Muv-Luv OPERATION:LAST KISS 作:ババンババンバン
気が付いた時、我々は太陽系宙域へ転移していた。
原因は十中八九、あの“次元断層”によるものだろう。
だが、あの現象がいかなる原理で我々をここまで跳躍させたのかは、未だ全く解明できていない。
空間転移などという言葉で片付けるには、あまりにも異常すぎる現象だった。
そして、もう一つ。
観測を進めるうちに、決定的な事実が判明した。
ここは、恐らく我々の知る太陽系ではない。
AD.2004.01.10
【太陽系宙域】
「────とく......」
「────提督!」
「っ......ぐぅ......!」
誰かが自分を呼ぶ声が聞こえた。
猛烈な吐き気と眩暈に襲われながら、ジェイド・ロスはゆっくりと意識を覚醒させていく。
ぼやけていた視界が徐々に焦点を結び、ようやく目の前の人物を認識した。
悲壮な表情でこちらを覗き込んでいるのは、ユウキ・イングラハム少尉だった。
――どうやら、あの閃光に呑み込まれた際に気絶していたらしい。
「よかった......ずっと呼びかけても目を覚まされなかったので、もう......」
イングラハムは安堵したように肩の力を抜く。
ジェイドは重い身体を起こしながら、小さく息を吐いた。
「私は......バイドを殲滅し、皆を地球へ帰すまで死ぬつもりはないよ」
その言葉に、イングラハムは僅かに目を見開き――そして、ようやく安心したように微笑んだ。
「......はい、提督」
ジェイドは軋む身体を押さえながら周囲を見渡す。
艦橋では、乗員たちが慌ただしく持ち場を駆け回っていた。
火花を散らすコンソール。
断続的に鳴り続ける警報。
損傷した機器の修復に追われる整備員たち。
艦内の空気は、明らかに異常事態そのものだった。
「......状況報告を頼む」
ジェイドの声に、イングラハムは即座に表情を引き締める。
「はっ。まず損害報告ですが、各艦とも外部装甲に深刻な損傷は確認されていません」
「ですが――」
そこで彼は僅かに言葉を詰まらせた。
「我が艦を除く大多数の艦艇において、電子機器の約七割が損傷、あるいは機能停止状態にあります」
「艦載機群も同様です。電子制御系の焼損が相次ぎ、炎上した機体も多数確認されています」
「現在、問題なく運用可能な艦載機は......全体の四割程度かと」
ジェイドは無言でモニターへ目を向けた。
表示される損害報告は、想像以上に深刻だった。
(......不味いな)
もしこの状況で敵勢力に発見されれば。
艦隊はまともな抵抗すらできないまま壊滅するだろう。
その事実を理解し、ジェイドは静かに奥歯を噛み締めた。
「周囲に敵影は観測されたか?」
ジェイドの問いに、イングラハムは即座に答える。
「いえ。現在、周辺宙域にバイド反応は確認されていません」
その報告に、ジェイドは僅かに安堵の息を漏らした。
少なくとも、バイド艦隊に追撃されているわけではないらしい。
だが、安心するにはまだ早い。
ジェイドは次に、艦隊の現在位置について問い掛ける。
もし航行制御を失った状態で漂流していたのなら、既知宙域から大きく流されている可能性があった。
「...我が艦隊の現在位置は?」
その問いに、イングラハムは難しい表情を浮かべた。
「それが...星図データとの照合を行った結果、惑星配置が太陽系と極めて酷似していることが判明しました」
「第三惑星――地球と思われる星も確認されています」
「やはり我々は、バイド星系から太陽系へ直接跳躍……あるいは転移したものと思われます」
「なにっ」
ジェイドの表情が険しくなる。
次元跳躍。
それ自体は決して珍しい技術ではない。
だが、それには専用装置と膨大なエネルギー、そして厳密な座標制御が必要不可欠だった。
ましてや、バイド星系から太陽系までの超長距離を、装置も無しに一瞬で跳躍するなど――。
