「よう。テメーらが、カービィの仲間のノッポどもかい?」
「くー!」
カービィが嬉々として飛び跳ねると、凛々しい目つきのフクロウは枝の上で片方の翼を広げた。
「ちょっくら助太刀するぜ」
第三のカービィの仲間、クーは翼を広げて滑空、ボンカースの部下の間を素早く切り抜けてカービィの頭を脚で掴んだ。
「カービィ、行くぞ!」
「はぁい!」
クーはカービィが投げたパラソルを嘴で受け取り、傘をそのまま広げる。
どういう力学が働いたのか、クーの身体は傘の軸を中心に高速回転。
回転のエネルギーは竜巻へと変化して戦場を縦横無尽に暴れまわり、手下たちを片っ端から吹き飛ばしていく。
もはや陣形や編隊など、意味をなさない。
悲鳴をあげて塵でも掃くように退場させられる部下たちを前に、ボンカースは悔しげに歯噛みした。
「む、むむ。肝心な時に、横槍が……」
そこでちょうど、ニケたちがコモたちに引っ掛けられていた糸を、無理やり腕力で引きちぎった。
指揮官は好機を見逃さず、
「障害物から処理! 視界を確保してカービィたちを援護だ!」
「了解!」
カウンターズが戦場に復帰したことで、勢力は勢いを取り戻した。
次は周囲の樹木を標的に変える。
爆砕された木々が薙ぎ倒れることで、コモ軍団の奇襲は封じられた。
「ぐぅ、まずい!」
「気を取られてる場合、ゴリラさん!?」
躍起になるボンカースが背後を見ると、アニスが再びロケットランチャーを構えていた。
「ふん、そんな豆鉄砲、何度でも、弾く!」
ボンカースは振り返りざまにハンマーを横向きに握りしめた。
先ほど弾頭も爆風も振り払った『ジャイアントスイング』の構えだ。
「それはどうかしら」
「……!」
ボンカースの頭に影が落ちる。
頭上からラピとネオンが銃を構え、既に木の上に居座っていた。
「いつの間に!」
「あなたたちの戦術、ありがたく参考にさせてもらうわ」
「火力の恵みの雨をいま、その身にッ!!」
アニスの攻撃はフェイントだった。
クーとカービィにボンカースが気を取られている間に、ラピとネオンが死角に回り込んでいたのだ。
手下とも引き離されたボンカースにいま、頭上を護る術は存在しない。
両者は引き金を容赦なく引き、一斉掃射。
弾雨のなかに、ボンカースの巨体が沈み──
仕上げにアニスの放った本命の弾頭が直撃、辺りはひと際大きな爆炎と黒煙に包まれた。
「やら、れた」
全身まっ黒焦げにされた大猿はご自慢のハンマーを取り落として倒れ、仰向けになって目を回した。
「……ホントに自分で『やられた』っていうやつ、初めて見たわ」
アニスはいかにも漫画的な光景に呆れつつ、一応、ハンマーを腕から遠くへ蹴飛ばす。
「さぁ皆さん、お頭がやられたと言いましたよ! どうしますか~!?」
「「逃げますぅ〜〜!」」
ネオンが両手を拡声器にして呼びかけると、わずかに残っていたワドルディたちは、恐れをなして蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「フフン。ざっとこんなもんよ」
カービィはクーに地上へ下ろされると、次に、ボンカースの落としたハンマーに目をつける。
「わぁい!」
いいものを見つけたとばかりに顔を輝かせると、ここまで持ってきた傘を思いの外あっさり放り投げる。代わりに木槌を吸い込み、腹の中へ。
「ハンマー!」
パラソルに続く、新しいコピー能力だ。
頭には鉢巻、その手には星マークがついた巨大なハンマー。
いつになく気合いのこもった表情に、指揮官が目を見張る。
「おお、いつになく力強い姿だ!」
「すごく気になります、いったいどれほどの火力なのか…!」
「はぁい!」
ネオンの期待の視線にニコッと頷くカービィ。
何をするのかと一同が見ていると、カービィは凛々しい顔になってハンマーを軽く振り上げた。
そこから、一瞬飛び上がって。
「はあぁっ!!」
打点を中心に、凄まじい地響きと衝撃波が森林を揺らす。
驚いた一同が閉じていた目を開けると──
「もご」
