中央政府へ連絡して量産型ニケたちを預けてから数十分後、指揮官一行は研究所に到着した。
玄関のセキュリティはなぜか解除されている。アニスが、一番乗りでがら空きのゲートを潜った。
「よっしゃ開いてる。ラッキー!」
「油断しないで。セキュリティが解除されてるということは、誰かが入った可能性があるから」
「よ~し! それじゃあ油断せず、何かが出たら火力で突き進みましょう!」
「かりょくぅー!」
「おお! カービィが言うと、火力が10倍増しになった気がしますね!」
「……カービィ。その言葉は覚えなくていい。慎重に行こう」
ネオンとその肩に乗って笑うカービィを、指揮官が諫めつつ後に続く。
ラピが呆れ切った目つきのパピヨンを一瞥して、指揮官の耳に顔を寄せた。
「指揮官。ご確認ですが、パピヨンの監視は続行ということでよろしいでしょうか。同行させる以上、彼女が我々の目的を知ることは必至と思われますが」
「彼女が完璧なスパイなら、とっくにカービィの情報をアークへ送っている。我々の目的を説明すれば分かってくれると信じたい」
「……了解」
ラピは少し考えてから、パピヨンの隣で足を止めた。
「パピヨン」
彼女は呼ばれることを予知していたかのように、くるりと振り返った。
「ああー、目的を知られたくないから、私はここにいろって? ま~それは勝手にしてくれていいけど、その気になれば外からアークに座標を知らせることだって……」
「違うわ。そういうことなら、最悪ここであなたを黙らせることもできるけど、あなたが目的を妨害しない限り指揮官の攻撃許可は下りないでしょう」
「……じゃあ、何が言いたいのよ」
「対ドリアン戦での件について、お礼を言いたい」
ラピが頭を下げた。
パピヨンは「え?」と戸惑いの声を上げた。
「あの時、私を叱ってくれたでしょう。お陰で、私はカービィの援護にすぐ移ることができた」
何と答えればいいかわからないのか、パピヨンは幾度も視線を彷徨わせた挙句、腕組みをしてつんとラピから顔を背けた。
「か、勘違いしないで! あれは、そう、ただ借りを返しただけ。これからはいざとなれば……!」
「敵になるでしょうね。それでもここで言っておくべきだと、そう思ったから」
「あ、ああああもう、あのピンク玉のお人好しが移った!?」
パピヨンが、ぷいとそっぽを向く。
それを見たラピは口端を少しだけ上げ、
「……そうかもね」
そこへ、いつの間にか背後に回っていたアニスとネオンがパピヨンの背を押した。
「きゃっ!」
「さぁ、スパイは前を歩きなさいっ!」
「あなたがスパイにふさわしいか、先輩からの抜き打ちテストですよ!」
「てすと、てすと!」
「うっわ~、ミツバチたちったらここぞとばかり! カウンターズは排他的集団って報告しちゃおうかしら~!?」
──随分と仲が良くなったようだ。
呆れ半分のラピから、さっさと行きましょう、と目で催促される。
「……まずは、上階を探してみよう」
*
しばらく指揮官一行は研究所を歩き回り、アンチェインドがありそうな場所を探ることとなった。
そのうち、怪しげな研究室が目に留まる。他の部屋よりも扉が大きい。
アニスはネオンの肩の上にいたカービィを両手で持ち上げ、部屋の外に置いた。
「ぉよ?」
「カービィ、あんたには見張りを頼むわ。悪いヤツが現れたら知らせてちょうだい」
「はぁい!」
アニスはもはや恒例となったお駄賃のパーフェクトをあげつつ、部屋の中へ入った。
「なるほど、セキュリティのためですか」
「そうよ。アイツ、絶対どこかで口走るもの。さ、パピヨンより先に見つけちゃいましょ」
ネオンとアニスは、安心しきった顔で机をまさぐり始めた。
だがその脇で、パピヨンが真っ先に机の引き出しを開け、中に入っていた古い紙の報告書に目を留めた。
「これは……?」
彼女は手に取ると、書面に素早く目を走らせた。そして──
「分かったわ。あなたたちの目的って、アンチェインドだったのね」
パピヨンは書類から顔を上げ、驚くカウンターズを見つめた。
「ちょっと、部屋に入ってから数秒しか経ってないじゃない! さっきのパーフェクト返してほしいんだけどッ!」
