やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか 作:星乃 望夢
悪魔の軍勢を討ちに来たなどと、自らを正義の使徒と信じて疑わなかった狂信者たち。
しかし、彼らが夢見た『熱狂的聖戦』の前哨戦は、オーブの領海へと足を踏み入れたその一瞬にして、文字通りの釣瓶打ちに遭い、一切の戦果を挙げることも、ろくな反撃すらも出来ずに、無残な海の藻屑となって沈んでいった。
大西洋連邦という超大国の看板を背負ってはいても、所詮は軍隊の規律を捨てて教義に酔いしれただけの『烏合の衆のテロ屋』である。
対して、祖国を守るため、そして自ら泥を被り最前線に立つ『双子の獅子』のために、完全なる一致団結を果たしているオーブ国防軍。
同じ正規軍の装備を持っていようとも、その練度、士気、そして戦場における覚悟の差は、残酷なまでに圧倒的であった。
空を制圧し、海面を焼き払い、深海を支配する完璧なキルゾーン。
蹂躙される狂信者たちは、自らの敗北と死を前にしてもなお、その狂った教義を捨てようとはしなかった。
沈みゆく艦船から、あるいは撃墜寸前の戦闘機のコックピットから、彼らはオープンチャンネルの通信回線に乗せて、ありったけの呪詛を世界に向けて喚き散らしたのだ。
『死ねッ! 世界を滅ぼす裏切者の悪魔、キラ・ヤマト!!』
『青き清浄なる世界に災いをもたらす、悪魔の血を分かつ魔女、カガリ・ユラ・アスハを火あぶりにしろ!!』
それは、死を目前にしたテロリストたちの、ただの負け犬の遠吠えに過ぎなかった。
だが。
その薄汚い言葉が通信ネットワークを通じてオーブ全軍の耳に届いた瞬間、オノゴロ島周辺の戦場から、一切の「熱」が消え失せた。
オーブ軍将兵の心に触れたのは、単なる怒りではない。
自国を導き、誰よりも民を想い、自分たちの命を守るために化け物じみた防衛システムを不眠不休で作り上げたあの『優しき准将』。
そして、父の遺志を継ぎ、血の涙を流しながらも国を背負って立つ『オーブの獅子』。
彼らがどれほどの覚悟を抱え、あの将軍と准将の階級章を背負っているか。
それを一番近くで見守ってきた将兵たちにとって、彼らを『悪魔』や『魔女』と呼んで侮辱することは、絶対に許してはならない、宇宙で最も重い大罪であった。
ブチッ──。
オーブ軍パイロットたちの中で、同時に「理性の糸」が断ち切られる音がした。
怒髪天を突くとは、まさにこのことである。
「……おい。あのゴミ虫ども、今、俺たちの准将殿と姫をなんつった?」
海岸線で陣取るティエレン長距離射撃型のコックピット。
歴戦の砲兵は、ピキリと額に青筋を浮かべ、限界まで冷え切った声で装填手に命じた。
「砲身が焼き付こうが知ったことか。徹甲榴弾、最大装薬。……あの腐れ外道どもを、原子の塵一つ残さずこの世から消し飛ばせ!!」
先程までの「冷静な射撃」が嘘のように、ティエレン部隊の放つ300mm砲の弾幕が倍加する。
もはや威嚇や牽制など一切考慮しない。敵艦の艦橋を、機関部を、弾薬庫を、狂ったような精度と執念でピンポイントに抉り抜いていく。
上空では、イカロスユニットとBWS装備のM1部隊が、文字通り「悪鬼」と化していた。
「あの方たちがどれだけ優しいかも知らねぇクズどもがッ! その汚ぇ口を二度と開けないように、喉元からこんがりと焼き尽くしてやる!!」
急降下爆撃の速度が上がり、ビームライフルの乱射は一切の慈悲を捨てた飽和攻撃へと変貌。
脱出パラシュートで逃げ出そうとするスピアヘッドの残骸ごと、海面を凄まじいプラズマの熱で沸騰させる。
海中を泳ぐ水中仕様M1の部隊も同様だ。
「海を汚すな環境保護団体のダニどもが。お前らが信じる神の元へ、特急便で送ってやるよ」
沈んでいくストライクダガーのコックピットブロックを、アーマーシュナイダーで正確に串刺しにし、悲鳴を上げる間もなく海の底へと引きずり込んでいく。
オーブ軍の通信回線に、もはや焦りや混乱は微塵もなかった。
あるのはただ、指導者を愚弄された兵士たちの、冷酷で、執拗で、完膚なきまでの『殺意』のみ。
「一歩も通すな」
「一隻も帰すな」
