音速対決の幕は、暗雲を切り裂く一つの雷鳴で切って落とされた。
感情のない機械の瞳が、白き翼を追う。
対するダイナブレイドは目に怒りを宿し、翼を光らせると急接近を仕掛ける。
その進路に、狙い澄ましたように雷が落ちた。
「グウゥゥッ……」
翼が電撃に撃たれ、怪鳥の巨体が大きくよろめいた。
デデデが、新たにできた火傷を見て舌打ちする。
「なるほど、こいつが傷を作った犯人か。そりゃ苦戦もするぜ」
「では、こうすればいかがでしょう」
クラウンがユア・マジェスティを頭上へ構え、シールドを展開。
一同を、ダイナブレイドの翼ごとすっぽりと覆うほどに出力を上げる。
次の雷撃がシールドに直撃するが、放電は弾かれて霧散した。
「お、お嬢様、どうかご無理なさらぬよう!」
「問題ありません。王が倒れることなど、決してありえませんから」
それを見たストームブリンガーは、即座にバルカン砲とミサイルによる猛攻に切り替えた。
さらに、小型ラプチャーが壁を成して援護する。未だ、近づくには障害が多すぎる。
「シールドを張っている分、私は攻撃には加われません。その場合は……」
「言われなくても分かってるぜ。おい、バンワド」
「了解です!」
デデデがハンマーを小さく振るうと、頭の部分がハッチのように開く。
そこから飛び出した刺々しい物体を見て、チャイムは目を丸くする。
「て、鉄球……? それになぜ顔が……」
「ゴルドー第一球、いっきまーす!」
「おう!」
チャイムの困惑をよそに、バンダナがトゲ鉄球を軽く宙へ放り投げる。
デデデはハンマーでそれを、バットの要領で振り抜いた。
カキィンと音を立て、砲弾のごとく飛び出すゴルドー。
それは右翼のタレットにサイズに見合わぬ勢いで突き刺さり、爆発を起こした。
「おっしゃ、ホームラーン!」
「まだまだ行きますよ~!」
連打、連打、連打。
そのたびにラプチャーの群れで、爆発の連鎖が巻き起こる。
「大王さま、次!」
「そぉれ、もういっぱーつっ!」
「……なんだか、こっちが真面目にやってるのが馬鹿らしくなってくるのだ」
景気の良い打撃音と爆発音が交互に響く戦場を前に、横にいるチャイムは、ため息交じりに堅実な銃撃で助力する。
シュール極まりない光景だが、弾幕は確実に薄くなった。デデデが巨鳥の背を叩く。
「よし、ダイナブレイド! 積年の恨みを晴らしてやれ!」
「安心してください。雷は私が防いでいますわ」
ダイナブレイドは頷くと、クラウンのシールドで雷を弾きつつ猛追、すれ違いざまに翼で斬りつけた。
ストームブリンガー左翼にあったタレットが、轟音とともに火柱を上げて沈黙する。
翼そのものもかなりの深手を負い、目に見えて飛行速度が低下した。
「やりぃっ!」
デデデは振り向き、ガッツポーズをとった。
「さ、これでさっさと決めっぞ!」
次はデデデが自身でゴルドーを投げて、ハンマーで打ち込む。
狙いは胸中央で不気味な紫色に光るコア。
だが、コアへ届こうとしたゴルドーは直撃寸前、半透明な膜に弾かれた。
「なにっ!?」
「バリアですよ、大王さま!」
「はぁ~!? 全く、悪足搔きもいいとこだぜ!」
「……」
マリアンが目を細め、一緒にコアへ照準を合わせようとする。
「私の『殲滅モード』なら、あのバリアも……!」
あれは敵だ。自分の大切な場所を奪おうとする、敵!
