「えっとぉ....今どういう状況なんでしょうか...?」
放課後。夏の気配を漂わせるIS学園の道場、ざわつくギャラリーを掻き分けると目の前で友人が竹刀を持った女子に転がされている。
「どうもなにも見ての通り...」
息も絶え絶えに一夏が言葉を絞り出してくれた。
「....お相手さんから一本でも取れた?」
「....どう思うよ」
「今の此奴に取れるわけがなかろう」
「し、仕方ないだろ....相手は全国制覇してんだぞ?」
「この期に及んで言い訳か?」
相対する箒から竹刀を向けられ、ただでさえ鋭い視線もより険しくなる。
と思えば今度はその視線が犀牙へ向けられる。
「え、ヤな予感.....」
「八重島、お前も剣術を修めているそうだな」
「んなもの一度も経験ないですよ。一夏から何か聞いてるんなら誤解。ただの真似っこです。」
「でもお前、何度もビデオ見返してガロの動きは完璧じゃん」
「だとしてもお前な、然るべき場で学んだ剣術と俺の真似っこを同じにするのは失礼だろ」
「なるほどな。一夏、今のお前は八重島の真似っこ剣術にすら勝てないだろうな」
「は、はあ!?そんなわけ....
「ある。それほどにお前の技術は喪失している。これならまだ手本をもとに反芻を続けた八重島に軍配が上がるだろうな」
「あらら.....。でもここまで酷評されるくらい昔は強かったって事か」
「だが今では影も形もない。これはIS以前の問題だ。これから毎日、放課後三時間、私が稽古を付けてやる」
「「え、ながっ」」
「貴様、ISならまだしも剣道で男が女に負けるなど悔しくはないのか!」
「そりゃ思うことは色々あるけど.....
「やめとけって。こういうのは無駄に反論すると余計拗れるぞ」
「う、うい....」
「とにかく明日から放課後は必ず空けておけ。」
箒はさっさと防具をまとめて道場を去る。
「どうするよ」
「.....こんなところで躓いてられるかよ。まずはトレーニングからだ、な!」
「俺もリスト鍛えろって言われてるし、多少は付き合ってやるよ」
◇
「マズイぞマズイぞマズイぞ!!」
「どうした一夏?お笑い芸人でも目指すのか?」
「なわけあるか!」
剣道で箒にコテンパンにされてから1週間、ついに決闘当日を迎えた。
箒と犀牙は決闘の見届け人として第3アリーナのモニタールームに通されている。
「落ち着けって今更足掻いたとてだぞ」
「だからって“これ“は死活問題だろ!!」
一夏が何もないピットを指差す。
「俺のISが届かないなんて予想できるか!!このままだと訓練機で出撃することになるぞ!!」
「まあまあまあ、それでも操縦の基礎くらいは教わってんだろ?幸いにも訓練機のメインウェポンは刀だ。そこに篠ノ之さんから教わった剣術が乗っかれば多少は.....」
箒の方に目を向けるとバツが悪そうに顔を晒してしまう。
「...教えたんですよね?ISの基礎....」
「.......し、仕方なかったのだ...」
「仕方なかった...?」
「訓練機の予約は埋まっていたし、こいつのISも無かったものだから...その.....」
「....つまり、IS周りのアレコレは全く教えてないと...」
「……………」
「沈黙は肯定と捉えますよ」
一夏がISの基礎もままならない状態で決闘に臨むことが確定してしまった。
途端に3人をどうしようもない虚無感が襲う。
「ザルバ、なんか....打開策とか、いい感じの案ない?」
[無茶言うな。こうなった以上、一夏のアドリブに全てを賭けるしかないぞ]
「アドリブって言われても....」
「そんな付焼き刃が通用する相手とも思えん」
「「「………」」」
「織斑くん織斑くん織斑くんっ!!」
再び訪れた3人の虚無感を山田先生の慌ただしい声が掻き消す。
「来ましたよ!」
「来たって、何が....」
「織斑くんの専用ISです!!」
「「マジか!?」」
すぐさま千冬が控えるピットに出向くと飾り気のない真っ白な機体が鎮座していた。
「織斑、すぐに準備をしろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな。ぶっつけ本番でものにしろ」
「はい....?」
「この程度の障害、男子たるもの軽く乗り越えてみせろ。一夏」
「ちょ.....」
戸惑う一夏を他所にトントン拍子で話が進んでいく。
「すぐに装着しろ。時間がないからフォーマットとフィッティングは実戦で.....
