BGM:『GREEN GREENS』
はるかぜが、指揮官の肌を優しく撫でた。
「ん……」
「指揮官、ご無事ですか」
天国か地獄にしては意識がはっきりしている。
指揮官が薄ら目を開けると、白い雲と青い空をバックにニケたちの心配げな顔があった。
夢見心地から一気に覚め、すぐ身体を跳ね上げる。
「みんな、無事か!」
「はい。アニスとネオンも……そしてカービィも、生存確認できました」
ラピは起き上がった指揮官を見て、安堵した顔で報告した。
「むしろ、指揮官様が一番起きるの遅かったのよ!」
「師匠も無茶しますよね。あんな躊躇いもなくカービィを助けに行くなんて」
「……すまない。君たちまで巻き込んでしまった」
「大丈夫よ、指揮官様。それより、どうも私たち……とんでもないところに来ちゃったみたいよ」
アニスの肩の上で、カービィが千切れんほどに手を振って飛び跳ねる。
「しきかん、ぷぷぷらんど!」
彼の口から出たのは、聞き覚えのある単語だった。
「まさか……!」
「俄かには信じがたいですが、ここはカービィの故郷『プププランド』ではないかと推測します」
指揮官はラピの差し出した手を取って立ち上がり、一歩足を踏み出す。
土の感触、そよ風に乗ってくる草の匂い。全てが指揮官たちを歓迎しているようだ。
それだけではない。地面から生えるカラフルなクッキーのような物体、くるんと渦を巻いた雲、ドーナツのような輪っかを描く岩。
まさに人類が思い浮かべる理想的な地上、いや、それ以上に御伽話の世界そのものだった。
一言で表すなら──夢の国。
「あっ、カービィ!」
突然降ってきた声に、カービィが丘の向こうへ振り返った。
「はぁい!」
カービィは手を振るが、指揮官たちにとってはあまりに唐突だった。
ニケたちが反射的に銃を構え、息を殺して丘を見つめていると──
「おーい!」「ずいぶん早く帰ってきたじゃん!」
鏡餅のような輪郭の顔に短い手足をつけた生き物が。
リンゴに笑顔で乗る青服のピエロが。
ひとりでに動くキノコが。
カービィくらいの背丈の生き物たちが現れて、流暢に喋りながら駆け寄ってくるではないか。
──明らかに、ヒトではない。さすがのカウンターズでさえ後退りする。
「な、なになになになになに! なんなのこいつら!?」
「か、火力の気配は……見たところないようですが」
「この地の原住民……?」
「わどるでぃ、ぽぴー、きゃぴー!」
一方のカービィは、ラピたちに住民を左から順に紹介する。
3体のうち最もカービィに似た住民、ワドルディが、自身の8倍はある身長のラピを見上げる。
「あっ、お客さんだー。すごくおっきいねー」
隣では青服のピエロ、ポピーがリンゴの上を飛び跳ねている。
「武器もでっかいね! つよそうでかっこい~!」
陽気な笑顔のままそう評する辺り、少なくとも、敵意は毛ほどもなさそうだ。指揮官は、恐る恐る口を開いた。
「……君たちは、私たちを警戒しないのか」
「けーかい? なんで?」
「こんなに姿が違うだろう。侵略者かもとは疑わないのか?」
ワドルディが、仲間と顔を見合わせて首を傾げた。
「ヘンなこというなぁ。別にキミたち、いま何にもしてないでしょ? じゃあ、侵略者じゃないよ」
「あ……うん、そう……? っ、じゃなくってっ!」
危うくその場の空気に呑まれかけたアニスは、慌てて首を振る。彼女は、背中に担ぐロケットランチャーを指し示した。
「私たち、何を考えてんのかわかんないのよ? 突然ここを火の海にするとか、仲間を連れ去ったりとか、もっとひどいこともするかもしれない。本当に怖くないの!?」
アニスとしては、疑いようのないこの世の現実を突きつけたつもりだっただろう。
それでも、住民たちの顔は「そんなことか」とでも言わんばかりだ。