「一匹たりとも、生かしてオーブの土を踏ませるな」
狂信者たちが引き起こした怒りの連鎖は、オーブ国防軍という巨大な軍事機構を、血も涙もない「完全なる処刑装置」へと変貌させた。
太平洋の海は赤く染まり、黒煙が天を覆い尽くす。
双子の獅子に仇なす者には、神の慈悲すら届かない地獄だけが待っているという事実を、オーブの将兵たちはその圧倒的な暴力をもって、世界中へと知らしめていたのであった。
◇◇◇
自らの死期を早める致命的な導火線──「双子の獅子への侮辱」という、絶対に触れてはならない爆弾に自ら火をつけた狂信者たちの前哨部隊は、文字通りオーブ国防軍の怒りの業火に呑み込まれ、一隻の生還者すら出すことなく海の藻屑となって完全なる爆散を遂げた。
しかし、この一方的とも言える苛烈な殲滅戦をもってしても、戦局はまだ「始まりの入り口」に過ぎなかった。
第一波の迎撃を終えたイカロスユニット隊やBWS装備のM1アストレイ部隊、そして海を制圧した水中仕様部隊が、次々とオノゴロ島の基地へと帰投してくる。
海岸線に陣取るティエレン長距離射撃要塞型も、赤熱した300mm砲の砲身から白煙を上げ、強制冷却システムを限界まで稼働させていた。
彼らが帰投する管制室のメインモニター。
そこに映し出された戦術マップの赤い光点は、未だ絶望的な数を示していた。
先程の戦闘で敵の先鋒を完全に粉砕したものの、それは後方から押し寄せる巨大な軍勢全体の、まだ「1割」すら減らしていないという事実であった。
「……やっぱり、腐っても北米大陸を牛耳る超大国ってわけか。ゴキブリみたいに次から次へと湧いてきやがる」
帰投したM1のコックピットから降り立ったパイロットが、汗を拭いながら悪態をつく。
だが、その顔に焦りや絶望はない。
帰投した部隊は勝利の余韻に浸る暇など一切なく、直ちに格納庫へと機体を滑り込ませた。
それを待ち構えていた整備班が、文字通りF1のピットクルーのような精密さと速度で機体に群がる。
空になったロングビームライフルのEパックを真新しいものに交換し、リニアレールガンの実体弾を再装填し、推進剤と限界まで補充していく。
そして彼らが補給と急速整備に入っているその頭上で、今まで出撃を待機していた「第2シフト」の部隊が出撃して行く。
「第2空戦中隊、空域アルファ到達! 第1中隊の防衛ラインを引き継いだ! さっさと飯食って休んでな!」
「おう、頼んだぜ! 喰い残しはないはずだが、
狂信者たちの軍勢は、その実態が教義に酔った烏合の衆であるため、艦隊としての統制がまったく取れていなかった。
先陣を切って突出してくる者、後方から鈍重に進む者など、規模も進軍スピードもバラバラの「散発的な波状攻撃」を無秩序に仕掛けてきている。
これを、一部のエースパイロットや部隊の力押しだけで迎え撃てば、必ずどこかで「弾切れ」や「パイロットの疲労による隙」が生じ、そこから防衛線が崩壊する。
だからこそ、オーブ軍は徹底した【部隊のローテーション】を実行した。
「急げ急げ! ダメージコントロールは後回しだ、とにかく弾と推進剤をフルにしろ! 次の第3波が来る前に第1中隊を再出撃可能状態に戻すぞ!」
「ティエレン部隊、砲身冷却完了! 次のターゲット、座標入力済み! いつでもいけます!」
前線基地は怒号と金属音に包まれながらも、その動きは一つの巨大な生き物のように完璧に統制されていた。
敵の侮辱に対する怒りに燃えながらも、オーブ軍の将兵たちは決して頭に血を上らせて無謀な突撃をしたりはしない。
整然とローテーションを回し、常に万全の態勢で待ち構え、散発的に押し寄せてくる狂信者たちの船団を、まるで工場でゴミを処理する「作業」のように、冷徹かつ正確に太平洋の底へと沈めていく。
祖国を守り、双子の獅子に仇なす者を殲滅するための巨大な『すり鉢』。
オーブ国防軍は、その圧倒的な練度と兵站能力をもって、果てしのない持久戦のフェーズへと完璧に移行していたのであった。
◇◇◇
かつてのオーブ連合首長国の防衛ドクトリンは、島国という地理的条件ゆえの「分散のジレンマ」を抱えていた。
四方を海に囲まれた群島国家である以上、陸・海・空すべてに均等に戦力を振り分ける必要がある。
