「フン、最近噂のノッポではないか。あの初撃を躱したことだけは褒めてやろう」
雲の化け物は単眼を細め、眼下のメティスを睨んだ。
「おお! いかにも悪党のボスという雰囲気だ!」
「っ! あの姿、あの口調……ヴィランの才能を感じるぞ!」
「意味の分からんことをごちゃごちゃと! ここまで入り込んできた以上、どうせコレを奪いに来たのだろう!?」
化け物の上に、虹色の美しい星が光る。
「あれは……ッ!?」
「きらきらぼし! このプププランドの秘宝だ!」
「何? やたらファンシーな名前だけど……」
ドローンを通して端末で解析を始めたマクスウェルの目が、初めて見開かれた。
「……信じられない!」
翡翠色の瞳が興奮気味に、数字の羅列を目で追っていく。
「未知の元素なのはそりゃそうなんだけど……密度と質量が、常にプラスとマイナスの間で変動してる。しかもあの虹の光、可視スペクトル外の領域まで完璧なグラデーションを成してるし……ここまでのエネルギーが生物に無害って一体どうなってんの!? しかもこの波長パターン、まるで生物の脈動のようにも……!」
「説明が長いぞマクスウェル! 一言でまとめろ!!」
「つまりあれが、シュエンの言っていた未知のエネルギー源だ!」
ラプラスはそう叫び、こちらを見下ろす怪物にビーム砲を構えた。
「警告する! 命が惜しいならば、ここにソレを大人しく置いてゆけ! そしてこの憩いの場を住民たちに返すんだ! 従わない場合、これから私たちは一切、お前に手加減しない!!」
「なにぃ? 命ィ?」
雲の化け物は目を見開くと星を体内にしまい、ワッハッハッハッ、と余裕の高笑いを上げた。
「何がおかしい!?」
「ワタシは不滅の存在だ。貴様らとは格というモノが違うのだよ、格が!」
「おお、その傲慢さと自己愛っぷり! 貴様、ヴィラン連合に入れ! 代表の私が歓迎してやるぞ!」
「なんでさっきからお前は喜んでるんだ。んなモン要らん!」
尊大な視線を崩さない化け物を前に、マクスウェルが容赦なくスナイパーライフルを構える。
「……なるほど。そんじゃ、交渉決裂ってことでいい?」
「ああよかろう、この空の主『クラッコ』様の天罰を食らうがいい!」
宣戦布告を受けたラプラスは、不敵に笑う。
「そう言われたからには受けて立とう! クラッコとやら、このメティスが成敗してくれるッ!」
瞬時、ラプラスの顔面にV字型のバイザーとマスクが展開された。
さっそく、ラプラスのビーム砲の砲口に金色の粒子が集まる。
「ラプラス・バスター!!」
「フン、そんなもの当たらんわ!」
光の矢を避けたクラッコは、逆に体当たりを仕掛ける。
当然、メティスはこれを回避。
クラッコは折り返しつつ、自身の下部にぱちり、と電撃を走らせる。
「落雷、後方から来るぞ!!」
「了解だ、ドレイク!」
ラプラスは雲を一直線に割る雷を素早く躱す。
「ぬぬっ! 避けられたか、ならばこれはどうだ!?」
クラッコは、ドレイクの頭上に素早く移動。
雨、といっても凄まじい量を瞬時に叩きつける。
彼女は即座に動きを見切り、僅かにブーツの先が濡れただけで済んだ。
だが、ドレイクの行動はそれだけに留まらなかった。
「マクスウェル、狙われているぞ!!」
「了解っ!」
予測は的中。
隙を突いたように放たれた雷が、マクスウェルの飛び退いた地点へ刺さる。
「き、貴様っ、なぜ分かった!?」
戸惑うクラッコに、ドレイクがクックック、と不敵に笑いながら前髪をかき上げてみせる。
「私は、電波を感じることができる! 貴様の雷がいつどこに来るのかも、完全にお見通しだ!」