「師匠、どうします!? 処します!?」
「ダメだ。まずは、彼女がどうするつもりか聞こう。パピヨン、君はそれを見てどうするつもりだ? その資料を我々に渡さず、バーニンガムに報告するか?」
パピヨンは、んー、と唇に指を添えて唸ったあと、指揮官へふっと笑いかける。
「地上でも言ったと思うけど、排他的な誰かさんたちと違って、私は常にアーク全体のことを考えてるの。きっとこの情報は、アークの一員たるハニーも知るべきだと思うのよ」
彼女は指揮官に身体を寄せると、その手を取ってある段落へと導いた。
「もともとハニーが探してた情報なんでしょ? まずはぁ、一緒に読まない?」
アニスは不平そうな顔をして、ちょうどそこにあった椅子に腕組みしてどかりと腰かけた。
「あー、はいはい。じゃあ、アークの一員たる私たちにも丁寧に読んで聞かせてちょうだい。カービィ。見張りはもういいから来ていいわよー」
「はぁい!」
呼ばれたカービィは扉の隙間から入ると、絵本を読んでもらう子どものようにウキウキした顔で机に飛び乗った。
「ゴッデス指揮官の血液から特殊物質を検出……ヘレティック・アナキオールに注入すると、体内のナノマシン破壊を確認。この物質を、『アンチェインド』と呼称……」
パピヨンは声に出して読むと、じっと指揮官の瞳を覗き込んだ。
「なるほど。ハニーは、アンチェインドを手に入れてヘレティックを倒したいのね?」
「へれてぃっくぅ?」
「……え? まさかこれ、説明してあげる流れ?」
口を出したカービィをパピヨンは睨むも、純粋な疑問符のついた顔を見るうち、やがて彼女も折れて肩をすくめる。
「はぁっ。分かってもらえるかわかんないけど、ヘレティックってのは私たちニケの裏切り者。ラプチャーになった、超強くて悪いニケってとこかしら?」
「ぷぅ!」
カービィは目を吊り上げてほっぺを膨らませる。
「……分かったみたいで何より。でもそれなら、対ヘレティックの切り札を探してるって、わざわざ私に隠す必要なんてある?」
「ああ。同じアンチェインドを求めていても、私の『夢』は別にある」
数秒ほどパピヨンは考えていたが──すぐ、はっと目を見開いた。
「……NIMPHの、破壊」
「そうだ。アンチェインドという選択肢を与え、ニケが自分で未来を選べるようにする。それが私の目的だ」
「にんふ……? むゅ……」
「あ、カービィが寝かけてます」
ネオンの報告を受け、アニスがカービィの頭を揺する。
「ほら、エレベーターのなかで言ったでしょ。マリアンのような子を縛る『見えない鎖』。それがNIMPH。この中にあるソイツが私たちを操って、偉いヤツに逆らえなくしたりするの」
アニスは、自身の頭を指さしてみせる。
「そのNIMPHがあったせいで、指揮官様はマリアンを自分の手で
カービィも彼女の表情から何となくイヤなことなのだと読み取ったのか、「ぅゆ……」と眉を下げる。
そしてアニスの視線は、いつの間にかカービィからパピヨンへと移っていた。
お前はこれを聴いてどう思うのか、と問いかけるように。
「……言っちゃ悪いけど、バカげてるわ」
「そのバカげた夢を、師匠は必死に追ってきました。そうしてここまで来てやっと、この研究所を突き止めたんです!」
ネオンの言葉にパピヨンは目を伏せ、躊躇いの顔を見せた。
「そうね、それは本当に凄いと思う。でも、手に入れてからだって茨の道よ。『ニケは兵器らしくNIMPHに制御されてろ』って思う人はアークに山ほどいる。それでも?」
指揮官の瞳は揺らがなかった。
「それでも、私は行く」
「……どうやら、これはホンモノみたいね」
パピヨンは、降参とでもいうように両手を挙げた。
「分かったわ。バーニンガム様には、あなたたちがアンチェインドを探してた事実は伏せてあげる。邪魔したらすぐにでも殺される勢いだしね」
しかし彼女は直後、抜け目ない視線で指揮官を見据えた。
「でもその代わり、研究所にあるアンチェインドの情報は隅々まで調べて、アークへぜんぶ伝えさせてもらう。これなら文句はないでしょう?」
「……ああ。かまわない」
「師匠、スパイの言葉を簡単に信じてはいけませんよ!」
「ネオン、あんたもスパイよね?」
