勝利の旅人:星のカービィ×NIKKE   作:Misma

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2話:未知への疑念

 その未知と出会った日は、特に何事もなく過ぎていった。

 ラピが同席した指揮官の夕食時では、カービィが吸い込みを使おうとして彼女がかなりピリついていたが。

 

 ネオンの耳には緊急連絡が入ることもなかったため、その日は思う存分、自室で今度こそ世界最大火力の弾丸を作ろうと炸薬を詰め込みまくる実験が出来た。

 引火や暴発を起こしかけたことが何度もあったが、彼女にとっては日常風景に過ぎない。

 

「ふぅ。やはり一晩で学ぶには、火力の世界は奥が深すぎます!」

 

 時刻は21時過ぎ。顔を煤だらけにしたネオンは、宿舎へ夜食を取りに向かうところだった。

 通り過ぎた廊下で、1つの明るいブルーライトがその目に留まる。

 

「おや、アニス。カービィを見張ってるんじゃなかったんですか?」

「ああ、ネオン。いまやってるの」

 

 冷たい床に座るアニスは、タブレットを手にイヤホンをして、近くの窓を覗き込んでいた。

 その先にあるものを見て、ネオンは首を傾げる。

 

「解体予定の倉庫……?」

 

 コマンドセンターの外、数十mは離れた倉庫の窓越しに、大量に積まれた箱の山が見える。

 ニケの人工眼球をもってすればすぐ分かった。

 

「あ、今日残ってた補給品ですね。なぜあんなところに」

 

「私が置いたの。不要な食料が主だけど、いちおう機密データのダミーも混ぜといた」

 

「!」

 

 アニスの顔を一度見てからその手元に視線を移して、ネオンは目を見開いた。

 彼女が持つタブレットの画面中央にあるボタンには、無機質な『起爆』の文字が映っている。

 

「まさか、カービィを?」

 

「ええ。単独行動を観察するの。あの態度が演技なら、どこかでボロを出すはず」

 

「……ボロを出したら、どうするつもりなんです」

 

「倉庫を爆破する。仮に死ななくても、倉庫の瓦礫で一時的に閉じ込められるわ」

 

 薄暗い夜間照明に青白く照らされるアニスの声は、至って平然としていた。

 ネオンは眼鏡の奥にある栗色の瞳で刺すように睨んだ。

 

「アニス、遂に侵食されましたか? 師匠は『保護せよ』という命令を出したんですよ」

 

「悪いけどね。私は『笑顔』だなんて、都合のいい道具でしかないと思ってる。アイツが、どこかのクズが指揮官様を嵌めるために作ったものじゃないと、誰が証明できるの?」

 

 ネオンは「ですが」と言いかけたが、

 

「言いたいことは分かってる。でも失望されたって、記憶消去されたって、廃棄されたっていい。指揮官様の命は何にも代えられないから」

 

 彼女に向けられたアニスの目線は一切揺らがない。明らかに、覚悟を決めたそれだった。

 

「私は、アイツがマリアンのように、本当に指揮官様が護るに値する存在かこの目で見極めたい。ただそれだけ……」

 

「あ、カービィが来ましたよ」

 

「え!?」

 

 アニスは話の腰をぶった切られ、慌てて倉庫の方を覗き直す。

 ネオンの言う通り、カービィが楽しげにステップを踏んで来ているではないか。

 イヤホンからもすぐに、いかにもウキウキした鼻歌が聞こえてくる。

 

『ぽ~よぽ~よ、ぽよよ~ぃ♪』

 

「一直線に向かってますね。あ、ケースに入りました」

 

「……」

 

『ぱーふぇ、ぱーふぇー!』

 

 嬉しそうな声とともにすぐ、ぱくり、ぱくりと次々に口へ食料を放り込む音が聞こえる。

 

「ダミーデータは真っ先に放り出して、食料だけ美味しそうに食べてますね」

 

「……」

 

 そのうち、半開きだったケースの蓋が下がっていく。

 

『ぉよ?』

 

 ぱちん。

 

「あ、閉じ込められました」

 

「いちいち報告されなくたって見えてるわよ!」

 

 アニスにとっては完全にアテが外れた形だった。まさか、ここまで後先考えず食べ物に飛びつくとは。

 