「あり得ん……」
思わず低く呟く。
「次元跳躍装置も無しに、ここまでの距離を転移できるはずがない」
「観測機器の故障という可能性は?」
イングラハムは静かに首を横へ振った。
「その可能性は低いかと」
「我が艦において、観測機器系統に重大な損傷は確認されておらず、エンジニアによる点検も完了していますが現時点で異常は発見されていません」
「つまり──観測結果そのものは正しい、と?」
「はい」
艦橋に重苦しい沈黙が落ちる。
ジェイドはゆっくりとメインスクリーンへ目を向けた。
そこには、青く輝く惑星が映し出されている。
地球。
誰もが知る、人類の故郷。
だが――
「(違う)」
理由は分からない。
それでも、本能が告げていた。
あれは、自分たちの知る地球ではないと。
「(...この状況は非常に気掛かりだ。だが、まずは艦隊の態勢を立て直さなければならない)」
ジェイドは意識を切り替える。
不安や疑問に囚われていても状況は好転しない。
今、自分が優先すべきなのは――艦隊の生存だった。
「イングラハム」
「はっ!」
「君はオペレーター班およびエンジニア班と連携し、艦隊周辺宙域の調査に当たれ」
「敵性反応、重力異常、通信波、何でもいい。可能な限り情報を集めるんだ」
「了解しました!」
イングラハムは即座に敬礼し、駆け出していく。
「クライアントは――」
そこでジェイドは言葉を止めた。
「...クライアント中尉!」
「はい!」
呼び掛けに応じ、エレノア・クライアント中尉が姿を現す。
頭部と脚部には痛々しく包帯が巻かれていた。
恐らく転移時の衝撃で負傷したのだろう。
それでも彼女は気丈に背筋を伸ばし、職務を全うしようとしていた。
本来なら医務室へ送るべき状態だ。
だが、今の艦隊には人手が足りない。
ジェイドは僅かに眉を曇らせながらも、指示を下した。
「まだ動けるか?」
「問題ありません」
即答だった。
「...そうか」
ジェイドは短く頷く。
「各艦艦長へ通達」
「現在使用可能な資材・機器・兵装を徹底的に洗い出し、運用可能戦力を再編成しろ」
「逆に、修復不能と判断された機材は即時廃棄だ」
クライアントが真剣な表情で頷く。
ジェイドは続けた。
「我々へ敵意を持つ勢力による技術流出は避けたい。廃棄処分は徹底させろ。機密保持を最優先とする」
「了解いたしました!」
クライアントもまた敬礼すると、痛む脚を引きずりながら持ち場へ走っていった。
二人を見送り、ジェイドは小さく息を吐く。
「(...さて私もやるべきことをやらねばな)」
彼は近くのコンソールへ歩み寄る。
表面には亀裂が走っていたが、辛うじて使用可能らしい。
ジェイドは損傷したデータ端末を起動し、艦隊戦術マップを展開した。
周辺宙域。
艦隊配置。
残存戦力。
「まずは、防御陣形の再構築だ」
静かに呟きながら、ジェイド・ロスは指揮官として再び思考を巡らせ始めた。
??.????.??.??
【????】
「――がはっ!」
武は激しく息を吐きながら、勢いよく上体を起こした。
心臓が暴れるように脈打っている。
呼吸は荒く、全身には嫌な汗が滲んでいた。
「はぁ...っ、はぁっ...!」
混乱したまま周囲を見渡す。
そして――武は目を見開いた。
そこは、自身の“元の世界”にいた頃の自室だった。
見慣れた天井。
使い古した勉強机。
壁に掛けられた制服。
散らかった小物類。
何もかもが、懐かしい。
「うそ...だろ...?」
武は呆然と呟く。
「まさか俺...元の世界に戻ってきたってのか...!?」
半ば転げ落ちるようにベッドから飛び起きる。
纏わりつく布団を乱暴に払い除け、武は手当たり次第に部屋の物へ触れていった。
果ては自分の頬まで抓る。
触感がある。温度がある。現実感がある。
「本物だ...」
武の声が震える。
「本当に俺、戻って――」
その瞬間だった。
――バァン!!
