ここは呆れかえるほど平和な国、プププランド。
はるかぜが吹き、花が咲き誇り、食べ物が溢れる場所。
どこまでも緑の草原がなだらかに続くなか、とある一人の若者が陽気に包まれ、すうすうとお昼寝タイムを過ごしていた。
星のカービィ。
ピンクで柔らかまんまる、短い手足。食いしん坊でお気楽者、悩みのないヤツ。
さっきはお昼ごはんを山盛り食べて、現在は絶賛消化中だ。
鼻の辺りに蝶が止まって羽を休める。
──しかしそれはすぐ、何かを察知したかのように飛び立った。
真上を通り過ぎた丸い影から四角いモノが手放され、ひらひらと風に煽られカービィの額に被さる。
「……ぽよ」
目をこすって視界を開くと、一通の封筒が頭に乗っかっている。
手にとって開けてみると、ピースサインのハンコと共に文章が書かれていた。
『カービィへ 今日、マホロアが見つけてくれた楽園「エデン」でくいだおれパーティーを開くぜ! さすがはベストフレンズだよな。入口はデデデ城上空。待ってるぞ! デデデ大王』
「!!」
プププランドの自称王様、デデデ大王からの招待状だ。
さっき食べまくったばかりにもかかわらず、カービィの瞳は星空のように煌めいて、口からは涎が滝のように溢れかけていた。
手紙への答えは、当然決まっている。
「ぱーてぃー、ぱーてぃー!」
大喜びで手紙を放り出したカービィは、天へ両手を挙げて叫ぶ。
「わーぷすたー!」
すぐさま空の向こうでピカリと一点が光り、光条と化した。
数秒後には彼の前に星の形をした乗り物『ワープスター』が浮かび、主人の搭乗を待っていた。
カービィがワープスターに飛び乗ると同時、それは凄まじい速さで地上を飛び出した。
デデデ城は高い山の上にある。
カービィは鼻歌を歌いつつ上空へ高度を上げ、城へ一直線で駆け抜ける。
デデデ城がはっきり見える頃合いになると、まるでカービィを待っていたかのように、城上空に星型の穴が空間を裂いて開いた。
城を丸ごとすっぽりと包めそうなほど巨大なものだ。
「わーい!」
カービィは待ってましたとばかりにワープスターの出力を上げ、空の色とはおよそかけ離れた黒紫色の渦巻く星模様へ迷わず飛び込んだ。
ワープスターは、闇と星が川のように何処かへ流れゆく一直線の空間へ出る。
異空間ロード。
次元を越えてポップスターからずっと遠くへ繋がる道だ。
カレー。パフェ。ケーキ。だんご。オムライス。かつ丼。トマト。アイス。おむすび。
頭のなかに現れては消えていく、たべものの幻影。
そんな期待に胸躍らせていると。
「!」
突如、カービィの身体が餅をこねるように様々な形に伸び縮みして、そして元に戻った。
「ぉよ?」
変化はそれだけに留まらなかった。
何だか、今ならいつもより大きなモノを食べられる気がする。
背丈を超えるりんごの山も、いや、城くらいに大きなケーキでさえも!
「んぐ……」
想像しただけで、カービィの口端から涎が垂れる。
そういえば、前に『新世界』に行ったときもこんなことがあった。
──きっと、デデデかマホロアがくれたプレゼントだ!
「わぁいっ!!」
能天気なカービィはそう早合点しつつ、先を急ぐ。
やがて光が見えてきた。いよいよ異空間ロードを抜ける。
カービィが目を輝かせて勢いのまま飛び出たその先は──
鉛色の空だった。
「ぉよ?」
──ここがパーティー会場?