「な、な、なんだとぉ~~~~~~~~~~ッ!?」
「ノリがいいわね、この雲」
驚愕するクラッコに呆れるマクスウェルを差し置いて、ラプラスが再びビーム砲に雷を灯す。
ドレイクも目を合わせるとクラッコに手を翳し、共に叫んだ。
「いまここに、正義を証明するっ!!」
「これが……私の最も弱い攻撃だ!!」
彼女たちが立て続けに放つ波状攻撃は、まさに嵐そのものだった。
驚くあまり何もできず、慌てて逃げ惑うクラッコ。
彼女たちはその軌道を先読みし、一瞬。
「……そこだぁぁぁぁっ!!」
瞬間、ヒーローとヴィランの雷が交差した。
それはクラッコの、人間でいえば脇腹を貫いた。
「うおおおおおおっ!?」
「よしっ! 正義はか──」
「……とはいかないんだな、コレが!」
ビームは、クラッコの身体を通り抜けた。
何事もなかったかのように、クラッコはそのままの形を保っている。
「なっ!?」
「突き抜けたぞ!」
慌ててラプラスとドレイクは攻撃を再開する。
クラッコはそのことごとくを避けながら、ぎょろりとメティス一同に視線を巡らす。
「さぁ~て貴様ら、弾が有限だな~? 随分と攻撃が少なくなってきたではないか~」
「!!」
「やはりそうか。では永久に勝てんな。何故ならワタシは……」
クラッコは、踏ん張るように体を震わせて力を込めた。
「不滅の、空の化身だからな!!」
今度は電撃を周囲に纏い、鞭のようにしならせた。
それらをぶん回しながら地上に突貫、ラプラスとドレイクを薙ぎ払わんと迫る。
彼女たちはやむを得ず攻撃を止め、高く跳躍することで何とか躱す。
そこへ、狙い澄ましたように電撃球が放たれる。
幾つかが、空中にいるせいで避け切れない彼女たちのボディを打ち焦がす。
「ぐっ! なかなかやるな、クラッコ!」
「な、何を! 私はちょっと痛かっただけだぞ!」
「ワハハハハ! いい気味だいい気味だ!」
通り過ぎたクラッコは笑いつつ、ぎょろりと目玉を一回転させた。
「……ん? そういえば、あの黄色いのはどこに行った?」
「ここだよ〜」
クラッコが振り向くと、戦場から離れた位置でマクスウェルがひらひらと手を振っていた。
「ははは、そこか! さては貴様、2人と比べて弱いからコソコソ隠れていたのだろう!?」
「半分正解かな。私、前に出るのは柄じゃなくってね」
「では、貴様から先に片付けてやろう!」
クラッコは瞬時にビームの届きにくい上空へ逃げ、マクスウェルを睨む。
「マクスウェル、逃げろ!」
「あ、大丈夫。むしろ2人とも、私に近づかないでー」
ドレイクが急いで警告するが、マクスウェルは動じない。
クラッコは「観念したか」と単眼を吊り上げ、全力の一撃を放った。
「それぇっ!!」
瞬間、マクスウェルの手から尖った装置が展開された。
避雷針だ。
クラッコの眼下へ放たれた雷はマクスウェルではなく、その避雷針へ直撃。
電撃のエネルギーは変圧器を通り、外部ユニットのカートリッジへと注ぎ込まれた。
「はい、給電完了っと」
「な、なにっ!?」
クラッコが無傷のマクスウェルに驚愕する一方、ラプラスとドレイクが駆け寄った。
「マクスウェル! 貴様、消えたと思ったらこんなオモチャを作っていたのか!」
「いわゆる『こんなこともあろうかと』、てやつだね」
マクスウェルは、避雷針を我が子のように撫でた。ラプラスが、青い瞳をキラキラさせる。
「おお! アークレンジャーでも、アークマシン初登場時に博士が言っていたセリフだ!」
仲間たちの武器にケーブルを接続すると、即座に充電が開始。すぐさま、彼女たちの武器から電撃が迸った。
