勝利の旅人:星のカービィ×NIKKE   作:Misma

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12.5話:蝕まれる楽園とキカイと

「ドロシー様。今日のお出かけ、どこへ行きますか?」

 

 真っ白な部屋の窓の前で、ティーテーブルを挟んで2人のニケが向かい合っていた。

 そう口火を切ったのは、白いワンピースを着た、金髪の短いポニーテールのニケ。

 ちょうど茶を飲んでいた当のドロシーは、ティーカップを丁寧にソーサーに置いて苦笑した。

 

「急かさないでください、ピナ。まだお茶会は始まったばかりです。それに、時間はたっぷりあるでしょう?」

 

「えへへ。地上を奪還してから、どんどんしたいことが増えてしまって」

 

 あどけない顔でぽりぽりと頬を掻く彼女を前に、ドロシーは満更でもない顔で少し思案を巡らせた。

 

「まったく、困った子ですね。では……あなたの一番やりたいことからやる、というのはどうですか?」

 

「ええ? 私のやりたいこと? うーんと……」

 

 ピナはドロシーの頭にある髪飾りを見つめると、「あっ」と声を上げた。

 

「では、町へお買い物しにいきませんか?」

 

「町……? いいですが、どうして」

 

 彼女は顔を伏せ、頬をほんのりと紅く染めた。

 

「はい。ドロシー様、ずっと私のためにそのアクセサリーを着けてくださっているので……あの、もしよろしければ……私もお揃いにしたいなって」

 

 ドロシーは眼を見開くと、もじもじし始めたピナの両手をすぐにつかみ取った。

 その腰は既に、椅子から浮き上がっていた。

 

「貴女がそうしたいのなら、ぜひ。仲間たちも誘ってみます」

 

「えっ、ゴッデスの皆さんも!? そんな大げさな……」

 

「もののついでです。彼女たちも、そろそろ貴女の顔を見たがっているはずですよ」

 

 ドロシーは微笑みながら慌てるピナの背を押して、部屋から出る。

 窓から、爽やかな風が吹き込んだ。

 

*

 

 かつてゴッデスと呼ばれた部隊のメンバーに連絡を取ると、ちょうど昼下がり、都合よく全員の時間が空いていた。

 待ち合わせの広場で、使い古しの黒い武装で腕を組んでいた剣士『紅蓮』が、つんとした顔でドロシーを睨む。

 

「全く。何を言い出すかといえば買い物とは。随分と気が抜けたな、ドロシー」

 

「おや。それではあなたは、これから一生振るいもしない刀を相変わらず素振りしているのですか? 健気なことですね」

 

「ほぉ。では、その成果をお前の鈍った身体で示してみせようか?」

 

 ピナがあわあわとする前で、相も変わらず両者が火花を散らしかけた、その時。

 そこに、狼のような赤髪にジャケットを着た大柄なニケ『レッドフード』が、両者の肩を両手で抱き込んだ。

 

「まーまーその辺にしときなってー。ほーれ、見られてっぞー」

 

 彼女が視線を横に寄越した先にいるのは、ゴッデスの元指揮官『アンダーソン』と部隊の元リーダー『リリーバイス』だ。

 

「まったく2人とも。人前で乱痴気騒ぎはよしてくれ。仮にも俺たちは英雄だぞ」

 

 指揮官がため息交じりにサングラスをいじるその横で、史上最強のニケが軍手に包まれた拳をこきこきと鳴らす。

 

「どちらかが1回でも手を出したら、喧嘩両成敗よ。いいわね?」

 

 仕方なく、両者はガンをつけ合いながら離れた。

 

「ほっ。もう少しで、町が滅茶苦茶になっちゃうところでした!」

 

 小さく可愛らしいみんなの妹『スノーホワイト』が胸を撫でおろす。

 聖女のような出で立ちの『ラプンツェル』が周囲に頭を下げまくったあと、ピナへも耳打ちする。

 

「ピナ、騒がしくしてすみません。ドロシーったら、平和になった途端に政治家の娘らしいわがままになって……」

 