追い討ちをかけられたボンカースの頭が、上半身ごと地面に埋まっていた。
「……あの、いまここで試せと言ったわけではないんですが……」
流石に大猿に哀れみの視線を送るネオンに、カービィは首を傾げたのだった。
*
完全に気絶したボンカースはとりあえず手当てして木に縛り付けておき、一行はクーの先導に従って前進する。
「ありがとう。さっきは本当に助かった」
「なんてことないぜ」
クーは、前を羽ばたきながら指揮官の感謝にそう答える。
──プププランドに、こんなクールな住民がいるとは。指揮官にとってはかなり意外だった。
振り返ったクーは、指揮官率いるカウンターズを一瞥した。
「事情は一通り分かった。手下どもと、背の高い嬢ちゃんたち……『ニケ』とか言ったか。そいつらが食べ物を集めていく城がある。きっとそこが、デデデの根城だ」
彼は得意げに自身の頭を指さしてみせた。
「場所はここにぜーんぶ入ってる。タイミングもばっちりだ。今なら城に近づける」
「……どういうことだ?」
クーは猛禽類らしく眼を細めて笑い、頭から生えた羽毛を掻き上げた。
「まぁ、こればかりはお前らの耳には聞こえねぇよな。この、空気を切り裂くような……風と空の叫びにはな」
空気が変わった。
唯一山下を見やったクーの視線が、眼下の平原を鋭く射抜く。
びゅうと、一陣の風が指揮官たちの頬を撫でた。
「風と……空の叫び……」
「ああ。それは、何者をも震え上がらせ、慄かせる巨影。まさに存在そのものが畏怖であり脅威──」
指揮官はごくりと生唾を飲み、言葉の続きを──
「前置きはいいから結論を言って」
「自分カッコいいって思って言ってそー」
「きっとそういうお年頃なんです。許してあげましょうよ」
「……」
背後からやたら辛辣な言葉の銃弾が、次々とクーの背中を貫いた。
前を向いたまま、その片眉がぴくぴくと動く。
リックとカインも口を揃えて、
「おーい、女性陣から言われてんぞー」
「クーったら、そんなんだからいつも浮いてるんだよ〜……」
「うるせー! 敢えて孤独を選んでんだよ!」
あっという間に先ほどの威厳はすっ飛んだ。
……どうやら、クーも根っからのクールというわけでもないようだ。
指揮官はクーの肩をそっと、優しく叩く。
「わ、私は、カッコいいと思ったぞ」
「やめろ! 余計惨めな雰囲気になるだろうがッ!!」
どうも、だいぶそういうところは気にしているらしい。
指揮官はフォローも空しく、「は、はい」と引き下がる他なかった。
クーは半ば投げやりにため息をつき、勿体ぶるのをやめた。
「この風の正体は、ダイナブレイドだ。お前らも、コイツらから話は聞いてるはずだよな」
「……君たちが向かった山に住むという、巨鳥か」
「驚くのはこれからだ。ヤツが初めて来る時、この目ではっきりと見たんだ。そいつの背中に……デデデがニケたちを引き連れているのを」
その場にいる全員が目を見張った。
「まさか、デデデ大王がダイナブレイドを手懐けた……!?」
「どうやってやったのかは知らんがな。翌日から、そいつは城を中心に空から監視して、お前らが言うラプチャーとかいうのを壊しまくってる。城の警備役としては、この上ない働きだ」
指揮官の脳裏に、ラプチャーの残骸が結びついた。
まさかあれら全てが、ダイナブレイドの仕業だというのか。
それを手駒にしてしまうというのも、マホロアとマルクがバックにいるのであれば訳もない話かもしれない。
「そこまでの怪物が門番となると、突破は難しいな」
「忘れたのか? 言っただろ、タイミングはばっちりだって」
指揮官にクーはそう笑いかけて目を細めた。
「この数日間観察したところ、ヤツはこっちの城に近づくラプチャーを片付けてからいったん城で休み、異空間ゲートを使ってプププランドへ餌を取りに行く……これを毎日繰り返している。今はちょうど、プププランドに行ってる頃合いだ」
「なるほど。門番のいない隙をつくわけか」
クーの観察眼に感心する一方、指揮官の懐く疑問はますます大きくなっていた。
