龍の軌跡 第二章 魔法少女リリカルなのは編≪リメイク≫(凍結中) 作:ミステリア
なんだかんだで、今回も八千文字を超えてしまいました。
本当は文字数を半分位にしてサッと投稿しようと思っていたのですが、色々と書いていたらこうなってしまいました。
では、どうぞ。
――龍一郎サイド――
[登場の仕方が些か派手すぎはしないか?]
[仕方ないだろう。なんか危なそうだったから、一刻の猶予もないと思ったんだよ]
若干呆れた声を心話で伝えてくる相棒に、俺も唇を尖らせて心話で返す。
実際エルフィに場所を案内して貰い、何とか視界に入る位の所まで近付き、白眼を発動して月村が何処にいるかを確認したら、丁度体格のある男が2人に迫ってきている所だったのだ。
これは拙いと思い、空を蹴る勢いを殺さずにそのまま窓を蹴破って割って入ったのだ。
とはいえ、俺の姿を知っているのは月村すずかも含め、全員俺の登場に戸惑いと警戒を抱いているのは雰囲気で分かる。
まずは俺がどちらの側の人間なのかを表す必要があった。
「大丈夫か?月村」
「え?・・・龍一郎君・・・何で?」
振り向いて声をかける俺に、この展開に着いていけずに惚けているのか、掠れた声で問う月村。
それに反応し、姉の月村忍さんが「すずか、この子を知っているの!?」と問い詰める。
「士郎さんから話を聞いて助けにきた」
俺の言葉を聞いて、気圧され気味に「う・・・うん」と頷く月村に向いている顔を「士郎さんから!?」と目を見開いて驚愕を露わにして顔を向ける月村忍さん。
「ほぉ・・・てっきり下にいる2人は注意を向ける陽動で、高町美由希が来たのかと思いましたが、まさかこんな小さな騎士《ナイト》が来るとは」
聞き覚えのない男の声。
その声の方に顔を向けると、其処には黒いスーツにサングラスをかけたガードマン風の男達を周りを護らせる様に従え、軽薄な笑みを浮かべている金髪にブラウン色の目をした男がいた。
[エルフィ。こいつが今回の事件の首謀者か?]
[あぁ。この男が月村忍と月村すずかを誘拐した。自らの欲望の為にな]
珍しく怒りを感じる声色で返す相棒に驚きを感じつつも、それを表に出さずに俺は金髪の男達に向けてファイティングポーズを取り、戦う姿勢を見せる。
「っ!止めなさい!子供のあなたが勝てる相手じゃないわ!」
「止めて!龍一郎君!」
慌てて俺を止めようとする月村姉妹の叫びを完全にスルーし、2人には近付かせないと意志を込めて一歩前に出る。
そんな俺に、金髪の男は「ふぅ」と溜め息を一つ吐いて続ける。
「私もあまり暇ではないのです。
後ろにいる御二人の忠告を聞いて、大人しく逃げるのなら見逃してあげようと思いましたが、仕方が無いですね」
自らが強者である事に確信を持ち、圧倒的な弱者を見下す様に俺を見て、男は軽く手を振って言葉を紡ぐ。
「少し痛めつけても構わない。捕まえて縛り付けておけ」
男の言葉に従い、一番近くにいたガードマンが一歩前に足を動かす。
それと同時に、俺は地を蹴って一気に男の懐の内に踏み込んだ。
(集団で攻めずに一人ずつ来てくれるなら好都合!確実に一人ずつ倒し、士郎さん達が来るまでなるべく時間を稼ぐ!)
