やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか 作:星乃 望夢
歴史を紐解けば、後世の歴史家や軍事評論家たちは一つの巨大な疑問に突き当たる。
「何故、あれほどまでにユーラシア連邦──特に極寒の気候と広大な大地を抱える東ユーラシアの将兵たちは、ティエレンという極めて無骨で、洗練とは程遠い機体に、宗教的とも言えるほどの熱狂と魅了を抱いたのか」
本稿は、その事象の根源と、一人の技術将校がもたらした「鍛冶司る一つ目の神」がいかにして大国の軍事ドクトリンと精神性を書き換えたのかを紐解く歴史考察レポートである。
第一章:泥と雪の記憶 ―― ユーラシアの血脈とルーツの邂逅
そもそも、ティエレンのルーツは軍事兵器ではない。「ジャンク屋組合の自衛用民生MS」である。
当時、中立国オーブの技術三尉でありながらジャンク屋組合にも籍を置いていた若き天才技術者、キラ・ヤマト。
彼が、過酷な宇宙のデブリ帯や地上で活動する組合員たちを、海賊や盗賊の暴力から守るための「頑強な重機(自衛用MS)」として設計したのが、その出自であった。
しかし、この「民生機」という出自こそが、奇跡の始まりであった。
当時、地球連合軍内において大西洋連邦の後塵を拝し、正規のMSを持たず、ジンやバクゥといったザフト軍の先進的なMS部隊を前に、歩兵と通常兵器だけで絶望的な国土防衛を強いられていたユーラシア連邦。
彼らの目に映ったティエレンは、ただの重機ではなかった。圧倒的な質量を誇る「堅牢な重装甲」と、シンプル極まりない「200mm×25口径滑腔砲」という武装のコンセプト。
それは、かつての泥と雪に塗れた大祖国戦争の時代から、広大な大地を防衛してきた彼らの血と魂に刻まれた「質実剛健」「重装甲・大火力」「数の暴力と継戦能力」という軍事的な本能を、痛烈に、そして完璧に刺激したのである。
ユーラシア連邦軍は即座にジャンク屋組合からこの機体を大量に買い上げ、戦線への試験投入を強行した。
当時大尉であり、「月下の狂犬」として名高いモーガン・シュバリエ率いる戦車隊に試験配備されたティエレンは、初陣にして世界を震撼させる。
彼らはザフト軍MS部隊の猛攻を正面から「受け止め」、耐え凌ぎ、逆にその重火力で敵戦力を撤退へと追い込んだのだ。当時の地球軍内において、これは単なる勝利ではなく、絶望の暗闇に差し込んだ破格の「福音」であった。
第二章:狂気の堅牢性と「町工場」の奇跡
今更語るべくもないが、軍事史においてティエレンの頑強さは「常軌を逸している」と評される。
ティエレンの装甲は、ザフト軍MSの標準的な実弾兵装(76mm重突撃機銃や無反動砲)を正面から何発受けようとも、表面の塗料が剥げる程度で、その分厚い垂直装甲を貫通することは物理的に不可能であった。
これを実弾で破壊しようとすれば、艦船を沈めるための「拠点攻略用大型ミサイル」の集中砲火か、要塞砲クラスの直撃を要した。
後年、ビーム兵器が普及した戦場においてもティエレンは無類のタフさを誇った。表面に施された安価だが分厚い「耐ビームコーティング」は、全く同じ箇所に3発連続で直撃させなければコーティングを剥がすことができないという凶悪な仕様だった。
さらに、仮にコーティングが剥がれたとしても、その下にある大元の超重装甲は健在であり、高熱のビームサーベルを隔壁に押し当てて無理やり溶断しようとする様な時間を強要し、パイロットが脱出するだけの時間を十分に稼げるほどの熱容量を持っていた。
そして、この機体の真骨頂は「徹底したブロックモジュール構造による、異常なまでの生産性と整備性」にある。
「町工場でも組み立てが可能」と言われた民生MSとしての恩恵は、泥と血に塗れた極限の戦場で最大の威力を発揮した。
TC-OSによる極めて優秀な自己診断プログラムは、被弾箇所の回路を瞬時にバイパスし、機体の稼働を維持する。
最前線において四肢を吹き飛ばされたとしても、その場に転がる「別の損傷した機体の四肢」を、そのまま物理的に嵌め込んでOSを再起動するだけで、即時戦場へと復帰できるのだ。
この「部品取り」と「共食い整備」を前提とした運用は、兵站線が伸びきりがちな広大なユーラシア大陸において、まさに神の恩恵であった。
第三章:カオシュン攻防戦──「緑の長城」の誕生
「歩く重戦車」「歩く要塞砲」「歩く野戦指揮所」「歩く砲陣地」。
様々な異名を持つティエレンが、世界の軍事史にその名を永遠に刻み込んだ最大のターニングポイント。
それが、東アジア共和国のマスドライバー施設を巡る「カオシュン宇宙港防衛戦」である。