勢いよくドアが開かれる。
次の瞬間、何かが凄まじい勢いで武へ突撃してきた。
「タ・ケ・ルちゃぁぁぁぁ~~~ん!!」
「ん? ...ぐはぁッ!!?」
完璧な角度で鳩尾へ頭突きが炸裂した。
肺の中の空気が一瞬で押し出される。
武は白目を剥きながら崩れ落ちた。
「ぐっ...か、霞...ッ!?」
なぜか、そんな名前が口から零れた。
だが、武の目に映っていたのは――
「も~、いつまで経ってもリビングに来ないから、迎えに来ちゃったよ~」
そこに立っていた人物を見て、武はさらに目を見開く。
鑑純夏。
幼い頃からずっと一緒だった、武の幼馴染。
見慣れた笑顔。見慣れた声。
そして――もう二度と会えないと思っていた存在。
「いくら休みだからって、寝過ぎは――って、タケルちゃん?」
純夏は不思議そうに首を傾げる。
武の様子がおかしいことに気付いたのだろう。
「あ...あぁ...」
声にならない。
喉が震える。
理由は分からない。
だが、気が付けば目から涙が溢れていた。
「えっ、ちょ、どうしたのタケルちゃん!? なんで泣いて――うひゃあっ!?」
次の瞬間。
武は衝動的に純夏を抱き締めていた。
柔らかな髪から、甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐる。
夢でもなく、幻でもない。
そこに、いる。
「お、俺...っ」
武の声が震える。
純夏は突然抱き締められたまま、しばらくきょとんとしていた。
だがやがて、困ったように笑う。
「な、なに~? 今日のタケルちゃん、なんか変だよ?」
「...うるさい」
小さく呟く。
胸の奥が熱かった。
「タケルちゃん?」
「...少しだけ。このままでいさせてくれ」
「えっ...え、えぇ~...?」
武はそんな彼女を抱き締めたまま、ぽつりと呟く。
「俺、変な夢を見てさ...□□□□とかいう宇宙人と戦う世界に飛ばされて――」
そこで、武は言葉を止めた。
「...あれ?」
□□□□。
確か、そういう名前だった。
自分は“それ”と戦っていたはずだ。
だが――
「(戦う...? 何と?どうやって?)」
頭の中に靄が掛かったように、記憶がぼやけていく。
必死に思い出そうとしても、肝心な部分だけが指の間から零れ落ちていくようだった。
やがて、何を思い出そうとしていたのかすら、曖昧になっていく。
「夢を...何の夢だっけ...?」
「...ぷっ」
純夏の肩が震えた。
「ぷ、ぷぷっ! あれぇ~? タケルちゃんってば、もしかして怖い夢見て怖くなっちゃってたの~?」
「...」
ゴチンッ!!
