指揮官はきらきらぼしの反応を頼りに、エデン目指して行軍を続けている。
カービィがその秘宝を取り出すたび、少しずつではあるが、光の強さは確実に増していた。
「……どうやら、着実に近づいてはいるようです」
アニスが、指揮官の方を振り向いた。
「でもよく考えたら、いま向かってるのが必ずエデンだって決まったわけじゃないよね。きらきらぼしって、もう4つもあるんでしょ?」
「問題はないはずだ。こちらの世界にあるきらきらぼしは、これとエデンにあるものだけ。それ以外は、プププランドでデデデ大王が手下たちに守らせているはずだろう」
「もし、そいつらがこちらの世界にきらきらぼしを持ち込んだら?」
「……」
「確かに厄介ね。こちらのきらきらぼしが反応して引き寄せられた結果、遠回りをさせられる可能性がある」
「だが、これ以外にエデンの場所を探る手掛かりはほぼない。他に頼れるといえば……」
端末を開き、通信アプリ『Blabla』のアカウントリストに並ぶ『スノーホワイト』『紅蓮』『ラプンツェル』の名前を覗く。
会える時間はあるかとメッセージを送ったきり、返事はない。
「地上を彷徨ってる方々くらいしかツテがないですけど……相変わらず、既読すらつきませんね~」
「……通信エリア外地域だろうな」
「は~、だっる~。もう誰でもいいからおんぶして~。足が重い~」
「アニス。ニケは疲れないわ」
「精神的な問題~。かれこれ、もう何日もぶっ通しで歩いてるわよ?」
「休みながらでしょう? 背負われるべきはむしろ指揮官の方……」
ため息交じりに計器類を眺めたラピの眉間に、皺が寄る。
「……1km先から熱源反応。1体、正面」
前を見れば、砂埃が地平線に、地面を割かん勢いで立ち昇っている。
「え?」
「20秒以内に接触の可能性あり。指揮官、私たちの後ろへ!」
爆走するその影は、明らかに指揮官たちへ一直線に向かってきていた。
「うおおおおおおおおおおカービィィィィィィィィィ!!」
指揮官の顔が一気に引き締まった。
「またカービィ狙いの敵か!?」
「フォーメーションFF!」
ニケたちが指揮官の前に飛び出し、銃の引き金に指を伸ばす。
しかし直後、ラピの銃口の上を飛び跳ね、カービィが自ら前へ飛び出した。
「わぁ~いっ!」
「!?」
彼が目を輝かせて迎えにいった、その存在は──
ふわふわとした毛に包まれていた。
爆走してきたそれはカービィを真正面から抱きしめつつ、急ブレーキを踏む。
土煙を吹っ掛けられ、カウンターズは咳き込む羽目になった。
「カービィ! やっぱりここにいたのか~!」
「りっくーっ!」
しばらくして煙が晴れた時、カウンターズ一同は目を見開いた。
ハムスターというにはあまりに大きく、しかし40cmほどの背丈の生き物。
傍目からみると、まるで兄弟のようなサイズ感だ。
彼はカービィの頭をわしゃわしゃと撫で、頬を擦り付けた。
「ずっと探してたんだぞ! 寂しくなかったかー?」
「うぃっ!」
カービィもその毛並みに頭を擦りつけ返すのを見て、ニケたちはすぐ銃を下ろした。
「……警戒態勢を解除。友好的存在と判断します」
「ああ、なんでしょう。私はいま、学園ドラマで『幼馴染の知らない顔を知った』主人公の気持ちです……」
「そんなに長い付き合いじゃないでしょーが」
切なげなネオンの後頭部にアニスがチョップを浴びせたところで、カービィがハムスターの肩を叩く。
リックと呼ばれた生き物は、こちらにぽってりとした身体を向け、小さな肉球を挙げた。
「あんたら、カービィの新しい仲間だよな。オレはリック。よろしくな!」
「……こちらこそ」
彼は、カウンターズの素性を疑いすらしない。ラピはやや面食らいつつ、差し出された手を握った。