「なぜ、デデデはこの世界にやってきた。ダイナブレイドを従え、しかもカービィまでも捕まえようとまで……いったいなにを企んでいる」
「さぁ、分からんな。これからお前らはどうする?」
クーが逆に聞くと、しばらくの沈黙が流れる。
先ほど激闘を潜り抜けたばかりの彼らの顔は、あまりにも険しい。
「きらきらぼしのことはもちろん、ニケを捕まえて働かせている時点で私は看過できない。行かせてもらう」
「火力&火力で、ぶちのめします!!」
「そうよ。どっちにしろ、秘宝を奪ったロクデモナシでしょ?」
「城に食べ物かき集めてる時点で役満だっつーの」
「ぽよ!!」
「……全員、満場一致のようね」
最終的に、彼らは一つの結論に行きついた。
──デデデ大王、許すまじ。
いつの間にか景色は開け、3kmほど先、緑広がる平地に目指すべき城が見えていた。
*
「もっと、もっともっともーっと持ってこーい!」
デデデ大王はクラウン王国の食卓に置いた神輿の上に寝そべっていた。
台車に乗って城外から集められた大量の食べ物が運ばれてくるのを、チャイムとバンダナワドルディはまじまじと見つめる。
「まさか、地上にこれほどまで食料があったとは……」
「まぁ、ダイナブレイドと一緒にプププランドから調達してきたものも多いですけどね」
そう言いながら、バンダナはチャイムと協力して積み荷を降ろしていく。
「さぁさぁ、今日も腕が鳴るねぇ~! 今日はトマト煮かな、カレーかな、オムライスかなぁ~?」
コック帽にエプロンを着たオレンジ色のデデデの手下『コックカワサキ』が、大量の食材を前に両手に持ったおたまとフライ返しをカンカンと鳴らす。
一方のマリアンは、手持ち無沙汰そうにテーブルに座り、少し寂しそうな目でデデデを見つめた。
「デデデ。本当に今日もいいんですか、しばらく私が夕食の当番をしなくって」
「あ、ああ! まぁ~~~ったく問題ないぞ! マリアンはこれまでずっと頑張ってきた分、ゆ~~~~~っくり休んどいてくれ!」
デデデ大王がいきなり神輿から腰を上げ、これ以上とない笑顔でマリアンの肩をぽんぽん叩く。それを見たチャイムが、小声でバンダナに耳打ちする。
「明らかにマリアンの料理がトラウマになっているのだ」
「絶対にそうですね……何が何でも食べたくないんでしょ」
一方、デデデ大王の方にも木箱は続々と送られてくる。
ワドルディたちの手を使って封を開けられて姿を現したのは、大量のリンゴ。
それを見て、ダイヤモンドでも見たかのようにデデデ大王の目が輝いた。
「ほほーっ、大漁じゃねぇか! ウィスピーウッズのやつ奮発してくれたのか!?」
「それ、ダイナブレイドの雛にあげる分もありますから程々にしてくださいね?」
デデデ大王はバンダナワドルディの忠告が耳に入っているのかいないのか、無我夢中で口にリンゴを放り入れまくる。
やがて彼は、「ほらよ」と王座に座るクラウンにリンゴを放り投げた。
彼女は危うい手つきながらそれを受け取る。
「あ、あら、いただいてよろしいのですか?」
「いいかクラウン、これが王様のやるべきことだ」
そう言いながら、デデデ大王は寝っ転がったままもう一つのリンゴをしゃくった。
「大切なのは、デッケェ背中を見せつけ続けること。『こいつは他のやつらとは一味違う』んだとな」
ワドルディが空になった木箱を片付けに行く。それを、デデデ大王は「ありがとな!」と頭をわしわしして見送った。
「だから、こいつらもオレ様の望むことについてきてくれる。それでオレ様もますますデッケェことをやる元気をもらえんだ」
神輿にふんぞり返ったまま、微笑みから少し真剣な顔に変えてクラウンに振り直る。
「テメーの頭にあるのは、国と民を護ること……それだけだ。互いに分かち合うもんがあるのか?」
クラウンがリンゴを見つめ続ける。
次にデデデの視線は、城の掃除道具を取り出すチャイムとマリアンを見やった。
「もう既に、この身に余るほど貰っていますわ。民が願いを言ってくれる、それが既に……」
「あーもう何回も聞いたぞ、それ。オレ様が言ってんのは、何でもいいから『これをしてほしい』って自分のクチで言うことだ。そんならみーんなハッピーに……」