侵攻してくる敵艦隊を護衛艦群による艦隊戦で削り、敵航空機を空軍の空中戦で凌ぎ、それでも防衛線を抜かれて本土の土を踏まれた場合には、本土防衛の陸軍部隊が血を流して対処する。
それは専守防衛の建前としては正しいが、戦力が分散し、常に自国領土での被害を前提とする苦しい戦術であった。
しかし、キラ・ヤマトという規格外の天才が防衛の根幹に携わってから、オーブの軍隊は劇的な変貌を遂げた。
先ず行われたのは、国防空軍の大規模な強化である。
イカロスユニットやBWSの開発と配備。
それは、オーブの基本理念である「他国の侵略を許さず」という言葉の、最も苛烈な形での実現であった。
「敵を洋上の遥か彼方で殲滅し、祖国オーブの地に、侵略者の泥靴を一歩たりとも踏ませない」という、若き技術将校の強烈な意志の表れだと将兵たちは理解した。
モビルスーツの登場によって「自分たち戦闘機乗りは冷や飯を食わされ、いずれ戦場から消えゆく存在になる」と自嘲していた空軍の将校たち。
彼らを再び空の覇者として戦力の中核に据えたその手腕に、空軍の面々はキラがまだ技術三尉だった頃から深い感謝を胸に空を飛び、常日頃から実戦を想定した苛烈な訓練に臨んできたのだ。
しかし、キラの眼力は空軍だけを贔屓するほど狭くはなかった。
空軍がいかに強大であろうとも、陸軍や海軍という「足元」が脆弱であれば、そこを突破された瞬間に国は守りきれなくなる。
MSの配備数を手っ取り早く、かつ強力に引き上げるため、前代表ウズミ・ナラ・アスハが決行した『ティエレン』の大量購入と配備。
結果としてこの英断は、オーブ国防陸軍を強烈なまでに強化した。
そして、その鉄の壁たるティエレンの生みの親もまた、キラ・ヤマトである。
陸軍の将兵たちは、自分たちに命を守る盾を与えてくれたオーブの獅子ウズミと、キラに対する揺るぎない感謝を抱いた。
さらにキラは、軍事費がジャンク屋組合へ流出し続ける無駄を避けるため、国産の強力な陸戦兵器として『ランドグリーズ』と『ラーズアングリフ』を開発した。
ティエレンの重装甲・大火力という運用思想を受け継ぎながらも、民生用ではなく「純粋な陸戦機動兵器」として一から設計された機体。
コストは割高になったが、その性能はティエレンを遥かに凌駕する。
何より、世界に類を見ない「純国産の重装甲機動兵器」という存在は、陸軍の将校たちからすれば、世界唯一の最強の陸戦部隊を任されるという、この上ない栄誉と誇りに満ちたものであった。
そして、国防海軍もまた歓喜に沸いた。
空軍と陸軍がこれほどまでに劇的な進化を遂げる中、船舶の建造には莫大な時間とコストがかかるため、「自分たちの装備は旧態依然のまま、当分は我慢の時だろう」と半ば諦めかけていた。
だが、そこにキラが齎したのは『水中戦仕様』のM1アストレイというオプション装備であった。
旧来の潜水艦や魚雷艇の概念を根底から覆す、海を自在に舞う人魚のような機動兵器。
これによって海軍の戦術の幅は爆発的に広がり、彼らにもまた、祖国を守るための誇りが山程与えられたのである。
空に翼を、陸に鉄壁を、海に牙を。
各軍の特性を完璧に理解し、誰一人として切り捨てることなく、将兵たちが最も輝ける場所と最高の兵器を与え尽くした。
そんな彼が、異例の若さで最高軍事顧問たる『准将』の座に就き。
そして何より、オーブの獅子の娘カガリと、血を分けた『双子の姉弟』であることが世界に公表されたのである。
それまでオーブ軍将兵の胸の内にあった、若き天才への「揺るぎない感謝」と「深い尊敬」が、何者にも折られることのない『確固たる忠義』へと昇華したのは、軍隊という組織の精神構造において、あまりにも当然の、そして必然の帰結であった。
今のオーブ国防軍は、ただの「軍隊」ではない。
双子の獅子のためならば、一切の躊躇なく己の命を投げ出し、世界すらも焼き尽くす、史上最強にして最凶の防衛装置なのである。
◇◇◇
どれほど教義という熱病に浮かされた狂信者であろうとも、彼らは元を正せば大西洋連邦という巨大国家で訓練を受けた「正規軍人」であった。