「ちょぉぉと待ったぁぁぁぁ!!」
「喧しいぞ八重島」
「喧しくもなりましょうよ。諸々の調整を実戦中にさせるつもりですか!?」
「言っただろう、アリーナの使用時間は限られている」
「“兵器を深く知らずに扱えば事故になる“先生はそうもいいました」
「...だがもうオルコットはISを展開してアリーナに出ているぞ?諸々が終わるまで待ってもらうつもりか?」
モニターには美しいブロンドを靡かせるセシリアが映されており、その表情にほんのり不満が窺える。
[犀牙、お前が出たらどうだ?]
「え?」
[この中で状況的にも技量的にも今1番戦えるのはお前だ]
「そうだけども.....!!俺だってちゃんと使った事無いぞ!?」
[おいおいなんだ?窮地に陥った友を前に腑抜けたことを...魔戒騎士が聞いて呆れるぜ]
「.......あ゛?」
「犀牙くん.....?」
[この程度で怖気づいてるようじゃ、守りし者にはほど遠いな]
「指輪野郎....あまり舐めるなよ?」
「ま、待てよ犀牙!?お前だってちゃんと使えないんだろ!?」
「安心しな。最適化まで終わらせてある。お前は1秒でも早く設定終わらせろ。」
「そういう問題じゃなくてだな.....」
犀牙は返事を待つ事もなくピットへ駆けてゆく。
「いっちまった....」
「織斑先生、八重島くんを行かせてしまって良かったのですか?」
「.....構わん」
◇
「あら、ようやく来ましたのね。まずは逃げなかったことを褒め......」
瞬間、セシリアの思考が完全に停止する。
開いたゲートから姿を現したのは織斑一夏でもその訓練機でもなく、制服姿で剣をひと振り携えた八重島 犀牙。
犀牙はそのままアリーナへ突き出たゲートから生身で飛び降りる。
ISの規格を基準に作られた設備であるため下手をすれば命の保証はないが、犀牙は全くの無傷でアリーナへ降り立つ。
それにはギャラリーも困惑を隠せない。
「.....な、なんの冗談ですの...?」
(この反応...ISが起動している?それに僅かなシールドエネルギー...生身のはずですがどうして...)
「悪いね。一夏は諸々の不都合が重なってまだ調整終わらせてないんだ」
「そんな事を聞きたいんじゃありませんの。一体全体どういうおつもりですの?」
苛立ち、指を刺すような仕草でレーザーライフルの銃口を犀牙へ向ける。
犀牙もその問いの答えを魔戒剣を抜く事で示す。
[アイツはブルー・ティアーズ。遠距離攻撃を得意とするISだ]
「相性は最悪だな...」
「そんな棒切れ一本で
「じゃあ終わるまでに相応しい言葉を考えといてくれよ」
その言葉を最後にアリーナを静寂が支配する。
「....お別れですわね」
[来るぞ犀牙!!]
ライフルから青い閃光が放たれる。
「目を逸らすな。臆すな。俺なら...やれる!!!」
光線の真正面から斬撃を加える。
魔戒剣に阻まれた光線は二又に裂け犀牙の背後の壁を砕く。
「やりますわね...」
セシリアの背後からビットが動き出す。
「これは凌げるかしら」
[犀牙、怖気付くなよ?]
