていた『電撃的な短期決戦』という当初の戦略のすべてを白紙に戻し、根本からの見直しを余儀なくされてしまったのだから。

 

 攻め込む側であるザフトは、地球の重力下であれ、宇宙の真空であれ、どうあってもあの忌まわしい『鉄の案山子』と正面から撃ち合い、その装甲をぶち破らねばならない。

 

「……次だ。次なる新型MSが、絶対に必要だ」

 

 パトリックは拳を強く握り締めた。

 

 『ゲイツ』は確かに優秀な機体ではあるが、アレではまだ足りない。

 

 ゲイツのビームライフル程度では、あのティエレンの耐ビームコーティングと極厚装甲の壁を「一撃で」撃ち抜くことは不可能に近い。

 

 あの鉄の案山子を、どんな分厚い盾でもそれごと一撃で消し炭に変える、圧倒的で、暴力的で、規格外の『火力』を持った次世代モビルスーツ。

 

 その完成こそが、ザフトがこの泥沼の戦争を勝ち抜くための、唯一にして絶対の条件であった。

 

 

◇◇◇

 

 

「ええいっ!」

 

 紅の装甲を持つイージスが、上空でグゥルから飛び降りながらMA形態へと変形する。機体中央部から放たれた580mm複列位相エネルギー砲『スキュラ』の極太の光条。

 

 このアラスカ基地攻撃部隊の中でも間違いなくトップクラスの大火力ビームは、その掃射を受けたティエレンの極厚装甲をも為す術なく融解させ、赤熱した鉄の飛沫と共に爆散させた。

 

「コイツをくらいな!」

 

 後方からは、ディアッカの駆るバスターが、2つの武装を連結させた『超高インパルス長射程狙撃ライフル』の引き金を絞る。

 

 圧倒的な貫通力を誇る高圧縮のビームが、ティエレンの堅牢な前面装甲を真っ直ぐに貫き、内部を焼き切って撃破する。

 

「でぇぇぇいっ!!」

 

 地上に降り立ったイザークのデュエルASは、その卓越した機動性とパイロットの技量を遺憾なく発揮し、鈍重なティエレンの懐へと瞬時に潜り込む。

 

 抜刀したビームサーベルが、装甲の隙間である腰部ジョイントを正確に切り裂き、上半身と下半身に真っ二つに分かたれた緑の巨体がズシンと泥へ崩れ落ちる。

 

「シホ、右から回り込め!」

 

「了解!」

 

 ミゲルの専用ジンハイマニューバ2型が、驚異的なスラスターワークでティエレンの視界を翻弄しながらビームカービンを連射する。

 

 その援護を受け、死角に回り込んだシホのシグーディープアームズが、レーザー重斬刀を抜いてティエレンの右肩と胴体のジョイントを正確に切り落とす。

 

 バランスを崩しながらも、なお反撃しようと振り向いてくるティエレンの胴体。その胸部に備えられた30mm機銃の銃口へ向け、シホは肩部の試製指向性熱エネルギー砲をゼロ距離で突きつけ、放った。

 

 流石のティエレンとて、実弾を発射する銃口の内部まで耐ビームコーティングが施されているわけではない。銃身から内部へと高熱のビームによる融解が浸透し、機体は内部から噴水のように黒煙を上げて沈黙した。

 

 ──ザフト軍とて、無策ではない。

 

 本国プラントが防衛用として買い付けたティエレンを技術部が徹底的に解析し、その『弱点』自体は全軍のデータリンクに共有されている。

 

 遠距離・中距離で装甲ごと粉砕しようとすれば、イージスのスキュラやバスターの連結狙撃ライフルのような、大火力と貫通力に極めて優れた上位のビーム兵器が必要となる。

 

 あるいは近接戦闘に持ち込み、装甲の薄い手足の関節部をビームサーベルで正確に切り落とすか、シホがやったように胸部の30mm機銃の開口部、あるいは頭部のメインカメラのセンサー部をピンポイントで狙い撃つかだ。