「事前情報で高所らしいってことは聞いてたから悪天候に備えて持ってきたけど、まさかこんな場面で役に立つとはね」
「ぐぬぬぬぬ!」
唸るクラッコを、マクスウェルは得意げに顔を傾けて見つめ上げる。
「『電力に頼り切り』って弱点にはこちらも参ったもんでね。バッテリーを積んでってもこの2人が湯水のように使うから困ってたけど……こんな便利な供給源があったとは驚きだよ~」
「絶対、絶対に、許さんぞぉぉぉぉ!!」
クラッコは叫ぶと、雲の足場全てを覆う勢いで身体を広げた。
数秒もしないうちに青空は埋め尽くされ、豪雨が彼女たちの視界いっぱいに広がった。
その様はもはや雨というよりは滝か津波であり、宮殿ごと押し流さん勢いの水の塊が、メティスへと迫ってくる。
「……な、何と無茶苦茶な!!」
「あー……ちょっと煽りすぎたかも」
マクスウェルも一瞬たじろぐが、ふと隣のドレイクを見やった。
「ドレイク! あの雨へ雷を撃って!」
「フン! これが私の──」
「口上はいいから早く!」
即座に、ドレイクは手を翳し、フル充電した赤黒い雷を豪雨へと撃ち込んだ。
「ぎゃーっ!?」
禍々しい色の雷は滝のような豪雨を伝い、その持ち主であるクラッコへと遡るように通電。
クラッコは怯んで目を回した。
「どうやら空の化身でも、雷に強いわけではないようね」
「な、なぜそれを~」
「そりゃ、平気だったらビームを避けるわけがないもの」
マクスウェルは次に、ラプラスの肩を叩く。
「さぁ。ラプラス。今度はよぉ~く『ど真ん中』を狙って。ヒーローなら出来るでしょ?」
「ああ、〆はこの私に任せろ!!」
エネルギーをチャージする。
狙いは、クラッコの中央にある──焦点を失ってぐるぐると回る、目玉。
砲口から迸った黄金の雷が空間を切り裂き、それを貫く。
「うぎゃああああああ~~~~~~~~~!!」
クラッコは爆発四散。その中からあの虹色の星が現れ、雲の上に落ちた。
他には、何も残らなかった。
「フン! 悪党め。最期は呆気ないものだ!」
ラプラスが目線を落とせば、目の前には虹色の星が輝いている。
「さぁ、カービィが奪いに来る前に回収するぞ! ヒーロー回収!!」
*
「……待ってくれ」
帰り道、ラプラスの一言に、マクスウェルとドレイクが立ち止まった。
秘宝である虹色の星は、マクスウェルの外部ユニットに設置された収納ケースに収められている。
「クラッコが悪党だったということは……。それを倒すカービィは、ヒーローでは!?」
「うん。だから前に言ったよね、まず聞き込みしようって」
「もしかして我々は、またしても悪事を為してしまったのか!?」
「おお、ラプラスも遂にヴィラン入りか!? そういう展開も悪くはない!!」
ドレイクが期待の視線を込めた、その瞬間だった。
「ま~~~て~~~!!」
何処からか現れた単眼の周りに雲が集まり、あの消え去ったはずの形を成す。
メティスの全員が、茫然とその姿を見上げる。
「ク、クラッコッ!?」
「ハハハハ、言っただろう、ワタシは不滅だと! 『空』さえあれば、ワタシはどこにでもいくらでも復活できるのだーっ!!」
「あの言葉……本当だったの!?」
クラッコは身体を震わせると──
瓜二つの自身を生み出した。
「行くぞ我が分身! 名付けて、ツインクラッコ!」
「もうなんでもありじゃんコイツ!」
「おのれ悪党、卑怯な手を! だが、ヒーローは……決して挫けはしないっ!!」
「フフ、相手にとって不足なし……!」
ラプラスとドレイクが再び構える。
どちらが本物か分からないソイツらは、挟み撃ちするように雷を撃ち込む。