 だが、ピナは首を振って満面の笑みで答える。

 

「とんでもありません! ゴッデスの皆さんと一緒にお買い物だなんて……私のような下っ端にとっては夢のようです」

 

 ドロシーは、その一言を聞き逃さなかった。彼女は真剣な顔でピナの両肩を掴み、引き寄せる。

 

「下っ端だなんて。そんな言い方は間違っていますよ、ピナ」

 

「え?」

 

「あなたも、他ならぬゴッデス。人類のために戦った、敬意と感謝を捧げられるべき英雄ですよ」

 

 ドロシーの言葉に笑みを浮かべこそすれ、反論する者は部隊にはいない。

 キョトンとしていたピナはやがて静かに、尊敬の眼差しでドロシーを見上げて敬礼した。

 

「……身に余るお言葉です。ありがとうございます」

 

*

 

 そこからは、いろんなお店を回っていろんなものを買った。

 仲間たちとどうでもいい、たわいない話をしながら、青い空と白い雲の下で。

 アクセサリー店を回るうち、やがてピナがあるものに目を付ける。

 

 それは、中心に天使の片翼を模った白銀のネックレス。

 

 ピナはそれを見つめたまま持ち上げると、隣にいたドロシーへ振り向いた。

 

「私……これにしようと思います」

 

「おっ。いかにもどこかのお嬢サマっぽいデザインじゃん」

 

「は、はい。ドロシー様は……特別なゴッデスの中でも、本当に特別な人ですから」

 

 そうはにかむピナを受けて、レッドフードはドロシーの肩をうりうりとつつく。

 

「……だってよ。ご本人サマはどうなんだ~ほらほらぁ~?」

 

 ドロシーはかあっと頬を染め、いたずらっぽい狼女の視線を睨みつける。

 

「もう、わざわざ聞かなくていいではありませんか!」

 

 彼女は次にピナを見つめると、その手ごと片翼のネックレスを包み込んで、そして笑った。

 

「当然です。これからそれは、あなたと私、そして、ゴッデスの永遠の証です」

 

 指揮官の奢りで買ってもらったそれは帰り道、ピナの胸元で燦然と煌めいた。

 途中で、ベンチに座って休憩する。

 じっとピナのアクセサリーを眺めていたドロシーへ、レッドフードが呼びかけた。

 

「今更だが……良かったな、ドロシー。みんな生き残れて」

 

「ええ。あなたも、本当に。あの時は死んだかと思いましたよ」

 

「へへ。ま、勝利の女神の名は伊達じゃねぇよ」

 

「もう、これからはあんな無茶なんて……しな……」

 

 そこまで来て、一日の疲れがたまったのかドロシーの瞼は重くなった。

 ふらついた肩を、ピナとレッドフードがともに支えてくれた。

 それを見てからつんと顔を背け、茶を飲む紅蓮。

 大量の袋を前に何を買ったのか聞くスノーホワイトから、必死に話題を逸らすラプンツェル。

 そんな彼女たちを、親のような視線で見守る指揮官とリリーバイス。

 

「……」

 

 幸せな気分とともに、ドロシーの瞼は閉じた。

 

*

 

「……」

 

 目が開き、真っ白な天井がいっぱいに広がった。

 視線を横に向ける。

 

 誰もいない。

 

 静かに、ベッドから黙って立ち上がった。

 化粧台に立ち、ヘアセット、スキンケア、メイクも欠かさず、純白のドレスに汚れがないか、ほつれがないかチェックする。

 何百回何千回と繰り返した作業を、彼女は無表情のままこなす。

 

 あの異星人たちがやってきてから、ドロシーは異様に夢見が良くなった。

 ──恐らくはあちらの世界にある『何か』の影響だろう。

 

 本当に毎日、幸せな夢を見る。

 大切な人と、仲間たちと、楽しいことをしたいだけする夢。

 そして、柔らかな朝日とともに目を覚まし、起き上がり。

 ──この世界が地獄であることを、思い出すのだ。

 

