やめてよね、僕が准将みたいに出来るわけないじゃないか   作:星乃 望夢

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PHASE-87 ここまでがSEED←→ここからがFREEDOM

 

「戦力の逐次投入、か。指揮官としては無能の極みだが……それを脳死でやられると、絶対数が少ないこちらとしては、確かに一番辛いな」

 

 オノゴロ島の国防軍中央管制センター。

 

 その静まり返った司令部の中枢で、メインモニターに映し出される無数の赤い光点──再び無秩序な波状攻撃を開始したブルーコスモス前衛部隊の動きを見据えながら、カガリ・ユラ・アスハは極めて冷静にそう呟いた。

 

 一度は足を止め、本隊との合流を待つかと思われた敵の船団が、再び狂ったように散発的な突撃を再開したのだ。

 

 それは、後方からの明確な「全滅するまで突撃しろ」という強要のサインであると、カガリには容易に読み取れた。

 

 戦術のセオリーからすれば最悪の愚策。

 

 だが、どれほど馬鹿げた特攻であろうとも、圧倒的な物量で休みなく押し寄せられれば、防衛側は確実に弾薬と集中力を削り取られる。

 

「このままローテーションだけで受けて立つのは、少しばかり効率が悪いな。……後方で待機させているラーズアングリフ隊も前に出せ。沿岸部のランドグリーズ隊およびティエレン部隊とリンクさせ、三層の飽和砲撃陣を敷いて領海スレスレで敵艦隊を完全にすり潰せ。一隻たりとも上陸されたら面倒だからな」

 

 カガリの決断は早く、そして冷徹だった。

 

「それから、シュライク装備のM1部隊を迎撃に上げろ。昨夜の民間人退避任務からの仮眠を終えて、今頃は格納庫で元気が有り余ってウズウズしているだろうからな。イカロス隊と交代させ、上空からの制圧射撃で陸軍の火線から漏れた残飯を片付けさせろ」

 

「はっ! 直ちに全軍へ通達します!」

 

 オペレーターたちが一斉にコンソールを叩き、カガリの命じた迎撃シフトが瞬時にオーブ全軍へと伝達されていく。

 

 その迷いのない的確な指示と、戦局全体を俯瞰する冷ややかなまでの眼差し。

 

 カガリのすぐ隣で補佐のために立っていたレドニル・キサカは、もはや口を挟む必要すらないその見事な采配を目の当たりにし、深く、頼もしい感慨に包まれていた。

 

 かつて、アフリカの砂漠で共に戦っていた頃の彼女は、感情の赴くままに銃を手に、自ら危険に飛び込んでいく跳ねっ返りのじゃじゃ馬娘であった。

 

 しかし今、管制センターの中央に立つその姿は、かつての危なっかしさなど微塵も感じさせない、完成された『指導者』そして『軍人』そのものであった。

 

「……立派になったな、カガリ」

 

 キサカが周囲に聞こえないほどの小さな声で、万感の思いを込めてそう零すと、カガリは戦術マップから視線を外さずに、ふっと短く鼻を鳴らした。

 

「別に。……やらなければならない事が明確にわかったから、その為に『やれること』をしているだけだ」

 

 彼女が背負うもの。

 

 それは、祖国オーブと、そこに暮らす無辜の民の命。

 

 そして何より、自分と同じ顔をした、あの泣き虫で甘ったれで、誰よりも愛しい片割れの未来。

 

 それらをこの火の粉から守り抜くために、彼女は父ウズミへ自ら教えを請い、厳しい修練を経て、『オーブの獅子』とは何たるか、指導者とはどれほど非情にならねばならないかを、その骨の髄まで叩き込んできたのだ。

 

 それに、とカガリは心の中で密かに微笑む。

 

 自分は決して孤独にこの重圧を背負っているわけではない。

 

 自分を命懸けで守り、絶対の忠誠を誓ってくれる多くのオーブ軍の将兵たちがいる。

 

 そして、あの優しすぎる弟が、すでに『将軍』として、軍事という最も暗く冷たい泥の中を先陣を切って歩んでくれている。

 

 ならば、自分は彼らが安心して背中を預けられる『最高司令官』として、せめて格好だけでも相応しく堂々と立ち塞がっていなければならない。

 

「陸軍各部隊、射撃準備完了! シュライク隊、全機発進しました!」

 