そう念じて狙おうとする。だがその途端に視界が歪み、胸が息苦しくなり、手が震えてしまう。
──身体が、脳の命令を拒否している。
マリアンは、息を荒くしてその場にへたり込んでしまった。
「マリアンさん、大丈夫ですか! しんどそうですよ!?」
──なんで、こんな時に。デデデと出会った時『王国を渡さない』と啖呵を切ったのが茶番のようじゃないか。
バンダナワドルディの気遣いすら、今のマリアンにはとても痛く感じた。
そこで突然、ストームブリンガーが空中で静止した。
落雷の音しか聞こえない、不気味な空白の時間が流れる。
「ん、攻撃が止んだぞ。どうしたんだ!?」
ストームブリンガーの翼下部にあるジェット機構が速度を速め、熱を帯び始める。
チャイムの顔が、サッと青ざめ始めた。
「嵐を起こす気なのだ!」
「……嵐だと?」
「聞いたことがある。ストームブリンガーの嵐を食らって生きて帰った者はいない、と……今のうちにコアを完全に破壊するしかないのだ!」
「おいおい、コアの前にバリアがあるって分かったばっかりじゃねーか!」
「だから今のうちに、ありったけ撃ち込んでそれを破るしかないのだ!」
急いで一同は攻撃を再開する。
ただタレットが無くなったとはいえ、それを補うように小型ラプチャーの取り巻きは増える一方。
デデデは引き続き応戦しつつ、マリアンに目線を寄越した。
「マリアン、そろそろいけるか!? お前も手伝ってくれると助かるんだが!」
「……すみません。私には、撃てません」
「んえぇ!?」
素っ頓狂な声を上げるデデデに、マリアンは重い口を開いた。
──こんなことなど絶対に言いたくなかった。だが、言うしかない。
「私……前は、ラプチャーの……仲間に、されてたんです。その本能が残っていて、あまりに多い数を撃とうとすると苦しくなって──」
ぼろぼろと涙が零れ落ちた。もう、誰の顔もまともに見ることができない。
「私は、もう、足手まといにしかなりません。皆さん。私を見捨てて逃げてください。このままじゃ、全滅します。それだけは、私……絶対に嫌です!」
「……なるほど、事情は分かった。お前は今回そこで休んどけ」
「え?」
顔を上げると、デデデは既に戦場へ向き直っていた。
「いいか、今度からそういう大事なことは先に言え。土壇場でいきなり言われると、こっちが困るからな!」
「……」
「そんじゃいっちょ、やらいでか!」
返答はそれだけだった。
責めるでもなく憐れむでもなく、ただ次の手を考えている。
「ということで、バンワド!」
「はいっ、大王さま!」
「いってこーい!!」
次の瞬間、バンダナワドルディは頭をひっつかまれ、デデデの手によって天高く放り出されていた。
「あっ、そういう感じーッ!?」
いくらなんでも、というマリアンの心配をよそに、彼は空中で見事に姿勢を整える。
槍を握り直すと、そのままストームブリンガーへ向かって真っすぐ突っ込んだ。
「もう、無茶言うんだから、大王さま……はッ!!」
彼は、コアを覆うバリアへ自身の槍を突き立てた。
「なるほど。硬いは硬いけど、ソコさえつけば起動不全くらいにはできそうだね」
目にも止まらぬ槍捌きで、取り巻きのラプチャーを踏み台にして各所を突いてゆくバンダナワドルディ。
その構えられた穂先が、バリアの僅かな隙間から発生装置を巧みに捉える。
一突きごとに少しずつ、しかし確実にバリアが剝がれていくのが目に見えて分かった。
「や、槍ひとつで……!?」
「おう。アイツは、武術にかけちゃポップスター随一だ。ちょいと見て触れただけで相手の弱点を見抜いちまう」
「……デデデがやたらと目につくが、あやつも大概なヤツなのだ」
チャイムもそう呆れつつ射撃で援護する。その場に撤退という二文字など、もはや存在しなかった。
「なんで……」
一方、マリアンとしては不思議な気持ちでいっぱいだった。
「なんでみんな、私を責めないんですか。見捨てないんですか」
「へっ。オレ様は負けたくねぇだけさ。一度飯を囲んだだけでかつての敵とダチになっちまう、あの坊主にな!」
デデデは、引き続きゴルドーをハンマーでかっ飛ばしつつそう笑う。
「マリアン」
次にクラウンが呼んだ。いつも通りの、気品に溢れた静かな声で。
「あなたは、ラプチャーと戦いたくないのですね?」
「え、なんでクラウンが……」
「民をよく見ておくのが、王の役目ですから」
それ以上の追及はない。
「あなたが何者であろうと、王国の民であることに変わりはありません。たとえあなたがラプチャーとして王国を去ったとしても」
心の動揺は、いつの間にか収まっていた。
そこで、マリアンはやっと気づけた。
──狙いが定まらなかった本当の原因は、孤独感だったのだと。
「よし、これで!」
ちょうど、バンダナワドルディの最後の一突きが、バリアに巨大なヒビを入れる。