ザフト軍はカーペンタリア基地からの海上部隊と、衛星軌道からの降下部隊による大規模な挟撃作戦を展開した。
誰もが数日で陥落すると予想したこの戦いで、ユーラシア連邦から援軍として派遣されたティエレン部隊は、約一か月にも及ぶ絶望的な防衛戦を見事に持ち堪えたのである。
ザフトのパイロットたちは、どれだけ撃っても倒れず、泥に塗れながら滑腔砲を撃ち返してくる「緑色の鉄の壁」に、恐怖すら抱いたという。
この戦果をもって、地球連合軍におけるザフトの電撃戦神話は崩壊した。
第四章:ティエレン・ドクトリン──陸戦兵科の完全単一化
カオシュンの奇跡を受け、ユーラシア連邦陸軍は世界の軍事常識を根底から覆す極端な軍事改革を決行する。
それが「陸軍兵科すべてのティエレン1本化」である。
共通のフレームとOSを用いながら、バックパックや装備の換装だけであらゆる戦局に対応する、恐るべき汎用性の具現化であった。
輸送型:背中に巨大なカーゴを装備し、弾薬と燃料を最前線へ運び続ける泥臭き生命線。
長距離射撃要塞型:両腕と両脚に計4枚の巨大シールドを構え、大地に根を下ろす要塞砲陣地の絶対的起点。
長距離射撃型:300mm×50口径の巨砲を背負い、水平直射から曲射までをこなす砲兵の要。
地上指揮官型:強力な通信設備とセンサーブロックを増設し、前線で弾雨を弾きながら指揮を執る「歩く司令部」。
地上型(ノーマル):200mm滑腔砲を抱え、前衛で壁となり、野戦砲としても機能する万能の主力。同軸12.7mm機銃による対空能力も持つ。
対空型(チーツー):空を覆うザフトの航空戦力(ディン等)に弾幕を浴びせる防空の要。
高機動B型(ホバー)& A型(滑空):重装甲のまま地を滑り、あるいは時速300kmで空を飛ぶ、ユーラシアの新たな機動騎兵。
水中型:大河や氷海に潜み、ハープンガンで敵を水底へ引きずり込む沈黙の狩人。
フレック・グレイズ:ティエレンの死角を補うため、圧倒的な運動性とナノラミネート装甲を纏って随伴する「歩兵」。
確かに、推進器の配置という明確な弱点と、3次元機動を要求される宇宙空間においては、ザフトのジンやシグーに後れを取る場面もあった。
しかし、重力という絶対の枷が存在する「地上における防衛戦」というシチュエーションにおいて、この緑色の鋼鉄の鉄人兵団は、歴史上類を見ない「無敵の防衛線」──マジノ・ラインの完成形として君臨したのである。
第五章:鉄の棺桶と一つ目の神──パイロットたちの信仰
陸戦兵科をティエレンに置き換えて以降、ユーラシア連邦陸軍の戦死者数は劇的に、それこそグラフの線が地に墜ちるように激減した。
それ以前、ザフトのMSを相手に戦車や戦闘機といった通常兵器で挑んでいた時代の彼らは、まさに文字通りの「使い捨ての肉盾」であった。
しかし、ティエレンの極厚の装甲は、パイロットの命を確実に、そして執拗に守り抜いた。
戦後のユーラシア連邦陸軍兵へのインタビュー記録には、彼らのティエレンに対する特異な愛情が克明に記録されている。
「ティエレンに乗っていて死んだ奴がいるなら、そいつはとびきり『運が良い』奴だよ。なにせ、宝くじの1等を当てるよりも難しい確率を引いたんだからな!」
そう言って、ウォッカで喉を焼きながら豪快に笑い飛ばす彼らは、愛機を「鉄の棺桶」と呼んで憚らなかった。
それは蔑称ではない。どれほどの地獄の業火に焼かれようとも、中身の自分たちだけは絶対に守り抜いてくれるという、究極の信頼の裏返しであった。
事実として、戦後、老衰や病で亡くなる元陸軍パイロットの中には「俺の遺骨は、墓ではなくティエレンのコックピットに納めて土に埋めてくれ」と遺言を残す者が珍しくなかった。
そして、残された戦友たちは、ティエレンの巨大な腕を操作して、大地に深く大きな穴を掘った。
そもそも土木作業用の重機がルーツであるティエレンにとって、墓穴を掘るなど朝飯前であった。
冷たい雪の降る大地に、彼らは共に血を流した緑色の鉄人と一緒に、永遠の眠りについたのである。
彼らにとって、泥と雪とウォッカを愛するユーラシアの男たちにとって。
ティエレンとは、単なる兵器システムなどでは断じてない。
それは、遥か遠き南洋の島国から、一人の優しき技術将校が彼らにもたらした『鍛冶司る一つ目の鉄人』であり、幾万の命を理不尽な死から救い上げた、奇跡の神器そのものであった。
今までのティエレンの戦果。
まぁ、アラスカのアレもかなりヤバい戦果だけど、総司令部が味方見捨ててトンズラしたヤバい戦場だから、多分公式記録には載ってないかもな。
自分で書いてて思った。
そりゃティエレン教に染まるわ。