勝利の旅人:星のカービィ×NIKKE   作:Misma

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今回、少し長めです!
BGM:『GREEN GREENS』


6話:GREEN GREENS

 はるかぜが、指揮官の肌を優しく撫でた。

 

「ん……」

 

「指揮官、ご無事ですか」

 

 天国か地獄にしては意識がはっきりしている。

 指揮官が薄ら目を開けると、白い雲と青い空をバックにニケたちの心配げな顔があった。

 夢見心地から一気に覚め、すぐ身体を跳ね上げる。

 

「みんな、無事か!」

 

「はい。アニスとネオンも……そしてカービィも、生存確認できました」

 

 ラピは起き上がった指揮官を見て、安堵した顔で報告した。

 

「むしろ、指揮官様が一番起きるの遅かったのよ!」

 

「師匠も無茶しますよね。あんな躊躇いもなくカービィを助けに行くなんて」

 

「……すまない。君たちまで巻き込んでしまった」

 

「大丈夫よ、指揮官様。それより、どうも私たち……とんでもないところに来ちゃったみたいよ」

 

 アニスの肩の上で、カービィが千切れんほどに手を振って飛び跳ねる。

 

「しきかん、ぷぷぷらんど!」

 

 彼の口から出たのは、聞き覚えのある単語だった。

 

「まさか……!」

 

「俄かには信じがたいですが、ここはカービィの故郷『プププランド』ではないかと推測します」

 

 指揮官はラピの差し出した手を取って立ち上がり、一歩足を踏み出す。

 土の感触、そよ風に乗ってくる草の匂い。全てが指揮官たちを歓迎しているようだ。

 それだけではない。地面から生えるカラフルなクッキーのような物体、くるんと渦を巻いた雲、ドーナツのような輪っかを描く岩。

 まさに人類が思い浮かべる理想的な地上、いや、それ以上に御伽話の世界そのものだった。

 一言で表すなら──夢の国。

 

「あっ、カービィ!」

 

 突然降ってきた声に、カービィが丘の向こうへ振り返った。

 

「はぁい!」

 

 カービィは手を振るが、指揮官たちにとってはあまりに唐突だった。

 ニケたちが反射的に銃を構え、息を殺して丘を見つめていると──

 

「おーい!」「ずいぶん早く帰ってきたじゃん!」

 

 鏡餅のような輪郭の顔に短い手足をつけた生き物が。

 リンゴに笑顔で乗る青服のピエロが。

 ひとりでに動くキノコが。

 

 カービィくらいの背丈の生き物たちが現れて、流暢に喋りながら駆け寄ってくるではないか。

 ──明らかに、ヒトではない。さすがのカウンターズでさえ後退りする。

 

「な、なになになになになに! なんなのこいつら!?」

 

「か、火力の気配は……見たところないようですが」

 

「この地の原住民……?」

 

「わどるでぃ、ぽぴー、きゃぴー!」

 

 一方のカービィは、ラピたちに住民を左から順に紹介する。

 3体のうち最もカービィに似た住民、ワドルディが、自身の8倍はある身長のラピを見上げる。

 

「あっ、お客さんだー。すごくおっきいねー」

 

 隣では青服のピエロ、ポピーがリンゴの上を飛び跳ねている。

 

「武器もでっかいね! つよそうでかっこい~!」

 

 陽気な笑顔のままそう評する辺り、少なくとも、敵意は毛ほどもなさそうだ。指揮官は、恐る恐る口を開いた。

 

「……君たちは、私たちを警戒しないのか」

「けーかい? なんで?」

「こんなに姿が違うだろう。侵略者かもとは疑わないのか?」

 

 ワドルディが、仲間と顔を見合わせて首を傾げた。

 

「ヘンなこというなぁ。別にキミたち、いま何にもしてないでしょ? じゃあ、侵略者じゃないよ」

 

「あ……うん、そう……? っ、じゃなくってっ!」

 

 危うくその場の空気に呑まれかけたアニスは、慌てて首を振る。彼女は、背中に担ぐロケットランチャーを指し示した。

 