我先に「青き清浄なる世界」を実現せんと突出していった前衛部隊が、一切の戦果を挙げることもなく、それどころかオーブの防衛線に触れた瞬間に文字通り『消滅』したという冷酷な事実。
それが後続の部隊に伝わると、流石の彼らも少しばかり頭が冷えたようだった。
このまま闇雲に突っ込んでも、待ち構える宇宙の化け物と結託する悪魔の手先たちに、無惨に各個撃破されるだけだ。
そう判断した彼らは、無秩序で散発的な波状襲撃をピタリと止め、領海外の公海上で自然発生的に集結を開始。
艦隊の陣形を再編し、アラスカ基地から南下してくる『本隊』の到着を待つという、軍隊として最低限のセオリーに立ち返ったのである。
もっとも。
正規軍の将兵である自分たちが、教義の熱狂に浮かされて「無断出撃」と「兵器の無断使用」という、銃殺刑すら免れない重大な軍規違反を犯しているという自覚にすら至らず、「ならば引き返そう」という選択肢をハナから持っていない時点で、彼らの思考は完全に盲目的であり、カルトのそれであった。
しかし、オーブの地下管制センターで戦術マップを睨んでいたキラ・ヤマト准将からすれば、彼らがここで足を止めてくれたことは、望外の幸運であった。
キラが当初最も警戒していたのは、規模も速度もバラバラな敵が、昼夜を問わず無秩序に突っ込んでくる『散発的な波状攻撃』であった。
どれほどオーブ軍が強力な兵器を持ち、完璧なローテーションを組んだとしても、終わりの見えない散発的な襲撃が続けば、将兵たちの精神的な緊張は解けず、疲労の蓄積による消耗戦へと引きずり込まれる。
最強の軍隊であっても、休む隙を与えられなければ、いずれどこかで綻びが生じる危険性があったのだ。
だからこそ、敵が自ら「波状攻撃」を放棄し、本隊と合流しての一大決戦を選んでくれたことは、オーブ国防軍にとって極めて好都合な展開であった。
現在、ブルーコスモスの艦隊は、オーブの領海線22kmのわずか外側、公海上を漂うように停泊・集結している。
その距離は、オノゴロ島の海岸線に陣取る『ティエレン長距離射撃要塞型』の最大射程40kmの範囲内に完全に収まっていた。
オーブ側からすれば、今すぐ300mm砲の雨を降らせ、足を止めた敵艦隊を一方的に海の藻屑に変えることなど、あくびが出るほど容易い作業である。
しかし、オーブの砲兵たちは誰一人として引き金を引かなかった。
なぜなら彼らには、「領海を侵犯したテロリストを自衛権によって排除した」という、後々の書類仕事の簡略化と、国際社会への完璧な大義を示すためのルールを遵守する『余裕』があったからだ。
相手が撃ってこないのなら、こちらも撃たない。それは平和と中立を掲げるオーブ連合首長国の、徹頭徹尾冷徹で、知的な防衛戦術であった。
オノゴロ島の前線基地では、パイロットたちがコックピットから降りて支給品のサンドイッチや温かいスープを胃に流し込み、仮眠室のベッドやティエレンの分厚い装甲の影で、次なる開戦に備えて静かに目を閉じていた。
迫り来る北米大陸の全戦力。狂気に彩られた一大決戦の足音。
それらを眼前にしながらも、オーブ国防軍は一切の焦燥を見せることなく、嵐の前の『束の間の休息』を貪っていた。
その静寂こそが、大西洋連邦という大国を完膚なきまでに叩き潰すための、双子の獅子が研ぎ澄ませた無慈悲な刃の輝きであった。
◇◇◇
青き地球の重力圏の縁、漆黒の宇宙空間に浮かぶオーブ連合首長国の巨大軌道ステーションにして宇宙軍事拠点『アメノミハシラ』。
そこもまた、狂信者たちが引き起こした世界規模の熱狂から逃れることのできない、苛烈な戦場の一つと化していた。
「……まるで、宇宙の闇に湧いた羽虫の大群だな」
アメノミハシラの司令管制室にて、メインモニターを見上げるオーブ宇宙軍の将校が、呆れたような、しかし微かな緊張を孕んだ声で呟いた。
ジブリールの「オーブ殲滅」の呼び掛けに応じたのは、地上の部隊だけではない。
月のプトレマイオス基地から出撃した、地球連合宇宙軍・第一から第三艦隊。
その提督たちが揃いも揃って熱烈なブルーコスモス・シンパであったため、彼らは自らが率いる大艦隊を丸ごと私物化し、オーブの宇宙の要衝へと牙を剥いたのだ。