それからカウンターズ側からもメンバー紹介を一通り済ませたあと、ラピが聞き返す。
「一応の確認だけれど、あなたもプププランドの住民よね?」
「住民も何も、何度も一緒に冒険した仲だぜ。なー、カービィ?」
「はぁい!」
リックはラピの問いに、カービィと顔を見合わせた。彼も当然のように微笑む。
「で、お前らはコイツとなんで一緒に旅してんだ?」
「我々は事情あって、彼と一緒にきらきらぼしを探している。今は、それが示す目的地へ向かうところなんだ」
指揮官が丁寧に説明すると、
「あー、なるほど。最近、デデデがまたきらきらぼしを捕まえたってのは本当だったのか! よぉし。そういうことなら、オレも全力で協力するぜ!」
「本当か? 気持ちはありがたいが、ここはプププランドよりも危険……」
戸惑う指揮官に、リックは毛に覆われた胸を自信満々に叩いてみせる。
「ここより危険なところなんて、何度も乗り越えてきてるさ! まぁいっちょ任せてみろよ、このリック様によっ!」
ラピはもちろん、アニスとネオンもその場に突っ立つしかやることがなかった。
「……ホント、この子たちは秒で信用してくれて楽ねぇ」
「うんうん。カービィを爆破しようとしたアニスとは雲泥の差ですね」
「え、それまだ引きずる?」
「わぁいっ!」
カービィはアニスとネオンのやり取りなどどこ吹く風、リックの参戦に飛び上がって喜んだ。
──どうやら、少しの間は賑やかになりそうだ。
*
「リック。なぜ君はここへ?」
「そりゃ、カービィを助けるために決まってんだろ……と言いたいとこだが、ちとややこしいことになってね」
道中、指揮官の質問にリックは迷いもせず答える。
「コイツが穴ん中に消えちまったと思ったら、ヘンなキカイが現れて暴れやがってさぁ! 行方が心配になったんで、2人の仲間を誘ったはいい。でも、アイツらったらわんさかいるだろ? 3人だけじゃあちょーっと足んねぇ」
「とんだ饒舌な方ですね。私のツッコミが入り込む余地もありません」
ネオンの言葉もお構いなしに、リックは指を高く立ててまくし立てる。
「そこでだ、ダイナブレイドっつーデッケー鳥の山の近くで例の穴を見かけたと聞いたんで、ソイツに乗せて連れて行ってもらおうと思ったんだ。名案だろ?」
「あ、ああ」
リックは、指揮官に向けてわぁっと腕を広げてばさばさとしてみせる。
一々手振り身振りが大げさなハムスターだ。
「だがな。山頂に着いた途端に暗雲が立ち込めて、強烈な嵐が吹きやがった! ぴゅ~っと吹き飛ばされたと思ったら、みんな仲良く雷にドッカーン! で、気がついたらここだった……ってワケ」
「よく無事だったわね。今更、いちいち驚きもしないけど」
陽気な口調で大惨事を語るリックにアニスが呆れつつ、周りを見渡す。
「で。流れのままなんとなくあなたについていってるけど、どこに向かってるの? きらきらぼしの反応とは大してずれてはないけどさ」
「一緒にカービィを探してた仲間へ会いにいくのさ。何より、いろんな面で頼りになるからな」
迷うことなくずかずか歩んでいくリックを前に、ラピが目を細める。
「まさか、その仲間を手当たり次第に探すということは……」
「心配しなさんな。オレにはコレがある!」
リックがラピの不安を先回りするように、鼻の周りに生えた2対のヒゲを指さしてみせた。
それで、指揮官はすぐに合点した。
「なるほど、嗅覚で臭いを辿れるのか。それで、カービィと我々の居場所まで……」
「へへん。感心しただろ?」
「便利なもんねー。私たちもいっそのこと、通信代わりに嗅覚センサーを改造してみたら?」
「いいんですか? アニスの背後で倒れるニケが続出しそうですが」
「ん、ネオン。それはどういう意味?」
