許してクレメンス!
放課後。
皇桜女学院の新入生たちは、学校生活初日という小さな試練を終え、それぞれの形で解放感を味わっていた。
校門の前では、早くも仲良くなった者同士が連絡先を交換している。駅前のカフェに行く約束をする者。制服姿のまま寄り道をすることに、少しだけ背徳感を覚えて頬を緩ませる者。緊張で固まっていた肩を落とし、ようやく息を吐く者。
そんな、いかにも新学期らしい賑わいの中。
上芝盛香と本郷姫奈は、肩を並べて歩いていた。
向かう先は、学校から少し離れたところにあるファミレスである。
初対面からまだ数時間。普通ならば、まだ互いの距離を測り合い、無難な話題を選び、踏み込みすぎないように気を遣う頃合いだ。
しかし、この二人は違った。
「合気道ってね、相手が『あ、掴んだ』って思った時には、もう体勢が崩れてることがあるの」
盛香は、歩きながら自分の手首を軽く握ってみせた。
「掴まれた瞬間に、力で引き剥がすんじゃなくて、相手の力の向きとか、重心とか、足の置き方とかを読むの。そうすると、こっちはほんの少し動いただけなのに、相手は勝手に転ぶ」
「へえ〜」
姫奈は感心したように声を上げた。
その瞳は、ただ話を聞いている少女のものではない。星の形をした瞳の奥で、興味が鋭く瞬いている。
「じゃあさ、相手が格闘技やってる人でも投げられるの?」
「相手によるかな」
「空手とか?」
「できる」
「柔道は?」
「組まれ方次第」
「ボクシングは?」
「打たれる前に入ればいい」
「MMAやってる人は?」
姫奈が、少しだけ声を弾ませる。
盛香は即答しなかった。ほんの一瞬、考えるように視線を落とす。
けれどそれは、できるかどうかを迷ったのではない。どう説明すれば伝わるかを考えただけだった。
「熟練者ならできるよ」
「へえ」
「もちろん、簡単じゃないけどね。MMAの人は打撃も組みも寝技も知ってるし、変な間合いで入ったら普通に潰される。だけど、相手が強いからこそ使える崩しもある。強い人ほど、踏み込みが深い。力の方向がはっきりしてる。そこに合わせれば、投げられる」
「じゃあ、盛香ちゃんは?」
姫奈が笑った。
「盛香ちゃんは、MMAの人にも勝てる?」
その問いに、盛香は少しだけ目を細めた。
決して大声ではない。自慢するような響きもない。その言葉には、幼い頃から積み重ねてきた時間の重みがあった。
「男でも、負ける気はしないね」
「おお〜」
姫奈は楽しそうに拍手した。
通学路の上で交わされる会話としては、かなり物騒である。
二人の声色だけを聞けば、まるで好きなケーキの話でもしているようだった。
多分、きっと、おそらく、メイビー、武道や格闘技を嗜む女子高生の会話とは、こういうものなのだろう。
少なくとも、この二人にとっては。
「合気道って、もっとふわっとしてるものだと思ってた」
「ふわっとはしてるよ」
「そうなの?」
「うん。ふわっと近づいて、ふわっと崩して、ふわっと投げる」
「最後だけ全然ふわっとしてない気がする」
「受け身が取れればふわっと」
「取れなかったら?」
「床と仲良くなる」
「なるほど。床と親睦を深める武道なんだね!」
「いや違うよ!?」
盛香が静かに否定し、姫奈が楽しそうに笑う。会話だけならば、どこにでもいる女子高生だった。
少し武道に詳しくて。少し喧嘩の話題に抵抗がなくて。少しだけ、笑うところがおかしい。
その程度の、普通の少女たちだった。やがて二人は駅前のファミレスに着いた。
入店すると、制服姿の学生たちが何組か席についている。店内には、食器の触れ合う音、ドリンクバーの機械音、店員の明るい声が混ざっていた。
「いらっしゃいませ。二名様ですか?」
「はい」
盛香が答えると、店員は窓際の席へ二人を案内した。
席に着くなり、姫奈はメニューを開いた。
「盛香ちゃん、何食べる?」
「サイコロステーキ」
「決めるの早い!」
「肉が食べたい気分だから」