「あいたぁーーーっっ!!」
純夏は頭を押さえながら飛び跳ねる。
「な、なにするかーーーっ!!」
「うるさい! 人が真面目に考えてる時に煽るな!」
武は額に青筋を浮かべながら怒鳴った。
「しかも、みぞおちに強烈な頭突きまでかましやがって!」
「だ、だってぇ~! タケルちゃんが珍しくしおらしかったから~!」
「だからって頭突きしていい理由にはならねぇだろ!」
そこまで言って、武はふと眉をひそめた。
「...ん?」
嫌な違和感。
「そういやお前、どうやって部屋に入ってきた?」
「へ?」
「俺、チェーンロック掛けてたよな?」
「...ち、チェーンロック?」
純夏の目が泳ぐ。
じりっ、と武が一歩近付く。
すると。
――ゴトリ。
純夏の背後から、何かが床へ落ちた。
武は無言で視線を向ける。
そこには、金属光沢を放つ、立派なチェーンカッターが転がっていた。
「.........」
「.........」
沈黙。
「てめぇ...」
武の頬が引き攣る。
「なかなか良い度胸してんじゃねぇかぁ...?」
「ま、待った待った待った!!」
純夏は慌てて両手を振った。
「弁明の機会を要求します!」
「よし、許可しよう。辞世の句は短めにな」
「違うってばーーー!!」
純夏は慌ててポケットを漁ると、何かを取り出して武へ押し付けた。
「これ! プレゼント!」
「...あ?」
武は反射的にそれを受け取る。
手の中に収まっていたのは、ゲームカセットだった。
ラベルには大きく、【R-TYPE UNLIMITED】と書かれている。
「さっき商店街で買い物した時に、福引券もらったの!」
純夏はえへへ、と得意げに笑った。
「それで回してみたら当たったんだよ~!」
「ふーん...」
武はカセットを眺める。
タイトル脇には、見慣れないシルエットの戦闘機が描かれていた。
無骨で、どこか生物的なフォルム。
恐らくSFシューティングゲームの類だろう。
「あとでやってるとこ見せてよね!」
「ん...まぁ、いいけど」
純夏は内心、ほっと胸を撫で下ろしていた。
「(――よし。このままチェーンロック破壊の件を有耶無耶に...)」
だが、悲しいかな。
物証というものは、消えない。
武の視線が、再び床のチェーンカッターへ向く。
数秒の沈黙。
「あ」
純夏の笑顔が凍る。
武は、にっこり笑った。
「さて」
「タケルちゃん? その笑顔こわい」
「ちょっと表出ろ」
「いやああああああっ!!」
――数分後。
純夏は、本日二度目となる拳骨を食らうこととなった。
◇◇
AD.2004.01.12
【日本帝国/横浜基地・研究室】
────心電図の音が聞こえる。
薬品の匂いが広がる研究室にて、武はぼんやりと天井を見つめていた。
「...で? 結局、原因は分かったんですか」
ベッドへ寝かされたまま、武は横に立つ夕呼へ視線を向ける。
夕呼はカルテらしきデータを眺めながら、露骨に嫌そうな顔をした。
「分かったら苦労してないわよ」
「うわ、開口一番それですか」
「だって事実なんだもの」
夕呼は端末を閉じる。
その表情には、珍しく余裕がなかった。
「身体データに異常はなし。脳波も正常。外傷も後遺症も見当たらない」
「なのに二日も昏睡してたんですか、俺」
「ええ。しかも、途中から原因不明の高熱まで出した」
「うへぇ...」
武は顔をしかめる。
まるで風邪の後みたいに身体が重い。
「で、覚えてることは?」
「え?」
夕呼の視線が鋭くなる。
「倒れる直前、何を見た?」
武は少し考え込む。
青空。
霞。
空に現れた光。
そこまでは思い出せる。
だが、その先が曖昧だった。
「...なんか、空が光ってて」
「それで?」
「それ見た瞬間、急に息できなくなって...」
武は眉をひそめる。
頭の奥が、ちくりと痛んだ。
「それから先が...よく思い出せません」
「夢とかは?」
「夢...」
武は視線を泳がせる。
妙な夢を見ていた気がした。
────おぼろげながら、その内容を思い出す。
確か、純夏からゲームを貰ってその後、一緒に遊んで――