「よし。……全軍、射撃開始。我らが祖国の海を、教義の泥で汚させるな」

 

 カガリの静かで、しかし絶対的な威厳を持った号令と共に、オノゴロ島の海岸線から三種の大口径砲による未曾有の飽和砲撃が開始された。

 

 軍神たる弟が張り巡らせた防衛線と、大将たる姉が振るう指揮棒。双子の獅子の完全なる連携の前に、狂信者たちの無謀な突撃は、ただ物理的な『肉片と鉄屑』へと分解されていくだけであった。

 

 

◇◇◇

 

 

「クソッ、陸の鈍亀に先を越されたぜ。一番槍は俺たちだってのによ!」

 

 編隊長のM1アストレイのコックピットに、悔しげでありながらも、どこか痛快さを隠しきれない歓声のような悪態が響き渡った。

 

 彼が空から見下ろす眼下の海。

 

 オーブの領海線を越えた、まさにその一秒後だった。

 

 敵艦隊の先頭を意気揚々と進んでいた大西洋連邦のイージス艦が、突如として海面から跳ね上がったかのように見えた直後。

 

 その分厚い鋼鉄の船体のど真ん中に、巨大な風穴が開き、遅れて凄まじい爆発の火柱が朝焼けの空へと吹き上がったのだ。

 

 放たれたのは、ビームではない。純粋な物理的破壊力を持った「巨大な質量弾」である。

 

 領海は沿岸から22キロメートル。

 

 現在、オノゴロ島の海岸防衛線に陣取り、文字通り大地に根を張っている『ティエレン長距離射撃型』の背に聳える300mm×50口径滑腔砲は、最大射程40km、水平直射でも20kmという狂った長距離狙撃能力を誇っている。

 

 彼らは、領海線ギリギリの座標に最初から照準をピタリと固定し、弾道計算を済ませて待ち構えていたのだ。

 

 回避行動も取らず、密集陣形のままバカの一つ覚えのように真っ直ぐ向かってくる巨大な「的」を、あらかじめ設定したキルゾーンで撃ち抜くなど。

 

 長距離射撃のスペシャリストであるティエレンの砲兵たちにとっては、あくびが出るほど簡単な「朝飯前」の作業でしかなかった。

 

 遥か数十キロ先の海岸から放たれた、音速を置き去りにする第一撃。

 

 それが、法と大義に守られたオーブの「合法的な殲滅戦」の再開を告げるファンファーレとなった。

 

「あの野郎ども、あとで基地の売店にあるオーブで1番高いフルーツ牛乳をダースで奢らせてやるぜチクショウ!」

 

 編隊長は通信回線に痛快な笑い声を響かせると、機体のスロットルを全開に押し込み、空戦機動のトリガーを引いた。

 

「全機、武器使用自由!! 狩りの時間だ! ブレイク! ブレイク! ブレイクッ!!」

 

 その号令と共に、オーブの空を哨戒していたイカロスユニット装備のM1アストレイの編隊が、プラズマの尾を引いて四方八方へと散開する。

 

 それはまるで、獲物を定めて一斉に急降下を開始する猛禽類の群れであった。

 

「さあ、テロリストども! 歓迎会の続きだ、受け取りな!!」

 

 M1アストレイから放たれたロングビームライフルとリニアレールガンの雨が、混乱に陥った敵艦隊の頭上から無慈悲に降り注ぐ。

 

 ティエレンの放つ300mm砲の轟音と、M1の編隊が降らせる光と実弾のスコール。

 

 オーブの土を踏む遥か手前の海上で、血も涙もない「完全な虐殺」が再び繰り広げられた。

 

 

◇◇◇

 

 

「おいおい。エンジン噴かし過ぎて蝋みたいに熔けても知らんぜ、鷹の連中はよ」

 

 昨夜の激務からの仮眠を終え、再びオーブの空へと舞い戻ったシュライク装備のM1アストレイ部隊。

 

 その編隊長がコックピットから見下ろした先では、先立って哨戒任務に当たり、防衛線の引き継ぎを行っていたイカロスユニット隊が、再び領海へと侵入してきたブルーコスモスの狂信者たちに対して、物理法則を無視したような苛烈なドッグファイトを展開していた。

 