「あにしゅ、くちゃい?」
「ねぇ、カービィ。いくらあんたでも、ちょっとマジで怒るわよ……?」
殺気立つアニスを見て、リックは大笑いして指揮官の腰を叩いた。
「あっはっは、愉快な連中じゃないか! 指揮官、あんたどうやってこんな奴ら集めてきたんだ?」
「成り行きというかなんというか……とにかくアニス、ネオン、その辺りにしておけ」
そんなやり取りをしつつ、やがて一同は山林地帯に入った。死角からの急襲を警戒してカウンターズは指揮官を囲む陣形で銃を構え、姿勢を低くして前進する。
「そういえばこの三日三晩、ラプチャーとずっと遭遇してないわね」
「確かにそうですね。火力の精も泣いていますよ!」
「気にはなるな。さっきだって、爆走するリックにラプチャーが反応して追ってきてもおかしくなかった」
「指揮官、油断なさらないでください。どこに潜んでいるか分かりませんから」
一方のリックとカービィは、まったくの丸腰である。
「うーん。こうしてみるとオレたちだけ寂しいな。なんか欲しいよなー、カービィ?」
「ぽゅ!」
「……言っておくが、銃はオシャレじゃないぞ」
指揮官は完全にピクニック気分の2人に注意するも、彼らの意識は言葉を聞き届ける前に、すぐあるところに移っていた。
「ぷゃ!」
カービィが道端のとある地点を指さす。
そこにあるのはいったい何年前、いや何十年前のものか、古びきって骨が折れた傘だった。
「お、カービィ。あれが欲しいのか?」
「ぅい!」
「よっしゃわかった!」
リックは、傘へ駆けたと思うと──それを頭上に蹴り上げ、カービィに飲み込ませた。
「パラソル!」
カービィが吐き出した傘は鮮やかな白赤の縞模様に塗り替えられ、先っぽには星がついたポップなデザインに様変わり。
「りっく!」
「あいよっ!」
リックが傘を受け取って、手元を鼻に載せて傘を広げる。カービィは自ら玉となり、その上に弾みながら着地した。
突然始まった謎のショーに、カウンターズは困惑せざるを得ない。
「まだ驚くのは早いぜ、お客様。ほらほら、あらよっと!」
リックは器用に片足立ちでバランスを取って、カービィを踊るようにして傘の上に転がし始めた。
「いつもより多く回っておりま~す!」
「んっはは~い!」
「わぁお~~っ!」
それを見たネオンは、歓声をあげながら拍手を送る。
「で。その大道芸がなんの役に立つの?」
アニスが呆れた顔で皮肉を言うと、リックは満面の笑みで振り返った。
「やってて楽しい!!」
「ぽよ!!」
「……あ、うん。それは良かったわね」
さすがのアニスも、早々にツッコミを諦めたのだった。
*
やがて一同は月に照らされる森のなか、岩場に囲まれたところに着いた。
ひとまずここで休憩だ。
ネオンは先ほどの芸に興味を抱いたようで、リックから借りたパラソルにカービィを乗せる。
彼女の挑戦は、「火力!」の掛け声とともに繰り出されたあまりの回転数に、カービィが頭から地面に弾かれ半身埋まる形で失敗。
アニスは腹を抱えて笑い転げ、ラピはカービィを引っこ抜きつつ両者をたしなめた。
「ぐぬぬ、次こそは……っ!」
「へへん。やれるもんならやってみな、火力の嬢ちゃん」
リベンジに燃えるネオンを見ていた指揮官の視線は、次に、ちょうど隣に座って笑っていたリックへ移った。
「リック。きらきらぼしについて、聞きたいことがある」
「ん? どうかしたのかい」
「我々と会うまでに、デデデ大王の手下を見なかったか? これからの旅で重要なことなんだ」
指揮官がリックを通して知りたいのは、ラピが今日話していた『誤検知』の可能性だ。
自分たちを導く道の先に何があるのか、探っておくくらいはしておきたい。
すると、リックがあっ、と声を漏らした。