「...なんか、戦闘機に乗って変な宇宙人と戦ってたような……?」
口にした瞬間、武はしまったと思った。
「(いかん...!)」
具体的に思い出せたのがゲームの内容だけだったせいで、完全に変な発言になってしまった。
「戦闘機? 宇宙人?」
夕呼の眉がぴくりと動く。
「あー...いや、幼馴染と話してる夢を見てただけです」
武は慌てて取り繕うように笑った。
「正直、自分でもハッキリ覚えてなくて...」
武は頭を押さえる。
思い出そうとすると、靄が掛かる。
まるで無理矢理“忘れさせられている”みたいに。
「...」
夕呼は無言で武を見つめていた。
やがて、小さく息を吐く。
「まあいいわ」
「いいんですか?」
「現時点じゃ判断材料が少な過ぎるもの」
そう言いながら、夕呼は研究室のモニターへ目を向けた。
そこには、複数の観測データが映し出されている。
太陽系宙域の、重力異常や次元歪曲波形に関するデータ。
そして――
モニターの一角には、“未確認巨大反応”と表示された画像データが映し出されていた。
そこに写っているのは、木星宙域付近で撮影されたと思われる複数の巨大シルエット。
ノイズが酷く、輪郭も不鮮明だ。
だが、それでも武には分かった。
それが“艦隊”のようなものだということを。
「先生、それって?」
武がモニターを指差す。
夕呼は気怠げに肩を竦めた。
「そうそう。あんたが寝てる間に、新たな重力異常と次元歪曲が観測されたのよ」
「で、観測データを辿ってみた結果――木星付近に正体不明の巨大物体群が漂ってることが判明したってワケ」
「ま、マジですか!?」
「あー、そう。マジマジ」
夕呼は面倒臭そうに頷く。
武はモニターへ顔を近付けた。
ぼやけた画像。
だが、その不気味なシルエットには妙な圧迫感がある。
「でも...これじゃ、まだ正体は分かってないんですよね?」
「察しがいい子は好きよ」
夕呼は口元を僅かに吊り上げた。
「現状、具体的な正体は不明。艦艇なのか構造物なのか、生物なのかすら断定できてないわ」
「ただ――」
そこで彼女はモニターの一部を拡大する。
そこには、複雑な波形データが表示されていた。
「その謎のシルエット群から、微弱な電波信号を観測したのよ」
「電波?」
「ええ」
夕呼は腕を組む。
「つまり、少なくとも“意思疎通”を前提とした活動をしている可能性が高い」
「完全な自然現象や単純生物群って線は薄くなったわけ」
「...宇宙人、ってことですか?」
「さあね」
夕呼は小さく鼻を鳴らす。
「とりあえず、こっちじゃ便宜上【X】って呼んでるわ」
「未確認存在にいちいち正式名称考えるの面倒だし」
「X...」
武は再びモニターを見る。
ぼやけた艦影。
だが何故か。
それを見ていると、胸の奥がざわついた。
理由は分からない。
だが、モニターに映る“X”を見ていると、胸の奥が妙にざわついた。
得体の知れない不安。
あるいは――既視感にも似た感覚。
武はその感覚を振り払うように頭を掻く。
「あ、でも思ったんですけど」
「なによ」
「そのXって、もし意思疎通できる相手なんだったら...こっちからコンタクト取るっていうのはアリなんですか?」
夕呼は「当然でしょ」と言わんばかりの顔をした。
「既に考えてるわよ」
「現在進行形で準備中」
「マジですか」
「マジ、方法は二つ」
夕呼は指を二本立てる。
「一つは通常の通信シグナルを用いた接触」
「もう一つは――霞のESP能力を利用した、直接的精神感応」
「ESP...」
武は思わず苦い顔をする。
この世界では今更珍しくもない話だが、改めて聞くとやはり現実感が薄い。
「へぇ~...って、そういえば霞ってもう動き回って大丈夫なんですか?」
武と霞は、あの観測デッキで倒れた後、同じ病室へ搬送されていた。
だが武が目を覚ました頃には、霞は既に病床を離れ、夕呼の補佐へ回っていたらしい。
「ぴんぴんしてるわよ」
夕呼は呆れたように肩を竦める。
「検査結果もほぼ正常。むしろ、あんたより回復早かったくらいだわ」