 M1の背部に大型のローターユニットを接続した『シュライク装備』は、あくまでM1を「とりあえず長時間滞空させるための空戦機」に仕立て上げるための、マイナーチェンジの安価な装備に過ぎない。

 

 対して、イカロスユニットやBWS、そして空の化け物たるアリュゼウスは、同じM1であっても劇的に空中戦でのドッグファイト能力を跳ね上げ、文字通り「空の覇者」とするための特化装備である。

 

 圧倒的なスラストでスピアヘッドを切り裂くイカロス隊の機動を見れば、同じM1乗りであっても舌を巻くしかなかった。

 

「隊長、もうアイツらだけで良いんじゃないですかい?」

 

 部下のパイロットが、呆れたような、しかし頼もしげな声で通信回路に割り込んでくる。

 

「バカ野郎。サボってる暇があるなら、下の海を這いずってる『揚陸艇』を優先して潰すんだよ。鷹の連中にゃ悪いが、俺達のシュライクの機動力じゃ、敵艦の濃密な対空砲火に掴まったらあっという間にハチの巣だからな。仕事の棲み分けってもんがあるんだ」

 

「了解! さてお客さん、地獄への帰りのチケットはこちらだぜ!」

 

 部下の明るい声と共に、シュライク隊の編隊が高度を下げ、陸軍の飽和砲撃の隙間を縫って沿岸部へと接近しつつあった敵の揚陸艇群へと狙いを定めた。

 

 大西洋連邦の揚陸艇の甲板には、上陸作戦用のリニアガンタンクや、ストライクダガーが所狭しと並べられている。彼らは狂信のままにオーブの土を踏み、街を焼き払う気で満々であった。

 

 だが、その目論見が達成されることは永遠にない。

 

「上陸なんて面倒な真似、うちの大将が許すわけねぇだろッ!」

 

 シュライク隊が一斉に放ったロングビームライフルの光条が、上空から正確無比な角度で揚陸艇の甲板を撃ち抜いた。

 

 搭載されていたリニアガンタンクの弾薬庫にビームが誘爆し、揚陸艇は水柱と黒煙を上げて真っ二つにへし折れる。

 

 甲板に立ち並んでいたストライクダガーたちも、回避する間もなくビームに貫かれるか、あるいは爆発に巻き込まれて海中へと投げ出され、下で待ち構える水中仕様M1の餌食となっていった。

 

 確かに、シュライク装備はオーブ空軍のバリエーションの中では一番安価で、地味な存在かもしれない。

 

 だが、だからといって舐めてもらっては困るのだ。

 

 背中の装備が何であれ、ベースとなっている機体はヤマト准将が心血を注いで完成させた『M1アストレイ』なのだから。

 

 絶対的な破壊力を誇るビームライフル。

 

 敵の装甲を容易く溶断するビームサーベル。

 

 そして、対空砲火の弾幕程度なら涼しい顔で弾き返す、アンチビームコーティングが施された専用シールド。

 

 これらC.E.の標準的なMSを凌駕する基本スペックを備えた機体を、実戦訓練を死ぬほど積んだオーブの正規パイロットが操っているのである。

 

「撃ち漏らしは許さねぇ! 陸軍の皆さんに手間をかけさせるな!」

 

 ローターの回転音を響かせながら、シュライク隊は海面スレスレでホバリングをこなし、着実に、そして冷酷に敵の揚陸艇と随伴艦を沈めていく。

 

 華麗なドッグファイトは鷹に任せればいい。自分たちは、この使い勝手のいいローター機で、泥臭く確実に『敵の上陸』という最悪の芽を摘み取る。

 

 それこそが、休む間もなく指揮を執る若き大将と准将の負担を減らす、彼らなりの「忠義の形」であった。

 

 

◇◇◇

 

 

 オノゴロ島の海岸線。

 

 荒波が打ち寄せる砂浜の背後に築かれた堅牢な防衛線には、オーブ陸軍が誇る純国産重装甲機動兵器『ランドグリーズ』の大隊が、鋼鉄の防壁の如く展開していた。

 

「ティエレン隊の射線から漏れた残飯が来るぞ! 取りこぼすな、全門開け!」

 

 中隊長の怒号が響くや否や、ランドグリーズの背部にマウントされた右側の巨大な砲身──リニアカノンが、青白い放電の閃光と共に火を噴いた。

 

 凄まじい反動を、機体の脚部に備えられた強固なダンパーが完璧に吸収する。

 