アガメムノン級宇宙母艦を中核とし、ネルソン級、ドレイク級といった無数の戦闘艦が陣形を組み、そこから吐き出されるストライクダガーとモビルアーマー『メビウス』の群れ。
3個艦隊という圧倒的な数の暴力は、地上の海から押し寄せる敵大隊に比べれば「まだマシ」ではあったが、彼我の戦力差だけで言えば、オーブ宇宙軍が正面からぶつかり合えば到底無傷では済まない絶望的な物量であった。
「全砲門開け! テロ支援国家の宇宙の巣窟を、一つ残らずチリに変えろ!!」
連合宇宙軍の提督からの狂気に満ちた号令と共に、宇宙空間を埋め尽くさんばかりのビームの閃光と、メビウスが放つ実体弾の雨がアメノミハシラに向かって殺到する。
だが。
その星の瞬きを消し去るほどの飽和攻撃のすべては、アメノミハシラの漆黒の装甲に触れる遥か手前で、まるで目に見えない巨大なガラスに叩きつけられたかのように、波紋を描いて完全に霧散した。
「馬鹿な!? 直撃コースの艦砲射撃が、弾かれただと!?」
連合軍の艦橋に、驚愕と混乱の悲鳴が響き渡る。
アメノミハシラは落ちない。
なぜなら、その巨大な宇宙ステーション全体を、美しい光の帯を伴った『超広域エネルギーバリア』がすっぽりと包み込み、完璧に守護していたからだ。
『イージス計画』──。
それは、ヤマト准将(当時三尉)の提唱によって極秘裏に進められていた、オーブ国防拡張計画における「本土防衛の最終要」である。
機動兵器の新規開発と部隊の強化だけで、国を守り切れるほど世界は甘くない。
どんなに強力な軍隊がいようとも、流れ弾や飽和攻撃から民間人の住む都市や拠点を守り抜くための『絶対的な盾』が必要不可欠であった。
その思想の元、モルゲンレーテの技術力とキラの頭脳が結集し、ユーラシア連邦のアルテミス要塞が誇る光波防御帯の技術を徹底的に解析・昇華。
特殊な磁場制御を用いた、より強固で死角のないエネルギーバリアの完全展開システムを完成させたのである。
これによって、宇宙の軍事拠点である『アメノミハシラ』と、資源コロニー『ヘリオポリス』は、外部からのあらゆる物理・ビーム攻撃を完全に遮断する、文字通りの『不可侵領域』を獲得していた。
ユーラシア連邦のアルテミス要塞と同様、いや、それ以上の強固さを誇るこのエネルギーバリアによる『籠城戦』は、攻める側からすれば絶望そのものであった。
どれほど弾薬を消費し、ビームを撃ち込もうとも、バリアの向こう側で涼しい顔をしているオーブ軍には指一本触れることができない。
「フッ……滑稽だな。教義に狂った連中が、どれだけ大金をかけて造ったミサイルとビームを、ただの宇宙の『花火』に変えていることか」
アメノミハシラの司令官は、無為に弾薬を浪費し続けるブルーコスモス艦隊の焦りを冷ややかに見下ろし、余裕の笑みを浮かべた。
アメノミハシラの周囲には、すでに迎撃態勢を整えた宇宙用M1アストレイの部隊が、バリアの内側で静かに牙を研いでいる。
地上の海と空が血に染まる中、宇宙の戦場においてもまた、狂信者たちはオーブという国家が用意した『圧倒的な科学力という名の絶対防御』の前に、完全な手詰まりという絶望を味わわされることになったのである。
◇◇◇
普段であれば、この宇宙の摩天楼たる軌道ステーション『アメノミハシラ』を絶対的なカリスマで統べる影の支配者、ロンド・ミナ・サハクとその弟たるロンド・ギナ・サハクの両名が、陣頭指揮を執っていたはずである。
しかし現在、彼らはオノゴロ島本国で盛大に執り行われた「キラ・ヤマト准将の御披露目パーティー」に一族を代表して出席していたため、ステーションは主の留守という状態にあった。
だが、主が不在であるからといって、それで浮き足立つようなヤワなオーブ国防宇宙軍ではない。
現在、宇宙空間におけるオーブ軍の大型宇宙戦艦は『イズモ』『スサノヲ』『ツクヨミ』の3隻に過ぎない。数の暴力に物を言わせて押し寄せてくる連合宇宙軍3個艦隊を相手に、正面切っての艦隊戦を仕掛けることは物理的に不可能だ。
しかし、この巨大な不可侵領域を防衛し、逆に敵を深淵へと引きずり込むための戦力選定と局地戦術において、彼らは間違いなく宇宙一級の牙を隠し持っていた。