「……」

 

 楽園エデン。

 ドロシーが、アークに裏切られたニケと人間を集めて作った楽園。

 人間とニケとが対等に暮らす、支配も搾取もない箱庭。

 だがドロシーはリーダーでありながら、インヘルトとは一線を引いている。

 明確な対立こそないが、彼らは彼女にとって『手段』であっても『仲間』ではない。

 

 心の底から信じあえる『仲間』は、とうの昔に消え去ったから。

 

 だからこそ彼女は宇宙からの旅人たちと、アークから迷い込んだ蝶と、独断で密約を交わした。

 己の目的を、一つだけの目的を成就するためだけに。

 そして──蝶からはちょうど昨日、彼のことを教えてもらった。

 

「第三の異星人、カービィ……」

 

 ありえないほどのお人好し。仲間のために身を張ることを厭わない。ロード級ラプチャーでさえ、単独で撃破可能。

 ──改めて思い出してみても、現実味がない。彼の死ぬ姿が、まるで思い浮かばなかった。

 

「……なんだか……少しだけ、レッ──」

 

 口から漏れかけた言葉そのものに驚いたようにドロシーは目を見開き、ぎりっと歯を噛み締めた。

 ──そんなわけがない。そんなわけがない。そんなわけがない!

 

「彼女のような者は絶対に現れません。二度と、未来永劫に!」

 

 彼女はカーテンを、千切れそうになるほど荒々しく開け放った。

 清々しいほど青い空に、雲が流浪していた。

 あの、愛していたものに裏切られ、捨てられた日が鮮明に蘇る。

 

『人類最後の楽園。アークは皆さんを歓迎します』

 

 ドロシーの瞳には紫炎が燃えていた。その記憶を薪にくべるかのように。

 

 自分は亡霊だ。過ぎた過去に囚われる、醜い亡霊。

 そんなことは彼女自身が分かっていた。

 それでもなお、止まることはできなかった。

 

「ええ、いいでしょう。誰が来ようと受けて立ちます。何が何でも──」

 

 アークを、奪ってやる。

 たとえ噓吐きの異星人どもの手を借りてでも。カービィとやらが邪魔しにきても。

 だってあれは……アークは、本当は、自分たちが作り上げた楽園だったのだから。

 

*

 

「……幽霊ですって?」

 

 ハランは、ノアの震えた声を聞いて、思わず眉を上げて聞き返した。

 

「さっき地下1階のフロアを歩いてたら、ぞわわ~って感覚が背中に来てさぁ」

 

 防衛本能のせいか、彼女は一対の浮遊する盾をいつもより自分の方へ固めて寄せていた。

 

「ちっとも何にも見えないのに、確かに『誰かに見られてる』って感じがしたの。それで、その気配がいきなり近づいてくる感じがして! こう、避けたのよ!」

 

 ノアが腰をさっと低くしてみせると、イサベルが純粋な疑問で首を傾げる。

 

「最強の盾も使わずに?」

 

「そ、それは……盾を使うまでもないって判断しただけ!」

 

 慌てて言い直すノアを、仲間であるハランとイサベルは「ほぅ……」と静かに見守る。

 ノアはそれを感心と受け取ってか、腕組みをして薄ら笑いを浮かべてみせた。

 

「ま、まあ~、私の最強の盾に恐れを成して、逃げたみたいだけど? ぷっぷ~。あなたたちも、せいぜい地下フロアに行くときは気をつけることね?」

 

 そう虚勢を張りながら、ノアは逃げるようにその場を後にした。

 

「くだらないわね」

 

 ハランはため息交じりに一蹴した。

 

「科学技術の粋たるエデンで、そんなオカルトにビクつくとは……ノアったら、未だに臆病が治りきってないみたいね」

 

「……」

 

「あら、何なのイサベル。まさかあなたまで?」

 

 イサベルは、そのままぼそりと呟いた。

 

「昨日、地下で根のようなものが動くのを見たわ」

 

「!」

 