 放たれた電磁加速による大質量弾は、火薬式の滑腔砲を上回る初速で空気を引き裂き、領海ラインを突破しようと足掻く大西洋連邦の巡洋艦のバイタルエリアに直撃。

 

 分厚い装甲を紙のように貫通し、内部の弾薬庫を誘爆させて巨大な火柱を海上に現出させた。

 

 ランドグリーズが装備するこのリニアカノンは、従来の火薬式大砲とは一線を画す。

 

 電磁誘導で弾丸を加速させるため、長距離砲撃を可能としながらも砲身を短く抑えることができ、取り回しに極めて優れているのだ。部隊の中には、この火力をさらに倍加させるべく、両肩にリニアカノンを背負った『ツインリニアカノン装備タイプ』も多数混じっており、彼らはまさに移動する要塞砲として猛威を振るっていた。

 

 だが、ランドグリーズの真の恐ろしさは、単なる「移動砲台」に留まらないその異常なまでの【重武装・多目的性】にあった。

 

 バックパックの左側にマウントされた面制圧用『ファランクスミサイル』が、連続した発射音と共に次々と空へ打ち上げられる。さらに、両肩に装備された分厚く巨大な装甲シールド。一見するとただの防壁に見えるそれは、内部が空洞のウェポンベイとして設計されており、そのハッチが開くと同時に、中から『マトリクスミサイル』が射出された。

 

 空中で一つから四つへと分裂し、それぞれが独立した軌道で敵艦の甲板や対空機銃座をピンポイントで破壊していく。

 

 敵に接近を許す前に、この機体単体で完結する飽和攻撃によって、視界のすべてを焼き尽くす。

 

「よし、面制圧完了。次は……手持ちの武装のデータ取りだ。遠慮するな、上層部が用意したおもちゃを全部試してやれ!」

 

 これだけの重火器を背負いながらも、ランドグリーズの両手は完全にフリーであった。

 

 それこそが、この防衛戦が陸軍にとっての『実戦を兼ねた壮大な兵器実験会場』と化している最大の理由であった。

 

 海岸線にズラリと並んだランドグリーズの足元には、試作品や規格外の武器コンテナが山のように積まれていた。

 

 彼らは長距離射撃の合間を縫って、それらの武器を次々と持ち替え、眼下の海に群がる狂信者たちを「極上の射的の的」として性能評価を行っていたのである。

 

 一機のランドグリーズが、『Gレールガン』を構え、輸送艦を一撃で両断する。

 

 別の機体は、連射性能を高めた『バーストレールガン』と、その大容量バッテリーパックを動力源とする実体剣『アサルトブレード』を交互に振り回し、揚陸艇ごとストライクダガーを叩き斬る。

 

 さらに別の機体は、近距離制圧用の『M950マシンガン』や、広範囲に散弾をばら撒く『M13ショットガン』、高威力の特殊実弾を発射する『レクタングルランチャー』を次々と試射し、その破壊力と反動データをTC-OSの記録領域へと書き込んでいく。

 

 極めつけは、もはやモビルスーツの武装という概念すら疑わしいゲテモノ兵器の数々だ。

 

 巨大な鎖付きの鉄球に、威力を増強するためのスラスターを内蔵した『ブーストハンマー』。

 

 これを振り回し、海面から顔を出した揚陸艇の艦橋を粉砕する様は、悪夢以外の何物でもない。

 

 そして「一体誰が、何のためにこんなものを開発したのか」とパイロットたちでさえ首を傾げる、巨大な杭打ち機『Gインパクトステーク』。

 

 さらには、一部の趣味人の意向が色濃く反映されているとしか思えない、日本刀の形状をした実体剣『シシオウブレード』。

 

「おいおい、このステークってやつ、反動で腕の関節がイカれそうだぞ!」

 

「文句を言うな、打撃による装甲貫徹力は最高評価だ。次はシシオウブレードの切れ味を試す! 海から上がってきたダガーの首を落としてみせろ!」

 

 接近を許したストライクダガーがいたとしても、ランドグリーズにはハサミとしても機能する『シザースナイフ』がある。

 

 近接戦闘における踏み込みと切断能力もまた、第一級の性能を誇っていた。

 

 そして何より、このランドグリーズが前世代のティエレンと決定的に異なるのは、その【機動性】であった。

 