「私たち、何を考えてんのかわかんないのよ? 突然ここを火の海にするとか、仲間を連れ去ったりとか、もっとひどいこともするかもしれない。本当に怖くないの!?」

 

 アニスとしては、疑いようのないこの世の現実を突きつけたつもりだっただろう。

 それでも、住民たちの顔は「そんなことか」とでも言わんばかりだ。

 

「あー。そういや、前にそんなこともあったっけ~。ま、よっぽど悪いことする人がいたら誰かが止めにいくよ。ほとんどの場合、カービィがすぐやっつけてくれるけどね」

 

「ぽよ!」

 

 そうカービィと笑い合うワドルディを見て、アニスは思わずふらついた。

 

「……ア、アタマ痛くなってきた。政治とか経済とかどうなってんのよ!?」

 

「単独で国防を担える火力だとは、さすがはカービィですね!」

 

「なんでネオンはやけに飲み込み早いのよ。なんか腹立つわ!」

 

 喧騒のなか、ワドルディがカービィに尋ねた。

 

「カービィ、この人たちとはどういう関係?」

 

「トモダチっ!」

 

 迷いのかけらもない一言に、ラピが眉を上げた。

 

「……とも、だち……?」

 

 彼女だけでなく他のニケたちも黙り込んだのを他所に、カービィは笑顔のまま住民たちへ説明を続ける。

 

「ぱふぇ、いえ! たびっ!」

 

「へー。お腹空いて迷い込んだらご馳走して家に泊めてくれたから、冒険を手伝ってるんだ。とってもいいヒトたちなんだねー!」

 

 アニスは俯いて、自身の拳を胸の前できゅっと握りしめた。

 

「……カービィ……ずっと私たちのこと、友達だと思ってたの?」

 

「んゃ? はぁい!」

 

 カービィは、不思議そうに首を傾げながらも即答する。

 ──ラピとアニスの反応は当然だ。彼女たちはドリアン戦の際、誤解とはいえ彼へ殺意を持って銃を向けたばかりなのだから。

 

「私は……私たちは、カービィを……」

 

 その時、キャピィと呼ばれたキノコが、そういえば、という風に笠をぽんと吹き上げた。

 びくりとカウンターズの肩が跳ね上がる。

 

「あっ、カービィ。相談したいことがあるんだ。あっちの山が物騒なんだよー」

 

 彼はハニワのような顔を露にして、北にあるおわん型の山を指し示した。そこを見たカービィが、小さく飛び上がった。

 

「うぃすぴーうっず?」

 

「そうそう。またデデデ大王の命令でアレを自分のものにしちゃってさー」

 

 指揮官は、初めて聞く単語に眉をひそめる。

 

「デデデ……大王? ここにもリーダーがいるのか?」

 

「ああ、この国の王様だよ。わがままで困ったやつでさー」

 

 ──デデデといえば、どこかで聞き覚えがあるような。

 それはラピも同じだったようで、彼女は保管していたブリーフィングノートを素早く取り出して開いた。

 描かれているのは、かつてカービィが見せてくれた、たべものを汚らしく口へ放り込むブサイクな厚い唇のペンギン。

 

「も……もしかして、これがデデデ大王だったんですか!?」

 

「ぽぅよ! ででで、ぱーてぃ。えでん、わーぷすたー、どっかーん!」

 

 驚くネオンへカービィが頷くところをみるに、どうも、あの時にちゃんと説明してくれたようだ。──この絵とあの説明でまず分かるわけもないが。

 事情を説明されたワドルディは、なるほどと頷いた。

 

「パーティーに招待されたから玄関に入ったら、キカイたちに不意打ち……災難だったねぇ」

 

「騙し討ち、といったところか。だが、なぜデデデ大王はそんなことを?」

 

「デデデ大王は、ずっと前に国中の食べ物をかっぱらって『きらきらぼし』って秘宝を奪ったことがあるんだ。今回も同じことを企んで、邪魔者のカービィを追い払おうとしたのかもね」

 

「……うん。なんていうか、この国らしい王様ね」

 

 アニスがジトッとした目で皮肉を言う。資源不足が深刻なアークからすれば夢のような話だ。

 それにしても、秘宝『きらきらぼし』……この世界らしいというか、中々なネーミングだ。

 