「じゃあ私はハンバーグにしよ。ドリンクバーも付ける?」
「付ける」
「よし、今日は祝・入学初日ということで、女子高生らしくファミレスで豪遊しよう♪」
「ファミレスのドリンクバーで豪遊できる姫奈は、たぶん人生が上手いね」
「えへへ、褒められた!」
「褒めてるかな、これ?」
盛香はサイコロステーキを、姫奈はハンバーグを注文した。
料理が届くまでの間、二人は本当に割と一般的な女子高生の会話をした。
クラスにいた生徒の話。
担任の先生の話。
校舎が思ったより広くて迷いそうだという話。
制服のリボンが少し結びにくいという話。
購買に売っていたパンの種類がやけに多かったという話。
「皇桜って、お嬢様学校って聞いてたけど、思ったより普通だよね」
姫奈がストローで氷をつつきながら言う。
「普通かな」
「普通じゃない?」
「姫奈が普通の基準を持ってるかどうかによる」
「盛香ちゃん、意外と毒吐くよね」
姫奈は満足そうに笑った。その笑顔は明るく、愛嬌があり、誰が見ても可愛らしいものだった。
けれど盛香は、入学式の日からずっと、その瞳の奥に別のものを見ていた。
星。眩しい光。その光の裏側にある、濃厚な死の気配。
初めて姫奈を見た時から、盛香の中にある何かが騒いでいた。
この子は違う。この子は、自分がこれまで触れてきた誰とも違う。
道場にやって来た大人たち。
合気道を眉唾物だと笑った格闘技経験者。
興味本位で技を受けたアスリート。
自信満々に胸を張っていたボクサー。
MMAを学び、組み技にも慣れている男。
そういう相手とは、根本から違う。彼らには闘気があった。勝ちたいという意志があった。倒したいという欲があった。
けれど、姫奈にはそれだけではない。
もっと深い。もっと黒い。もっと冷たい。笑顔の裏に、常に刃物が置かれているような気配。
盛香はそれを、初めて感じた。
殺気。
ただ強いだけではない。ただ喧嘩が好きなだけでもない。
姫奈の中には、戦うことそのものを呼吸のように受け入れている何かがある。その何かに、盛香は惹かれていた。
「ねえ、盛香ちゃん」
ふと、姫奈が声を変えた。先ほどまでの軽い調子ではない。
ドリンクバーから取ってきたメロンソーダのグラスを両手で包み、姫奈は盛香を見る。
「どうして、そんなに試したいの?」
「試したい?」
「うん。合気道の技」
姫奈は首を傾げた。
「合気道って、基本的に試合をしない武道なんでしょ?」
「よく知ってるね」
「ちょっとだけ。試合をする流派もあるって聞いたことはあるけど、盛香ちゃんのところは違うんだよね?」
「違う。うちは試合をしない」
「じゃあ、どうして?」
姫奈の問いは、単純だった。
責めているわけではない。否定しているわけでもない。
ただ純粋に、知りたがっている。
どうして、あなたはそんな目をしているのか。
どうして、そんなに戦いたがっているのか。
盛香は、しばらく黙った。店内のざわめきが、遠くなる。
ジュースの氷が溶ける音。近くの席で笑う女子生徒たちの声。鉄板を運ぶ店員の足音。それらが全部、一枚薄い膜の向こう側にあるように感じた。
「私は」
盛香は、静かに口を開いた。
「合気道家として、自分の技がどこまで通じるのか知りたい」
姫奈は黙って聞いている。
「武道家として、自分が磨いてきたものが、本当に強いのか知りたい。子供の頃からずっと稽古してきた。五歳から、毎日。受け身も、体捌きも、入身も、転換も、崩しも、固めも、投げも。何度も何度も繰り返して、体に染み込ませた」
盛香の声は淡々としていた。けれど、そこには熱があった。押し殺された熱。長い時間、胸の底で燃え続けていた火。
「でも、今の環境のままじゃ、自分がどれほど強いのかわからない。技は試せる。稽古もできる。相手もいる。だけど、そこには前提がある。相手は受け身を取る。怪我をしないように動く。こちらも怪我をさせないように技をかける。稽古だから。当たり前だけどね」