オノゴロ本国では「多機能で超大型、高コストかつ整備性が極めて劣悪」という理由から、ヤマト准将の直轄部隊やごく一部の精鋭への少数配備に留められている究極のヘビーウェポンシステム『アリュゼウスユニット』。
ミナは、この機体の悪魔的な性能の虜となり、自らの宇宙の城に驚くべき数のアリュゼウスユニットを量産し、配備していたのである。
その代わり、宇宙空間では全く無用の長物となるシュライク装備や、宇宙でも運用可能だが純粋な機動力に特化したイカロスユニットの生産コストを完全に削り落とし、その莫大な予算と資材のすべてを「一機で戦局をひっくり返す化け物」たるアリュゼウスユニットの調達に全振りするという、極端かつ冷徹な選択を下していた。
月方面から進軍し、扇状に展開してアメノミハシラを包囲しようとするブルーコスモス艦隊。
だが、彼らがステーションの全てを完全に囲い切れているわけではない。
連合軍の砲火が絶対防御『イージスの盾』のバリアに弾かれ続け、敵の意識が正面の光波防御帯に釘付けになっているその裏側。
ブルーコスモス艦隊の完全な死角となるアメノミハシラの巨大な影の部分から、局所的にバリアの出力が解除された。
その漆黒の隙間から、プラズマの蒼白い炎を噴き上げて飛び出したのは──分厚い複合装甲と耐ビームコーティングを施された鋼鉄の白鳥の鎧を纏った、空間戦闘仕様の『M1Aアストレイ』の精鋭隊であった。
空気抵抗という概念が存在しない真空の宇宙空間。
大気圏内でさえ超高速機動を可能とするプラズマジェットの推力は、宇宙空間においては文字通り「閃光」と化す。
一機でMS1個中隊を相手にしても余裕でお釣りが来るという、狂ったスペックを誇る化け鳥たちが、漆黒の宇宙に美しい光の軌跡を描きながら編隊を組んでいく。
そして、その怪物たちを完璧に操るパイロットたちもまた、ただの兵士ではない。
彼らは知っているのだ。自分たちの主であるオーブの影の軍神『ロンド・ミナ・サハク』と、若き准将『キラ・ヤマト』との間に結ばれた、深く、甘く、そして恐ろしいほどの蜜月関係を。
ミナが誰よりもキラに寵愛と執着を注いでいること。
そしてキラ自身もまた、多忙な合間を縫ってこのアメノミハシラへと度々足を運び、技術将校としてだけでなく「鬼教官」として、自らが設計したアリュゼウスユニットの真の恐ろしさと、それを極限まで引き出すための非情な機動戦術を、現場のパイロットたちの骨の髄まで叩き込んできたことを。
「あの優しくて恐ろしい准将殿と、我らが麗しきミナ様の顔に、これっぽっちの泥でも塗るような真似ができるか!」
「ああ。こんなチンピラ崩れのテロリスト共に手間取って、下界でお楽しみ中のお二人の時間を邪魔するなんて、万死に値するってもんだ」
パイロットたちの瞳に宿るのは、連合への恐怖でも、死への怯えでもない。絶対的な主君たちへの狂信的なまでの忠誠と、自らの乗る機体への絶対の信頼であった。
「全機、狩りの時間だ! 青き清浄なる世界に行きたがってる連中を、神の元へ直接送り届けてやれ!!」
編隊長からの冷酷な号令が通信回路を駆け抜ける。
それはまさに、アメノミハシラに群がる羽虫たちを、圧倒的な暴力と美しさで食い殺す『鳥葬』の始まりであった。
◇◇◇
ブルーコスモス艦隊は、絶対的な勝利を信じて疑わなかった。
だが、その驕りは、アメノミハシラの巨大な影から音もなく滑り出してきた異形の影を捉えた瞬間、致命的なまでの戦慄へと塗り替えられた。
ストライクダガーのパイロットたち、そしてMAメビウスの搭乗員たちがメインモニターに映し出されたその機影を光学的に拡大したとき、彼らの思考は一瞬にして停止した。
地球軍が定めたモビルスーツの標準規格、あるいは彼ら自身の「兵器の常識」という物差しから測って、その影はあまりにも、異常なまでに巨大であったからだ。
かつて地球の低軌道会戦において、ザフト軍クルーゼ隊を退けた第8機動艦隊。
その激戦の中で、特装艦アークエンジェルの艦載機として初めて観測された『鋼鉄の化け鳥』の記録は、宇宙軍内部に深く浸透しているブルーコスモス・シンパの将官たちの間でも、極秘裏に、しかし恐るべき神話として共有されていた。
