マエストロに目をつけられた。   作:アルカンテナ

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この話は薬指仕草が少ないペモ。
読まなくても平気ペモ

リーテがエンラスの妻って情報以外は大した事ないペモ



エンラスとリーテ

リナウが去ってしまった後、反響する扉の音が一通り響き終わると、アトリエには今も肉と骨犇めかしているであろうオルガンの音色だけが静寂を作らせまいと歌い続けていた。

 

「…やー…すまないね。ユート君」

少しばかり先程会った時より小さく見えるエンラスがそこには居た。

例えるならハムスター。狩りをする肉食動物が小動物に変化した衝撃がそこにはあった

 

「いやはや…取り乱してしまってね……だが、もう大丈夫だ。君が鑑賞で得られる感動を最大限に引き出せる準備はできている…」

エンラスはそう言うと、少し迷いのような躊躇を見せながら再び部屋へと向かった。

そして僕も、それを追った。

………

その部屋は、赤く染まった絨毯の道と、目が痛まない僅かにベージュの混じった白色の床と、磨かれ美しさすらある大理石の壁面で構成されていた。

…そして、そこに展示されていたのは、翡翠色の目をした白髪の男……と

赤髪で柔和ながらに強かな雰囲気を纏った、可愛らしい女性が描かれた、巨大な絵であった。

絵の女性の眼には宝石が嵌められているのか、紺碧色と翡翠色が片方ずつ煌めいていた。

 

「…早速我が傑作を自慢したいところ…なんだが。」

「ユート君。この絨毯、ふかふかで良いものとは思わないかい?」

エンラスは目を煌めかせて、褒めてもらえた犬のような前屈みで問う。

 

「心地いいですね。」

既視感を感じながら僕は答えた。

何かを察してしまう自分が嫌になる…

 

「外郭まで向かって屠殺した怪物達を」

 

「何とか匂いを抜いた人間の血で染め上げたのさ。大変なのだよ?血はすぐ色落ちする上に血は乾燥するとすぐに鮮やかさが無くなるものだからな。」

「現状保存の技術は購入すれば高価で扱いが複雑…それを独学で成し得た私は天才だということだ。」

エンラスは自慢げに絨毯に寝転びながら、照明に手をかざし言う。

……はあ。そんなことだろうと思ったよ。

 

「…感動して言葉を失ってしまったのだろうか…?」

「まあ特に会話に支障は無いであろう。そして、これが私の傑作だ。」

エンラスは寝転んだまま、右腕から金属が軋む音を響かせながら先程の翡翠色の目をした男と、目が翡翠色と紺碧色で色違い…いわゆる「オッドアイ」の赤髪の女が描かれた絵を指差した。

 

「………あの白髪の男が私で………隣は、リーテと言う女性である。」

エンラスは視線が安定しないまま言葉に詰まっているようだった。

チャンスかな。

 

「エンラスさんは、リーテ?さんとはどんな関係で?」

僕はエンラスの秘密を知れるかもしれない、帰るための交渉に使えそうな情報かも知れないと、それとなく聞いた。

 

「…ッッ…!?すーっ……うーん…ハ……違うな………」

信じられないほど動揺したエンラスが飛び起きた。

動揺が丸出しになり秘密を話してしまいそうになる本能と思い付いたものを決して言おうとはしない理性が衝突した結果、天才にも処理し難い状態になってしまったのか…?

 

「…あー…もう、これを見ればわかるであろう!?…私の口からはあまり言いたくないものなのだよ……」

エンラスはそう言いながら顔を背けつつ左手を差し出した。

左手を見ると、薬指に三重の螺旋の指輪と宝石が嵌められたリングが付けられていた。

 

「三重の螺旋の意味なんか知りませんよ?」

僕はエンラスの混乱を楽しんでいる節が少しあった。

それと同時に、近い未来作品にされている未来が見え少しずつ恐怖を感じていた。

 

「螺旋ではなく…!!指の根元につけたこの指輪の意味を察してくれたまえ…!!!!」

エンラスはしどろもどろになりながら立ち上がり、僕に喰いかかるように左手の薬指を見せた。

 

「結婚指輪ですか…?」

 

「く、口に出すでない…!!」

エンラスが慌てふためいて僕の口を塞ごうとしたが、もう意味がないことに気づき手を下ろした。

 

……面白いなこの人。

 

「ユート君……ッ!!私はッ…玩具ではないのだぞ……」

「私は作品に集中している時以外は"ポンコツ"と呼ばれる生き物なのだよ……」

そう絞り出すように言ったエンラスは俯き黙り込んでしまった。

 

…やばい…殺されるかも。

 

「それに、彼女の事を私は……そこまで愛してなどいない。」

エンラスは、そう吐き捨てた

 

…確かに、政略結婚やらお見合いやら…望んだものではない恋愛も存在する。エンラスもその一人なのかも知れない。

 

「…貴方?嘘でも愛してないとか言わないでください。泣いちゃいますから」

いつの間にか、柱の横に赤髪の、片目が翡翠色… 紺碧色の目…先程の絵と全く同じ風貌をした女性が立っていた。

 

「なっ……!?」

エンラスは呆気にとられ、甲高い素っ頓狂な声を上げた。

そして表情を取り繕うすらできず、威厳を無くしていた。

 

「エーンーラースーさーんー?普段鬱陶しいくらい愛してるとかいいながら抱きついてくるし?結婚指輪もずっと付けてるし?私があげた香水だってずっと使ってる癖に。あと、アンプル?でしたっけ。お高い治療薬で治せるからって私の事食べたこともあったじゃないですか!そんなデレデレなのに気恥ずかしいからって、好きじゃないとか言っちゃいます?」