「あ、そういえばそうでした!」
「……とにかく、監視兼同行は継続ということですね」
指揮官が頷くとラピは資料に目を通し、ある記述に目を留めた。
「アンチェインドのサンプル10ml計12個、9棟の305号室に保管……行ってみますか、指揮官?」
「そうだな、確かめる価値はある。次の目的地はそこだ」
*
305号室に着くと、冷蔵庫の前へカービィが真っ先に走っていった。
その向かった先で、ぴょんぴょんと飛び跳ねてカウンターズを呼ぶ。
「れーぞーこー!」
「お、いい着眼点じゃないか」
カービィが案内した冷蔵庫はなかなか大きく、この研究室ではかなり目立った。
「確かに、部屋の動線を考えると重要な保管庫かもしれません。確認してみましょう」
全員が、冷蔵庫の前に集った。
パピヨンは何となしに隣のカービィを見て──「げっ」と声を漏らした。
口から涎を垂らし、扉が開く時を今か今かと待ちわびている。
「ねぇちょっと。この子、なにか勘違いしてない?」
アニスはため息をつくと冷蔵庫の前に立ち塞がるようにしゃがみ、カービィの頭にぽんと手を添えた。
「あのねー、カービィ。これは確かに冷蔵庫だけど、食べ物、入ってないから。お願いだから、吸い込まないで。いいわね」
「ぽよ!? うぅ……」
「あ、これホントにそう思ってたパターンですね」
「大変そうね、ミツバチたちも……」
気を取り直して、扉をそっと開けると──
フラスコを12本挿せるケースがあった。うち11か所には空の容器が挿され、あと1か所には何もない。
「……確か、セキュリティが解除されてたって言ってたわよね。ラピ」
「ええ」
「あっ、ひっじょーに嫌な展開だわー、これ」
「ちょっと待ってください。となると……まさか我々は、その誰かと出くわすことに……」
ネオンの言葉を証明するかのように、壁にひび割れが入った。
「……やっぱり!」
アニスが叫んだ瞬間に壁は爆発し、煙が立ち込めた。
壁に開いた風穴の向こうで、眩しい夕陽を背に受けて複数の人影が佇んでいた。
後方に、銀髪の男が立っていた。
前方にはスーツを着たニケと思しき者たちが佇んでいる。
「イサベル。煙を吹き飛ばし、敵の人員を把握」
「はい」
イサベルと呼ばれた紫色のスーツを着たニケが前に出て、背にある翼を光らせる。
3対の翼がきぃぃぃんと唸り、煙を晴らす。
彼女は指揮官の顔を見ると瞬く間に頬を紅く染め、粘着質な笑みを浮かべた。
「ふふ、お久しぶりです、愛しいあなた」
「え?」
指揮官は突然向けられた好意に戸惑う他ない。初めて見る顔のはずだが。
イサベルは、うっとりとした視線で、そっと指揮官へ歩み寄りかけたが。
「!!」
その足下でぽけっと突っ立つカービィを見た途端に目の色を変え、踏み止まった。
「ヨハン指揮官。カービィと思しき生物が!」
ヨハンと呼ばれた、銀髪の軍服姿の男が一番奥で眉をひそめる。
「……全員、プランBへ移行」
イサベルが即座に地を蹴った。
空中を滑る彼女の身体は一瞬で指揮官に迫り、他が反応する間もなく指揮官の首に銃口のついた翼の一つを突きつける。
「あなた。少しだけ大人しくしてくださいますか?」
カウンターズが銃を向けようとすると、イサベルが無言で指揮官の首へ銃口を近づける。
続いて、一対の盾を両脇に浮かばせる薄いピンク色の髪の少女が、驚くカービィをニヤニヤ笑って指さした。
「へぇ、コイツがアイツらの言ってた『宇宙最強の生物』? ププッ、どう見ても弱っちそうじゃん! そこまで警戒する必要ないでしょ!」
「ノア、お前がカービィと最も相性が悪いことを忘れるな。『吸い込み』に備え、盾を地面に突き立てここの防御に専念しろ」
「……わ、分かってるって、それくらい」
少女ノアは、先の傲慢な態度が嘘のような素直さで、自身とヨハンの前に壁を作った。
そして最後のメンバー、魔女のような姿をした黒髪の女性が、巨大な鎌を担いでヨハンへ目配せする。
「で、私はどうしようかしら。こちらもカラスが吸い込まれれば意味がないけれど」
「ハランは、カービィとニケ部隊を分断。『コピー』防止のため、奴らに一発も弾丸を撃たせるな」