そう心に決め、俺は一気に倒す為に油断している隙を突き、自らの最大の攻撃を当てるべく動く。
まず男の懐――男から見て右脇腹側――に入り込み、注意を此方に向けると同時に、警戒心の薄まった腹部の中心部。人体急所の鳩尾に、突進の勢いを乗せた右の拳を打ち込んだ。
それによって男の意識が其方に向く。
しかしそれが俺の狙い。
打ち込んだ拳を引くと同時に蹴り足と腰を、拳を引く動きに沿う様に捻り、その捻りの動きを軸足のミドルキックに変えて、両脚の膝間接に膝かっくんをするかの様に叩き込んだ。
それによって男のバランスが崩れ、膝が地に着く。
これこそが俺の狙い。
背丈の違う相手の顔面に、拳打を叩き込める数少ない好機を作り出す。
俺はバックステップをして軽く後ろに下がり、拳打の威力を最大限に高める位置に身を置く。
そして男のある一点を見据え、オーソドックススタイルのファイティングポーズを取り、右拳の手首を捻って『溜め』を作る。
俺の最も信頼を置くパンチ。コークスクリューブロー。
だが俺が打つのは、それを更に磨き上げ強化させた一撃。
今まで俺が使っていたコークスクリューブローは、手首を捻って作った『溜め』を解放すると同時にストレートパンチを放つと事で、本来のストレートパンチが持っている『突き抜く力』に『回転する力』を加え、『斬り裂き抜く力』へと変えて威力を上げていた。
だが強化したコークスクリューブローはここから先に秘密がある。
それはパンチがヒットする瞬間、更に強い腰の回転力を加え、肩まで入れて打つ事により突き抜く力をより強力にし、拳の捻りも増やして斬り裂き抜く力も増大させる。
これによって肩を入れた分だけパンチのリーチも伸びるだけでなく、ヒットした瞬間に更に加えられた突き抜く衝撃で、身体の芯にまでダイレクトにダメージを与えるパンチとなるのだ。
単発の拳打ならば、俺の使えるパンチの中で最強の一撃と言っても過言ではない。
まぁそれによって、回転する力と突き抜く力を限界以上に加えてしまう為に、体の負担が通常のコークスクリューブローよりも遥かに大きいものになったり、肩を入れた分だけ拳打の威力が最も高くなる位置。ヒットポイントが通常のコークスクリューブローとは違う為に、クリーンヒットさせる難易度がかなり高かったり。
後続打を打てなかったりと、デメリットも複数存在するのだが・・・。
膝を着き、体勢が低くなったこの好機を逃さず、俺は男のその一点に強化版コークスクリューを叩き込んだ。
男の顔が弾かれた様に吹っ飛び、ドサりと音を立てて床にある埃を舞い上げて男は大の字になり倒れる。
一瞬の内に起こった出来事に、金髪の男だけでなく月村姉妹も呆気に取られ、辺りは静寂に包まれる。
そんな周りの状況を無視し、俺は冷たく鋭い視線を金髪の男達に向けて「次」と一言のみを発し、オーソドックススタイルのファイティングポーズで前に出している左の拳を解き、掌を上にしてブルー○・リー式の手招きをした。
尤も。俺は表面上はそう取り繕っていても、内心では(これで少しでも向こうの出足が鈍ってくれれば良いんだが)と思っていた。
そう。これが敵を確実に一人ずつ倒し、かつ士郎さん達が来るまでなるべく時間を稼ぐ為の策。
1人を速攻で沈め、相手に俺という存在が警戒するに値する存在であるという事を認識させる。
それによって迂闊に近付けば倒した男の二の舞になる事を意識させ、相手に躊躇いを植え付けて僅かでも時間を稼ぐ。
何故わざわざ相手を倒す方では無く、時間を稼ぐ方に重きを置いたのか。それには2つの理由があった。
1つ目の理由は身体的問題。
いくら俺が鍛錬を重ねて少しは強くなっていたとしても、まだまだ元の姿に比べて全体的に身体能力が劣っているのは間違い無い。
更に間の悪い事に、ダイオラマ魔法球で一角さんと鍛錬をしていた肉体的疲労がまだ完全に抜けていない為、敵の数を考えると、俺が全員を倒すよりもスタミナが切れて返り討ちにあう可能性がかなり高いと判断し、睨み合いの状況を作り出してなるべく時間を稼ぎ、士郎さん達が来るのを待とうと思ったのだ。
そしてもう1つの理由は、なるべく力を使わないようにする為だ。
力を見せる可能性が高くなる事を懸念していた士郎さんに『笑って握手して、友達になってくれるって言ってくれた女の子を放っておくなんて俺には出来ない』と言ったが、やはり力を見せれば奇異の目で見られる可能性は高い為、なるべく力を使わずに戦う事を選び、睨み合いの膠着状態に持ち込んだという訳だ。
だが――
「クッ・・・クッ・・・クッ・・・」
首謀者の金髪の男は、俺の予想に反して含み笑いを漏らし――
「ハァッ!ハッハッハッ!」
やがて哄笑へと変わった。
「・・・何が可笑しい」
構えたままで低く唸る様に問う俺に、金髪の男は明らかに此方を見下した目で見て口を開く。
「成る程。高町士郎が声をかけるのも分かります。
子供ながらに中々腕が立つ様ですね。・・・・・・ですが」
ゾクッ!!