あるのは雲だけで、たべものなど一つも見当たらない。
「■■■■■■■■■」
戸惑うカービィは背後の無機質な音に振り返った。
そこにいたのは、赤い目をした無数のキカイたち。ポップスターでは見慣れない、なんだかごちゃごちゃした姿だ。
それらの目に、一斉に光が集う。
「わっ!?」
キカイたちは、予告もなくビームを撃った。光の雨が殺到する。
対応する隙もなくワープスターは四方八方から直撃を受け、星屑となって砕け散った。
爆煙のなかから、丸い身体が地上へ落ちてゆく。
ぱちぱちと瞬きした彼の視界に、一面に薄暗い色が垂れこめる廃墟が映った。
そのなかで、ぴかり、ぴかりと、光の筋が二つの陣営から互いに飛び交っている。
キカイたちはカービィに興味を失うと、戦場へ無数の群れを成して飛び込んでいった。
*
鉛色に塗り潰された空に、一筋の流れ星が光る。
それは通常のそれより妙に明るく、途中で燃え尽きることもなかった。
「……?」
軍服を着た若い短髪の男は、軍帽を上げて端整な顔を覗かせて眉を顰めた。
「指揮官」
日頃から聞き慣れた冷静な声で、彼の思考は現実へと急速に引き戻された。
「来たか、ラピ」
「はい。12時方向にラプチャーを確認しました。指示をお願いいたします」
振り返った先では、薄茶色の長髪に黒い軍帽を被った少女──ラピが、千切れたパイプに身を隠しつつ、凛とした表情でアサルトライフルを構えている。
すぐさま、男は自身の役割を果たすべく口を開く。
「ラプチャーの編成は?」
「小型多数。セルフレス級とサーヴァント級の混成部隊です」
「では、前衛で敵の足を止めろ。壁役がいれば最優先で頼む」
「了解。アーマード3体へ攻撃を集中します」
廃墟広がる地平線に行き交う無機質な赤い眼の群れが、こちらを一斉に見つめて蟻のように這い寄ってくる。
あれらこそ、人類を殺戮し地下に追いやった敵『ラプチャー』。
そこへ向け、ラピが慣れた手つきで迷わず引き金を引く。
乾いた発砲音の直後、前方数百mでバリアを張る金属の巨人たちに、次々と風穴が開いた。それらが無機質な呻きをあげて倒れると、彼らの後方から一斉に光弾の雨が殺到する。
ラピは動じず、遮蔽物で射線を切りつつ的確な反撃を加える。爆発を背景に落ちる薬莢が、ひび割れたアスファルトの上でリズムを刻む。
だが、敵は前方だけではない。右遠方に広がる瓦礫の山の陰から、新たな影が飛び出した。
「アニス、右翼の飛行型を頼む!」
「あーもう、懲りない奴らねまったく!」
新たな敵を迎え撃つべく、鮮やかなイエローとブラックのジャケットが翻った。
薄暗い戦場に見合わないブロンドボブカットの少女が、その華やかな姿にはあまりに無骨で大きいロケットランチャーを軽々と担ぎ上げる。
「6体ね、1人でやれるわ!」
彼女が放ったロケット弾は歩兵用武器にもかかわらず戦車砲並の爆発と衝撃をもたらし、ラプチャーの群れを一網打尽に吹き飛ばした。
指揮官は爆風に頰を撫でられつつ、赤い光に気づき視線を素早く左方へ向ける。
「ネオン、左翼から自爆型が接近!」
「はい、師匠! 準備は万端! 私の火力を見せてさしあげます!」
涼しげな白い軍服に身を包む赤縁メガネの少女は、服と同じく白いショットガンのポンプを既にスライドさせていた。
有効射程距離にラプチャーが入った瞬間、彼女の瞳の奥が燃え上がるように光った。
「火力、火力ゥ~ッ!!」
不敵な笑みと共に銃口から弾き出された散弾が、突進するラプチャーたちの胴体を貫いて吹き飛ばす。
老朽化した建物の合間を縫って交差する弾と怒号。幾度も起こる爆発。そして噴き上がる硝煙。そこで繰り広げられる、機械仕掛けの乙女たちと機械仕掛けの異形たちの殺し合い。
これが、この世界の地上における日常風景だった。
