龍の軌跡 第二章 魔法少女リリカルなのは編≪リメイク≫(凍結中) 作:ミステリア
いきなりで誠に申し訳ないのですが、この小説の投稿がこの話と次の話を終えたら、その次が早くても七月の頭になりそうなのです。
というのも、実は来月の末に前回一問差で合格を逃した資格試験に再び挑むことになり、現在それに向けて勉強中となっているからです。
なのでこのゴールデンウィーク中にもう一話を投稿して、六月は丸々空いてしまう事になります。
どうかご了承の程を宜しくお願いします。
では、どうぞ。
――龍一郎サイド――
「・・・・・・と、いうのが俺の知る限りこの地球で起こる事件の概要です」
「・・・そうか」
俺の話を聞き終え、士郎さんは腕を組んで重々しく頷き、ふぅっと息を吐く。
まぁそういう反応をするのも無理はない。
確かに士郎さんの娘の高町なのはがこれから巻き込まれる事件は、個人が関わる規模のものではない。
だが偶然ではあるが、それを収束できる力が高町にあり、自らの意思で関わっていく事になるのだ。
それにこの事件が切欠で高町なのはは成長し、自らの将来について考え、決断していく。
親としては娘に危ない目にあって欲しくはないが、大きな成長の切欠にもなると聞かされては、苦い顔をせざるを得ないだろう。
「なのはは、強制されてその道に進む訳では無いんだな」
「少なくとも俺の知る『物語』の中ではそんな事はありませんでした。
尤も、俺が入ったこの世界は『物語』を原点としたIFの世界です。
全てが今俺の言った通りにはならない筈です」
「つまりこれから選んで決めるのは、なのはの意思という訳・・・か」
コクリと無言で頷く俺に対し、士郎さんはハアッと重い溜め息を吐いて「確かに、なのははいつも自分一人の悩み事や迷いがある時はいつも一人で抱え込んで・・・でも最後には自分自身で答えに辿り着くからな」と俯いて呟く。
そして数秒の静寂をおき――
「龍一郎君・・・」
士郎さんは両の掌を机につけ、さながら土下座をするように頭を下げた。
「君にはイレギュラーズを倒すという使命がある事は充分に分かっている。だけどそれを承知で頼む。
なのはを・・・なのはを護って欲しい」
絞り出す様な声で懇願する士郎さんを見て、いきなり頭を下げられた俺は動揺し言葉を失ったが、その姿から発せられる悔しさや葛藤等の気配を感じ、俺は朧気にだが士郎さんの心情が分かったような気がした。
娘をわざわざ危険に晒したくはない。それは親として当然の気持ちだ。
だが、当の本人はそれを覚悟した上で行動をする。
そしてその根元たる理由が、士郎さん自らが高町に言った『困っている人がいて、助けてあげられる力が自分にあるなら、その時は迷ってはいけない』という教えからだというのだから、引き止める事はかなり難しいだろう。
ならばと力を貸そうにも、地球人には魔導師が魔法を使うのに必要不可欠なリンカーコアを持っている人間はかなり少数で、肉親である士郎さんもその例に漏れない為、とてもではないが助けにはいることなど出来ない。
正直足手纏いとなってしまう可能性の方が遙かに高いのだ。
だから俺に高町を護って欲しいと頼んだのだろう。
正直に言うと、俺にとってこの話は渡りに船だった。
この世界の主軸となる人物である高町なのはを狙って、イレギュラーズが出てくる可能性は充分にあるからだ。
まぁ、だからといって他に目を向けなければいけない所もあるので、常に高町なのはの傍に張り付いている訳にはいかないのだが、その辺りは影分身の術を使えば問題は無いだろう。
「分かりました。俺で良ければ引き受けます」
「すまない。そして・・・ありがとう」
「そんな・・・頭を上げてください。貴男にはこの世界にくる前からお世話になっているんです。
力を貸すのは当然ですよ」
頭を下げたままで礼を言う士郎さんに俺は顔を上げるように促す。
「それでもお礼を言わせて欲しい。本当にありがとう」
頭を上げて真っ向から礼を言ってくれる士郎さんに、俺は照れ臭さを覚えて鼻の頭を軽く掻き「いえ・・・その・・・どういたしまして」と返す。
「ならば高町士郎。その件で汝に一つ頼みたい事がある」
どこか気恥ずかしい空気を払拭させる様に、今まで黙していた相棒が声を上げた。
「頼み事?一体何だい?」
「龍を汝の末の娘である高町なのはと同じ私立聖祥大付属小学校に転校生として入る為に、代理の保護責任者となって貰いたい」
「・・・・・・はい?」
突然の申し出に俺の目が点になり、思考が一瞬フリーズする。
「理由を聞いてもいいかい?」
「同じ学校の生徒となれば傍に居ても違和感を感じることは無くなるだろう。
しかし少なくとも保護責任者位はいなければとても転校をする事など出来ないからだ」
「成る程ね」
あっさりと納得の意を見せる士郎さんに、ようやくフリーズの解けた俺が待ったをかけようと口を開く。
「ちょ・・・[龍。何を言いたいか見当がついているから言わせて貰うが、今の龍の姿で平日の真っ昼間にその辺りを歩いていたら、間違い無く不審に思われるぞ。我の頼みはそれを防ぐ為もある]・・・」
ぐうの音も出ない正論で完全に封殺され、俺は何も言葉を発せずにただ金魚の様にパクパクと口を開閉する事しか出来なかった。
「分かった。保護責任者となるだけじゃなくて、なるべく早く学校に転入出来るようにしよう。もうすぐ春休みだから、うまくいけば4月の始業式に転入する事が出来ると思う。だから・・・」
「分かっている。高町なのはを護ることを誓おう」
いや、実際に護って戦うのは俺じゃないのか?