『らぴー! あにしゅー! ねおー! しきかん!』

 

 舌足らずにカウンターズの名前を呼ぶ声が、イヤホン越しに虚しく響く。

 箱に遮られるせいで、その声量はコマンドセンターへ届かせるにはあまりに小さい。

 

「……っ」

 

 アニスは静かに唇を嚙み締めている。その指は、タブレットの上で行き場を失っていた。

 

「おやおや。アニスにも良心ってものがあったんですねぇ」

 

「う、うるさい!」

 

 一喝すると、アニスはタブレットをスリープモードにして立ち上がった。

 

 コマンドセンターから出て倉庫に入り、ずかずかとケースに歩み寄ってスイッチを押すと、ケースはすぐ開いた。

 この数分で、既にカービィは幸せそうに夢の中。食料の方は、ちゃっかりほぼすべていただかれている。

 

「……ホント、食うこと寝ることにかけちゃ一人前ね」

 

 彼女はカービィを片手で摘み上げた。カービィは、眠そうに寝ぼけまなこをこすり、ゆっくりと目を開けた。

 

「あにしゅ! ねおー!」

 

 目の前の人物を認識した次の瞬間、満面の笑顔が弾けた。

 アニスはため息をつくとタブレットを開き、起爆ウィンドウを閉じた。

 

「?」

 

「……謝ら、ないわよ。まだ、あんたの疑いが完璧に晴れたわけじゃないんだから」

 

 カービィはポカンと口を開けたまま、バツが悪そうに視線を逸らすアニスを見つめるだけだった。

 そこで倉庫のシャッターが開いて、新たな足音が近づく。

 

「どうだった?」

 

「とりあえず、今のところは食べることだけで頭がいっぱいみたいよ」

 

 声をかけてきた人物に向かって、カービィはアニスに頭を掴まれたまま嬉しそうに両手を振る。

 

「らぴー!」

 

「……どうやら、そのようね」

 

 何かがおかしい。

 ネオンは彼女たちの間に片手を振りかざして割り込み、ジトッとした視線で睨んだ。

 

「……ちょーっと待ってください。まさか、ラピもアニスとグルだったんですか?」

 

「ごめん、ネオン。きっとあなたには反対されるだろうと思ったから」

 

「そりゃ反対します! 師匠が信じるといったら私たちも信じる、これ以外に何があるっていうんですか!」

 

 沈黙したラピの代わりに、アニスが口を開く。

 

「指揮官様が他人を信じてどんな目に遭ってきたか、覚えてないわけじゃないでしょ。むしろ、なんであんたがそこまで信じられるのか不思議だわ」

 

「え? そんなの、当たり前じゃないですか」

 

 ネオンが人差し指でかけ直した赤縁の眼鏡がピカリと光る。

 

「私、スパイですので。宇宙人であろうと、嘘の臭いは一発で分かるんです!」

 

「……」

 

「あーそういえばそういう設定だったわねー。()()()()()()()

 

「ねおん、しゅぱい?」

 

 カービィが、アニスとネオンを交互に見つめながら呟く。

 正確には、スパイという言葉をオウム返ししているだけかもしれないが。

 

「ええ、そうよー。派遣した人はスパイと思ってないけど、スパイなのよねー」

 

「その通り! ですからカービィ、これからは『超高火力スパイ』と呼んでください!」

 

「アニス、ネオン、調子に乗らない。そもそも、そう簡単に上手くいかないのはマリアンの件で……」

 

 ぐぅ~~。

 倉庫に間の抜けた音が響き渡り、ラピの発言を断ち切った。

 気まずい沈黙が、しばらく場を支配した。

 

「……私じゃ……ないわよ?」

 

「何こっち見てるんですか! どう考えてもアニスです!」

 

「2人ともね。二重に聞こえたわ」

 

 ラピに指摘されて、アニスとネオンはガクリと項垂れた。

 その拍子に、カービィがアニスの手を離れて毬のように地面を弾んだ。

 

「あっ……」

 

 ラピが即座に銃口を向ける。

 しかしカービィは立ち上がるとそれにも構わず、辺りを見回したあと、突然ケースの中身を漁り始めた。

 やがて取り出したのは、残った数少ないパーフェクト。

 それを、アニスとネオンの両者に差し出した。

 