 ティエレンは「自衛用民生MS」という建前上、あえて機動力を低く抑えるという縛りが施された設計であった。

 

 しかし、その後の改修型である高機動B型やC型を見ればわかる通り、ティエレンのフレーム自体は、少しのマイナーチェンジで容易に高機動を獲得できるほどのポテンシャルを秘めていた。

 

 ランドグリーズは、その「隠された機動性のポテンシャル」を最初から設計に組み込み、一切の建前や妥協を排して『純粋な重装甲・高機動人型機動兵器』としてゼロから新規開発された機体である。

 

 ヤマト准将が名付けた『ヴァルキュリアシリーズ』という系譜の第一号。

 

 その分厚い装甲からは想像もつかないほど軽快なステップで砂浜を滑り、迫り来る砲弾を躱し、瞬時に射撃体勢へと移行する。

 

「素晴らしい……これが、准将殿が我々に与えてくださった、本物の『戦神の槍』か!」

 

 長距離からの精密射撃。重装甲による絶対防御。そして、機動力を活かした近接格闘と多様な武装の運用。

 

 ランドグリーズという機体の登場により、オーブ陸軍はもはや「本土防衛の最後の砦」という受動的な存在ではなく、海岸線という強固な前線基地から圧倒的な暴力を投射し、敵をすり潰す「最も攻撃的な盾」へと進化を遂げていた。

 

 どれがどんな風に実戦で使い物になるのか。その壮大なる兵器群の性能テストの対価として、大西洋連邦の狂信者たちは、自らの安い命と鉄屑と化した艦艇を、ただひたすらに差し出し続けることしかできなかったのである。

 

「道を空けろ! 指揮官機のお出ましだ!」

 

 緑に塗装されたランドグリーズ隊が構築する分厚い鋼鉄の防衛線の後方から、地響きのような重低音と共に、赤き異形の巨人たちが姿を現した。

 

 カガリの命令によって前線へと押し出されてきた、ヴァルキュリアシリーズの指揮官用強化型機動兵器──『ラーズアングリフ』の小隊である。

 

 量産機である緑のランドグリーズに対し、まるで血と炎を象徴するかのような真紅の装甲に身を包んだその威容。

 

 最大の特徴は、その「足」にあった。各部の装甲が極限まで分厚く強化されたことによる重量増加と機動性の低下。それを相殺するため、この機体の脚部に組み込んだのは、二足歩行の限界を超える『無限軌道』であった。

 

「オラオラッ! どいたどいたァ!!」

 

 けたたましいキャタピラの駆動音を響かせながら、ラーズアングリフは砂浜を滑るようにして高速で突進してくる。

 

 歩行による上下のブレを完全に殺し、戦車の走破性と人型機動兵器の汎用性を悪魔合体させたその陸上高速移動力。 

 

 ランドグリーズよりも遥かに重武装・重装甲でありながら、機動性はほぼ据え置きという、物理法則と常識を真っ向から喧嘩腰で叩き潰すような「無茶苦茶な設計」こそが、この機体が次期指揮官用として量産配備を検討されている所以であった。

 

「まったく、准将殿の頭の中はどうなってんだ? こんな重てぇ鉄の塊が、なんでダガーより速く動けるんだよ」

 

「天才の考えることなんて凡人にはわからねぇよ! 俺たちはただ、この赤いバケモノで敵をすり潰せばいいだけだ!」

 

 防衛線の中央に陣取ったラーズアングリフ隊が、無限軌道のブレーキを激しく軋ませて急停止する。

 

 直後、彼らの背部にマウントされた巨大な兵装が、重々しい金属音と共に展開を開始した。

 

『フォールディングソリッドカノン』。

 

 ランドグリーズが装備するリニアカノンをベースにしながらも、砲身を折りたたみ式にすることで、展開時の銃身長を劇的に延長。さらに口径そのものも一回り太く拡張した、まさに規格外の大砲である。

 

 その異常な長さと重量ゆえに、「扱いが極めて難しい」代物であったが、その威力はティエレンの300mm滑腔砲すら凌駕する折り紙付きのバケモノ兵器だった。

 

「ターゲット、敵艦隊後方の空母および大型輸送艦! 距離35000!」

 

「砲身展開完了! 電磁加速帯、オールグリーン! アンカー固定!」

 