*
数時間後、雲間からわずかに見える夕日の下で戦闘は完了した。
「クリア。特殊別働隊『カウンターズ』、前哨基地へ帰投します」
「はぁ~、終わった~」
ラピの報告を受けた途端、アニスがロケットランチャーを 背負い直して伸びをする。
ネオンは嬉しそうに、一つの補給品ケースを指揮官へ振ってみせる。
「いや~、今日は、いつにも増して火力の飛び合う日でしたね!」
「こんな日が続くのは勘弁だがな」
「では、前哨基地に帰還しましょう。アニスかネオン、そこにあるケースを」
ラピが先頭から背後にあるケースを目で示すと、アニスは唇を尖らせる。
「え~。まっずい携帯型パーフェクトしか残ってないケースなんて、持って帰る意味ある~?」
「意味はあるわ。中央政府に弾薬その他装備品の使用報告をするうえで……」
「あーはいはい分かってる分かってるー」
アニスが面倒そうにケースを持ち上げる一方、ネオンが余った一つのケースを見やる。
「うーん。でもケースは5つ。私とアニスで両手が塞がっちゃいますねぇ」
「……では、私が持とう」
指揮官に、3人の視線が集中する。ラピが前に進み出て、
「指揮官、私が持ちます。そういう役目はニケが……」
「君たちは戦闘という役目を果たした。それに、今日で一番損傷が酷かったのは君だろう」
ラピは左腕にある止血跡、その隙間に覗くパイプ類を見つめ、少し目を伏せる。
「……ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます」
「お~? ラピ、ちょっと顔紅くなってな~い?」
「ヒューヒュー!」
いつも通りの空気が戻ってきたその時、指揮官の背後でカタン、と軽い音が鳴った。
「……ん?」
振り向いても、そこにあるのは蓋の閉まった補給品ケースだけだ。持ち上げてみても、特段重い感じもしない。
──流石にこの軽さ、動物が入り込んだわけでもあるまい。
指揮官が向き直ると、ラピは同僚を振り切るようにさっさと歩みを進めていた。
「2人とも、ふざけるのはやめて。指揮官、暗くなる前に移動することを推奨します」
「……そうだな。そろそろ行くか」
そのままカウンターズは帰途に就いた。
前哨基地へ持ち帰られたケースは溜まりに溜まった疲労とともに、半ば投げ出されるように倉庫に置かれた。
*
翌日。
その日もカウンターズは早朝から地上へ出動、補給ルート確保と物資輸送を行い、夕方、前哨基地へ帰投した。
「あー、今日も私、お疲れ様ーっ、とっ!」
アニスは撃ち尽くして軽くなったロケットランチャーを隣に置くと、靴下を脱いで放り捨てつつソファに飛び込んだ。
「アニス。靴下はいい加減、脱ぐときくらい洗濯カゴに入れて」
「いいじゃないの~。この解放感くらい味わわせてよね~」
寝っ転がって優雅に足を組むアニスの手には、さっそくどこから取り出したのか、彼女の好物である炭酸水の瓶が握られていた。
「ここ最近ずーっと、弾薬、食料の運び出しと防衛戦ばかりだったじゃない。いくらニケでも筋肉痛になっちゃうわよ」
「あれだけの量の物資を送られたのだから当然でしょう。それに、中継地点への輸送は明日で完了。あとは装備の点検さえ済めば、すぐ出発できるわ」
ラピは放り捨てられた靴下を洗濯カゴへ回収しつつ、事も無げに告げた。
その言葉に、ネオンの眼鏡がキラリと光る。
「つまり、いよいよってことですよね!」
「……ああ」
指揮官は、テーブルに広げた地図の一点──幾重にも赤丸を重ねた印へ、視線を落とした。
当然だが、カウンターズは目的もなく物資を運んでいるわけではない。現在、彼らはとあるものを求めて準備を進めているのだ。
「アンチェインドの研究所……何としてでも辿り着いてみせる」