「あにしゅ、ねおん! ぱーふぇ!」

 

「え……くれるんですか?」

 

「あんた、人に食べ物渡せたんだ……」

 

 2人は呆然としたままそれらを受け取り、次にキツネにつままれたような顔で互いを見やる。

 その次にカービィは、ラピにも笑顔でパーフェクトを差し出した。

 

「……悪いけれど、私はまだあなたを信じきることはできない」

 

 彼女は銃口をいったんは下げたが、その手は引き金に添えられたまま。

 一向にカービィの差し入れを受け取ろうとせず、代わりに冷たく見下ろした。

 

「あなたが何者だろうが、私は構わない。けれど、指揮官の気持ちを裏切るようなことをすれば、顔に穴が開くことになる。それだけは覚えておいて」

 

 カービィは数秒くらいぽけっとしていたが──

 やがて、元気よく片手を挙げて。

 

「はぁい!」

 

 快活な返事と共に、ラピに渡す予定だったパーフェクトを口に放り入れたのだった。

 

「……」

 

「……ホントに分かってんのかしら、このピンク玉」

 

「少なくとも悩みは一切なさそうですね……」

 

 無味な人工食を美味しそうに頬張るカービィの顔を見ていると、先ほど脅しの言葉を吐いたラピでさえ、思わず溜息を漏らすのであった。

 

 

 数日後、カウンターズは予定通り地上へ出発した。

 目的地はアンチェインド研究所。

 武装したニケたちが先頭で指揮官護衛のフォーメーションを組み、補給品ケースを間に置いている。

 駆動音が響く真っ白なエレベーターの前で、指揮官が口を開いた。

 

「ラピ、アニス。ネオンからの報告を聞いた」

 

 ラピとアニスはすぐに振り向いて、指揮官と目線をまっすぐに合わせた。

 

「はい。対象の脅威度を測るため、アニスと結託。独断行動を行いました。明確な命令違反です。誠に申し訳ございません」

 

「……覚悟はできてる。双方、どんな処罰でも受けるわ」

 

 ラピは深々と頭を下げ、アニスは指揮官からの視線を真正面から受け止めた。

 指揮官は怒鳴ることも、処罰を宣告することもしなかった。

 代わりに目を細め、薄く、小さく、ため息をつく。

 

「必要ない。代わりに、これだけは聴いてくれ」

 

 エレベーターがブザー音とともに開く。

 指揮官は目で合図をして、ニケたちとともにエレベーターへ乗る。

 

「君たちが心の底から私を案じてくれているのも、だからこそカービィを信用できない気持ちも、痛いほどよく分かる。だが、一つだけ言わせてもらえば──」

 

 指揮官は、自身を地上へ運び上げていく床へと視線を下ろした。

 

「君たちがカービィに向けている視線は、この下(アーク)で暮らす人間がニケに向ける視線と同じだ」

 

 アニスが釣られて同じところを見下ろし、きゅっと拳を握る。

 このエレベーター下にある前哨基地の、さらに地下奥深く。

 地上を追われた人類最後の砦である超巨大都市、アーク。

 中央政府より、そこを護る役目を任じられたはずの指揮官の言葉から滲み出る感情は、決して明るいものではなかった。

 

「『自分たちと違うから』『いつか裏切られるかもしれないから』と腹の底まで疑って、監視して、支配して、いざとなれば消耗品として簡単に切り捨てる」

 

 改めて言及すること自体にすら怒りを吐き出すような口調だった。拳銃のホルスターを、壊しそうな勢いで握りしめている。

 

「何度でも言うが、私はそんな仕組みに従うがまま、マリアンのような犠牲者をまた出したくない。そして、これは自分勝手な願いだが……君たちにも同じことをさせたくない」

 

 エレベーター上部にあるメーターが、前哨基地から地上までの距離の半分を過ぎたことを知らせた。

 

「……アンチェインド確保という任務で、部外者を同行させる危険性は分かっているつもりだ。監視はかまわない。だが、銃を安易に向けることだけはしないでくれ」

 

「……了解しました」

「……了解」

「私も、肝に銘じておきます」

 