「王とは民にその身を捧げるもの。願いを叶える者が願いを持つべきではありません。私は、そう決めているのです」
クラウンは静かに立ち上がり、そっとデデデ大王の手へリンゴを渡し返した。
彼女の蒼眼が、箒を持って歩いていくチャイムの背中を映していた。
「私は……そもそも、民に望まれて生まれた王です。その民は抜け殻だった私に王という役目を、使命を果たすための力をくれました。そのことを、決して忘れるわけにはいかないのです」
「ふーん。王様にしちゃあずいぶんと真面目なもんだ。こりゃ平行線だな」
説得を諦めたデデデ大王はやれやれ、と腹を掻きながら大きな欠伸をした。
そして、クラウンに返されたリンゴを食いながらニヤリと笑い返した。
「だがきっと、その民は心から喜ぶはずだぜ。自分の王が、自分のためだけのわがままを言ってくれることをよ。いっぺん、そこらへんちゃんと話してみたらどうだ?」
「ちゃんと話す……ですか」
一瞬、クラウンの瞳が揺らいだ。
その時だった。
「ひぃ~ん、大王さまぁ~!」
ワドルディと似た身体だが、大きな1つの目玉に2本の毛がチャームポイントの部下が扉を開け、文字通り涙で顔を溢れさせながら参上した。
バンダナワドルディが、不思議そうに眉をひそめる。
「どうしたんだい、ワドルドゥ。えらく慌てた様子だけど」
「せ、西部山林のボンカース軍団についてご報告! ブロントバード小隊全滅、ワドルディ小隊も潰走! ボンカースさん自身もあっさりやられちゃったみたいです~! それを破った敵が、城に急接近との情報!」
クラウンが目を見開き、デデデが神輿から飛びあがる。
「な、なんだってぇ!? 誰にやられた!? どっかのニケの部隊か!?」
「そ、それが……あのぉ……」
ごにょごにょとしているワドルドゥに、デデデ大王は怪訝に眉を寄せる。
「ん、何なんだ?」
内容を知ったデデデ大王とバンダナワドルディは、同時にひっくり返った。
「どんげ~~~~~~~ッ!?!?」
食卓が地震と見まがうほどに揺れた。
*
「んーっ、今日もいい天気なのだ!」
「洗濯物もよく乾きますしね~」
城内の庭園ではチャイムが箒で枯れ葉を掃き、マリアンが洗濯物を搾って竿に乾かす。
青空の下、こうした家事にうってつけの天気であることに違いはない。
「今夜も晴れてたら、バーベキューしたら楽しそうです!」
「おお、そいつは名案なのだ! お嬢様も喜ばれるに違いないのだ!」
そこで、ふと悲しそうにマリアンが目を伏せた。
「それにしてもこの前の川で見た、大きく太ったお魚さん、残念でした……。あの丸焼きなら、デデデ大王も満足すると思ったんですが」
「いやいやいやいや、あれは絶ッッ対にやめておいて正解だったのだ! どこからどう見てもあちら側の住民だったのだ!」
ちぎれそうなほど首を横に振るチャイムに、そうかなぁ、とマリアンは残念がる。
「まったく。慣れこそしてきたが、デデデといいバンダナといいあの魚といい……プププランドには珍妙な連中が多すぎるのだ! 幸い、カービィとかいうのがついてこなかったのは良かったが!」
「確か、デデデにとっての永遠のライバル、でしたっけ?」
「そうなのだ。デデデ以上に食いしん坊とは、それこそ王国が崩壊しかねんのだ」
「ふふふ。でも、ぜひとも一回お会いしてみたいですね。いったい、どんな人なんでしょう」
直後、2人の背後で城門が吹き飛んだ。
「……え」
2人は茫然としたまま、ゆっくりと振り返る。
崩れ落ちたソレの残骸を踏み越えて出てきたそれは──
彼女たちの腰よりも小さい、手足のついたピンクのボールだった。
頭には鉢巻を巻き、その身より大きな木槌を携えている。
「……」
それはまさしくクラウン王国の日常を奪い去りに来た、ピンクの悪魔だった。
ノルマ:デデデの冤罪、達成。新作でも同じ展開が予想される。
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