「何度か見たぜ。ワドルディたちが、たくさん食べ物を集めていくのをよ」
「……食べ物を、集めている?」
「確かに、デデデの前科を考えるとあいつらも手下だったのかも知れねぇな」
初めてプププランドに迷い込んだ時に住民から聞いた話が、指揮官の頭をよぎった。
「そういえば、デデデ大王は国中の食べ物をかっぱらったことがあると聞いた」
「知ってるなら話が早い。アイツはカービィに負けず劣らず食いしん坊なんだ。ここら辺は食べ物が少ねぇみたいだし、こっちに来てるなら、またやらかしてもおかしくないぜ」
「だとしたら、懲りないヤツだな……」
凄まじい食い意地に呆れつつも、指揮官たちにとっては重要な情報だった。
カービィがこの世界に来た経緯からして、デデデ大王もマホロア・マルクと関係がある可能性が高い。
こちらの世界に来たとすればその理由は気になるところだが、聞いて損はなかったと一旦は安堵する。
「それでも、最近はずいぶんマシになった方だぜ。ま、アイツ以上にドデカくやらかす連中が目立ってるだけかも知れないけどな」
「……まさか、マルクやマホロアのことか?」
「そうそう、よく知ってるじゃん!」
指揮官は少し興味が出てきて、腰を据え直す。
「彼らは、前にいったい何をやらかしたんだ?」
「ずいぶんやんちゃしたぜ。太陽と月を喧嘩させたりとか、とんでもねぇ王冠で宇宙を支配しかけたりとか」
指揮官は黙り込んだ。カービィの顔についた土を拭くニケたちも、怪訝な顔で振り返った。
──何だか、さっきとんでもない発言が飛び出したような気がする。
指揮官はいったんぱちぱちと瞬きをして、咳払いをした。
「えっと、それは、何かの比喩、だよな……?」
「いや、文字通りの意味だぞ。マルクの時なんか昼と夜が1日で21回入れ替わって、そりゃ大変だったよ~」
懐かしい思い出を語る風に話すリックを前に、辛うじてラピが深呼吸してから、口を開く。
「……その件は、どうなったの?」
「ああ、カービィが全部やっつけたよ」
再び彼の一言だけが、静かな闇夜に響いた。
後に残るのは、「あれ、変なこと言った?」と辺りを見回すリックの困惑した顔だけだ。
「カービィ、が……」
すぐ全員の視線が、カウンターズの中心で落ちていた木の実を拾って頬張るピンクボールに集中する。
「ぽよ?」
「な、なんだか、常識外れな火力だとは思ってましたが……」
「あんた、そんな規模でスゴいやつだったの……?」
ネオンが眼鏡をかけ直し、アニスがカービィの丸く小さな身体を持ち上げ、つぶらな瞳をまじまじと見つめる。
相変わらずそこに宿るのは、子どものように純粋な輝きだけ。
「うん。あとは黒い雲が空を覆ったり、布と毛糸の世界に改造されたり。あと、星ごと機械にされたり色抜かれたり、あ、別世界にぶつけられかけたこともあったっけ。思ってみりゃ、ずいぶんいろんなことがあったな~」
耳へなだれ込む、軽々と開陳される新情報の洪水。
現地の情報から何かしらヒントを得られないかという指揮官の目論見は、完全に吹っ飛んだ。
出来事の現実味と出来事同士の脈絡が、あまりにもなさすぎる。
「い、いやいやいや、待って、からかってるんでしょう? いくら何でもそんな冗談……」
アニスは半笑いで、自身の膝にも満たないカービィへ目線を寄越す。
──それ以上、言葉が繋がらない。
冗談と一蹴するには、カービィは、そして彼の住む世界は、不可思議と可能性に満ちすぎていた。
カービィとリックは顔を見合わせて首を傾げ、何を驚いてるんだろうと言いたげである。
「2人とも」
そうアニスとネオンに呼びかけたラピも見るからに動揺しているが、それを表に出さないように努めていた。
「何も言わず受け入れましょう。これが、あちら側の常識なのよ」