ザフト軍の主力MSであるジンを瞬きする間に10機まとめてスクラップに変えたという、常軌を逸したその戦闘データ。
それは単なる噂や誇張ではなく、今まさに彼らの眼前に顕現した物理的な脅威であった。
その怪物──『アリュゼウスユニット』を纏うM1Aアストレイは、MS形態へと変形した際、頭頂高にして32.5メートルという圧倒的な巨体を誇る。
一般的なモビルスーツが18メートル前後であることを考えれば、その体積比と質量は、大人と子供という表現すら生温い。
まるで歩く高層建築物のようなその威容は、軍事知識のない子供が見たとしても、本能的に「逆らってはいけない化け物」だと理解できるほどのプレッシャーを放っていた。
だが、真の恐怖はその巨体に見合わぬ「規格外の機動性」にある。
超高速戦闘モードであるMA形態へと変形を果たした瞬間、その巨体は流麗にして禍々しい「鋼鉄の白鳥」へとシルエットを変える。
アリュゼウスは真空の宇宙空間において、機体後部に搭載されたプラズマジェットエンジンを完全解放し、メビウスの最大推力すらまるで止まっているかのように錯覚させる超高速の機動で敵陣を切り裂く。
そして敵の懐へと飛び込んだ瞬間にMS形態へと変形し、スラスターのベクトルを三次元的に強引に切り替えることで、ストライクダガーのパイロットたちが赤子のように感じるほどの異常な運動性と格闘能力を見せつけるのだ。
「撃て! 撃てェッ! なぜ落ちない!?」
ストライクダガーが放つビームライフルの直撃。メビウスが苦し紛れに放つ実体弾。
しかし、アリュゼウスの全身を覆う複合装甲と、不可視のビームコートは、それらの攻撃をまるで微風のように弾き返し、傷一つ負うことはない。
さらに、狂信者たちを絶望の底へと叩き落としたのは、機体各部のコンテナから放たれる無数の牙であった。
ニュートロンジャマーの干渉によって電波誘導が封じられているこの環境下において、ヤマト准将が直々に組み上げた悪魔の頭脳『TC-OS』の自動追尾モードは、その真価を極限まで発揮する。
機体から放たれた無数の小型ミサイルは、一発一発が完全に独立した三次元の最適軌道を描き、互いに干渉することなく、予測不能の角度から目標へと殺到するのだ。
「回避不能だ! クソッ、どこから撃ってきやが……ッ!!」
悲鳴は、両肩のビームキャノンと手持ちのビームライフルによる容赦のない正面からの極太の光条によって、機体ごと蒸発して消え去った。
1機で10機のジンを余裕で屠るアリュゼウス。
それが「1個中隊」規模でこの宇宙に解き放たれたのだ。
単純な戦力計算において、たった十数機のこの部隊は、連隊にすら匹敵、いや、それらを凌駕する破壊の権化であった。
もはや、アメノミハシラ宙域で行われているのは「戦闘」ではない。
大西洋連邦宇宙軍という巨大な虎口に自ら飛び込んできた狂信者たちを、オーブという国家が用意した『究極の暴力と科学の結晶』によってすり潰す、完全にして一方的な『蹂躙殲滅』であった。
漆黒の宇宙は、狂信者たちの無力な悲鳴と、アリュゼウスが放つ青白い死の光によって、残酷なまでに美しく彩られていったのである。
◇◇◇
「前衛部隊が攻撃を停止し、領海外で集結・再編を行っているだと?」
大西洋連邦の最重要軍事拠点、アイスランドの地下深く・分厚い岩盤に守られた『ヘブンズベース』。
その最深部に位置する冷え切った司令部の中央で、ブルーコスモスの盟主たるロード・ジブリールは、報告に上がった将校を氷のような冷たい声でなじった。
「はっ。オーブ軍の抵抗は想定を遥かに超えて強固であり、指揮官たちは、これ以上の散発的な波状攻撃では防衛線を崩す前に各個撃破されると判断した模様です。故に部隊を集結させ、アラスカからの本隊到着を待って一気呵成にオーブを討つと──」
「誰がそのようなチンタラした判断を認めたッ!!」
将校の言葉を遮り、ジブリールは苛立たしげにデスクを叩き割らんばかりの勢いで拳を振り下ろした。
その双眸には、理性ではなく狂信的な焦燥が黒黒と渦巻いている。