バリアは、音を立てて弾けた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■!!」
「わっ」
危機を察知してか、ストームブリンガーがバンダナワドルディを振り払って急上昇する。
銃撃もゴルドーも届かない、遥か天上。そこから溜めたエネルギーを解放しようと、翼を最大限まで展開していた。
落ちてきたバンダナワドルディを両手で受け止めるも、デデデは焦りを顔に滲ませつつあった。
「おい、トンズラこくか!? さすがにあれじゃ間に合わねぇぞ!」
ダイナブレイドも後を追うが、距離を保つので精一杯だ。
「どれ程の威力か分かりませんわ! 皆さん、衝撃に耐える準備を!」
クラウンはシールドを強く張り直すが、瞳の奥にやや焦りの色が宿っている。
「……皆さん、迷惑をかけてすみません。そして……ありがとうございます」
その場にいる全員が、マリアンへ振り向いた。
「今なら、私……やれそうです」
彼女の顔は、先ほどが嘘のように落ち着いていた。いったん目を閉じ、赤い瞳を開く。
ニケたちから『ラプチャーの証』として恐れられるその色はいま、そのかつての同胞を破壊せんと輝いていた。
マリアンはマシンガンを静かに持ち上げ、スコープを覗いた。
「殲滅モード、移行」
視界にある
「もう、誰も傷つけさせません」
引き金を引いた。
「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」
無限の弾丸が裁きの雨となって、全てのラプチャーを等しく貫く。金属質の悲鳴があちこちから響き、爆発の華が一面に咲いた。
ストームブリンガーもコアを幾度も撃ち抜かれ、耐え切れず爆散した。
「すっげぇ……」
思わず、デデデが感嘆の声を漏らした。
金属の破片が落ちていく。
穏やかになった雲の間から、太陽が再び姿を見せた。
「よくやりましたね。マリアン」
「……ったく。やればできるじゃねぇか」
並び立つ2人の王が、青空を背にマリアンへ笑いかけていた。
彼女は、首を横に振った。
「いいえ。本当にすごいのはみんなです」
いま、ここに嵐は去った。
*
ダイナブレイドは山頂に向かって、静かに飛んでいく。
戦場となった空が遠ざかるにつれ、マリアンの耳に、かすかな音が届いてきた。
ぴよぴよ、ぴよぴよ。
ゆっくりと山頂に着陸して面々が降りたのを確認すると、巨鳥はあるところを覗き込んだ。
マリアンたちもその岩陰にあるものを覗き込み──目を丸くした。
「ダイナブレイドの……子ども?」
岩棚に作られた広い巣のなかに、綿毛のような羽毛に包まれたまるっこい雛が3羽いた。
親鳥を見上げて小さな羽を必死に動かし、甲高い声で鳴き続けている。
「ま、まさかこやつ……メスだったのだ!?」
「キェッ!」
「い、いでででっ!」
ちょうど巣の正面から覗き込んでいたチャイムは、ダイナブレイドに三つ編みを咥えられて引きずり降ろされた。
「がっはっは。今まで気付かなかったのか~?」
「そんな余裕があったら苦労しないのだ! ああもう、もうちょっと優しく扱ってほしいのだ!」
からかうデデデに、顔を真っ赤にしながらぼさぼさになった髪を直そうとするチャイム。
その傍らでマリアンは、母性の眼差しで雛とさえずりを交わし合う巨鳥に目を細めた。
「なるほど。最近ダイナブレイドが凶暴だったのは、ラプチャーから雛を護るためだったんですね」
「だがよ、疑問が残るぜ。なんでアイツは今日、あんなに城を執拗に攻撃したんだ?」
一同が唸るなか、マリアンの懐から、焼いた芋虫が落ちて巣の縁に転がった。
「あ、私の非常食が……」
「ひーっ、もう見たくねーッ!」
デデデが青ざめて目を塞ぐ一方、芋虫は巨大な嘴に拾い上げられた。
「ぴいぴい!」
ダイナブレイドが芋虫をヒナたちの前に落とすと、彼らは焼き芋虫を取り合うように啄み始めた。
拙いながらも食欲旺盛に飲み込むその様子を、ダイナブレイドは優しい目で見守り続けている。
それを見たチャイムが、はっと目を丸めた。
「そうか、分かったのだ。ダイナブレイドが我々の城を襲った原因は……」
「前にヒナへの餌やりのため作物を荒らしまわったことがあったので、もしやとは思いましたが……やっぱり予想通りでしたね」
そのバンダナワドルディの言葉で、やっとマリアンは、デデデがダイナブレイドの肩を持った意味を理解できた。
「なるほど。あの時は城外にまで虫の香りがしたから、いい餌を見つけたと思ったんですね」
一方のデデデは、眉間に皺を寄せている。
「……あ、ありゃ香りというより臭いだったけどな」
──ダイナブレイドは、ラプチャーから雛を守り続けていた。絶え間ない群れを相手に空腹のまま、何日も、何週間も。
マリアンは静かに微笑んで、巨鳥の焼けた翼を撫でた。
「あなたも、大切なもののために戦っていたんですね」
「クエエェ」
ダイナブレイドは落ち着きを取り戻した瞳で、マリアンに短く返事をした。