 ラーズアングリフの脚部から強固なスパイクアンカーが砂浜に深く打ち込まれ、機体そのものを大地と完全に一体化させる。

 

 折りたたまれていた極太の砲身が「ガチャンッ!」という硬質な音と共に一直線に連結され、巨大な砲口が、水平線の彼方から群がり来るブルーコスモス艦隊のど真ん中へと向けられた。

 

「こちらラーズアングリフ隊! 陸軍の真打ち、いかせてもらうぜ!」

 

「──撃てェッ!!」

 

 放たれたのは、音などという遅々とした現象を完全に置き去りにした、純粋な破壊の閃光。

 

 フォールディングソリッドカノンから撃ち出された大質量弾は、砲口から凄まじい衝撃波を発生させながら、眼前の海面を一直線に割り裂いて飛翔した。

 

 水平線の遥か彼方、安全圏だと信じて部隊を集結させていた大西洋連邦の艦隊中央で、まるで小さな太陽が生まれたかのような大爆発が巻き起こった。

 

 大型艦の分厚い装甲ごと、中に積まれていたモビルスーツ部隊や弾薬庫を、文字通り「一撃で蒸発」させたのだ。

 

 爆発の余波だけで周囲の巡洋艦が次々と転覆し、狂信者たちの艦隊陣形は中心から無惨に抉り取られた。

 

「ヒャーッハッハッハ! 見たかよ、今の! まるで紙くずみたいに吹き飛びやがったぜ!」

 

「喜んでる暇はないぞ! 砲身強制冷却! 次弾装填急げ! 艦隊のケツに隠れてる指揮官クラスの船を全部沈めろ!」

 

 赤い装甲の巨人たちは、その圧倒的な破壊力を前にしてもなお冷静に、次なる屠殺の準備を進める。

 

 空には鷹が舞い、海には人魚が潜み、そして陸には、緑と赤の巨大な鉄の壁が立ち塞がる。

 

 狂信者たちが『聖戦』と呼んだこの戦いは、オーブ国防軍という完全無欠の防衛システムによる、あまりにも一方的で残酷な「兵器の品評会」へと、完全にその姿を変えていたのである。

 

 

◇◇◇

 

 

「フハハハハハハ!! その程度の貧弱な攻撃で、この俺とスーパーハイペリオンが落ちるものか!!」

 

 紅蓮に染まりつつあるオーブの空を、一閃の流星が切り裂いた。

 

 その名が示す通り、天を高く翔ぶ超越者──ユーラシア連邦が産み出し、今やオーブの影の牙として君臨する特務機『スーパーハイペリオン』である。

 

 コックピットの中で狂気じみた高笑いを上げるのは、かつて失敗作の烙印を押されながらも、運命を捩じ伏せた「最高の失敗作」こと、カナード・パルス。

 

 彼の愛機であるハイペリオンは、ドレッドノートガンダムからニュートロンジャマーキャンセラーを移植され、核エンジンという禁断の心臓を手に入れたことで、完全なる『完成形』へと昇華していた。

 

「無駄だ! 貴様らの玩具のような兵器では、俺の光には触れられん!!」

 

 スーパーハイペリオンの周囲を、エメラルドグリーンの美しい光の球体が完璧に包み込んでいる。

 

 ユーラシア連邦が誇る、アルテミスの傘のMSサイズ縮小版たる光波防御帯『アルミューレ・リュミエール』。

 

 かつてはバッテリー駆動による極端な稼働時間制限という致命的な弱点を抱えていたこの絶対の盾は、核エンジンの無尽蔵のエネルギー供給を得たことで、コックピットの制限時間カウンターは、「∞」を示したまま固定されていた。

 

 大西洋連邦の主力戦闘機スピアヘッドの編隊が死に物狂いで放つ無数のミサイル群。眼下の海を進むイージス艦が撃ち上げてくる対空ビーム砲や、大型の対艦ミサイル。

 

 しかし、それらの殺意のすべては、エメラルドの光波防御帯に触れた瞬間に波紋を描いて完全に相殺され、機体本体には熱の欠片さえ届いていない。

 

「効かん、効かん、効かァんッ!! フォルファントリー、最大出力ッ!!」

 

 カナードは操縦桿を乱暴に叩き込む。

 