「あの忌々しい島の小国は、我々が信奉する『青き清浄なる世界』を最も侮辱する悪魔の巣窟だ。集結だの再編だの、そんな及び腰の真似が神の正義と言えるか! 集結中の前衛部隊に対し、直ちに攻撃を再開させろ!」
「し、しかしジブリール様! 敵の防衛網は完璧です! このまま無秩序な突撃を繰り返せば、いたずらに我が方の被害と犠牲が増え続けるだけで──」
「だからどうしたと言うのだ!!」
将校の悲痛な訴えを、ジブリールは鼻で笑って一蹴した。彼にとって、最前線で血を流す兵士たちの命など、チェス盤のポーンほどの価値すらないのだ。
「被害? 犠牲? そんなものは、一対一で刺し違えれば済む話だろう。どれほどオーブ軍が強力な兵器を持っていようと、我々大西洋連邦が誇る圧倒的な『数』は、あの豆粒のような島国の軍隊を軽く凌駕しているのだ!」
ジブリールは立ち上がり、大型モニターに映し出された太平洋の戦術マップを狂気に満ちた目で見据えた。
「奴らの防衛線が強固だというのなら、休む暇を与えずに兵士をぶつけ続けろ。敵のパイロットを疲労させ、弾薬を枯渇させ、完全なる『消耗戦』を強要させるのだ。そうやって前衛部隊が全滅してでも敵の防壁に風穴を開ければ、あとはアラスカからの本隊が到着し、残りの疲弊した有象無象を蹂躙すれば済むことではないか!」
将校は押し黙った。
味方の犠牲を一切厭わず、自軍の兵士を文字通りの「使い捨ての弾除け」として消費し尽くす。
指揮官としては最悪の冷酷さであったが、戦略という血も涙もない計算式においてのみ言えば、「圧倒的な物量で相手の継戦能力をすり潰す」というその戦術は、確かに筋の通った恐ろしいロジックであった。
「前衛部隊が全滅しようと構わん。それは、あの小悪党の悪魔と、宇宙の化け物どもを、正義の核の炎で焼き尽くすための『尊い殉教』というものだ。青き清浄なる世界を築くための尊い礎となった彼らを、神は必ず褒め称えるだろう」
ジブリールは、まるで自らが神そのものであるかのように両手を広げ、恍惚とした表情でそう言い放った。
「わかれば、直ちに全軍に攻撃続行の命令を出せ。オーブの土を踏むまで、止まることは許さん」
「……は、はっ!」
将校は恐怖に顔を引き攣らせながら踵を返し、司令部から逃げるように飛び出していった。
ヘブンズベースから発せられた、狂気に満ちた『絶対攻撃』の命令。
しかし。
安全な地球の裏側、分厚い岩盤に守られた要塞の奥深くから指示を出すジブリールには、致命的なまでに「現実」が見えていなかった。
彼が「消耗戦で崩せる」と計算したオーブの防衛線は、肉壁となって突撃させられる兵士たちの命が、オーブ軍の無慈悲な砲火の前に「刺し違える」ことすらできず、ただの一発の砲弾、ただの一条のビームによって、文字通り何の意味もなく消し飛ぶだけの「完全な無駄死に」でしかないという絶望的な現実。
安全圏からゲームの駒を動かすように命を下す狂信者の盟主には、その戦場の本当の熱と、双子の獅子が張り巡らせた底なしの地獄の深さを、肌で感じることなど絶対に不可能であったのだ。
スマンがジブリール。その戦法はビッテンフェルトと黒色槍騎兵だから成功させられるんであって、お前にゃ無理だよ。
ブルーコスモスがビッテン突撃してもバンザイ突撃にしかならねーもん。敵の一番痛い指揮官とか殺そうとしても軒並みMSパイロットとカッチカチのティエレンに乗ってるからそもそも落ちないぞ。
今のオーブ軍、カリスマ度ならウズミとカガリというラインハルトが2人居るみたいな感じの上で、ヤン枠のキラが居て、ロイエンミッタマ双璧枠でミナギナが居て、将兵は軒並み薩摩兵か鎌倉武士、迷いのない兵士ならやはり最強はアスラン・ザラか、どけ!俺はお兄ちゃんだぞ!のカナードも居る。
ヤン枠だけどオーベルシュタインも兼業するキラって無法だよなぁ。
ああ、スマン、多分だからガンダムSEEDなのに派手なMSが入り乱れるアニメじゃなくて、政治と兵站と人間模様が中心のお話になってるのか…………。
今更それに気付いた。
でもティエレンとユーラシア連邦(東側)の悪魔合体の暴走は私でもホントにどうなってくのコイツら?って予測不能なんですよ。