話がトントン拍子に進んでいる為話に入っていけず、脳内でツッコミを入れる。
というか、もうすぐ春休みなのか。ならば今は大体3月の初めから中頃といった所なのか?
通りでこの世界に来た時に空気がひんやりとしていると感じた訳だ。
と半ば現実逃避気味に思考の方向を変える俺を余所に相棒と士郎さんは話を纏めていき、2人の会話は時計の長針が半周するまで続いたのだった。
☆
本人である俺を蚊帳の外にして2人が転校についての方針が纏まってから大体十五分程経ち、今俺は外に出て士郎さんに海鳴の街を案内してもらっていた。
「この商店街の店は安くて良い物が揃っているよ。人柄の良い人達ばかりだし、家の桃子もよく此処に来ているんだ」
「へぇ~」
この世界のイレギュラーズを全て倒すまではこの場が生活の拠点となる為、少なくとも衣と食についての情報も知ろうと思ったのだ。
まぁ、知ろうと思ったのはそれに限ってはいないのだが・・・。
しかし、確かに士郎さんの言った通りこの商店街の人達は皆人柄が良く、通り掛かった俺(というよりも士郎さん)に笑顔で声をかけてくれている。
まぁその殆どが、士郎さんに俺の存在を尋ねる声だったのだが。
一応そう聞かれた時の事を想定して俺は『引っ越してきたばかりの士郎さんの知人の息子』という設定にしてある為、違和感なく皆に納得して貰っている。
「それでこの商店街を抜けると、少し急な登り坂がある。其処を登ると小さな公園があるんだ。
今の君の体ならこれ位の距離のロードワークで丁度良いと思うよ」
最後は声のトーンを落として伝えてくれる士郎さんに、俺はコクリと頷いた。
そう。これが士郎さんに海鳴の街を案内して貰い、他に知ろうと思った事だ。
考えてもみて欲しい。いくらダイオラマ魔法球があるとはいえ、ずっとそれを頼って鍛錬をしていたら第三者はどう思うのか。
おそらく引き籠もりと見られるだろう。
もしもその予想が外れたとしても、普通今の俺位の歳の子供は外ではしゃぎ回っているという印象がある為、奇異な目で見られる可能性は非常に高い。
だからなるべく頻繁に外に出て公園で遊んでいる様に見せようと思ったのだ。
まぁ尤も、実際は――
外に出る→ロードワーク。
公園で遊ぶ→公園でシャドーボクシング等。
となるのだが・・・。
「にしても・・・やっぱり海が近いからか、潮の香が強いですね」
「前に居た所は、あまり海に近くなかったのかい?」
周りに人の目がある為、小さい子供に話す口調になって聞く士郎さんに、俺は「前の世界は海の近くではなかったですし、神の爺さんに送られる前は内陸の方に住んでいましたから」と小声で返す。
「直に慣れると思うよ」
「まぁ、少し時間が掛かりそう「あれ?士郎さん?」」
俺の言葉を遮る形で背後からかかったどこか聞き覚えのある声に、俺と士郎さんは振り返って視線を向ける。
其処には濃い目の紫色の長髪に白いヘアバンドを付けた今の俺と同じ位の歳の少女と、少女よりもやや薄めの紫色の髪をした童顔のメイドさんが買い物籠を手に立っていた。
そう。俺の前にいるのは間違い無く原作に出てくる登場人物。月村すずかとファリン・K・エーアリヒカイトその人であった。
しかしまさか家を出て直ぐに登場人物と鉢合わせするとは・・・。
「やぁ。2人共買い物かな?」
「はい。私は夕食の買い物で、すずかちゃんは文房具を買いに来たんです」
朗らかに聞く士郎さんに、ファリンさんがにこやかに返す。
一方俺は、興味深そうに此方をジッと見つめている月村すずかに、少し居心地の悪さを感じていた。
「あの・・・何か?」
「あっ!いえ・・・すいません」