ビット1機が射撃を伴い犀牙目掛けて突っ込んでくる。
「姐さんのスパーリングの方が怖いっての!」
ビットの射撃を弾き落とし、ビット本体を剣の面で受け流す。
「ダメ押しですわ!!」
「なんのおぉっ!!!」
受け流したビットが旋回し再び突っ込んでくるが、先端に蹴りを入れ、不安定になったところを魔戒剣で貫き背後に叩き落とした。
「な、なんとかなった....」
「なかなかですわね」
「操縦者とは別に独立して動く飛び道具なんて厄介な事この上ない」
[遠隔操作式の攻撃機か。威力も精度もピカイチだな]
「相当な鍛錬を積んだんだろうな」
[だが対応はできた。このまま削っていけ」
「簡単に言うなよ....」
「お喋りは済みまして?小休止はあとどのくらい必要ですの?」
「....今終わったとこだよ」
剣を握る手に力を込めて構え直すが、セシリアはビットを自身の背後へ戻す。
(次はどう来る....)
最大限の警戒をする犀牙に対し、セシリアは犀牙を見つめるのみで仕掛けては来ない。
「どうしたよ?来ないのか?」
「...正直、信じられませんわ」
「......何だよ、今度はそっちがお喋りタイムか?」
「信じられないのはこの状況そのものですわ」
セシリアとギャラリーの心情は一致していた。端から見れば生身の人間が剣一本でISと渡り合っている。
セシリア視点では相手もISと同等の機能を有しているが、それでも出力は自身に遠く及ばない。
「そもそもISは既存の兵器、武力を遥かに凌ぐ力。本気を出せば貴方は1分と持ちません」
その言葉通り、今の犀牙では単発の攻撃を受け切ることで精一杯。ライフルの速射でも受けようものなら簡単に潰れてしまう。
「じゃあ出せよ。俺なんかとっとと片付けて一夏を引っ張り出しゃいい。...それとも相手を痛めつけることに愉悦を感じる趣味なのか?」
「まさか。人聞きの悪い事をおっしゃらないでくださいまし」
「じゃああれか、俺になんか余裕で勝てるぜ!ってか?」
「いえ、貴方のISがどういったものなのかは皆目検討もつきませんが、とても微弱な反応ですわよ」
「それがなんだ」
「つまり貴方自身そのISを使いこなせていない、故に装甲も展開できずほぼ生身。そんな相手を嬲ったって虚しいだけですわ」
「侮ってると足元掬われるぞ」
「相手の心配より自分の心配するべきですわよ」
再度ライフルでの射撃が迫る。
2発目を受けるのは危険と判断し、すぐさまサイドに飛び退くが、その回避先をビットの射撃が的確に潰す。
直撃したのは2、3発だがそれでも生身の犀牙を弾き飛ばすには十分すぎる威力であり、犀牙はアリーナの壁に容赦なく叩きつけられる。
着弾した箇所は黒く焦付き、服の上からでもジリジリと肌を焼く感触が伝わる。
「クソ....まだ1週間しか着てないピカピカの制服だってのに...」
「あら、衣服の心配なんて呑気ですわね」
「俺が勝ったら弁償してもらうかんな!」
「勝利など夢のまた夢でしてよ」
壁を背にした犀牙を取り囲むようにビットが展開される。
「茶番は終わりですわ。手向として受け取ってくださいまし。私とブルー・ティアーズで奏でる
ビット3機が優雅に旋回を始める。
(どこからだ...どこから来る....!!)
内2機のビットが左右へ散らばり犀牙へ急接近する。
(挟み撃ちか)
幸い射撃はなくただ突っ込んでくるだけ。
(弾く必要はない。だったら前のやつに注意して躱わすだけで.....
[下だ犀牙!!]
ザルバの言葉の直後、右足をどうしようもない力で掬われる。
最初の攻撃の際、叩き落としたと思い込んでいたビットが再び動き出していた。
宙に浮いた身体は格好の的になりビットによる殴打が襲いくる。
ーー
ーーー
ーーーー
「八重島....!!おい一夏!最適化はまだ終わらんのか!!」
「今やってるって!!」
「早くしろ!!このままでは八重島がもたん....そもそも何故ISを展開しないのだ!?」
「まさか...自分だってIS使えないのに決闘に出たのか!?」
ピット内は穏やかではない。
モニターにはビットの直撃を受けるたびに生傷を増やす犀牙が映し出されている。
「織斑先生、試合を中止するべきではないでしょうか...このままでは八重島くんが...」
「待て。まだだ」
山田先生の言葉を冷静に受け止める千冬だったがそれでも中止の判断は下さなかった。
「織斑、完了まであとどのくらいかかる」
「え?えっと、今が90%です!」
「そうか。山田先生、八重島のチャットに繋いでくれ」
「わ、わかりました」
ーーーー
ーーー
ーー
[犀牙、早く脱出しろ!]