「あの山には、おまけに赤い目のキカイの新入りたちもいていきなりビーム撃ってくるんだー。行くんだったら気をつけてね」

 

「……赤い目のキカイの新入り?」

 

 ポピーの挙げた特徴に、指揮官は目を細める。どうも心当たりがありすぎる。更には新入りと称されるからには、元々このプププランドにいなかったということだ。

 

「まさか……ラプチャー?」

 

「あ、知り合い? そんなら、キミたちも一緒に止めてくれない?」

 

 指揮官とニケたちは互いの顔を見合わせる。知り合いというには、あまりに物騒すぎる仲だが──

 

「ぽよ!」

 

 カービィはさっそく丘の上に走り、指揮官たちへ振り向いて手を振る。

 一緒に行こうよ!と誘うように。

 指揮官は、まだその場にとどまるラピとアニスの肩を叩いた。

 

「ひとまず、ここの地理に詳しいカービィを頼ろう。それにラプチャーのことも引っかかる。もしかしたら、元の場所に戻る方法も見つかるかもしれない」

 

 ──右も左も分からない状況だが、まずは一歩、踏み出させなくては。

 ネオンも指揮官の意を汲んでか、自ら彼女らの手を引いてくれた。

 

「さぁ2人とも、のんびりしてる場合じゃありませんよ!」

 

 カービィに少し遅れて、遂にニケたちもこの草原を歩みだす。

 

「じゃあね~」

 

 住民たちは無邪気に手を振って、訪問者たちを送り出してくれた。

 

 

 しばらくカービィに導かれて進むと、行き止まりに突き当たった。

 目的の山との間には巨大な湖が横たわっている。橋はどこにも見当たらない。

 

「さっそく詰んだけど、どうする?」

「おっと、天才的な名案が出ました! 圧倒的火力で湖を蒸発させるというのは……」

「却下ね。指揮官、少し遠くなりますが、迂回しましょう。西からであれば問題ないかと思われます」

「ああ……仕方ないな」

 

 ラピに指揮官が頷きかけたところで、カービィは手を天高く挙げた。

 その手にはどこから取り出したのか、星型のアンテナがついた携帯らしきものがあった。

 

「わーぷすたー!」

 

 きらり、と空の一点が黄金に輝いた。

 直後、あのワープスターが光の尾を引いて雲を突き抜け、カービィたちの前に舞い降りる。

 

「ワ、ワープスター!? ドリアンとの戦闘で壊れたはずでは!?」

 

 指揮官たちが驚かないはずはなかった。まさか再生したのか。それともスペアの類か。

 彼らの疑問をよそに、カービィは一緒に乗ろうと手を振ってくれる。

 だが──問題がある。隣にいるラピと見比べればよく分かる。

 

「……このサイズで、私たちが乗るのは無理がある。気持ちは受け取るけれど、諦めるしかないわ」

 

 つまるところ、ワープスターの大きさが彼女のつま先から腰下くらいまでしかないのだ。

 カービィはそれに気づいたのか頭を掻いて、ワープスターの背を優しくぽんぽんと叩いた。

 

「ふぁいと!」

 

 すると、呼びかけに応えるようにワープスターが光り出し、ぐん、ぐん、と急に大きくなった。

 どうやら本当にこの乗り物が()()()()、指揮官たちが乗れる大きさになってくれたようだ。

 

「……」

「うん。もう、何が起こっても突っ込まないわよ、私は!」

 

 アニスが半ば投げやりに角を掴むと、それに続いて一同もすぐ乗り込んだ。

 一斉に5人が乗ったせいでやや傾くが、空中から落ちる気配はない。

 さらに、指揮官のワープスターを触る手に、不思議な感覚があった。

 

「……温かい。まさか、生きてるのか?」

 

 ワープスターはきゅるるる、と音を立てて飛びあがる。

 だがその軌道は数秒後、怪しい動きを見せだした。ある時は宙返りして円を描き、ある時は湖から飛び出した山にぶつかっていく。

 