すると今度はマクスウェルが自ら避雷針を高く持ち上げ、両方の雷を受け止める。
「いい!? まずは1体を集中撃破!」
「了解っ!」
「分かった!」
ドレイクとラプラスの武器にケーブルを繋ぐと、彼女たちはそのまま固定砲台と化してフルで雷を乱射する。
勢いを増した攻撃に、狙われた1体のクラッコはますますたじろぐ。
「おのれ~っ、ズルい、ズルすぎるぞ!」
「悪党め、数だけ増えても結局は同じことだ!」
「さぁ、挟み撃ちにも警戒して──」
振り向いたマクスウェルは、あることに気づく。
「あれ、もう一つの方は!?」
「バカモノ~! 上を見てみろォ~!」
傲慢な罵声に気づいて見上げれば、空一面が雲に覆い尽くされていた。
「チッ……!!」
「ドレイク、どうなってる!?」
「……今までの数十倍、ビリビリしている」
ゴロゴロゴロゴロ……
今や狭い天井となった雲が、どす黒く染まっていく。
「ちょーっとこれは……流石にまずいかも……」
「ラプラス、飛ばせ!」
「っ! ヒーローキック!!」
ラプラスがドレイクの掛け声に応え、マクスウェルの持っていた避雷針を、ケーブルごと引きちぎる勢いで上空へ蹴っ飛ばした。
「あっ、私のベビーが……」
「天からの災雷!!」
マクスウェルが声を上げるとほぼ同時、雷が宙の避雷針に集中した。
莫大なエネルギーを避雷針は受け止めきれず、爆散。
残骸の雨を見上げながら、マクスウェルはキャップを深く被り直す。
「はぁ。ベビーを壊されたのは癪だけど、今回ばかりは恩に着るわ」
「礼など要らないぞ、マクスウェル! 仲間を守るのもヒーローの大事な役目だ!」
「ふぅ、ふぅ、フン、小賢しい奴らだ……っ!」
流石に体力を消耗したのか、クラッコは息を切らしながらゆっくりと元通りの姿で降りてくる。
「クックック、見直したぞ! やはり貴様のチカラ、ヴィランに相応しい!」
「はぁ……はぁ……おい、いい加減赤いのを黙らせろ! はぁ……はぁ……喧しくって敵わんッ!!」
──あんたも大概でしょ。
マクスウェルが文句を飲み込んでいる間に、クラッコはしかめっ面を浮かべた。
「くっ、そのしつこさと強大なチカラ……さてはキサマら、カービィのトモダチだな!?」
「トモダチ……?」
「チッ。あやつめ、ディメンションホールを通って旅に出たと聞いたが、まさかノッポどもまで味方につけるとは何と小癪な……ッ!」
「ちょっと待って、クラッコ」
「ああん!? なんだいったい!?」
マクスウェルの突き出した掌の前に、突進しようとしたクラッコがブレーキをかける。
「あなたは、ここでカービィを待ち受けていたの?」
「フン、その通り! アイツは、何か事件を見聞きしたら必ず首を突っ込んでくるのが『お約束』だからな!」
「となると、クラッコ! やはりカービィはこの世界の正義の味方であり、ヒーローなのか!?」
「なんだ。貴様ら、何も知らんのか」
大興奮で詰め寄るラプラスから、クラッコはバツが悪そうに視線を逸らす。
「その質問を、そこら辺にいる奴らにしてみろ。判で押したように同じ答えが返ってくるはずだ」
「おお……!」
ラプラスが目を輝かせる一方、マクスウェルは収納ケースに入れた虹色の星を指さす。
「ねぇ。ずっと気になってたんだけど、あなた、そもそもなんでこの秘宝を守ってたの?」
クラッコはキョトンと単眼を見開く。
「んん? 今回は昔馴染みということで、大王さまの部下から急に『誰にも渡さず持っててくれ』と頼まれたからだ。よく訳は知らんがな」
ニケと怪物との間で、しばらく沈黙が続く。