赤髪の女性は怒りを帯びながらエンラスへと歩み寄っていく

怒りが具現化し身体の周りに纏われているような、そんな威圧感があった

 

「リーテ…!!や、やめ」

 

エンラスが言葉にする間もなく、リーテと呼ばれた赤髪の女性は素早くエンラスの口を手で塞いだ。

 

「……返り血…?ですか…はあ、乾いてる…後で濡らしたタオルで拭いてあげますから」

「ああそれと………さっきの発言の弁明を聞きたいです。」

 

そう言うと、リーテはエンラスの口から手を剥がした。

 

「ぷはっ…はあ…違うのだよ…リーテ……」

息を切らしたエンラスは消え入りそうな声で答えた。

 

「何が違うのですー?愛してなどいないとか言ったのは事実じゃないですかー。」

リーテはそれを冷静に、尋問のように詰めていく。

 

「………その…うむ…っ…わ、私が感情を表に出すのが下手な男だと言うことは君が一番よくわかっているだろう!?」

エンラスは裏返った声を張りあげて弁明する。

 

「ええ。知っていますとも。内臓を見せてくれた時も、目を二人で入れ替えた時も、めちゃくちゃ恥ずかしがっていましたものね。恐らく貴方の事ですから羞恥心とか何かしらで正直に私の事を愛してるーとか言えなかったんでしょう?」

リーテは乾いた笑みを浮かべ、そして続けた。

 

「ならもう同じ事を繰り返さないようにって誓いとして今ここで愛を言葉にして伝えてくれませんか?」

リーテはそう言うと扉の前へと歩み、エンラスに立ちはだかる魔王のように構えた。紺碧色の目が輝いた気がした。

 

「うぐっ………君は鬼であるな…………」

エンラスはそう言うと、黙りこくってしまった。

答えの代わりにただそのまま、リーテへと近づいた。

 

「言えないのですか?はーあ、全く貴方って人は。」

「へたれ。いくじなし。」

リーテは呆れたようにため息をつく。

エンラスより二回り身体は小さいはずなのに、その姿はエンラスよりはるかに大きく、強く見えた。

 

「うぐ……その言葉を放ったことを後悔する事になるぞ…」

そう言うとエンラスはリーテを強く抱きしめた。

 

「あら、貴方にしては大胆ですねっ?ですけど」

リーテは後悔どころか、動揺すら見せる様子はなかった。

 

さっきから僕は何を見せられてるんだ?

夫婦漫才?惚気?僕は彼女できたことすらないのに……

 

「愛している。」

エンラスはそう呟いた。

 

「ふーん?」

リーテは、表情を崩すことはなかった。

 

「緋色の髪も、美しい紺碧の瞳も。君の血も、強く揺れる君の心臓さえも愛おしい。時に厳しく、時に優しい君の全てを、愛している。ずっと側に居てくれ。」

エンラスは、歯の浮くようなギザな台詞を並び立てた。

少し変なの混じってるけど。

 

「……今回は許してあげます。次やったら、足でも貰いますけどね。」

「…………そんな心配そうな顔しないでください、私だって貴方の事を愛していますから。見捨てることなんかありませんからね。あと、貴方がくれた右腕の作品…そう、"リーサル"ずっと大切にしていますからね。なんなら今ありますし…」

リーテは濡れた猫を慰めるようにエンラスに言う。

 

ダメだ…この人も狂ってる!

…エンラスの右腕から金属が軋む音が鳴ってたのは、右腕が義手だからだったからか…

ちょっと待って、妻へのプレゼントに右腕を引きちぎって作品にして渡したってこと……?

わ、訳わかんない…それで喜んでるリーテも…どういうこと…?

 

リーテが常識人であると期待した希望は、粉すら残らぬほどに打ち砕かれた。

 

エンラスはリーテから静かに離れようとしていたが、裾を強く掴まれ猫のように丸まっていた。

 

「………"ユート君"……でしたっけ。エンラスにそう呼ばれてましたね。ごめんなさいね、変な姿初対面で見せちゃって。」

「多分今日はもうお疲れでしょうし、寝室で休んでも平気ですよ?ああそうだ!お腹も減ってるでしょうし…」

リーテは、母親のように僕を気遣った。

 

「…お腹はそこまで減ってません…寝室にだけ、案内してくれませんか」

僕は眠気で少し視界が曇るのを感じた。

 

「なら、早めに案内しておこうか。着いてきたまえ。ユート君。」

エンラスは隙を見つけリーテから脱出し、何事もなかったかのように無愛想な声へと戻った

 

……これがさっきまで愛してるとか言ったり、動揺して慌てふためいてと人の姿かよー…

 

案内された寝室は、一人用としては広めな、ホテルの一室のような部屋だった。

 

…明日になったら拘束されているとか…ないよね?

 

「集合時間とかは存在しないからゆっくり寝たまえ。」

「では、おやすみ。ユート君。」

エンラスはそう言うと、部屋の扉を静かに閉じた。

 

用意された部屋着に着替えベッドに倒れ込んだ僕が横に目を向けると、ランプのような形状をした枕元照明と、鏡が目に映る。

……鏡に何者かが映ったような気がしてならなかった。

あまりにも奇妙な体験をしたせいか、脳がおかしくなっている気がする。

 

なんか夫婦漫才も見せられたし。はあ、なんなの

……寝よう……これ以上怖いのは勘弁。

僕は、ここから出られるのかな。…考えるだけただ不安になるだけな気がしてきた。はあ……

…おやすみ。

 






寝落ちって怖い!データ飛んだぁ!!!
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