『我が名は
画面の奥で
「カッケェ....」
闇の中で煌めく雄々しき姿が目の前の怪物に向け
「くぅ....!やっぱ強ぇなぁ.....」
そして金色の戦士は闇の中へ霧のように消える──
「なあ、もう電気付けていいか?」
「ええよー。今日はこの辺りにしとく」
「そうかよ。」
自身の隣に座っていた少年、織斑一夏が電気のスイッチを入れる。
「にしても驚いたよ。人ん家のテレビいきなり貸してくれって...ま、普段1人だから別に良いけどさ」
「急なのにありがとな。実はこれ今日やっと届いたのよ。牙狼〈GARO〉全巻収録のBlu-rayボックス(絶版)!なのにウチのテレビが壊れてディスク読み込まなくなっちまったんだわ」
「初めて会ったときからずっと好きだよな牙狼」
「そりゃもう。俺の人生の7割を構築してると言っても過言ではない....」
「だとしても同じシリーズを何十周もするのは常軌を逸してると思うぞ?」
「でもなんやかんやで姉弟揃ってハマっただろ?」
「まあ否定はしない」
光を取り込む為2人がかりで部屋中のカーテンを開く。
そんな中おもむろに一夏の声が発せられる。
「こうして駄弁るのも今年で最後になるのか...」
この2人は小学校卒業頃からの付き合いであったが、なんだかんだで今日まで仲良くやっている関係である。
「...俺は県外の高校に進学だからな。一夏はもう決まってんの?」
「ホントは進学はしないですぐに働きに出たかったんだけど、千冬姉がさ...」
「あー、何となく想像つくわ。ま、受験勉強に詰まったら遠慮なく頼ってくれて良いからな」
「ありがとな.....って、めちゃくちゃ余裕そうだな」
「俺は2年の秋から推薦が出てるんでね。適当な書類を書いたら合格なのさ。名前書くだけ入れる高校ってワケだ」
「はは、気楽そうで羨ましいよ...」
ため息混じりの笑い声が窓から夕焼け空に抜けていく。
部屋の換気を終えたタイミングで玄関から2人の聴き慣れた声が響く。
「珍しい....おかえり千冬姉」
「なんだ来ていたのか、
「お久しぶりです。お邪魔してます
「また牙狼を見てたのか、相変わらずだな。それよりちょうどいい、今のうちに渡しておこう」
千冬がバッグから細長い箱を取り出す。
「少し重いな...これは?」
「詳しくは知らんが束曰く、副産物だそうだ」
「たば姐からの?あの人元気にやってるんだね」
「何が入ってるんだ?開けて見せてくれよ」
一夏の催促に押され箱の封を解く。
「「これって....」」
「ほぅ....」
小さな支柱に嵌め込まれた禍々しいドクロの指輪が姿を現す。
重厚感を感じさせる鈍色が陽に照らされる。
「ザルバだああぁぁぁぁあーーー!!!」
「ま、まじ!?ホンモノ!?」
箱の中身は『魔導輪ザルバ』
黄金騎士ガロが身に付ける意思を持った指輪である。
「本家ザルバを学習させたAIアシスタント、らしい」
「で、電源とかはどこに...」
隅々まで探そうと電源らしいものは見当たらない。
「起動の仕方はお前が1番解っているはずだろ」
「まさか...たば姐そんなとこまで再現してくれてんの?」
ザルバを支柱から外し、左中指に嵌めると目が怪しく光を帯びる。
「うお....!!」「マジか‼︎」
2人の声はほぼ同時であった。
[
2人は何のこっちゃと視線を合わせるがただひとり、犀牙だけがわなわなと震える。
[……おっと、お前達にこの言葉は通じないんだったな。俺の名はザルバ。2人はともかく、お前に言う必要は無さそうだな]
今まさに、画面の中の存在だったモノを自身が手にしている。
その事実に声が出ない。
「ん?止まったな」
「犀牙?おーい、聞こえて.....
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァ!!!」
「近所迷惑だバカ者」
千冬の手刀をもろに喰らうが、そんなものはどこ吹く風と受ける
「すげぇ...アレ喰らって意識があるなんて....」
[今の一撃....お嬢ちゃん中々やり手だな]
「ザルバ....本物だぁ.......」
[おっと、こっちは恐らくは自分の世界に入り込んでるな]
「会話ができてる.......!!!」
「お前確か高校は推薦だったな。それは私達からの進学祝いとでも思ってくれ」
「ほんっとうに!!ありがとうございます!!!俺からは連絡できないけど、たば姐にもお礼伝えといて下さい!!」
「ああ」
「そうだ、今から夕飯つくるけど、もう夕暮れだし犀牙も食べてけよ」
「良いのか?大変じゃねぇの?」
「1人分増えたくらいで変わらねえって!それにこうして一緒に食べるのもあと何回あるかわからないし」
「でもタダ飯食らいってのもなぁ....」
「そんじゃこうしよう。これから受験勉強で世話になるから、その前料金ってことで」
「....そう言うことなら遠慮なくご馳走になるよ」
「おい、あのボックスにはMAKAISENKIのDVDはないのか?続きが気になって仕方がないんだ」
「もちろんありますとも何話です?」
「こりゃ鑑賞会続行か」
こうして数えるほどしか残されていないであろう交流の時間を過ごし、いよいよ卒業、そして進学の時期へと時間は流れる。
◇
季節は飛んで春。
真新しい制服に身を包み、座る席は進学予定だった高校の席ではなかった。
場所は世界でも屈指の女子の巣窟 IS学園。
[どうした犀牙?具合でも悪くなったか?]