「うっ...面目ないです...」
「まったく。白銀も少しは霞を見習いなさい」
「善処します...」
武が肩を落としていると、夕呼はさらりと続けた。
「ちなみに、そのコンタクト任務。あんたにも手伝ってもらうから」
「...へ?」
数秒遅れて、武の思考が停止する。
「えっ!? いやいやいや、なんで俺なんですか!?」
武は思わずベッドから身を乗り出した。
夕呼はそんな反応を見ても、まるで気にした様子もない。
「だって暇でしょ、あんた」
「雑!!」
「それに、あんた一応この基地じゃ貴重な“現場慣れしてる人材”なのよ?」
「いや、それ衛士としてって意味ですよね!?」
「大差ないわよ」
「ありますって!」
夕呼はやれやれと言いたげに溜息を吐く。
「安心しなさい。別にあんた一人でで宇宙人と会話しろなんて言わないわ」
「主な役目は護衛兼、現場対応要員」
「そもそもあんた、別世界から転移してきたことがある上に、“妙な知識”まで持ってるじゃない。補佐役にはうってつけよ」
「──それに、もしもの時に現場で即応できる人員が欲しいだけ」
「...つまり危険役じゃないですか」
「察しが良くて助かるわ」
「助かってるの俺じゃないですよね!?」
武が抗議すると、夕呼は口元を吊り上げた。
「でも、あんた気になってるんでしょ?」
「うぐっ...ま、まぁそうですけど...」
図星だった。
未確認存在“X”。
木星宙域に突如現れた謎の存在。
そして、自分の中に残る妙な既視感。
武自身、その正体を知りたいと思っていた。
「素直でよろしい」
夕呼は満足そうに頷く。
「ちなみに、もう準備は始まってるわ」
「早っ!?」
「こっちは時間との勝負なのよ。ほら、分かったらとっとと管制室へ向かいなさい!」
「うわっ、ちょ、ほんっと急だなぁ~……!」
夕呼は半ば強引に武の腕を引っ張り、そのまま研究室の出口へ向かう。
武は引き摺られるようにして付いていった。
夕呼が勢いよくドアを開けようとした、その瞬間だった。
こちらが開けるより早く、自動ドアが左右へ開く。
「いやぁ~、どうもどうも。眠りのプリンス様がお目覚めになったようで何よりですなぁ」
軽薄そうな笑み。
芝居掛かった口調。
人を食ったような態度で現れた男を見て、夕呼が露骨に顔をしかめる。
「...チッ。こんな忙しい時に何の用よ」
現れたのは、鎧衣左近。
帝国情報省外務二課長。
武からすれば、“なんかものすごく偉い人”くらいの認識しかない人物だ。
オルタネイティヴⅣ頓挫後も、左近は何かと夕呼へ便宜を図っていたらしく、その関係で武とも顔を合わせる機会が増えていた。
「おやおや、随分なご挨拶ですな博士」
左近は大袈裟に肩を竦める。
「本当であれば、ここで花咲く優雅な会話でも楽しみたいところなのですが...」
そこで彼の表情から、わざとらしい笑みがすっと消えた。
「貴女の言う通り、私も非常に忙しい身でしてね」
研究室の空気が一瞬で変わる。
武も無意識に表情を引き締めた。
「...単刀直入に申し上げます」
左近は静かに告げる。
「佐渡島ハイヴより、異常増殖したBETA群が本州方面へ移動を開始しました」
「なお、合衆国側は“引っ越し祝い”としてG弾を二、三発ほどプレゼントする予定だそうですよ」
この小説を読んでいただき、本当にありがとうございます。
改めて実感していますが、小説を書くというのは想像以上に難しいですね~...。
現在は、原作設定との食い違いが出ないよう、各種資料や解説サイト、考察動画などを確認しながら執筆を進めています。
(ちゃんと書けているといいのですが...)
もし
・「ここの設定は原作と違う」
・「この描写は少し不自然かもしれない」
・「誤字脱字がある」
など、お気付きの点がありましたら、ぜひ遠慮なく教えていただけると嬉しいです。
感想やご指摘をいただけるだけでも、とても励みになります。
これからも少しずつ頑張って書いていこうと思いますので、よろしくお願いいたします。