盛香は、自分の手を見下ろした。
細く白い指。お嬢様学校の制服に似合う、綺麗な手。
その手で、人を投げてきた。関節を極めてきた。地面に叩きつけてきた。
「時々、道場に来る人がいるんだ。合気道なんて眉唾物だって。インチキだって。実戦じゃ使えないって。そういう人たちが、試しに技を受けに来る」
「へえ」
「アスリートもいた。ボクサーもいた。MMAをやってる人もいた。力自慢の人も、喧嘩慣れしてる人もいた。私は、そういう人たちを投げた。崩した。押さえた」
「強いね、盛香ちゃん」
「でも、違う」
盛香は首を横に振った。
「そこにはまだ、ルールがある。相手も本気じゃない。こっちも本気じゃない。頭突きはしない。目潰しもしない。噛みつきもしない。金的も狙わない。後頭部や脊椎は攻撃しない。指を掴んで折りにいくこともない。危険な角度で落とすこともない」
姫奈の星の瞳が、わずかに細くなる。その顔には、嫌悪も恐怖もなかった。
ただ、理解があった。
「試せる技は限定的になる」
盛香は言った。
「だから、使えなかった技を使ってみたい。禁止されている技が、本当にどこまで通じるのか知りたい。合気道が綺麗事だけじゃないって、私自身の体で確かめたい」
「合気道の理念は?」
姫奈が尋ねた。
盛香は、ゆっくりと顔を上げた。
「知ったものか」
その一言は、冷たかった。だが同時に、泣き出しそうなほど切実でもあった。
「人と争うな。相手を傷つけるな。和を尊べ。そう教えられてきた。もちろん、それが大切なことだとは思う。間違っているとは思わない」
盛香は唇を引き結ぶ。
「でも私は、それだけじゃ足りない」
その声は、小さく震えていた。
「私の中には、ずっとある。試したい。ぶつけたい。自分がどこまで行けるのか知りたい。綺麗な理念で蓋をしても、消えない。稽古で汗を流しても、消えない。人を投げても、押さえても、まだ足りない」
姫奈は、瞬きもせずに盛香を見ていた。
「上芝家の敷居を、二度と踏めなくなるかもしれない」
盛香は言った。
「神和直心合気道の破門を告げられるかもしれない。お父様にも、お爺様にも、失望されるかもしれない。合気の道を踏み外したって言われるかもしれない」
それでも。
「それでも、構わない」
盛香は姫奈の目を見た。
星の瞳。可愛らしい少女の顔。その奥にある、死の匂い。
盛香は確信していた。
姫奈なら、ぶつけられる。
姫奈なら、受け止めてくれる。
姫奈なら、壊れない。
姫奈なら、こちらを壊してくれるかもしれない。
「姫奈」
「うん」
「いつかでいい」
盛香は、まっすぐに告げた。
「私と、試合をしてほしい」
そこで一度、言葉を切る。言い直す。
「ううん。死合をしてほしい」
姫奈の口元が、わずかに上がった。
「私を、強くしてほしい」
店内の空気が、二人の周囲だけ変わっていた。
ファミレスの明るい照明。メニュー表。ドリンクバー。呼び出しボタン。まだ届いていないサイコロステーキとハンバーグ。
そのすべてが、ひどく場違いだった。
盛香は熱烈な告白をした少女のように、姫奈を見つめていた。ただし、それは恋ではない。
もっと危険で、不健全で、命に近い場所にある感情だった。
姫奈は、その言葉を聞いて、沸いていた。
胸の奥が、熱くなる。
もしかしたら、この子は途中で諦めてしまうかもしれない。壊れてしまうかもしれない。壊してしまうかもしれない。
それでも、試したい。
盛香の闘気を当てられたのかもしれない。あるいは最初から自分も同じだったのかもしれない。
私も、闘りたい。
姫奈は知っている。
不完全燃焼の気分の悪さを。思いきり踏み込めない苛立ちを。自分の中にある熱を、どこにも逃がせない息苦しさを。
だから、解消させてあげたいと思った。
それだけではない。
私と同じくらい強くなってほしい。
私を楽しませてほしい。
私を追い詰めてほしい。
私を、殺し得るところまで来てほしい。
人となりは、目を見ればわかる。