「そんなんじゃねぇよ。落ち着かないだけだ」
左手のザルバがカチカチと小気味良い音を鳴らしながら語りかけてくる。
(噂にゃ聴いてたけど圧巻だな...)
隅から眺める教室はある一点を除いて女子ばかり。
その一点では級友 織斑一夏がアイドルのように教室中の視線を集めている。
「あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね。だからね、ご、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな? だ、ダメかな?」
副担任を務める山田真耶先生から穏やかに懇願されるが、緊張からか声が出せない一夏に、とうとう山田先生から大きなアクションが出る。
一夏の手を取り、祈るように握り締め熱心に詰め寄る
「いや、あの、そんなに詰めなくても....っていうか自己紹介しますから、先生落ち着いてください」
「ほ、本当? 本当ですか? 本当ですね? や、約束ですよ。絶対ですよ!」
優しさに詰められる様子は見るに堪えず、助け舟を出してやりたいが位置関係がそれを許さない。
座席は苗字の五十音順で決まっており織斑一夏はど真ん中最前列、それに対しこの俺『
(許してくれよ一夏。そんな視線を送ったって無理なモンは無理だ)
なんとか一言を絞り出して自己紹介を成したが皆の期待を満たすことは成らず再び沈黙が教室を支配する。
その後一夏が齎した停滞は現代を生きる関羽により無理矢理進められた。
そして───
「次はや行で最後の、
一夏以降は織斑千冬の登場により一悶着あったもののスムーズに進んだためか、調子を取り戻してやたらテンションが高い。
「よしきた」
山田先生の御相伴にあずかり威勢よく腰を上げる。
その際、延長された制服の胴が大きくたなびく。
この学園では個人が着用する制服にカスタムを施すことが可能であり、犀牙はIS学園の純白の制服を見た瞬間にこのカスタムを即決。
制服の背をロングコートのように翻す姿は、まさにあの日、画面の中で憧れた魔戒騎士そのものだった。
「Where there is light, shadows lurk and fear reigns... But by the blade of Knights,mankind was given hope...」
「え、英語!?しかもペラペラ....」
「てかドスの効いた声.....」
「こっちの男子はなんか面白そう...」
「てか2人目まで男子が同じクラスとか激レアじゃん!」
「先ほどご紹介にあずかりました、名前を
締めの言葉の直後、いくつもの小さな拍手が教室を包む。
「よし、自己紹介は八重島で最後だな」
「一応ザルバの紹介もしときます?」
「いやいい。──さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染みこませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」
SHRの流れを淡白にぶった斬り、記念すべきIS学園1限目が幕を開ける
◇
一時間目のIS基礎理論授業が終わって今は休み時間。
皆思い思いの時間を過ごしているが教室を取り巻く異様な雰囲気は消えない。
一夏は数年ぶりに再会した篠ノ之箒に引き摺られて退室、犀牙は教本をパラパラとめくりザルバと共に読み進めていた。
「
[ひとつずつ着実に覚えていけ。お前の得意分野だろ]
「へー、さっちーは勉強得意なの?」
「得意ぃ...とまではいかなくても、不自由しないくらいにはできる...つもり」
「最初は誰だって不安だよね〜。何か分からないとこあったら遠慮なく聞きにおいでね〜」
「ありがと。ところで君はどちら様で?」
分厚い教本から少し目線を上げると、ハーフツインの女生徒がワニのように机の淵から顔を出す。
[さりげなく会話に入ってきたが、嬢ちゃん何者だ?]
「あ、待って思い出す。えっと、たしか...
「おぉ!!せ〜か〜い〜!覚えててくれたんだ〜」
目の前で有り余る袖をパタパタと踊らせる
[さっきの“さっちー“ってのはこいつのあだ名か?]
「そう!
「のほほん...さんね。よろしく」
[良かったな。早速馴染めそうじゃないか]
「そっちの喋る指輪ちゃんはなんていうの?」
[俺様はザルバ。こいつのAIアシスタントだ]
「そっかぁ、じゃあざっちーだね。さっちーとざっちーでいい感じ!」
[面白いお嬢ちゃんだな。気に入った]
「2人ともよろしくね〜」
始業のチャイムと同時に本音は席へ戻った
「はぁ....がんばろ」
思いつき投稿