「分かって、る....よ!!!」
キンッ
苦し紛れに振った一撃がビットを掠めその軌道を変えた。それによりビットの包囲を脱出する。
地面に放り出された身体はその場で力無く倒れる。
「チッ....身体中が燃えてるみたいだ.....痛え...」
「あの猛攻を受けてなお、剣を放さないとは...その心意気には感服ですわ」
「放すかよ。剣は魔戒騎士の命だからな」
「...強がりはおよしなさい。もう立っているのも苦しいはずですわ」
「お気遣いどうも。さすがは英国の淑女だな。追撃を仕掛けなかったのも気遣い?」
現に犀牙は構えすら取れず、剣を支えにようやく立てる状態。少量のシールドエネルギーで守られてはいるが、身体中に血が滲んでおり受けた傷は決して浅くはない。
「ブチ抜いても動くなんて、最初に言えっての...」
「....もう降参してくださいまし。これ以上は不毛ですわ」
セシリアの言葉を無視し、震える足に今一度力を込める。
「一体なにがそこまで貴方を突き動かすんですの...」
「アンタには分からんさ....」
剣を構えようとした瞬間、目の前にひとつのウィンドが現れる。
[こいつは千冬からの連絡だな。こんな状況で一体どういうつもりだ?]
「....出てもよろしくてよ」
セシリアはライフルを完全に下ろす。
「....八重島です。なんでしょう....」
『犀牙、もうすぐ一夏の最適化が終了する。具体的にはあと120秒程度だ』
「そんだけ耐えれば俺の目標は達成ってわけですか...」
『その通り。だがお前のことだ、アレをやりたくて仕方ないだろう』
「そりゃやりたいですけど...ホントに良いんですか?」
『ああ。ここから遠慮は必要ない。全力を見せてやれ』
「よし.....行くぞザルバ!」
[ああ!このまま真っ直ぐ行こうぜ!!]
力強く剣の切先を天へ突きつける。
切先で頭上に円を描き、その軌跡が光の輪となる。
「.....っ!?何を企んでいますの!!」
すかさずライフルを構え引き金を引く。開幕と同様に青い閃光が犀牙を穿とうと迫るが、直後、光輪から出現した黄金の鎧が着弾よりも早く犀牙を包み完全に防御。
装着完了と同時に獅子にも狼にも思える雄叫びがアリーナに木霊する。
「その姿は一体.....」
通常のISとは異なり、延長された四肢や背部の浮遊ユニットの類は一切存在せず、全身を包むただの等身大の鎧。
困惑するセシリアを鎧の猛々しい瞳が見つめ返す。
「我が名は
鎧の装着とともに魔戒剣も
「出力が急激に上がった.....!?でも
「こっからは全力だ」
視界には
(ブルー・ティアーズとは比べ物にならない出力....ですが)
「私の勝利は揺るぎません!!」
4機のビットを犀牙へと差し向ける。
全機での掃射が仁王立ちの犀牙へ浴びせられるが──
「はあっ!!」
砂埃を払うようにビットの掃射を右腕の一振りでかき消す。
「でしたらっ!!」
続けてレーザーライフルによる射撃が迫るが、ライフルの光線を手のひらで受け止め、そのまま握り潰す。
「なっ....!?」
「今度はこっちの番だ」
地面が爆ぜるほどの跳躍でセシリアへ急接近し牙狼剣での一太刀を繰り出す。
「無駄ですわ!」
[相手はもう射撃体勢に入っているぞ]
スラスターを吹かせ回避したセシリアは既に引き金へ指を掛け、落下を始めた犀牙を捉えていた。
だが今の犀牙には100%出力を解放したハイパーセンサーが味方をしてくれている。
(真後ろが見えるってのは変な感覚だな....)