 

 これが宇宙空間用のティエレンであれば、背面に増設された推進系という明確な弱点を狙う選択肢もある。

 

 しかし、残念ながらこの地上型ティエレンの背面には、そうした剥き出しの推進系パーツが存在しない。

 

 相手は真っ直ぐにしか向かって来ず、動きは素人同然、反応速度も新兵レベルだ。だからこそ、アスランやイザークたちのような赤服のエースパイロットであれば、その技量と高性能機をもって「どうにか処理できる」相手ではあった。

 

 しかし、戦場を埋め尽くしている大半は、一般兵が駆る通常のジンやバクゥである。そして、アラスカの泥沼で生起し始めたのは、その一般兵たちを絶望の淵へと突き落とす、狂気に満ちた光景だった。

 

「クソッ、離せ!! 離しやがれッ!」

 

「青き清浄なる世界のためにィィィッ!!」

 

 ビームサーベルで関節を狙おうと接近戦を仕掛けた1機のジンハイマニューバ2型が、ティエレンの剛腕にガッチリと捕縛された。

 

 機動性を完全に殺され、引き剥がそうとスラスターを吹かすジン。しかし、ティエレンの機体重量と異常なトルクが生み出すパワーの前に、ジンの細身のフレームは軋みを上げ、微動だにしない。

 

 次の瞬間、周りのティエレンたちが、狂ったように200mm滑腔砲を連射した。

 

 それは、味方であるはずのティエレンを完全に巻き込む、容赦のないゼロ距離からの十字砲火であった。

 

 凄まじい爆発が起こり、煙が晴れる。

 

 そこにあったのは、無惨にバラバラに吹き飛ばされたジンの残骸と──煤で真っ黒に汚れながらも、モノアイを不気味に光らせて健在なティエレンの姿だった。

 

(……イカれてやがる!!)

 

 ミゲルはコックピットの中で悪寒に身を震わせた。

 

 真っ直ぐに向かってくる素人同然のパイロットたちも、後方から味方に撃たれても自機はノーダメージだと学習したのだ。

 

 その結果、彼らは「とにかく敵機に組み付いて拘束し、味方に自分ごと砲撃させる」という、ブルーコスモスの狂信者ならではの狂った自爆戦法を嬉々として取り入れ始めたのである。

 

 一度でもティエレンの剛腕に捕まれば、ジンクラスのパワーでは絶対に抜け出せない。密着状態でビームサーベルを突き立てようにも、極厚の装甲とコーティングを貫くには数秒の照射時間が必要だ。

 

 関節部なら比較的柔らかいが、自機がホールドされ、アラートが鳴り響くパニック状態の中で、冷静に関節だけを狙って斬り落とすという選択肢を取れる奴がどれほどいるというのか。

 

 さらにザフト軍を苦しめているのが、メインゲートの前に要塞陣地を構築した『長距離射撃型』による絶え間ない砲撃網であった。

 

「気をつけろ! 徹甲弾が来るぞ!」

 

 通常の榴弾であれば、ジンのシールドで一発程度なら防ぐことができる。

 

 だが、あの300mmの大口径砲から放たれる徹甲弾は次元が違った。シールドを構えて防御姿勢をとったジンの腕ごと、その極厚の盾を紙切れのように粉砕し、さらにシールドの後ろにある機体の胴体すらも容易く貫通して、大穴を開けて爆散させるのだ。

 

(クソッタレ……ジリジリとラインが押し込まれてるじゃねえか!)

 

 オレンジの機体を操りながら、ミゲルは戦況図を確認して舌打ちをした。

 

 そして、彼の優秀な戦術眼は、後方で上がった「巨大な花火」の煙を見逃していなかった。ジオグーン隊が地下への突入口を開けたはずのポイントだ。

 

(後方からの突入部隊からの通信が途絶えた。その上で、あの規模の爆発……。まさか、後ろにも敵が回ってくるってのか……!?)