「……ええ……そうね。これ以上は疑問が増えるだけだわ」
アニスは、喉奥まで迫っていた言葉を飲み込んで頷いた。
いそいそと皆はさっきの話を忘れようとするように、就寝の準備を始めた。
「あれー? カービィ、オレ、なんかまずいこと言っちまったかぁ?」
「んぉ?」
「だ、大丈夫。みんな、少し眠くなってきただけよ。ねぇ、ネオン」
「はい。今にも瞼が閉じすぎて一体化しそうです……」
先ほどまで騒がしかったアニスとネオンも、一気に大人しくなった。
指揮官は仮設ベッドに身を預け、眠りに入る。
──ああ。自分たちは、どうやらとんでもない世界と出会ってしまったらしい。
そう思いながら、夢の世界に入っていくのだった。
*
指揮官の視界に、青空が映っていた。作り物ではない、本物の空だ。
彼は、行きつけのカフェにいた。
窓から差し込む昼下がりの日差しのもと、暇つぶしにレジカウンターを見やる。
高齢の髭面の店長が、寝ぼけてうとうとしている。
そこにベテラン店員のニケが割り込んで、肩を揺すって叱った。
店長は頭を掻いて平謝りし、店員は腰に手を当てて溜息をつく。どちらが雇い主か分かったものではないが、客たちはいつもの光景だと言わんばかりに笑うだけだった。
この街では、ニケも人間も一緒に生きている。いや、もはやニケという言葉すらない。
そこでは、彼女たちは当然の権利として未来を選ぶことができる。
戦わなくてもいい。従わなくてもいい。死ななくてもいい。
「──きかん」
外では至って穏やかな時間が流れ、空を見上げて身構える者はいない。
けれど指揮官の目は、まだ窓の向こうにあった。気づけば戦時の癖で、屋根の上や路地の奥をなぞっている。
「あぁ、いや。もう今は、戦争もなかったか」
「指・揮・官っ!」
苦笑していた指揮官の耳が、ぐいと引っ張られた。
「い、いててっ……!?」
正面へ振り向くと、そこには流れるような茶髪の少女の顔があった。彼女はぷくーっと頬を膨らませている。
「うわってなんですか! 何度も呼んでるのに、ぼけーっとしちゃって!」
「す、すまない、マリアン」
名前が、考えるより先に口をついて出た。
「罰として、指揮官のパフェ3分の1を貰いますから!」
「ええ……ちょっと多くないか?」
「私というものがありながらよそ見するということは、それだけ重い罪なんです!」
マリアンはむすっとした顔でお説教を続けながら、もう片方の手でちゃっかりスプーンを伸ばしてくる。てっぺんの生クリームがごっそり掬われ、彼女の口の中へ消えていった。
途端に、美味しそうに頬が緩む。指揮官は抗議する気も失せて、彼女の顔を眺めていた。
「……夢のような光景だな。改めて」
「何言ってるんですか。こんなに平和な時代が来たのは、指揮官自身が頑張ったからなんですからね?」
マリアンは口をもごもごさせつつ、スプーンで指揮官を指す。
その何気なさが、かえって胸の奥に沁みた。
「……そうか。私が侵食された君を撃ったことも、君が敵になってしまったことも、記憶を喪ったことも──無駄には、終わらなかったんだな」
辛い記憶がどれも昨日のことのように思い出せるが、心は痛まない。すべてが、この昼下がりへ続く道だったと思えたからだ。
指揮官は、マリアンに微笑みかけた。
「ありがとう、マリアン。君が最初に私を救ってくれたから、私はここまで──」
「もう、その話はしないで下さい! 恥ずかしいです……」
マリアンは耳まで赤くして、ぱたぱたと手を振った。逃がすように逸らした視線が、窓の外でふと止まる。
「あ、ラピ、アニス、ネオン!」
彼女は立ち上がって、大きく手を振った。
からんころん、とドアの鈴が鳴る。見慣れた三人が、連れ立って店に入ってきた。