男が言葉を切ったその瞬間。背筋が粟立ったのではと感じる程の悪寒を感じ、俺はほぼ無意識に左に飛んだ。
刹那。
ドスッ!!
「ぐっ!」
突如右側から走った衝撃に、俺の顔が歪む。
「その程度で倒したと思うのは、少々甘いですね」
嘲笑う様に語る男に対し、俺は飛んでいる途中で衝撃を受けた事でバランスが崩されて倒れ込みそうになるのを、地に付けた軸足に力を込めて踏ん張る事でなんとか耐えきった。
だが、俺の頭の中はパニック一色となっていた。
(一体何が起こったんだ!?)
動揺しながらも衝撃の来た方に顔を向けると、其処には信じられない光景があった。
「な・・・嘘・・・だろ」
掠れた声で辛うじてそれだけを紡ぐ俺の視線の先。
其処には先程俺が強化版コークスクリューをまともに当てて倒した筈の男が平然と立ち上がり、前蹴りを繰り出した様に足を突き出している姿があった。
恐らく先程の衝撃は男の繰り出した蹴りの一撃によるものだと予想がついだが、俺が動揺を露わにしているのは蹴りを受けた事ではなく、男が立ち上がった事そのものにあった。
何故ならば、先程俺が強化版コークスクリューを打ち込んだ場所は、人体急所の1つであるこめかみ(ボクシングでいうテンプル)だったからだ。
こめかみが人体急所と呼ばれる所以。それは人間にとって最重要な部分。脳を守る骨である頭蓋骨が最も薄い箇所だからだ。
故にこの部分に強打を受けると、その衝撃は脳にまで届き、ダメージを与える事になる。
ボクシングで末端神経が麻痺や記憶が欠如といった症状が現れるパンチドランカーと呼ばれる脳の障害を引き起こしたり、激しい試合の後に脳挫傷等で亡くなったりするのは、この部位に強烈な一撃を受ける事が引き金だともいわれている程だ。
そのこめかみに、身体の芯にまで威力を伝える強化版コークスクリューを打ち込んだにもかかわらず立ち上がったのだ。
動揺をしない方が可笑しいというものだろう。
「今すぐに逃げなさい!」
横から上がった月村忍の叱責にも似た叫びに、俺の動揺で固まっていた身体がビクリと震える。
「そのガードマン達は生きていないわ!其処の男の術にで、死体の状態で意のままに操られる人形の様にされているのよ!」
「っ!(そういう・・・事か)」
月村忍の言葉に、俺の頭の中で欠けていたパズルのピースがカチリと音を立てて嵌る様な感覚を感じると共に、疑問に思っていた全ての謎が解けた。
(成る程、すぐに起き上がってくる訳だ。
死体なら痛みも脳の障害も無い。ただ衝撃を受けて吹っ飛んで倒れただけだから、起き上がればそれで良いというだけ・・・か)
目の前にいる相手の厄介さを理解し、俺はキリッと音が鳴る程に奥歯を強く噛み締めた。
[どうするつもりだ龍?力を使わずに勝てる相手ではないぞ]
ステルスモードを使い姿を消している相棒からの心話に、俺は[まぁ、頑張るしかないだろう]と返し、再びファイティングポーズをとる。
そんな俺に相棒は呆れを含んで[頑固者が]と言い、金髪の男は嘲笑いの笑みを浮かべ、月村姉妹は目を見開いて驚いていた。
「どうやら実力はあっても、相当に頭が悪い様ですね」
挑発的な言葉を吐く金髪の男に、俺は何も言わずに鋭い目を向けて拳を握る。
そんな俺から金髪の男を守る様に、先程起き上がった男も含めた数人のガードマンが間に立つ。
蹴りを受けた衝撃はまだ体の内に残ってはいるが、戦えない訳ではない。
(こうなったらガードマンは無視して、金髪の親玉を叩くしかないな。さて、どうやってチャンスを作り出すか・・・)
頭をフルに回しながらステップを踏んでフットワークを刻み、一気に踏み込むそのタイミングを狙う。
ガードマン達もその気配に気付いたのか、金髪の男の周りを固め、迎撃の体制をとる。
キュッキュッと俺のステップを踏む靴の音だけが響き、緊張感が張りつめていく。
膨らんでいく風船が弾けるその一瞬が刻一刻と近付いていくのが分かる様に、空気が限界まで張りつめていくのが肌で感じ取れる。
そして深くゆっくりと呼吸を繰り返し、体中に気と酸素が充実しきったのを感じ、一気に地を蹴って踏み込――
「もうやめてぇっ!!!」
もうとする俺を止めた叫声は、俺の背後からかけられた聞き覚えのある声だった。
今まで何も言わずに月村忍の後ろにいた月村の放ったその叫びに、張り詰めていた空気が霧散し、戸惑いや困惑。驚きといった感情が、俺を含むこの場にいる各々に浮かぶ。
「す・・・すずか?」
まず一番先に口を開いたのは、姉の月村忍だった。目を開いて驚きと困惑を綯い交ぜにした顔で、「ぐすっ・・・ひっく・・・」としゃくりあげている月村を見る。
「お願い・・・龍一郎君。もう止めて・・・逃げて」
姉の呼び掛けに反応せずに、絞り出す様に涙声で出たその言葉に、俺は思わず構えていた拳を下ろしてしまう。
「月村?お前・・・何を「龍一郎君1人ならきっと逃げられる・・・だから逃げて」」
言っているんだ?