「だ、大丈夫かこれ!? かなり運転が荒いぞ!?」

「指揮官、危険です。肩に掴まって下さい!」

「あ、私今から吐きます」

「ちょっ、ネオン、我慢しっ……」

 

 ワープスターは空高く飛び上がる。

 空に鮮やかな虹を空に描きつつ、山へ半ば墜落するように高度を下げていった。

 大きな悲鳴と轟音が響き渡り、山から鳥たちが驚いて飛び出していった。

 

 

 指揮官は、よろよろと茂みのなかからやっとの思いで這い出した。

 

「はぁ、はぁ……いろんな意味で地獄だった……」

 

 彼がふと視線を奥へ動かすと、瞬間、暗闇から赤い光がいくつもこちらに向かって瞬くのが見えた。

 指揮官がすぐ腰を屈めると同時に、カウンターズがその前へと飛び出した。

 

「エンカウンター!」

「ああもう、あんなド派手な着地したから!」

「お゛えっ……まだクラクラしますが、火力で打ち消しますっ!」

 

 予想した通り、ラプチャーはプププランドにも侵入していた。

 たちまちのうちに銃弾の応酬が展開される。

 

「散開! 火力集中による各個撃破を狙え!」

「了解!」

 

 カウンターズは木を遮蔽物にしつつ敵に風穴を開ける。

 カービィは真正面から迎え撃ち、ラプチャーを弾にしては吐き出していく。

 アニスが装填ついでに、ちょうど隣に降り立ったカービィに叫んだ。

 

「カービィって、何かしら飲み込んだら変身できるのよね!?」

「うゅ! こぴー!」

「なるほど、『コピー』っていうのね! なら、これも出来る!?」

「ぁいッ!」

 

 アニスが叫んで投げた予備の榴弾をカービィは吸い込み、飲み込んだ。

 

「ボム!」

 

 カービィの頭に、クラッカーを逆さにしたような帽子が出現した。

 虚無から手に取り出すは、球型で導火線がついた、原始的で典型的な手榴弾。

 それを、カービィはラプチャーへ次々と投げ込んだ。

 爆風の嵐が巻き起こり、ラプチャーたちを分解していく。

 

「おおおお! 今回はさらに火力に特化したコピーですね!」

 

 ──火力崇拝主義者のネオンにとっては垂涎必至のコピーであろう。

 それに背中を押されたように、カウンターズは視界内のラプチャーを一掃した。

 銃声の止んだ森の戦場で、ラピは辺りにラプチャーの熱源反応がないことを確認した。

 

「クリア。では指揮官、前進を……」

 

 不意をついたように、黄金色のブーメランが飛んだ。

 

「危ない!」

 

 カービィが、咄嗟に飛び跳ねそれを躱す。

 ちょうどその背後にいた指揮官も、ラピが身を挺して庇い、倒れ込んだことで難を逃れる。

 

「やいやい、カービィ! そこのお友達も止まりなぁ!」

 

 金色の兜に手足のついたような生き物が、返ってきたブーメランをキャッチ。兜のトサカにして付け直した。

 続いて、先ほど出会ったポピーやワドルディの同族たちが、茂みの中からぞろぞろと出てくる。

 彼らの丸い手にはいずれも、導火線のついた丸い爆弾や槍が握られていた。

 

「さーきぶる!」

「お前らもきらきらぼしが欲しいのか!?」

「この先は、ボクたちが通さないよ!」

 

 ラピは、彼らに向かって銃を構える。

 引き金に指をかけこそするが、視線に鋭い殺意はない。

 

「……プププランドの住民を発見。デデデ大王の手下であると推定されます」

「彼らは絶対に撃つな。そちらは拘束を優先……」

「ばくだんなげッ!」

 

 指揮官が指示しかけた瞬間、カービィは住民に迷いなく爆弾をぶち込んだ。

 それも、1個どころでなく大量に。

 

「ぎゃーっ!!」「ひいーっ!!」「うわぁーっ!!」

 

 一方的な蹂躙だった。至る所で爆音と火柱が上がる。光と炎が、呆然とする指揮官たちの瞳に幾度も映った。爆発に巻き込まれた手下たちは派手に吹っ飛ばされ、そのまま星屑になって消えてゆく。