 

 このままでは、正面の要塞砲陣地と、背後から現れるかもしれないティエレン部隊によって、ザフトの攻撃部隊が完全に『挟み撃ち』にされてしまう。その最悪のシナリオが、ミゲルの脳裏を鮮明に過った。

 

 宇宙空間での模擬戦や小競り合いであれば、ティエレンはまだ比較的「楽」に相手取れる部類だった。AMBACを活かした完全な360度の三次元機動で死角に回り込み、相手の鈍重な旋回性能を突くことができるからだ。

 

 だが、重力という絶対の枷が存在し、三次元機動が極端に制限される『地上』においては話が全く違った。

 

 地面という二次元の平面上で、回避行動が限られた正面からの撃ち合いを強要される環境下。

 

 そこでは、機動力よりも『圧倒的な装甲と火力』こそが正義となる。

 

 宇宙で戦った時よりも、さらに輪をかけて厄介で、絶望的。

 

 泥と重力に愛された『陸の城塞』の真の恐ろしさを、アラスカに降り立ったザフトの将兵たちは、今まさに己の血と肉をもって思い知らされていた。

 

 

◇◇◇

 

 

「頃合いですな」

 

「何がだ……」

 

 鉛色の波間を潜るボズゴロフ級潜水艦の薄暗いCIC。

 

 モニター越しに泥沼化していく戦況を静かに見守っていたラウ・ル・クルーゼは、仮面の奥に微かな笑みを浮かべながら、この作戦の司令官に向かって冷徹に零した。

 

「このままでは、あの地下から這い出てくる『新たな盾の壁』に背後を塞がれます。撤退命令を出さねば、前後を挟まれての包囲殲滅は必定。……だが、今ならまだ間に合う」

 

「しかし、この作戦は我がザフトの総力を挙げた……」

 

「このまま無為に敵と睨み合いを続けても、パナマからの救援がいつ来ないとも限らない。さすれば、この数では我々は嬲り殺しです。ならば、まだ戦力の立て直しが利く『今』、退かせるべきでしょう。未来ある優秀な若者達を、こんな泥濘の中で無駄死にさせるわけにも行きますまい?」

 

「……くっ」

 

 クルーゼの静かで、しかし急所を正確に突く言葉が、司令官の脳裏に重く木霊した。

 

 『未来ある若者たち』──それは明確に、前線で奮戦しているアスラン・ザラやイザーク・ジュールといった、プラント最高評議会議員の子息たちを指している。

 

 確かにこのままでは、彼らを含めた前線の精鋭が、あの悪夢のようなティエレンの要塞陣地と、背後から迫るであろう別働隊によって全滅する恐れがある。

 

 もし最高評議会の子息たちを無為な消耗戦で失えば、作戦失敗の責任などという生易しいものでは済まされない。

 

 大質量爆撃で地表を完全に吹き飛ばしたにもかかわらず、ああもしぶとく、そして狂気的に抵抗されるとは全くの想定外であった。

 

 しかも、廃材と機体を組み合わせて即席の要塞砲陣地を形成するとまで至った、あのユーラシア製MS『ティエレン』の規格外の運用と性能。それを完全に計算しきれなかった情報部の失態も重くのしかかっていた。

 

「……全軍に伝達、攻撃を中──」

 

 司令官が苦渋の決断を下し、口を開きかけたその瞬間。

 

「司令! 上空より大型機が多数接近中!!」

 

「なに!? パナマからの増援か!?」

 

「大型機のハッチが開きます! ……MSの空挺降下を確認ッ!!」

 

 レーダー手からの悲鳴のような報告と共に、メインスクリーンが上空の映像へと切り替わる。

 

 分厚い雲を突き破って姿を現したのは、大西洋連邦の大型輸送機群。

 

 そして、その機体後部からパラシュートを展開し、アラスカの荒野へと次々と舞い降りてくる無数のモビルスーツのシルエット。

 