それは謝罪のようでもあり、感謝のようでもあった。
一方のバンダナは、心配そうに傷ついた巨体を見上げる。
「でも、このままだと心配ですね。ディメンションホールがある限り、またラプチャーがやってくるかもしれません」
そこで、クラウンが前に進み出て口を開いた。
「では、こうするのは如何でしょう。ダイナブレイドを我がクラウン王国の民とするのです。王国の防壁は、ラプチャーの信号を遮ります。彼女も安心して雛を育てられますわ」
チャイムが、顔を輝かせてぽんと手のひらを叩いた。
「なるほど! こちらとしても、彼女がいれば並大抵のラプチャーは目ではありません。さすがはお嬢様、素晴らしきご慧眼でございます!」
「フン、なるほどな。さすがのオレ様でもすぐには思いつかなかったぜ」
デデデ大王は感心したように呟くと、ダイナブレイドの顔を見上げた。
「ダイナブレイド。テメェにとっても悪い話じゃなさそうだが、どうだ?」
「クェェ!」
「お、どうやらいいらしいぜ」
マリアンにはそのことが我が事のように嬉しく、思わず雛たちと顔を見合わせた。
「……よかったですね!」
分かっているのか分かっていないのか、彼らは飛び跳ねてしきりに鳴いている。
少なくとも嫌がってはいないようだ。
だがデデデはすぐに笑顔を引っ込めて、クラウンに振り向く。
「クラウン。確かにテメーには王の素質があると分かった。だが、一つだけ聞かせてくれ。テメー自身にやりたいことはないのか?」
「やりたいこと、ですか?」
「ひたすら他人のために生きるなんて味気ねぇ。あるだろ、やりてぇことの一つや二つ」
「……」
クラウンは少し俯いたあと、顔を上げて微笑みを浮かべてみせた。
「王国を護ることです。そこに、大切なものはすべてありますから」
「はぁ~、わかってねぇわかってねぇ~」
やれやれという風に首を振るデデデを、チャイムはムッとした顔で睨む。
キョトンとするクラウンに、デデデはきりと眉を上げる。
「いいか、クラウン。王様ってのは、他人のことをハイハイ聞いてばかりじゃいけねぇ。ワガママを言って初めて一人前なんだ」
すぐさまデデデは決めた、とばかりにハンマーを地面に叩きつけた。
バンダナワドルディが、何か嫌な予感がしたのか「あ……」と眉間に皺を寄せる。
「よし、今からお前は『王見習い』。きらきらぼしをカービィに返すまでの間、このオレ様がテメーに直々、王様とはどうあるべきかを一から十まで教えてやる!」
ビシッと指を突きつけたデデデに、民と部下連中は目を見張ったあと、
「やっぱり、大王さまったらまーた余計なことを……」
「貴様ーッ! お嬢様にものを教えるなど何百万年、いや、何千万年早いのだ! お嬢様もここはビシッと……」
バンダナが呆れるあまりため息をつき、チャイムがこれで何度目か、目を吊り上げて叫ぶ。
一方のクラウンは動じもしない。
「
デデデは照れ隠しか、苦笑しつつ顔を背ける。
「ふん、しゃらくせぇそんなことくらいで……って、ちげーよ! み・な・ら・いー!!」
振り返って思いっきり突っ込んだデデデの頬を、チャイムは横から指で突いて押しのける。
「お嬢様、こんな戯言に聴く価値などございません! やはりこやつだけは王国から追放した方がよろしいかと!!」
「フン、お前ら風に言えば、これもいたいけな『民の願い』だろ! クラウン、オレ様の願いを叶えてみせな!!」
「貴様! それは願いではなく、ただの傍若無人なのだ!!」
互いに指を突きつけながら負けじとクラウンへ詰め寄るデデデとチャイムを見て、マリアンは、
「ふっ……あははは!」
思わず笑いがこみあげてしまった。
「な、なにがおかしいのだ、マリアン!」
「なんでも、なんでもないです。ただ、2人とも、ずいぶん仲良くなったなって」
「どこが仲良く見えんだよ、マリアン! あっこらチャイム、足踏むな、いってーだろ!」
マリアンにつられるように、クラウンは笑みを零してから、
「デデデ。その願い、叶えてみせますわ。あなたにとって王とは何か、存分に語ってみせてください。チャイムも、これからは彼と仲良くしてください」
「お、お嬢様ぁっ!?」
「ふふん、さすがはクラウン。度量にかけては一丁前ってわけだな」
デデデは満足げに腕組みして鼻を鳴らすと、人差し指をピンと立てた。
「いいか、まずは小さいことからわがままを言うといい。例えば国中の食い物ゼンブ食いたいとか、空の星ゼンブ集めたいとか……」
「あのー。それって、大王さまのわがままですよね?」
マリアンたちは共に語らいながら、王国への帰途に就く。
この世界でもっとも安心できる、あの居場所へと。
クラウン王国編はひとまずひと段落。またこの後も物語に絡んでくる予定です。
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