「……え。そんな何となくで秘宝を守って、私たちと戦ってたんだ」
「見損なったぞクラッコ! 貴様はヴィラン失格だ!」
「「静かにしろ(て)!!」」
「すまん」
今度ばかりはクラッコと2人してドレイクを黙らせたところで、マクスウェルは深呼吸。
彼女は怪物に対して、明るい表情で両腕を大きく開いてみせる。
「……じゃあさ、そもそもこの秘宝……あなたが持ってるだけ損じゃない?」
「なに?」
「訳も分からず大真面目に待ち受けた挙句、カービィにボコボコにされるなんて理不尽極まりないでしょ」
クラッコが「う、うーむ……」と沈黙して単眼を細め、目線を逸らす。
しかし次に目端を吊り上げると、ぶるぶる身体を震わせていきり立つ。
「だ、だがワタシにも空の主のプライドというものがある。今度こそはヤツをけちょんけちょんに……!」
「ん。『
「!」
「あぁなるほど、どういう関係かはおおよそ分かったわ。少なくともぽっと出の余所者の私たちに遅れを取ってるようじゃ、今回も絶対に無理ね」
「ぐ、ぐぬぬぬ……!」
悔しそうなクラッコの表情を見て、すかさずマクスウェルはきらきらぼしを入れたケースを揺らしてみせた。
「ねぇ、もしよければさ。コレ、私たちに『貸して』くれない?」
「……なに、貸すゥ? いまこうやって奪っているではないか!」
「あなたたちのほとぼりが冷めるまで、私たちが預かるの。それで、こっちの世界でひっそりとカービィに渡してあげるって寸法」
マクスウェルは、クラッコの半信半疑な目玉を真正面から覗き込んだ。
「あなたはカービィが来たら、適当に言い繕っておけばいいんだよ。『そんなものはここにはない』って。で、次のリベンジに向けて修行でもなんでもしとけばいいんじゃない?」
クラッコはしばし視線を右往左往させてから、やがて、神妙に呟いた。
「……何を企んでいるか知らんが、それはプププランドの秘宝だぞ。しかもカービィはかなり喧嘩っ早いところがある。今度はキサマらが酷い目に遭うとしか思えん」
「それは大丈夫だ、クラッコ!」
ラプラスは笑顔でグッドサインを送る。
「私たちはアーク最強のヒーロー、メティス! ヒーロー同士、きっと分かり合えるはずだ!!」
それを見たクラッコは、存在しない鼻を鳴らした。
「……フン。ノッポども、後で泣きついてきても知らんぞ。ワタシは警告したからな」
*
かくして平和裏(?)に交渉を成立させたメティスはきらきらぼしを手に、ゲートの前に再び立った。
「……マクスウェル」
振り返ったメティスのリーダーは、いつになく真剣な表情だった。
「今回の約束は、必ず守られなければならない。私たちはヒーローとして絶対にこの秘宝を守り通し、カービィに渡さなくてはならない。この意味、分かるな?」
マクスウェルはため息交じりに頭を掻いた。
「言ったでしょ、ちゃんと返すって。ラプラスだって、シュエンとの約束を信じてここまで来たんじゃないの」
「……ああ、そうだ。きちんと説明さえすれば、彼女もきっと分かってくれると信じている」
「なら行きましょ。私たちなりの正義を果たしにね」
ラプラスはしばらくして頷き、ゲートを潜っていった。
己の言葉の全てが詭弁であることは、マクスウェル自身も分かっていた。
そして──クラッコの警告は決して軽視すべきものではないだろうとも。
それでも、この道を引き返すことはできない。
現状、きらきらぼしの他に持ち帰れる『新世界』の資源といえば、ただのブロックや食べ物のみ。
アーク最強のヒーローを差し向けた成果がそれだけであれば、如何に彼女たちであっても──いや、彼女たちだからこそ──アークへの帰還は許されないだろう。