俺が話し掛ける事で、自らが無意識に視線を送り続けていたのが分かったのか、月村すずかはワタワタと慌てながら謝り、それによってやっと俺の存在に気付いたらしく、ファリンさんが俺に視線を向けた。
「あれ?士郎さん。この子は?」
「あぁ。この子は僕の知人の息子の吉波龍一郎君。
つい最近海鳴に引っ越してきたばかりで分からない所も多いから、いろんな所の案内をしていたんだ」
士郎さんの紹介に、俺は軽く頭を下げて「始めまして。吉波龍一郎です」と挨拶する。
「龍一郎君は次の学期から、すずかちゃんと同じ聖祥大付属小に転校する予定なんだ」
士郎さんの付け足しに、ファリンさんは「良かったですね~すずかちゃん。お友達が増えますね」と月村に笑顔を向け、月村もそれにつられたようにパアッと顔を綻ばせて「うん」と頷いた後に、まだ自分が挨拶を返していない事に気が付いたらしく、「は、始めまして。月村すずかです」と若干どもりながらも自己紹介をしてくれた。
「私はすずかちゃんの専属メイドのファリン・K・エーアリヒカイトといいます」
「えと・・・宜しくお願いします」
(何を宜しくするんだ?)
月村の後に従う形で名乗るファリンさんに、俺は口から出た自らの言葉に心の内でツッコミを入れる。
何故かは分からないが、月村やファリンさん(特に月村)と面と向かうとドキドキするというか、変な意味で落ち着かないのだ。
[惚れたのか?]
[断じて違う!!]
心話で茶々を入れてくる相棒に、俺も心話で思い切り断言する。
[しかし前の世界で女性と顔を合わせても、今のような反応は無かった筈だ]
[む・・・]
的を射た指摘に俺は思わず黙してしまった。
確かにそうだ。前の世界では井上さんに乱菊さん。夜一さんに伊勢副隊長に卯ノ花隊長といった女性と顔を合わせて会話もしていたのだが、一応落ち着きを持って話せていたのだが・・・・・・あ。
「そうか」
思わず出した声に、頓珍漢な事を言って目を丸くしている皆が反応し、視線が集中する。
「どうしたんだい?」
「いえ。なんで自分が頓珍漢な事を言ってしまったのか、何となく分かったんです」
一番に聞いてきた士郎さんに顔を向けて答え、続ける。
「ただ単に異性と話す機会が少ないから。慣れていないから変な事を言っちゃったんですよ」
俺の出した結論にファリンさんは転けそうになり、月村と士郎さんは揃って苦笑いを浮かべた。
[それで、本当の理由は思い当たったのか?]
[多分だけど、今まで会話してきた女性が年上か立場上に上の人達ばかりで、月村みたいな年下の異性と話す機会が殆ど無かったから変に緊張したんだと思う]
[・・・・・・]
心話で真相を答えた俺に、相棒が呆れを含んだ無言が送られる。
・・・仕方がないじゃないか。さっきも言ったけど前の世界では立場とか歳が上の人ばかりだったし、神の爺さんに送られるよりも前に話していた異性といえば、殆どがクラスメイトか先生ぐらいだったんだぞ。
付き合っていた人もいなかったし。
物悲しくなってくる心情を取り敢えず横に置き、月村に向けて歩を進めて「その・・・よろしく」と手を伸ばす。
そんな俺に対し、月村は始めの数秒間は目をパチクリとさせていたが、やがてパアッと笑って「うん!此方こそよろしくね!」と言って伸ばした手を握り締めて握手をしてくれた。
言葉が少なくても意を汲んでくれた月村に、俺は嬉しさと気恥ずかしさが綯い交ぜとなり、徐々に頬が熱くなっていくのが自分でも感じる事が出来た。
おそらく今の俺の顔は、かなり赤くなっているであろう。
「初々しいなぁ~」
「そうですねぇ。微笑ましいですねぇ~」
そんな俺と月村を見て、士郎さんとファリンさんがぼのぼのとした声が左右から上がる。
だがしかし、近くにいる筈の二人のその声が、俺にはどこか遠くから聞こえる様に感じていた。