「指揮官。こんなところにいらっしゃったのですか」
「もう、指揮官様! 仕事が休みなら教えてよね!」
「師匠! ちょうど探してたんです、新しい花火の設計図が……!」
銃など担いでいないし、軍服すら着ていない。
年頃の少女らしい私服姿で、三人は当たり前のように同じテーブルへ押しかけてくる。
椅子を引く音、メニューを奪い合う声、呆れ混じりの溜息。二人で座っていた席は、あっという間に満員になった。
なんとも騒がしい。
その騒がしさが指揮官にとっては愛おしく、幸福だった。
*
翌朝は、よく晴れていた。
木々の隙間から差す朝日に瞼を叩かれて、指揮官は仮設ベッドから身を起こす。連日の行軍で溜まっていたはずの身体の重さが、嘘のように抜けていた。
カウンターズの三人はとうに起きて、野営の撤収にかかっている。指揮官もしゃがんで装備をまとめながら、ふと口を開いた。
「──なんだか、久しぶりにいい夢を見れたような気がする」
荷物を背負いかけていたアニスが、ぱっと振り向く。
「おっ。指揮官様ったら、奇遇ねー。私もよ。ネオンは?」
「アニスもですか!? 私は、火力で夜の地上を満遍なく照らす夢です! 暗闇が隅々まで照らされて、綺麗のなんの!」
ネオンはうっとりと宙を見つめ、じゅるりと涎をすすった。
アニスが、半歩だけ彼女から距離を取る。
「あぁそう……アークを爆破したりしないでよ? ラピはどうだった?」
話を振られたラピは、銃の手入れをする手を止めた。
その視線が一瞬だけ指揮官のほうへ向き──目が合うより先に、すっと逸らされる。
「……よく覚えてはいないけれど、悪い夢ではなかったわ」
アニスとネオンが揃って目を細め、「本当か~?」とでも言いたげに視線を彼女の横顔に突き刺す。ラピは少しだけ頬を紅く染め、素知らぬ顔で銃に向き直った。
そんな三人をよそに、指揮官は小さく首をひねっていた。
全員が同じ夜に、揃っていい夢を見た。ここは地上の野営地だ。悪夢にうなされて飛び起きるほうが、よほど自然な場所のはずなのに。
「……不思議なこともあるもんだ」
「ああ。そりゃたぶん、『夢の泉』のお陰だな」
答えたのはリックだった。まだ半分夢の中にいるカービィの頬をぺちぺちと叩いて、起こしにかかっている最中だ。
「夢の泉、だと?」
「あーもう、また出てきたわよ、ワケのわかんないフシギパワーが」
アニスが盛大に溜息をつく。
一方のリックは手を止めて、日の昇ってくる朝空を見上げた。
「夢の泉はなー、湧き上がった夢をしずくに、そして霧に変えて、ポップスターのみんなに幸せな夢を降らせてくれるんだ。たぶん、世界の穴を通して夢が『おすそ分け』されてんだろうな」
──生物の脳波に干渉する装置、といったところか。
指揮官は、自分の知る言葉に無理やり置き換えて呑み込んだ。あの星は食べ物が湧いて出るだけでなく、眠りの中身まで面倒を見てくれるらしい。
「……本当に至れり尽くせりだな、ポップスターという星は」
「ふーん。ここは違うのか?」
「正直、比べ物にもならないな。食べ物は足りず、敵が常に地上を闊歩し、悪夢が現実を覆っている」
口にした途端、昨夜の衝撃がぶり返すように指揮官を打ちのめした。
宇宙を脅かす敵すらやっつけてしまう者がいて、毎晩幸せな夢が降ってくる星。
翻って、こちらはどうだ。
目が覚めてしまえば、あのカフェはどこにもない。マリアンはアークに帰ることすらできず、ラプチャーとの兵力差は未だ埋まる気配もない。
いい夢だった分だけ、現実がそれを端から否定してくるように思えた。
そんな指揮官の顔を、リックが下から覗き込んだ。責めるでも慰めるでもない、からりとした笑顔だった。