 機体の背部から前方へと展開された二基のバインダー──アルミューレ・リュミエール発振器に内蔵された大出力ビーム砲『フォルファントリー』の砲口に、核エンジンの莫大なエネルギーが凄まじい勢いで収束していく。

 

「発射ァッ!!」

 

 放たれた二条の極太の緑の閃光は、スピアヘッド編隊を呑み込んだ。

 

 回避行動すら間に合わず、一瞬にしてプラズマの塵と化して消滅する戦闘機群。

 

 だが、カナードの殺戮の舞はこれで終わらない。

 

 彼は防御形態のアルミューレ・リュミエールを一度解除すると、前方に向けたバインダーの発振器の出力を瞬時に再調整した。

 

 アルミューレ・リュミエールは、ただの「盾」ではない。

 

 制御を先鋭化させることで、その光はすべてを貫く絶対の「槍」へと変貌を遂げるのだ。

 

「アルミューレ・リュミエール・ランサー、展開ッ!」

 

 カナードの怒号に呼応し、機体前方にエメラルド色に輝く巨大な光の槍が出現する。

 

 同時に、スーパーハイペリオンの背部に備えられたスラスターが、これから行使される圧倒的な暴力を予告するかのように、限界を超えた推力で激しく唸り声を上げた。

 

「フルブーストッ!!」

 

 弾き出されるような爆発的な加速。

 

 機体はトップスピードへと達し、大気を切り裂くソニックブームを撒き散らしながら、眼下の敵艦隊、その中核を成す大型空母へと真っ直ぐに急降下していく。

 

「迎撃しろ! あの化け物を甲板に近づけるな!」

 

 空母の甲板上に待機していたストライクダガーの部隊が、恐怖に顔を引き攣らせながら一斉にビームライフルを撃ち上げてくる。

 

 しかし、カナードは嘲笑するだけだった。

 

 ランサーとして攻撃用に形状を変えていても、その光の槍の根底にあるのは光波防御帯である。

 

 ダガーの貧弱なビームなど、槍の切っ先に触れただけで霧散し、ハイペリオンの突進をミリ単位すら遅らせることはできない。

 

 緑の閃光が、空母の飛行甲板に直撃した。

 

 アルミューレ・リュミエール・ランサーは、そこに展開していたストライクダガーの部隊を、装甲ごと文字通り「ミンチ」のようにバラバラに引き裂きながら、分厚い鋼鉄の甲板をバターのように切り裂いていく。

 

 ハイペリオンはそのままの勢いで、悲鳴を上げる間もなく空母の巨大な艦橋を根元から貫通し、内部の指揮官たちを文字通り蒸発させた。

 

 そして、艦橋を貫き抜けた直後、カナードは空中で機体を強引に反転。

 

「とどめだ! 灰すらも残さん!」

 

 背後に向けたフォルファントリーのトリガーを全開で引き絞る。

 

 至近距離から空母の機関部へと直接叩き込まれた緑の閃光は、艦の内部構造を完全に崩壊させ、巨大な爆発の火柱と共に、大西洋連邦が誇る航空母艦を真っ二つにへし折って太平洋の底へと沈めた。

 

「ハハハハハハハハッ!! これが俺の力だ!」

 

 炎と黒煙が立ち昇る戦場の上空で、カナード・パルスは狂喜の声を張り上げる。

 

「核の力を得たハイペリオンは、もはや無敵だ! 神だろうが悪魔だろうが、俺の道を遮る者はすべて、この光で消し炭に変えてやる!!」 

 

 オーブの影の最強戦力。

 

 双子の獅子が放った、もう一人の『制御不能の化け物』が、狂信者たちの軍勢を前にして、圧倒的かつ残酷な暴力のショーを繰り広げていた。

 

 

◇◇◇

 

 

「………………」

 

 激しく水しぶきを上げる太平洋の海面スレスレを、文字通り滑空するように疾走する真紅の機影があった。

 

 アスラン・ザラが駆る赤いティエレンである。

 

 しかし、そのコックピットの中。操縦桿を握るアスランの口元は真一文字にキツく結ばれ、整った眉間には深い皺が刻まれ、そのエメラルドの瞳には一切の感情を焼き尽くすほどの『底冷えのする不機嫌さ』が隠そうともせず露わになっていた。

 

 無理もない。

 

 オーブの防衛線を突破できず、次々と海の藻屑へと変わっていくブルーコスモスの狂信者たち。

 