 先ほどのノアの話とは打って変わって、ハランの目が見開かれる。

 

「地下を調べて何も見つからないから帰ろうとした瞬間、壁と壁との隙間で黒ずんだ木の根が這ったように見えたのよ。見間違いかもしれないけれど」

 

「……あなたは、その現象をどう思うの?」

 

「まず彼らの手にある『きらきらぼし』とやらを疑いたいけれど、どこを探しても見つからないし、彼らも船内で好き放題くつろいでるだけ……」

 

 ハランはイサベルの返答を受け、目の前にある星船ローアを見上げる。

 宙に浮いて神々しく光るその船は、このエデンの広間にあって彼女らを見下ろすように鎮座していた。

 

「本当に、幽霊が楽園を改造してる、とでもいう気……?」

 

「とにかく、私たちには思いもよらない仕掛けがあるのだと思う。ハッキングだとかそんなレベルでない、何かが」

 

 ハランが鎌を握りしめ、反抗するようにローアを睨む。

 

「……ドロシー。あなたの思い通り、本当にエデンは『真っ当に』強くなるのかしら」

 

 彼女たちから遠く離れた柱の裏で、パピヨンはその会話を聴いていた。

 

「……地下エリア。探索する価値はあるようね」

 

 彼女は、手にした端末の録音停止ボタンを押した。

 

*

 

 ローア船内に設置された監視カメラの画面に、丸い魔術師と道化師の姿があった。

 相変わらず彼らはゲームに昼寝におやつと、自堕落に満ちた暮らしに興じていた。

 

『ハァ~~。ま~ったくパピヨンは本当にいい子なのサ』

 

 マルクはメインコンピューターのキーボードを打ち、パピヨンが送るメッセージを覗き見ていた。

 

『アークに送ってんのはエデンの技術のことばっかり。カービィのことはまったく伝えてないのサ』

 

『……マルクゥ。ボクたちが四六時中録画録音されてんの、分かってルゥ?』

 

『おーほっほっほ。ドロシーとパピヨンの密約なんて、インヘルト諸君はお見通し。その上で何か考えがあるんだろうと思って放ってやってるんだぜ。ここで言ったところで変わんないのサ』

 

『まぁそれはそうダケド……ン?』

 

 マホロアが突然、虚空をじっと見つめ始めた。

 

『マホロア、どうしたのサ?』

 

『……イヤ。続けてイイヨ。聞いてる人が増えただけダカラ』

 

 カメラは、すぐさま視線の先にあった空間へズームするが──

 可視光線はもちろん、あらゆる電磁波も、温度変化も、何も映らない。超音波まで感知する高性能マイクでさえ、何の音も拾わない。

 カメラ越しに映像を見る眼が、細められる。

 

 ──今の言葉は、こちらに向けた言葉か。それとも。

 

 続いてカメラが、彼らを正面から捉える視点に切り替わる。

 マルクはそれを知っていたようにこちらを見つめて口端を吊り上げ、牙を覗かせて笑っていた。

 

「……っ」

 

 映像を見ていた当人は、驚くあまり顔を引いた。

 

『そりゃあ結構なのサ。せっかくだから、大きい声でいくのサ!』

 

 マルクはわざとらしく咳払いをすると、マホロアへ顔を傾けた。

 

『なぁなぁ、マホロア~。パピヨンは出来る子だけどサ、どこかの誰かさんがカービィとかプププランドのことを知って、アークに伝えちゃったらどうなるんだろ~?』

 

『ウーン。最初はせいぜい噂程度にしかならないと思うけど……インヘルトの話を聞く限り、アークって、自己中心的な奴らがわんさかいるみたいだからネェ』

 

 マホロアは肩を竦めて笑ってみせた。

 

『ま、どこかの誰かさんは『新世界』の資源を欲しがっテ、遠征してくるかも知れないネ?』

 

『ケケ、それを知ったらカービィのヤツ、絶対黙ってないのサ! リンゴ一つでも奪われたら迷わずアークに飛び込んで、ゼェーンブぶっ壊しちまうのサ!』

 