姫奈はそう思っている。
盛香の目は、強くなりたいと燃えていた。
その火は澄んでいる。真っ直ぐで、美しい。
けれど、その奥に。
黒く濁った塊がある。
闘いたい。
闘いたい。
闘いたい。
殺し合いたい。
いや、本人はきっと、まだそこまで自覚していない。
だから言葉を飾る。
合気道家として。
武道家として。
自分の技を試したい。自分の強さを知りたい。
けれど、違う。
盛香は自分のことを合気道家だと、武道家だと言った。
それは嘘ではない。けれど、全部ではない。
姫奈の目には、もっと別のものが見えていた。
私たちと同じだ。
姫奈は笑った。
可愛らしく。愛嬌たっぷりに。そして、どこまでも危うく。
「いいよ」
姫奈は言った。
「やろう、盛香ちゃん」
盛香の目が、わずかに見開かれる。
「本当に?」
「うん。本当に」
姫奈はストローから口を離し、頬杖をついた。
「今週の土日、空いてる?」
「空いてる」
「じゃあ、その日にやろう」
「その日に?」
「うん。指導と試合。盛香ちゃんが知らないこと、たぶんいっぱいあると思うから。体の使い方も、壊し方も、壊され方も。あと、死なないための感覚とか」
普通の女子高生は、ファミレスでこんな約束をしない。
だが姫奈は平然としていた。
まるで、休日に遊びに行く場所を決めるような軽さで。けれど、その内容は明らかに異常だった。
「ただし、その前に課題があります」
「課題?」
「うん。二つ」
姫奈は指を二本立てた。
「一つ目。自分の心の内を、家族の誰かでいいからちゃんと話すこと」
盛香の表情が固まった。
「……家族に?」
「うん」
「どうして?」
「盛香ちゃん、たぶん黙って消えるタイプでしょ」
「消えるって、そんなことは……」
「自分で勝手に決めて、勝手に覚悟して、勝手に全部捨てるタイプ」
姫奈の声は柔らかかった。
けれど、その言葉は盛香の胸の奥を正確に突いた。
「それは駄目だよ」
「どうして?」
「あとで面倒だから⭐︎」
姫奈は笑みを消さなかった。
「盛香ちゃんが家を捨てる覚悟をするのは自由だよ。でも、何も言わずに捨てるのは違うと思う。だって、それだと盛香ちゃんは、自分が何を捨てたのかもわからないままになる」
盛香は何も言えなかった。
自分で勝手に覚悟する。
その言葉は、あまりにも痛かった。盛香はずっと、心のどこかでそうしようとしていたのかもしれない。
誰にも言わず。誰にも相談せず。理解されないと決めつけて。失望される前に、自分から背を向けて。
上芝家の娘として。
神和直心合気道の継承に連なる者として。
正しくあれと育てられた少女として。
そのすべてを、自分一人で切り捨てるつもりだったのかもしれない。けれど姫奈は、それを見抜いた。
「ちゃんと話して、それでも選ぶならいい。怒られても、止められても、破門されるかもしれなくても、それでも来るなら私は歓迎する」
「……厳しいね」
姫奈は、もう一本の指を軽く揺らした。
「二つ目」
「うん」
「そのうえで、自分の意思で私のところへ来ること」
盛香は瞬きをした。
「それだけ?」
「それだけ。でも、それが一番大事なんだ」
姫奈はメロンソーダのグラスを軽く揺らした。氷が、小さく音を立てる。
「盛香ちゃんが強くなりたいなら、私は手伝う。盛香ちゃんが試したいなら、私は受ける。盛香ちゃんが壊れそうになったら、できるだけ止める」
「できるだけ?」
「絶対とは言えないから」
姫奈は、そこだけは正直だった。その正直さが、むしろ盛香には信じられた。
大丈夫。絶対に安全。怪我はしない。楽しくやろう。
そう言われるよりも、ずっといい。
姫奈は危険を隠していない。盛香の望むものが危ういことを、わかったうえで頷いている。
「でもね、私が盛香ちゃんを連れていくんじゃない。盛香ちゃんが、自分で来るの」
「自分で……」
「そう。家族に話して、止められて、怒られて、それでも来るなら来ればいい。逆に、話してみて迷うなら、それもいいと思う」