 彼らが断末魔と共にオープンチャンネルに垂れ流す呪詛と罵声は、アスランの耳にも等しく届いていたのだ。

 

『あの宇宙の化け物と結託する悪魔め!』

 

『世界を売り飛ばす、悪魔の死の商人がァッ!』

 

 それを聞いて、アスランは心の片隅でほんの僅かに思考を止めた。

 

(……困ったな。『死の商人』の部分に関しては、アイツが裏でやってるモルゲンレーテやジャンク屋との兵器特許の商売を見れば、半分くらいは事実だから擁護しきれない……)

 

 しかし。

 

 そんな幼馴染に対する極めて冷静なツッコミを脳内で処理したとしても、アスランが無言のまま、圧倒的な殺気を放っている理由はただ一つである。

 

 自分の無二の親友を、あんな薄汚い狂信者どもに侮辱されることだけは、絶対に、死んでも許せない。

 

 オーブの将兵たちも怒り狂ってはいるが、恐らくこの広大な防衛戦の最前線において、誰よりも、最も深く静かにブチギレているのは、他でもないこのアスラン・ザラであった。

 

赤いティエレンの両手に握られているのは、実弾ではなく、大容量バッテリーによって駆動する『レーザーライフル』。

 

 アスランはトリガーの下部にあるスイッチを弾き、銃身下部から高出力の『レーザーソード』の刃を形成させた。

 

 海面を蹴り立てた赤いティエレンは、迎撃に上がってきたスピアヘッドをすれ違いざまの一閃で的確に両断すると、そのままの勢いで、眼下を進む大西洋連邦のイージス艦の甲板へと、荒々しく、そして暴力的に着艦した。

 

「ヒィッ!? な、なんだこの赤いバケモノは!?」

 

「撃て! 機銃を──」

  

 イージス艦の乗組員たちがパニックに陥り悲鳴を上げるが、怒れる紅の騎士の動きは彼らの反射神経を遥かに凌駕していた。

 

 アスランは赤いティエレンを舞うように旋回させ、両手のレーザーソードを容赦なく振るった。

 

 まず一撃目で、艦首の主砲塔をダルマ落としのように水平に切断。

 

 続く二撃目で、ミサイルの発射口であるVLSのハッチ群を、甲板の分厚い装甲ごと格子状に切り刻んで完全に無力化する。

 

 一切の反撃手段を奪われたイージス艦は、もはやただの巨大な鉄の箱に過ぎない。

 

 そして最後。アスランは機体のスラスターを吹かし、甲板から跳躍。

 

 すれ違いざまの十字斬りで、狂信者たちがひしめく『艦橋』を、まるで豆腐でも切るかのように音もなく両断した。

 

 重い爆発音と、崩れ落ちる艦橋を背に、赤いティエレンはすでにその艦から離脱している。

 

 海面を蹴り、次の艦へ。

 

 そしてまた次の艦へ。

 

 アスラン・ザラの戦いは、もはや「戦闘」と呼ぶにはあまりにも一方的で、冷酷な作業であった。

 

 怒りに任せて無闇に撃ち沈めるのではない。

 

 敵の急所を的確に削ぎ落とし、一番絶望的な形で鉄屑に変えていく、芸術的なまでの『艦隊解体ショー』。

 

 友を侮辱されたことへの、一切の容赦なき報復。 

 

 静かにブチギレた紅の騎士は、その圧倒的な白兵戦能力をもって、狂信者たちの艦隊を端から順番に、文字通り「解体」し続けていたのである。

 

 

 




ヤベーことに気付いた。

こんだけBWSとかイカロスユニットとかアリュゼウスが居るとさ。

ムラサメ造る意味あるのか?

M1使い倒す勢いで2年後も4年後も最前線現役で居そう。

感想欄で皆さんと私の認識の食い違いが多いっぽかったので補足すると。

このM1アストレイ用BWSはリ・ガズィの使い捨てじゃなくてリ・ガズィカスタムの変形機構持ちの方なので、MSとMA形態に変形するというムラサメのコンセプトそのままで火力は上だからどうかと思ったけど、確かに空戦格闘能力だとムラサメが上だから、やっぱりムラサメは要るか……。


タイトルがコレしか思い浮かばなかったのはアスランのせいだバーカ!
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