牙狼剣の鞘を投げつけ、ライフルの銃口を逸らす。
セシリアの反撃はかなわず犀牙は問題無く着地した。
[あと50秒だ。モタモタしてる暇はないぞ!]
「体感してみるとめちゃめちゃ短いな」
(“あと50秒“....?さっきから進んでいる謎のカウントはISを展開していられる時間?だから最初は装甲を出さずにあえて生身で...)
その時、セシリアの脳裏にある戦術が過ぎる。
ガロの外見やブルー・ティアーズが受信した情報では、ガロ単体に飛行能力は備わっていない。
アリーナの上限、ガロの跳躍でも届かない位置まで自身の高度を上げ、タイムリミットまで待つ。装甲が解除された瞬間を狙えば勝利は確実。しかし─
「そのような虚無に満ちた勝利など無価値!私とブルー・ティアーズの
セシリアがライフルを構える。
「プログラム変更だ。ここからは俺の....黄金騎士ガロの
ガロの左手に粒子が集束し、
名を『
「一気に決める...」
魔導火を点火し立ち昇る翡翠色の炎で牙狼剣をなぞると、その炎を刀身全体に纏う。
「これで最後だ」
「それが必殺技ですのね...」
互いに武装を握る手に力を込める。
「....きなさいっ!」
「真っ向勝負か!!」
ガロが2発の斬撃を飛ばす。
「撃ち落としてご覧にいれますわ!!」
迫る斬撃に照準を合わせるセシリアだが、2発の斬撃はセシリアの目の前でカーブを描き、アリーナ中を不規則に飛び回る。
(こちらを狙っていない....?本命は別に.....まさか!?)
気づいた時には既にガロが迫っていた。
(その跳躍を活かすための誘導でしたのね!)
[逃げられたぞ!]
牙狼剣が届く寸前、セシリアが一気に高度を上げる。
「まだだっ!!」
落下を始めた瞬間、背後から先の2発の斬撃がガロへと向かう。
1発目の斬撃がガロを押し上げると同時に、2発目の斬撃を介してガロが魔導火を全身に纏う。
「これが俺の
牙狼剣がブルー・ティアーズを完璧に捉える。
直後、攻撃から生じた爆煙が2人を包み込む。
ー
ーー
ーーー
「ど、どっちが勝った....!?」
「犀牙は無事なのか!?」
「織斑先生.....」
「初戦にしては及第点だ」
ーーー
ーー
ー
静まり返ったアリーナにガロが地面を踏みしめる音が響く。
「....やっぱ本物みたいにはいかないかぁ...」
[残念だったな犀牙。時間切れだ]
ザルバの言葉通りに
00.0秒
カウント終了と同時に鎧を解除。
「啖呵切ってこのザマじゃ、戻ったらみんなにドヤされるだろうなぁ...」
[まさか最後の最後までミサイルを隠し持ってたなんて想像もしなかっぜ。上手く相殺されたな]
「でも目標は達成だ。あとはアイツの頑張りに任せるさ」
振り向きながら少し目線を上げると青空と見紛うほど美しい機体を纏う、つまりは全くの無傷のセシリアが犀牙を見下ろしていた。
「今度こそ、ですわね」
「今回ばかりはもう降参。烈火炎装も通じないなら、もう、万策尽き....」
唐突に犀牙の身体が天を仰ぐ。
「ちょっと!?八重島犀牙!?」
[安心しな嬢ちゃん。気絶してるだけだ]
「だけって...」
[最後に見せたあの技は身体への負荷がデカいんだ。それに加えて嬢ちゃんからのダメージ、こうなることは必然だった。悪いが犀牙をピットまで運んでやってくれ]
「.....仕方ありませんわね」
4機のビットを担架代わりに、教師陣が待機するピットの射出口まで犀牙を運ぶ。
『試合終了。戦闘続行不能により勝者セシリア・オルコット』
アリーナに鳴り響くブザーが一節の終わりを告げる。