「なぁ、指揮官。あんた、どんな夢を見た?」
「……大切な人や仲間たちと、平和に暮らす夢だ。みんなが笑い合い、何の心配もしなくていい世界で」
リックはうんうんと頷きながら、短い両手をいっぱいに広げてみせる。
「夢っつっても、2つの意味があんだろ? 寝てる時に見る夢と、現実にしたいと願って頑張る夢がさ」
広げた手の片方が、小さな拳に握られた。
リックはぴょんと跳ね上がり、それで指揮官の胸をちょんと叩く。
「その意味じゃ、オレたちよりずーっと強い夢を、あんたは持ってる。だからこそ、そんな夢を見たんじゃないのかい?」
「……そうだな」
指揮官は静かに頷いた。
自分たちと彼らとでは、住む世界がまるで違う。
だがきっと、根本的なところでは──夢を見て、夢を叶えたいと願う点は──変わらない。
*
カウンターズは、弾薬を一つたりとも消費しないまま行軍を続けた。
きらきらぼしの反応も、順調に輝きを増していた。
「……ほんっと、不気味なほどラプチャーと出くわさないわね。逆に怖くなってきたわ」
「ふっふっふ……カービィと私たちの火力に恐れを成したのでは?」
「かりょく! かりょく~!」
「恐れを成すほどの脳みそ、あいつらにないでしょ」
「よく見て、2人とも。存在はしてるわ……ラプチャーだったものは」
指揮官が少し正面から視線を移してみれば、ラプチャーの残骸がいくつも視界を通り過ぎる。
銃撃痕はない、群れごと巨大な刃に斬られて吹き飛ばされたような形だ。
「……まさか、片っ端から潰して回ってるのがいるってこと?」
「おお! きっと、とんでもない火力の持ち主に違いありませんね!」
「それでワクワクした顔をするのはあんたぐらいよ、ネオン……」
やがて一行は枯れ木に覆われた山の獣道に入り、中腹にある川沿いの辺りまでやってきた。
そこでリックが鼻をくんくん鳴らしたと思うと、
「ここら辺か。これ以上は臭いが消えててわかんねぇな」
「や、やっとか……」
指揮官は、思わず膝をついた。
休み休みとはいえ、起伏の激しい地形を登るのはなかなかに骨が折れる。
「カイン! いるか、カイーン!」
リックは相変わらずでかい声で呼びかける。どうやらカインというのが探す仲間の名前らしい。
だが、川のせせらぎ以外に返事はない。ラピが、ちらりと指揮官の顔を覗く。
「指揮官。ラプチャーの反応はないので安全はある程度保たれてはいますが……リックの嗅覚が効果なしとなると、捜索の難易度はかなり高くなります」
「そうだな。とりあえず、ここを中心に調べていくしか……」
「あの、師匠」
ネオンが肩を叩く。振り向いてみると、彼女にしては珍しく神妙な顔で、ある方向を指さしていた。
「……あれを」
指し示された方向に振り向く。
ずんぐりとした青い魚が白目を剥いて、川の水面を浮いて漂ってきていた。
今回は、カービィ3のBGMをかけながら執筆しましたよ。最近のリック、画質向上でハムスター感がモリモリでかわちい。
そして、夢の泉……エアライダーじゃ半分くらい事件の戦犯になっちゃいましたよね。
桜井D、ギャラクティック・ノヴァといい、ポップでキュートなカービィ世界を何だと思ってるんですか?あ、この人生みの親だったわ……。
あと先週からのニケのバニーイベント、去年の周年イベから始めた自分にとっては初見だけど、色々と頭がおかしかった(褒め言葉)。本当に12歳以上対象でええんかあれ。周年が控えてるし限定募集もあるしバニーギルティー取るか迷うけど、恒常落ちを待っても落ちるか分からないからなぁ……。(実際、ミントが来てくれないせいでテトラタワーが登れねぇ)
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