 そこでケースの蓋がカタカタと動いた。

 指揮官はそれとなく、エレベーターの隅にあるカメラを横目で確認した。

 

「ここまで言っておいて今更だが……大丈夫なんだよな?」

 

「はい。プロトコール部隊に依頼して、映像・音声ともに偽装工作を施しました。名目上は別件の依頼として、カービィのことは伏せています」

 

 ラピに安全を確認した指揮官は、蓋をそっと開ける。

 その隙間からぴょこっと、丸いピンクの顔が飛び出した。

 

「まりあん? あんちぇいんどぉ?」

 

 カービィの問いに、指揮官は優しくうなずいた。

 

「ああ。マリアンは、私を救ってくれたとても大切な人だ。今はわけあって遠いところに預けている」

 

「うぅやぁ……」

 

 カービィも指揮官の瞳から郷愁と惜別の念を汲み取ってか、俯いて悲しそうな表情を見せる。

 一方で指揮官はカービィの頭を撫で、敢えて明るげな表情に切り替える。

 

「アンチェインドは、マリアンのような子たちを縛る『見えない鎖』を解くカギ。私はいま、それを探している」

 

「かぎ!」

 

「おや。手伝ってくれるのか?」

 

「はぁい!」

 

 伝わっているのか伝わっていないのかはともかく、意気込みだけは分かる頷きだった。

 

「あのー、師匠。話は変わるんですが……」

 

 そこへネオンが指揮官の顔を横から覗き込んで、カービィを指さした。

 

「……カービィを地上に連れて来て、本当によかったんでしょうか?」

 

「そればかりはネオンに同意するわ。指揮官様には悪いけど、戦場で子守だなんて難易度高すぎない?」

 

「前哨基地で好き勝手させるわけにもいかないでしょう。むしろこの地上を歩き回ってきたと考えれば、リスク管理のため目を離してはならないわ」

 

「ラピは、師匠のありがたい説教を受けても相変わらずですねぇ」

 

 アニスが、ずいとカービィに顔を近づけ囁く。

 

「カービィ。お願いだから変なことしないでよ? ラピって、その気になれば私なんかよりずーっと怖いんだから」

「ずーとぉ?」

「ええそうよ! 髪がぼわーっと燃えてゴリラになっちゃうの!」

「ごりら!」

「そう、暴力的火力のムキムキゴリラです! ケースから出ない方が身のためですよ!」

 

 終いにはネオンまでも悪ノリする。

 

「……2人とも。もうすぐ地上に着く。フォーメーションを崩さないで」

 

 ブーッ。

 ブザー音とともに、ガッデシアム製の扉がゆっくりと、横へ重々しく開いていく。

 その先には、いつも通りの鉛色の雲が廃墟の空を覆っていた。

 

 

 しばらく、行軍は順調だった。

 散発的に遭遇するラプチャーを破壊しつつ、カウンターズは荒れ果てた地上を歩いていく。

 

「よっしゃ、クリア!」

「順調ね。この分なら、研究所へあと2時間で着くわ」

 

 そうしたやり取りをして再び歩み出す一行から数十m離れた地点で、1つの影が動き出す。

 

「……ターゲット確認っ、と」

 

 瓦礫の陰で、カウンターズを見つめる乙女が1人。

 赤紫色のツインテールと漆黒のミニスカートドレスという姿はこの風景では非常に目立つはずだが、その服装の裾には、泥はねの跡さえなかった。

 

「さぁーて、ハニー。チョウチョに、蜜のありかを教えてちょうだい♡」

 

 彼女は妖艶に笑い、双眼鏡を覗く。

 すると、目の前がまっピンクに染まっていた。

 

「ぽよ!」

「……」

 

 そっと双眼鏡を下げる。

 彼女の眼前に、20cmほどの手足が生えたピンクボールが陣取っていた。

 

「ぎゃああああああああああああああああッ!!!!」

 

 乙女に似合わない絶叫が、廃墟に木霊した。




いよいよ明日、ニケのメインストーリー更新。ドロ虐が終わったと思ったら、早くも第三次地上奪還戦……?早いなと思いつつとても楽しみ。一方で、設定開示により本作の書き変えが発生するのではと戦々恐々……。

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