 それは、このアラスカ攻撃の序盤で、ブルーコスモスの狂信者たちが乗り回し、ザフトのパイロットたちから『ヒョロガリの案山子』と嘲笑されていた大西洋連邦の量産機──ストライクダガーであった。

 

「あのヒョロガリどもめ、まだ飛んでくるか! 対空砲火でハチの巣にしてやれ!」

 

 ザフトの地上支援部隊のジンが、降下してくる無防備なダガー目掛けて76mm重突撃機銃を空へ向ける。

 

 だが、その瞬間。

 

 降下中のストライクダガー部隊は、パラシュートで宙吊りになりながらも、驚くほど滑らかに機体の姿勢を制御し、空中でビームライフルを連射し始めたのだ。

 

「なっ……!?」

 

 三次元的な降下中の射撃。それは、機体の揺れ、風速、重力加速度などを瞬時に計算し、OSと機体が完璧に連動しなければ不可能な芸当である。

 

 放たれた正確なビームの光条が、地上で対空射撃を試みようとしていたジンの装甲を次々と撃ち抜いていく。

 

 そして、着地。

 

 先程までの狂信者たちが乗っていたダガーは、着地するだけでも膝をガクガクと震わせ、転倒するものすらいた。

 

 しかし、今舞い降りたこの『新たなストライクダガー部隊』は違った。泥濘の地表に降り立った瞬間にパラシュートをパージし、着地の反動をスラスターの逆噴射で完璧に殺すと、そのまま流れるような動作で前傾姿勢をとり、凄まじい速度で戦場へと散開したのである。

 

「な、なんだあの動きは!?」

 

「ほう……」

 

 後方上空を旋回するEWACディンや、強行偵察複座型ジンからデータリンクで送られてくる戦場の映像。それを見たクルーゼは、仮面の奥の瞳を細め、ひどく愉しげな感嘆の声を漏らした。

 

 歩くのもやっとだったはずの、あのひ弱なヒョロガリ。

 

 それが今、画面の中では、泥濘のクレーターを軽やかにジャンプで飛び越え、ジンの死角へと的確に回り込んでビームライフルを撃ち放っている。

 

 さらに、接近戦を挑んできたジンに対し、彼らは一切の躊躇なく背部のビームサーベルを抜刀。まるで百戦錬磨のベテランパイロットのような洗練された剣捌きで、ジンの重斬刀を受け流し、コックピットを正確に貫いてみせたのだ。

 

 見た目は全く同じ。

 

 だが、中身が決定的に異なる。

 

「馬鹿な……ナチュラルのパイロットが、あれほどの機動戦闘を……!?」

 

 司令官の顔面から血の気が引いていく。

 

 ジンハイマニューバ2型や、エースが乗る専用機であればともかく、地上支援に回っていたノーマルのジンでは、この洗練されたストライクダガーの運動性には到底追いつけない。

 

 地球連合軍は、ティエレンという『圧倒的な防御と拠点制圧能力』を持つ機体だけでなく、ジンと同等、あるいはそれ以上の『高機動空間戦闘』を可能とする量産型MSを、既に実用化し、完全な部隊運用を行える段階にまで到達している。

 

 動かざる山のごとき、ユーラシアの鉄案山子。

 

 そして、空より舞い降りた、大西洋の恐るべき刃。

 

 ザフト軍が地球軍に対して抱いていた『技術的優位』という幻想が、アラスカの凍てつく大地で、今まさに音を立てて完全に崩れ去った瞬間だった。

 

 




ふぅ、散々アレな扱いしたけど、ストライクダガーも好きですよ私。ジム枠なのにヒロイックなカラリーングとかね。

まさか間に合うものかと思って一応パナマに集めた周りの軍人へのポーズで増援送ったアズにゃん。

そしたらティエレンで即席要塞砲陣地を形成して持ち堪えてなんならジリジリ優勢に傾きつつありましたなんて聞いたら腹抱えて大爆笑なんだろうなぁ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。