 マルクは楽しげに飛び跳ねてみせたが、やがてつまらなさそうな顔でその場に寝転んだ。

 

『あーあ、そんなショーを見るのも楽しそうだけど、ここからじゃ、なぁーんにも出来ないのサ! 誰か~、代わりに~、やってくんないかなぁ~!!』

 

 マホロアはこれ見よがしな叫びに眉をひそめる。

 

『ナニ、いきなり物騒なこと言いだすんダイ。あんまりおイタをしたら、寛容なボクでもお灸を据えちゃうヨォ?』

 

『ほ~、やれるもんならやってみるのサ~』

 

「……」

 

 科学者にしてエデンのオペレーター・セシルは、いったん監視カメラとの接続を切った。

 研究室のなか、無言で何度も先ほどの映像の巻き戻しと再生を繰り返す。

 

 この間に、ローア内から通信の記録は一切残っていない。

 ──では、彼らはどうやってエデンを改造している。彼らが本当に何もしていないのであれば、魔法だろうが科学だろうが、作業を代行する『何か』が必ずあるはずだ。

 

 人間である彼女の銀髪は乱れ切り、目には隈が出来ていた。

 聡明な彼女の頭脳をもってしても、何の説明もつかない。

 生まれて初めて、彼女は自身の爪を噛んだ。

 

「どこまで私に屈辱を味合わわせたいのでしょうね、あなた方は」

 

 やがて彼女は、背後にある書庫へ振り向いた。扉は長い間開けていないせいで、厚く埃を被っている。

 

「……どうやら、アプローチの方法を変える必要がありそうですね」

 

 彼女は立ち上がって書庫へ向かっていく。

 その背後で、研究室が端(・)か(・)ら(・)塗(・)り(・)つ(・)ぶ(・)す(・)よ(・)う(・)に(・)薄暗くなっていった。

 

*

 

 空を飛ぶ、機械の竜がいた。

 その真紅色にふさわしい激昂を内に秘めて。

 

「くしょう……」

 

 その秘められた感情を物理的熱量に変換して。

 

「畜生ォッ!! 畜生畜生畜生畜生畜生畜生!!」

 

 一息で、一つの山を焼き払った。

 ちょうどニケの部隊とラプチャーが交戦していたが、それらをまとめて塵のように溶かしてやった。

 

「あああああ、いくら焼いても、焼いても、焼いても焼いても焼いても……怒りが収まんねぇぇぇぇぇッ!!」

 

 あの翼がついた、おもちゃのような船に全く手も足も出なかった。

 『お母様』の命令通りにエデンの位置を炙り出すついでに見かけ、試しに近づいたら、訳も分からないうちに閃光と暗黒と突風に飲み込まれて、翼をもぎ取られた。

 墜ちていく自分を、一頭身の道化師と魔術師のような2人組は、彼女の膝にも及ばない大きさで、まるで蟻でも見るような視線でこちらを見下ろしていた。

 彼らが悠々とエデンの方角へ去っていくその姿が、今でも脳裏にひどく焼き付いている。

 

 やっと、鬱憤晴らしの一区切りがついた。

 火の海の上空、唸る竜の中から、まさしく炎そのものが具現化したように髪を揺らす女が姿を現す。

 彼女は未だ顔に憤怒を張り付け、荒い息とともに燃え盛る大地をその眼に焼き付けていた。

 

「ニヒリスター。ずいぶん、手酷くやられたようね」

 

 荒ぶる大火事の様相と真反対に、冷たく澄んだ声がした。

 

「チッ」

 

 舌打ちとともに見上げると、そこにはクラゲのような装置にぶら下がる少女がいた。

 純白の衣装に身を包み、赤い眼を眠たげにこすっている。

 

「リバーレリオ。テメェがここに何の用だ」

 

 ニヒリスターと同じ、ラプチャーの上位種でありクイーン直属の精鋭『ヘレティック』。

 それが、落ち着いたパープルの短い髪の毛を気だるげに揺らした。

 