「ふん。面白くはないけれど、可愛いカラスたちをあの捕食者に喰われるよりはマシかしらね」
ハランは機械のカラスを大量に飛ばし、瞬く間にニケたちを囲った。
「わっ!」
「ぽよッ!」
急いでラピたちへ駆け寄ろうとしたカービィへ、ハランは背後から鎌を突きつけた。
「ピンクボール、変に動かない方がいいわ。カラスたちは今すぐにでも、あなたの仲間を餌にする用意が出来ているからね」
そうして安全を確保したヨハンは、ゆっくりとカービィへ歩み出した。
「貴様がカービィだな。聞きたいことがある」
ヨハンは向き直ったカービィに睨まれるが、声の平坦さは変わらない。
「まず一つ目。マルク、マホロア。この名前を知っているか」
「ぽよっ!?」
カービィの驚く顔を見て、ヨハンは心得たように頷く。
「なるほど、知っているようだな。では……奴らは、お前にとって何者だ」
「んぃ?」
一瞬首を傾げたあと、すぐにカービィは手を挙げた。
「トモダチっ!」
「……」
返事を聞き届けたヨハンは、なにやら思案を巡らせる。
カラスの群れに囲まれる指揮官には、状況がさっぱり分からない。
ネオンの頭上では、いくつもの疑問符が並んでいる。
「マルク? マホロア? カービィのともだち? どういうことです?」
「こちらの話だ。さて……お前たちが探していたのは、これのことか?」
次にヨハンは何を思ったか、ノアの盾から自ら身体を表に出す。
取り出された手の中には、赤い液体の入ったフラスコがあった。
「!」
「アンチェインド!?」
「さては、あなたたちが奪ったんですね!」
「先に捜し出した、と訂正させてもらおう」
「……分かったわ」
アニスは、カラスの向こうに見えるヨハンたちを鋭く指さした。
「あの妙な侵食とラプチャー、あんたたちがけしかけたのね!」
ヨハンは、細い眉をひそめた。
「……何を言っている?」
「とぼけたって無駄よ。ラプチャーが道中でカービィを狙って来たのは、時間稼ぎしながらこちらの座標や情報をあんたたちに送らせるため。違う!?」
「……ヨハン指揮官。マホロアたちから、何か聞いていますか」
すぐそばで指揮官に銃口を向けていたイサベルの反応は意外なものだった。
完全に戸惑いを顔に浮かべながらヨハンの顔を覗き込んでいる。
その表情はイサベルに限らず、他の仲間たちも同様だった。
「え……まさか本当に知らないの?」
問い詰めた方のアニスでさえ、思わず毒気を抜かれる。
ヨハンは、見るからに苛立ちを含んだ溜息をついた。
「……奴らめ、何をするつもりだ」
緊迫した空気が一瞬だけ緩む。カービィは、それを見逃さなかった。
「きゅおおおおおっ!」
「っ!?」
振り返ると同時に、ハランのカラスたちを次々と吸い込んでいく。
イサベルが驚愕した隙に、ハランの束縛を逃れたカウンターズが逆に銃を向け返す。
ノアの顔が一気に青ざめ、「ひっ」と盾の内側に潜り込む。
カービィは頬を膨らませたまま即座にヨハンを睨み、カラスをマシンガンの如く吐き出した。
だが、ヨハンは人間とは思えない反応速度で身を躱す。
「チッ……来たか」
もう一度カービィが吸い込みの姿勢を見せたと同時、ヨハンのもう片方の手が親指と人差し指で輪を作り、フラスコの前に添えられた。
「あいにくお前のお友達からは、『カービィに襲われたらこうしろ』と言われている」
ヨハンは、フラスコの底を指で弾いた。
フラスコが割れ、中身が飛び散る。指揮官は唖然とした。
「なっ……!」
「ぽよ!?」
カービィは慌てて中身だけでも吸い込もうとした。
液体がはぎ取られると、その中から、透明な
それが空中に浮いたまま光り輝き──光った地点を中心として、大きな星型の穴が開いた。
「アンチェインドじゃ、ない……!?」
指揮官たちの目の前で、弁を開くように歪んだ空間。
明らかに物理法則を無視した現象だ。
一方のヨハンは一歩下がって、眼前で開いたその穴を見つめた。
「……『ローア』の機能の片鱗か。つくづく訳の分からん代物だ」
穴から引力が発生し、すぐ前方にあったカービィの身体を浮き上がらせる。
「わ、わああああああ~~~~~~!」
逆にカービィが穴の中へ吸い寄せられ、その中に引き込まれてしまった。