地図をなぞる指先に、無意識に力がこもっていた。
「よろしければ、出発日を前倒しにしましょうか。ここに残っているのは、少量の弾薬と
ラピの提案に、指揮官は厳しい顔をして首を横に振った。
「いや、死地と噂の場所へ向かうんだ。補給は万全にしていこう」
彼は、ラピ、アニス、ネオン、一人ずつにしっかりと視線を合わせた。
「いざという時に弾が足りず、
それを聞いたラピは、むしろ呆れたように溜息をついた。
「……指揮官。嬉しいお言葉ですが、中央政府の前で同じことを口走らないよう、お気をつけください」
「そうですよ! 師匠の夢は、いまの人類にとってはまだ火力が高すぎますからね!」
「あ、ああ……気を付ける」
「無駄よ、2人とも」
アニスは炭酸水の栓を開けつつ、話をばっさりと切り捨てた。
「指揮官様の『夢』にかける覚悟は、たかだかニケ風情のために、腹に穴を開けられても諦めないくらいキマりきってんだから。いざとなれば総司令官だってぶん殴るわよ」
「いや、流石にそこまでは……」
「やりかねませんよね、師匠なら!」
ネオンは疑いもしない。ラピまでも、無言で暗に肯定を示す。
一方のアニスは既に容器を空にして、次の補給に向かっていた。
「さーて。おかわりおかわりーっ……と……」
冷蔵庫を開けたアニスの腕が、ぴたりと止まる。
「……ちょっと、ネオン。こっちに来て」
「な、なんですか? もしかして先週、冷蔵庫にあったプリンを食べたこと怒ってます?」
「あ。あれってあんたの仕業だったの」
「おおっと。そろそろ愛銃の点検を……」
立ち去ろうとしたネオンの肩を、笑顔のまま額に血管を浮かべたアニスの手が鷲掴みにした。
「あぁそ~。まだそれはいいとして……
ラピと指揮官はほぼ同時に、書類に落としていた視線を思わず上げた。
「全部……?」
「え、あの1週間分あったのを、全部か?」
疑いの眼差しを受けるネオンは、じっと目を閉じる。
「聞き捨てなりませんね……」
次の瞬間、彼女は凄まじい形相で振り返り、肩を掴むアニスの腕を掴んだ。
「私だってうら若き乙女です! そんなアニスみたいな図々しい真似するわけありませんっ!! ぜ・っ・た・い・に!!」
「はぁ? 誰が図々しいですって!?」
アニスは手を伸ばしてネオンの頭をひっつかみ、扉を開けた冷蔵庫の前へ押し出した。
「んならその目で見なさいよ、この惨状をッ!!」
「んおっ、こ、これは!?」
指揮官とラピがその背後から覗いてみると、確かに冷蔵庫に詰めてあった食品は綺麗さっぱりなくなっている。
その代わり、庫内の真ん中に直径20cmほどのピンク色のボールが居座っていた。
「ほら! どうせ火力かなんか言って、またわけわかんないモノ買ったんでしょ!?」
ネオンは首を傾げ、メガネをカチャリとかけ直した。
「知りませんよ。何ですかこれ」
「すっとぼけんのもいい加減にしなさいよ。こんなことすんのはあんたくら……」
アニスの言葉は最後まで続かなかった。
いきなり、ボールがひとりでに振り返ったからだ。
「ぽよ?」
青く澄み切った瞳。丸っこく短い手。赤い楕円形の足。
咀嚼する口からは、保管されていた保存食『パーフェクト』が覗いている。
子どもでも数秒で描けそうなピンク玉は、人間を、ニケたちを、ポカンとした眼差しで見つめ上げた。
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去年ニケにハマってからというもの、「ここの展開にカービィたちがいたら」という想い、そしてニケたちとカービィたちを一緒にわちゃわちゃさせたい欲が出てきたので書き始めました。
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