 そうして、たった数十秒間の出来事が終わったあと。

 カービィは「おわり!」と、掃除でも終わったかのような笑顔で振り向いた。

 カウンターズ一行の顔は、完全に青ざめている。

 

「カ、カ、カービィ。さっきの子たち、死……」

「うんゃいっ!」

 

 アニスの震える声に、カービィは手を挙げて答えた。

 

「う、嘘、だろ……」

 

 指揮官の声もどこ吹く風、カービィは何事もなかったかのように先へと歩いていく。

 

 

「りんごー!」

 

 カービィは道中に落ちるリンゴを見つけると、一口でぱくりと飲み込んでは、また向こうに落ちているリンゴへ向かっていく。

 

「……指揮官。私には、カービィという存在が分からなくなってきました」

 

 指揮官も、ラピと同じ思いだった。

 爆風のなかでも自分たちを庇ってくれた姿と、手下たちを躊躇なく爆殺した姿。

 同じ小さく丸い背中なのに、それらがまったく異なるものに見えて結びつかない。

 

「ここでいう『ともだち』ってのは、私たちが思ってるようなのとは違うのかもね」

 

 アニスの言葉から滲む暗い予感が、冷たい風となって指揮官の背中を撫でる。

 もし自分たちが彼にとっての『ともだち』でなくなったら、カービィは、いったいどういう顔で我々をどうするのだろうか。

 その時、横の茂みから不意にがさり、と物音がした。

 

「いって〜っ」

 

 頭をさすりながら茂みをかき分けてきたのは、今しがた爆発の渦に巻き込まれたはずの、金色の兜をかぶる住民『サーキブル』だった。

 

「はぁい!」

「ああ、カービィか。ったく爆弾はずりぃだろ~、爆弾は~」

 

 唖然とする指揮官たちをバックに、カービィとサーキブルは軽く挨拶を交わす。

 

「ゆ、ゆゆ、ゆうれ……」

「指揮官。そんなわけがありません。存在しないと仰ってください」

 

 ラピの構える銃の先は、明らかに震えている。

 サーキブルはそんなニケたちをよそに、カービィの隣に寝っ転がって思いきり伸びをした。

 

「ふぁ~。刺激を求めたはいいけど、やっぱデデデの手下なんてやめよっかな~。いつも通り、森をちびちび手入れしてんのが性に合ってる気がするぜ」

 

「んゃ!」

 

「はは、その方がきっと楽しいって? ありがとよ」

 

 カービィとサーキブルは、さも古くからの親友のように明るく笑い合った。

 

「え……え、ええ……?」

「お。新しい旅のお仲間、さっきは失礼したな。改めてよろしく!」

 

 カウンターズへ挨拶したサーキブルの視線が、次に途中から地面に落ちるリンゴに向けられた。

 

「ん、リンゴ? なんでこんなとこに……あ、ちょーっと待ってくれよ」

 

 リンゴの落ちる先を目で辿るうち、何かに気づいたようだ。

 彼は起き上がると少し背伸びして草を搔き分け、リンゴが描く道の向こうをじっと覗いた。

 

「こりゃあ罠だな。ほらカービィ、木の上をよく見てみろ。リンゴで釣って毛虫まみれにしてやろうって魂胆だぜ、ありゃ」

 

「け、けむし……」

 

 サーキブルが木のなかに蠢くトゲトゲの集団を指さしてみせると、カービィは珍しく怯えた表情を見せた。

 

「はは。今回はかなり気合が入ってんな、ウィスピーウッズさんは。んーと、確か、あのヒトのいる方角は……」

 

 彼はやがて、別の方向にあった茂みに目を付けた。

 

「正しい道はこっちだ。ほら、そーらよっと!」

 

 サーキブルが頭からぶん投げたカッターが、茂みを一気に切り開く。

 

「あぃがとっ!」

 

「いいってことよ。お仲間さんも、気をつけて行けよ!」

 

 そう伝えると、サーキブルは気さくに手を振って、森の中へ姿を消した。

 

 

 しばらく、サーキブルが示してくれた道を進み続ける。

 鼻歌を歌うカービィ以外は、黙り込んで裏道を通っていたが。

 