「カービィッ!!」
指揮官は虚を突いてイサベルを突き飛ばし、カラスの群れも無理やり抜ける。
「あ、あなた様っ!」
彼女たちも未知の現象に気を取られ、反応がわずかに遅れた。
指揮官はすぐ、飲み込まれていくカービィの手を掴んだ。
その行動までは予測できなかったのか、ヨハンは驚いてわずかに目を見開く。
「カービィ、今すぐ引き上げる!」
それでも穴が引き込む力が強く、5秒もせず指揮官の腕が飲み込まれてしまう。
イサベルが、思わずヨハンを見つめた。
「ヨハン……!」
「……行かせてやれ。自ら死にたいのなら好きにさせろ」
言葉を失ったイサベルの横を、カウンターズが走り抜ける。
「指揮官っ!!」
「指揮官様っ!」
「師匠っ!」
彼女たちが次々に指揮官の身体へ縋り付く。
だが、3人のニケの力をもってしてもそれはムダな抵抗にすぎなかった。
あっという間に、彼らの姿は穴の向こうへ消えた。
「あ……ああっ……」
後にはパピヨンだけが残った。
彼女もゲートへ腕を伸ばして立ち上がりかけていたが、その足が踏み出す前に穴は立ち消えていた。
「……カウンターズまでまとめて片付くとは。結局、アンチェインドを望んだ理由は分からずじまいだが」
少々心残りそうに呟くヨハンに対し、壊れたカラスたちを拾うハランは、素直に感心した目で穴のあった場所を見つめていた。
「ピンクボール対策に道具を貰ったと聞いてはいたけど、毎回驚かせてくれるわね、あの旅人たちは。あれで始末できたのか確かめようがないのが残念だけど」
「不快ではあるが、毒には毒で対抗する他ない。カービィに先制を許した時点で、こちらの不利は確定していた」
ヨハンは本物のアンチェインドを手にして眺め、ケースにしまった。
「……ヨハン指揮官。エデンに持ち込まれたあの『星』といい、あの異星人たちには不透明要素が多すぎます。私でさえ、ここにカービィがカウンターズと出会うことまでは予測できませんでした。それを彼らは……」
イサベルの言葉に、しばしヨハンは視線を合わせ思案したが、やがて踵を返す。
「その確認も含めエデンへ戻ろう。もう一度、あの忌々しい一頭身どもの顔を拝みにな」
ハランやノアは邪魔者がいなくなって清々したとばかりに前を向いてついていくが、イサベルは指揮官に執着がまだあったのか、目を伏せてうつむき気味で歩いていく。
「ヨハン。そこにいるヤツはどーするー?」
「殺すも生かすも好きにしろ。むろん、エデンの規律に従い責任は持て」
パピヨンは抜け殻のような状態で膝をついていたが──その口だけはまだ動いた。
「エデンって……失楽園のこと? あなたたち、噂の地上の生存者?」
呟いた直後、いつの間にかハランがパピヨンの前に立って彼女を見下ろしていた。
「ほう。だったら、どうするつもり?」
パピヨンはいったん、息を吐き切る。
顔を上げた時には既に目に光が戻っており、むしろハランに笑みを突き付けていた。
「仕事上、何度も名前を聞くことはあってね。フリーになった機会にぜひ、この目で見ておきたいわ」
「……ふうん。弱者なりに変わり身の速さだけは見上げたものね」
部隊の他の面々は何も言わず見守っている。ヨハンだけは不愉快そうだが。
ハランは品定めするように顎を上げ、
「来たい? 私が課す、最低限の実力を測る試練に通れば……の話だけれど」
パピヨンは唾をごくりと飲み込み、震える拳を握って立ち上がった。
「ええ、お言葉に甘えさせていただこうかしら。あなたたちがなんでこんなことをしたのか、気になって仕方がないの」
「そう。それなら、私の気まぐれに感謝しながら後に続きなさい」
彼女は最後列でハランから一切視線をずらさぬまま、懐に隠した端末を素早く動かした。
吸い込まれたカービィたちは、いったいどこへ……?
執筆活動の大きな励みとなりますので、ご感想や評価、いつでもお待ちしています!
誤字訂正してくださる方、本当にありがとうございます!本当に助かります!
今作、これまで書いてきた作品の中で一番すごい伸びでびっくり。両方ともハーメルンではマイナーな方かなと思ってたんですが、ここまで見ていただけてとてもありがたいです。