そう言おうとした俺を遮り、月村は続ける。
「私達の所為で、友達になってくれるって言ってくれた龍一郎君が傷付くのなんて・・・私・・・見たくないよ・・・」
目に涙を浮かべて自らの気持ちを吐露する月村に、俺は首を横に振って決然として返す。
「悪いな月村。俺は逃げない。逃げる訳にはいかないんだ。
もし此処で逃げたら、例え2人が士郎さん達によって無事に助け出されたとしても、俺は逃げ出した俺自身を許せずに一生後悔する。
そんなのは御免だ。
だから俺は逃げて後悔するよりも、今傷付こうとも戦う事を選ぶ。
そのために俺は強くなろうと・・・強く在ろうと誓ったんだ」
「誓・・・った?」
「あぁ。俺の尊敬する人の言葉を借りるのなら『誰にでもない、他ならぬ俺の魂にそう誓ったんだ』って所だな」
フッと口の端を上げて微笑を浮かべ、笑いかける俺に月村は目に涙を溜めながらも視線を合わせてくれていたが、やがて俯いて首を左右に振った。
「駄目だよ・・・私は、龍一郎君にそんな風に思って貰う資格なんてないよ」
「資格?そんな物関係無いだろ?」
「関係あるよ・・・だって・・・だって私は・・・「すずか!?」私は・・・吸血鬼なんだよ!!」
呼び掛ける月村忍を無視し、俯いていた顔をバッと上げた月村が叫ぶ。
「吸血鬼?」
鸚鵡返しに問う俺に、月村は涙声で慟哭を続ける。
「そう・・・私は人間じゃない。化物なんだよ!龍一郎君が傷付いてまで戦う価値なんてないよ!!」
「っ!」
涙を流し叫ぶ月村の姿に、俺は動揺のあまり息を詰まらせた。
別に月村の叫びに怯んだ訳でも、内容に驚愕した訳でもない。
重なったのだ。月村の目が、
『悲しみ』と『寂しさ』を綯い交ぜにしたその目を見た瞬間、俺の中にある記憶が走馬灯の様に流れ、その時に感じた文字通り死にたくなる程の後悔の念と、その後に誓った決意が再び俺の内に湧き上がる。
「お前・・・それで良いのか?」
ボソリと呟いた俺の声が聞き取れなかったのか「・・・ぇ?」と返す月村に、俺は
「お前はそれで良いのかって聞いてんだ!!」
「っ!」
涙を滲ませて恐怖と戸惑いを綯い交ぜにした目で俺を見る月村に、俺は更に怒鳴る。
「他人に傷付いてほしくなくて!他人の為に自分で自分を傷付けて拒絶させて!それでお前は満足なのかよ!!」
怒鳴った俺に対して月村が何かを言おうとするが、俺はそれよりも早く胸倉を掴んだ手の力を緩め、激しかった口調をなるべく弱めて諭す様に言う。
「いや、分かっている。満足な訳無いよな・・・そんな目をしてる奴が、それで良いなんて思っている訳が無ぇよな」
「私の・・・目?」
ただ呆然として返す月村に、俺は「あぁ」と頷いた。
「さっきお前が自分の事を化物と言っていた時、目は全く逆の事を言っていたぜ。『自分を拒絶しないで欲しい。もう化物とは呼ばれたくない』ってな」
「!!」
月村の顔に明らかな動揺が走る。
「心の底ではそう思っているのに、傷付いて欲しくないから、敢えてそうやって自分で自分を傷付ける。
そんなふうに他人を想える心を持ったお前を化け物とは思わない。
少なくとも、俺の定める化け物としての基準には引っ掛からない」
「で・・・でも・・・わぷっ」
まだ何か言おうとする月村に、俺はポムッと少し強く頭に手を置き、強引に俯かせて遮る。
「でももかもも無い。何度でも言ってやる。お前は『化け物』なんかじゃない。お前は『人間』だ」
「っ!」