「あまりにうるさくて、貴重な眠りを妨げられたものだからね。いったい何があったのか、様子を見に来たのよ」

 

「……簡単なことさ。いつものように楽園の虫けらどもと戦ってたら、急に出てきたオモチャみてぇにちいせぇ船にコケにされた。だから、まずは憂さ晴らしをしてんのさ」

 

「惨めで滑稽なうえに、迷惑ね」

 

「ほぉ。じゃあ永久に迷惑じゃなくなるよう、この場で燃やしてやろうか?」

 

「出来るものならやってみれば、と言いたいところだけど……はぁ、迷うわね」

 

「?」

 

 何かを躊躇ったリバーレリオにニヒリスターは眉をひそめるが、すぐに悟る。

 

「さっき、貴重な眠りって言ってたな。いつも寝てばっかりなテメェにしては珍しい言葉だ」

 

「相変わらず、変なところで鋭いのね。最近、妙な現象があちこちで起きていて騒がしいのよ」

 

「……妙な現象?」

 

「ラプチャーの一部が特定の地点に集まり、他のラプチャーを排除し始めた。ある範囲では、未知の生物や物体が出現し、ラプチャーを掃討している。私がこの耳で『聞いた』だけでも、多くの異変が起きているわ」

 

「ふぅん。ずいぶんと暴れてやがるじゃねぇか」

 

「現在のところ大勢に影響はないけれど、あなたを負かした船とも関係があるかもしれないわね。状況から見て、エデンの協力者かしら」

 

 ニヒリスターは眼を細めた。

 

「私たちは、お母様の障害となるものはすべて取り除く必要がある。エデンは特にね。もしその船がエデンに協力した場合、不本意ではあるけど……」

 

「協力なんかしねぇぞ」

 

 言葉を遮られたリバーレリオは、眉間に皺を寄せる。

 

「……それは、お母様の意志を無視するという意味?」

 

「文字通りの意味だよ。あの船も、エデンも、俺一人でやってやる」

 

 リバーレリオは冷めた目で、拳を握りしめて炎を身体から滾らせるニヒリスターを見つめた。

 

「そう。ならいいわ、やってみなさい。ただ、お母様がいつもあなたを見てるってこと、忘れないで」

 

 あっさりと引き下がったリバーレリオは、赤い瞳で空を見上げる。

 

「さて……では私は、すべてをワタシたちで覆い尽くす準備をしてくるわ。お母様を最高の宮殿に出迎える、その準備をね」

 

「……?」

 

 リバーレリオは、空へと溶けるように消えていった。

 取り残されたニヒリスターの脳裏には、違和感が残っていた。

 お母様(クイーン)への忠誠心が、リバーレリオほどはない彼女だからこそだった。

 

「……大勢に影響はない? そんなはずがねぇ」

 

 知能の高いヘレティックにイレギュラーが発生するのはまだしも、数の多い小型ラプチャー同士での仲間割れなど前代未聞だ。

 それを、クイーンの右腕といってもよい忠実な僕、リバーレリオが、排除するどころか無視してこちらにやって来ている。

 優先順位が、明らかに狂っている。

 

「ということは……クイーンに、何かが起こった?」

 

 燃え上がって赤く染まる空を見上げて、ニヒリスターは呟いた。

 直後、口端が上がる。

 

「まぁ、あのクソババァがくたばったならそれもよし。そうでもないなら……すべきことが先延ばしになるだけだ」

 

 ニヒリスターは、再び空を飛び始めた。

 

「まずは、あの船を……俺を嗤ったアイツらが尻尾を見せるまで、辺りを調べ回ってやる」

 

 あっという間にそのジェットの軌跡は地平線へと消えていった。




カービィ新作きちゃあああああああああ!!!!
ゲームとしての広がりもさることながら、あのヒロインがブラボー枠になるのか気になるところ。(あまりにも怪しすぎて逆に裏切らなさそうですが……)
〇.5話は間に挟む小話的な立ち位置です。次からカービィメインの話に戻ります!

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