自分の期待にはそれに見合った対価を。
それ以外の結果は決して認めない。何度でも自分が満足できる成果を得るまで、メティスという玩具を使い倒す。
ニケはニケ。人間にとって都合のいい、取り換えの効く道具。
シュエンからの『寵愛』ゆえに、よく鉄くず扱いされる量産型ニケからは嫉妬の視線を浴びるが、その事実に変わりはない。
願わくば──
「カービィとやらが、アイツを一発痛い目に遭わせてくれるといいんだけどね」
*
穴を通ると、いつも通りの荒廃した地上が彼女たちを迎えた。
輸送機の待つランデヴーポイントへ向けて出発しようとした、彼女たちの足が思わず止まる。
ニケたちが、目の前にいた。
大方は量産型ニケの部隊。そして最も前方に、ピンク色の髪のニケと背丈の大きい黒髪ロングのニケの2人組がいる。
「ワードレス……?」
マクスウェルも、大まかな状況は把握している。
かつては特殊ラプチャーの捕獲を任されていた2人編成の部隊だ。確か作戦失敗により片割れが記憶消去され、現在はシュエンの護衛任務を任されていたはず。
「あら。確かあなたたちは……メティス、よね。出会えて光栄だわ」
「ありがとう。あなたたちも『新世界』の資源調査? ……っと、お互いに極秘任務だからね」
「ふふ、そうね。これ以上は黙っておきましょう」
黒髪の微笑んでいるニケの名前はミハラ。記憶消去がされた方だ。ユニは……。
どこか笑っていない目で、笑っていた。
「えへへ、あなたたちがメティスかぁ」
ラプラスもドレイクも、何か彼女からただならぬものを感じ取ったのか、最初は何も言えなかった。
慌てて、ラプラスが口端を吊り上げる。
「あ、ああ! そうだ! 私がメティスのリーダー、ラプラスだ!!」
「あなたたちのことだから、すごいものをアークに持ち帰るんだろうね。あの指揮官にも、シュエンにも助けてもらったくらい、特別だもんね」
ユニの瞬きも見せない視線が、3人に突き刺さった。
「でもね。えへへ。私たちもすごいことをするよ。あなたたちが驚くくらい、すごいこと」
細められた瞳の中に、光は宿っていなかった。
「行こ、ミハラ」
「……えぇ、行きましょう」
マクスウェルの真横をユニが通り過ぎる瞬間、彼女の視界の片隅に、ユニの腰に下げられた箱のようなものが見えた。
ワードレスはメティスの隣を通り、穴へ入っていく。
それまでの無言の時が、永遠のように感じられた。
足音が消えた瞬間──
プハァッ、とドレイクが詰まっていた息を一気に吐き出した。
「い、いま、ものすごく寒気がしたぞ! 遂にワードレスもヴィランになったのか!?」
「ちち、違う! ニケは人間を護るヒーローだ! そんなわけがない!!」
そう言うラプラスも、動悸が収まらないのか青ざめた顔で胸を押さえている。
ワードレスに続き、大量のミシリス製の量産型ニケが規則正しくゲートへ投入されていく。
マクスウェルには、嫌なものが喉に引っかかったような感覚が残っていた。
メティスはきらきらぼしを持ち帰り、ワードレスがプププランド入り。不穏な予感……。
昨日の生放送、控えめに言ってすごかった。どれくらいすごいかと言うと、本作のプロットのオチを書き変えないといけないかもってレベル。メインストーリーが進むのはまだいいんですが、世界観に関わるような超重要な過去が明かされると……ね。今週の木曜日が超絶楽しみな反面、二次創作クロスオーバーの作者としてはさぁ大変だぞという感じw
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