「迷ったら、駄目?」
「駄目じゃないよ」
姫奈は首を横に振った。
「迷ってもいい。怖くなってもいい。逃げてもいい。でも、盛香ちゃんには、自分で選んでほしい」
その言葉は、柔らかいようでいて重かった。
戦うことを誘っているのに。壊れるかもしれない場所へ招いているのに。姫奈は、盛香を無理やり引きずり込もうとはしなかった。
ただ、扉を開けている。その先へ進むかどうかは、盛香自身に決めろと言っている。
「……わかった」
盛香は小さく頷いた。
「話してみる。家族に」
「うん」
「そのうえで、私は行く」
姫奈の星の瞳が、嬉しそうに細められた。
「待ってる」
そのタイミングで、店員が料理を運んできた。
「お待たせいたしました。サイコロステーキのお客様」
「はい」
「ハンバーグのお客様」
「はーい♪」
熱い鉄板の上で、ソースが音を立てている。肉の焼ける匂いが立ち上り、先ほどまでの危うい空気を少しだけ押し流した。
姫奈はナイフとフォークを手に取り、目を輝かせる。
「わあ、美味しそう♡」
「さっきまで死合の話してた人の顔じゃないね」
「食事は大事だよ。強くなるには食べないと」
「それは、そうだね」
「盛香ちゃん、いただきますは?」
「お母さんかよ……いただきます」
「いただきまーす」
二人は手を合わせ、料理を食べ始めた。
それからは、本当に普通に女子高生として、真っ当な会話を楽しんだ。
「このハンバーグ、普通に美味しい」
「サイコロステーキも悪くない」
「今度はパフェも頼もうよ」
「今日?」
「今日でもいいよ」
「夕食が入らなくなる」
「そこは成長期ということで」
「便利な言葉だね、成長期」
「盛香ちゃん、甘いもの好き?」
「嫌いじゃない」
「じゃあ今度、ケーキ食べに行こう」
「稽古の後なら」
「稽古の後にケーキって、なんか罪悪感減るよね」
「消費した分を戻してるだけだから」
さっきまでの会話が嘘のように、二人は笑い合った。
学校のこと。好きな食べ物のこと。休日の過ごし方のこと。制服に合う髪型のこと。
クラスの誰が話しかけやすそうだったかということ。
本当に、普通の女子高生の会話だった。
ただ一つ違うのは。その普通の会話の下で、確かに約束が結ばれていたこと。
土日。指導と試合。
家族への告白。自分の意思で、姫奈のところへ行くこと。
そして、いつか行われるかもしれない、試合という名の死合。
盛香はステーキを口に運びながら、ちらりと姫奈を見た。
姫奈はハンバーグを頬張り、幸せそうに笑っている。
その姿だけを見れば、どこにでもいる可愛い少女だった。けれど盛香には、もうわかっている。
自分は星を見つけたのだ。夜空に浮かぶ、美しく眩しい星。
近づけば焼かれるかもしれない。手を伸ばせば墜ちるかもしれない。
それでも目を逸らせない、危険な光。
姫奈もまた、盛香を見ていた。
この子は強くなる。
まだ足りない。まだ知らない。
まだ、自分の中にある黒いものの名前すら知らない。
けれど、燃えている。
ならば、火をくべればいい。風を送ればいい。
折れないように。壊れすぎないように。
でも、確かに壊しながら。
強くする。私を殺し得るところまで。
「ねえ、盛香ちゃん」
「何?」
「土日、楽しみだね」
姫奈は笑った。盛香も、静かに笑い返す。
「うん」
その笑みは、上品で、穏やかで、皇桜女学院の生徒に相応しいものだった。けれどその奥で、二人の少女は同じ熱を抱いていた。
闘いたい。
強くなりたい。
壊したい。
壊されたい。
それをまだ、誰も知らない。
ファミレスの明るい照明の下で、二人はドリンクバーのジュースを飲みながら、他愛のない話を続けた。
あまりにも普通で。
あまりにも平和で。
だからこそ、どこか不気味な放課後だった。
だーいぶ長い文になったよね。
ちょこちょこお気に入りが増えてて普通に嬉しい!
忙しくなったり、熱が冷めたりしないうちに、投稿していきたい也。