「もう、無理」

 

 アニスが立ち止まって、ぼそりと呟いた。直後、かっと目を見開いて。

 

「突っ込まないと言ったけど、さすがに無理! なんでしれっと軽いノリで生き返ってんのっ!? 雑草かなんかなのあいつらは!?」

 

 堰を切ったように溢れ出すツッコミを前に、ネオンがすっと目を閉じる。

 

「……アニス、もう諦めましょう。きっとこれはお約束という奴です。『不思議』を大切にした世界観なんですよ」

 

「不思議すぎるわーッ!!!!」

 

 思い切り地面を両拳で殴りつけたあと、アニスは疲れ果てたように肩を上下させていた。

 カービィは「ぉよ?」と純粋な疑問の眼差しで彼女の顔を覗き込んでいる。

 指揮官は頭の中で渦巻く思考をいったん止めて呼吸を整え、ラピと目線を合わせる。

 

「と、とにかく、襲ってくるプププランドの住民に対しては、気兼ねなく攻撃していい……ということか?」

 

「……あまりにも不条理極まりないですが……そう、判断するしかないようです」

 

 カウンターズの行軍は、その後も順調に進んだ。

 

 

 しばらくして、一行は開けた場所に出る。

 広場の中心には、リンゴがたわわに実った大木が生えていた。

 

「そろそろここで休憩しよう」

「きゅーけーきゅーけー!」

 

 笑顔で木漏れ日のなか座り込んだカービィの両手には、ケーキと団子がある。

 これらはいずれも、()()()()()()()()()()()()()

 

「らぴ、けーき!」

「……必要ないわ」

「あにしゅ、ねお! だんご!」

「だ、大丈夫。ダイエット中だから」

「そういや私もそうでした~」

「しきかん?」

「……ありがとう。だが、遠慮なく食べてくれ」

 

 カービィはカウンターズにそれを勧めてきたが、さすがに手に取る者はいなかった。

 

「ホント、何もかもが私たちの地上とはまったく違うわね」

 

 断られるや否や不思議そうな顔をして「ま、いいか」とばかりに自身の口にお菓子を放り込むカービィ。

 木にもたれて呟くアニスの言葉には、ひしひしと実感が籠っていた。

 

「食べ物はたくさんそこら辺に落ちてるし、住民は死んですぐ生き返るし、木に顔はついてるし……」

 

 最後の感想は、上を見上げてふと出た自然なものだっただろう。

 だが、それを聞いたカービィ以外の全員が怪訝な顔になった。

 

「……ん?」

 

 瞬間、目を細めていたアニスの顔にリンゴが直撃した。

 

「いったぁーっ!?」

 

「フン。カービィを潰すつもりが、ブクブクしたお友達の邪魔が入ったか」

 

「だ、誰がブクブクですって……!」

 

 鼻を押さえて振り向いたアニスの表情が、一瞬で変わった。

 人面樹だ。

 1本の小さな枝を鼻として、3つのうろがその木の目と口を構成している。

 それがただの飾りでないことは、口にあたるうろが動いたことから明らかだった。

 

「まさか、これが……!」

 

 ラピが素早く銃を構え、指揮官の前に進み出た。

 

「そうだ。ワタシこそがこの森のヌシ……」

 

 人面樹は不敵に笑い、わさわさと枝をしならせた。

 

「ウィスピーウッズだっ!!」




あまりにも違いすぎる世界の理に戸惑うカウンターズの前に立ちはだかるは、あの毎度おなじみウィスピーウッズ。いつも泣かされてきた彼だけど、今回はちょっと違いそう……?

オリジナル設定として、本作のカービィ世界の住民は「肉体の死≠本当の死」です。はい、世界そのものがチートすぎますね……。昔から、カービィや仲間たちが「ミス」しても死んでるというイメージが全く湧かないんですよね。ゲームオーバーになっても、起こされるまで気持ちよさそうに寝てるだけだし(笑)。というわけで考察動画などの影響もあって、本当に雑草みたいに生えてくる設定になりました。ニケたちからしたら本当に不条理だなこれ……。

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