俺の言葉に月村は一際大きく身体をビクリと震わせ、俯かせた状態のままで黙り込んでしまった。
微かに震える肩を見て、声を押し殺し泣いている事を察した俺は、頭の上に置いてある手を少し上げて優しくポンポンと軽く叩く。
「・・・ぅ・・・」
しゃくりあげる月村の口から小さく「ありがとう」という言葉を聞きつつも、俺は敢えて何も返さずに姉の月村忍に顔を向け「月村を頼みます」と言って踵を返し、今までずっと黙って俺達の遣り取りを見ていた金髪の男と相対する。
「やれやれ残念ですね。その化け物の正体を知れば、見捨てて逃げるのかと思っていたのですが・・・どうやら貴方は私の思っていた以上のお馬鹿さんらしいですね」
首を小さく左右に振る男に、俺は「ふっ」と鼻で笑う。
「・・・何か?」
「さっき月村に言っていたのを、テメェも聞いていた筈だ。月村は化け物なんかじゃねぇ。寧ろ俺の基準で言えば――」
其処で一度言葉を切り、俺は男をビシッと指差す。
「テメェの方が化け物なんだよ!」
男の眉がピクリと動き、視線に険が宿る。
「ほぅ。私が化け物?」
怒りを押し殺して低く唸る様に言う男に、俺は「あぁ」と頷き右腕を肩まで上げて肘を曲げて力瘤を作り、続ける。
「俺にとっての化け物は
其処で一度切り、俺は力瘤を作る為に握っていた右拳を緩め、親指のみを出して自らの左
胸に突きつけ、言い放つ。
「
金髪の男の額にピキッと青筋が浮かび上がる。
「本当に癪に障るガキですね」
怒りによって取り繕っていた紳士の皮が剥がれてきたのか、口調が変わってきた金髪の男に、俺は挑発気味に返す。
「己の下衆な欲望を満たす為に、何の罪も無い2人を誘拐するような『化け物』に言われたくはねぇ!」
ブチッ
男からそんな音が聞こえた気がした。
「そのガキを殺せ!!!」
顔を憤怒の表情に変え、怒りのままにガードマンに指示を出す。
男の言葉に従い、この場にいる全てのガードマンが地を蹴り、俺へと迫る。
そんな中俺は焦る事無く身を屈めて右膝と右手の掌を地に付ける。
[龍。力を使うつもりか?2人に見られるぞ?]
今まで黙っていた相棒が、俺の意図を察したらしく心話で聞いてくる。
[月村は拒絶されるのを覚悟で俺に言ったんだ。なら俺も、その覚悟に応えなきゃと思ったんだ]
そう返した俺に、相棒は[・・・ふっ]と何処か嬉しげに吐息を吐き、ふつりと心話を切った。
――そう決めたのならば、我は止めぬ――
相棒のそんな心の内が聞こえた様な気がした。
「吉波龍一郎の名において命ず――」
俺は地に付けた掌に意識を集中させ可の者を呼び出す。
「出でよ!
その呼び掛けに応え、俺の目前にある床から三本の爪が地を走り、此方に向かってくるガードマン達を迎え撃つ形で一気に薙払った。
ゴバァッ!!
凄まじい音と衝撃の後には、今の攻撃をまともに受けたらしく、体をバラバラにされた数人のガードマンと、驚愕を露わにした金髪の男。
そしてその男の周りを守る3人のガードマンが黙して立っているだけであった。
「一つ言っておく」
地に付けていた膝を浮かせて立ち上がり、俺はオケアヌスの輪から斬魄刀を取り出し、ショックから抜け出せてない金髪の男に切っ先を向けた。
「お前は月村を化け物と言っていたが、力だけを見るのなら、俺は月村以上の『化け物』だぜ」
男を見据えて決然と言う俺の言葉が、さほど強く声に出した訳では無いにも関わらず、夜の闇が包む一室に妙に響き渡った。