「あー。そういや、前にそんなこともあったっけ~。ま、よっぽど悪いことする人がいたら誰かが止めにいくよ。ほとんどの場合、カービィがすぐやっつけてくれるけどね」
「ぽよ!」
そうカービィと笑い合うワドルディを見て、アニスは思わずふらついた。
「……ア、アタマ痛くなってきた。政治とか経済とかどうなってんのよ!?」
「単独で国防を担える火力だとは、さすがはカービィですね!」
「なんでネオンはやけに飲み込み早いのよ。なんか腹立つわ!」
喧騒のなか、ワドルディがカービィに尋ねた。
「カービィ、この人たちとはどういう関係?」
「トモダチっ!」
迷いのかけらもない一言に、ラピが眉を上げた。
「……とも、だち……?」
彼女だけでなく他のニケたちも黙り込んだのを他所に、カービィは笑顔のまま住民たちへ説明を続ける。
「ぱふぇ、いえ! たびっ!」
「へー。お腹空いて迷い込んだらご馳走して家に泊めてくれたから、冒険を手伝ってるんだ。とってもいいヒトたちなんだねー!」
アニスは俯いて、自身の拳を胸の前できゅっと握りしめた。
「……カービィ……ずっと私たちのこと、友達だと思ってたの?」
「んゃ? はぁい!」
カービィは、不思議そうに首を傾げながらも即答する。
──ラピとアニスの反応は当然だ。彼女たちはドリアン戦の際、誤解とはいえ彼へ殺意を持って銃を向けたばかりなのだから。
「私は……私たちは、カービィを……」
その時、キャピィと呼ばれたキノコが、そういえば、という風に笠をぽんと吹き上げた。
びくりとカウンターズの肩が跳ね上がる。
「あっ、カービィ。相談したいことがあるんだ。あっちの山が物騒なんだよー」
彼はハニワのような顔を露にして、北にあるおわん型の山を指し示した。そこを見たカービィが、小さく飛び上がった。
「うぃすぴーうっず?」
「そうそう。またデデデ大王の命令でアレを自分のものにしちゃってさー」
指揮官は、初めて聞く単語に眉をひそめる。
「デデデ……大王? ここにもリーダーがいるのか?」
「ああ、この国の王様だよ。わがままで困ったやつでさー」
──デデデといえば、どこかで聞き覚えがあるような。
それはラピも同じだったようで、彼女は保管していたブリーフィングノートを素早く取り出して開いた。
描かれているのは、かつてカービィが見せてくれた、たべものを汚らしく口へ放り込むブサイクな厚い唇のペンギン。
「も……もしかして、これがデデデ大王だったんですか!?」
「ぽぅよ! ででで、ぱーてぃ。えでん、わーぷすたー、どっかーん!」
驚くネオンへカービィが頷くところをみるに、どうも、あの時にちゃんと説明してくれたようだ。──この絵とあの説明でまず分かるわけもないが。
事情を説明されたワドルディは、なるほどと頷いた。
「パーティーに招待されたから玄関に入ったら、キカイたちに不意打ち……災難だったねぇ」
「騙し討ち、といったところか。だが、なぜデデデ大王はそんなことを?」
「デデデ大王は、ずっと前に国中の食べ物をかっぱらって『きらきらぼし』って秘宝を奪ったことがあるんだ。今回も同じことを企んで、邪魔者のカービィを追い払おうとしたのかもね」
「……うん。なんていうか、この国らしい王様ね」
アニスがジトッとした目で皮肉を言う。資源不足が深刻なアークからすれば夢のような話だ。
それにしても、秘宝『きらきらぼし』……この世界らしいというか、中々なネーミングだ。
「あの山には、おまけに赤い目のキカイの新入りたちもいていきなりビーム撃ってくるんだー。行くんだったら気をつけてね」
「……赤い目のキカイの新入り?」
ポピーの挙げた特徴に、指揮官は目を細める。どうも心当たりがありすぎる。更には新入りと称されるからには、元々このプププランドにいなかったということだ。
「まさか……ラプチャー?」
「あ、知り合い? そんなら、キミたちも一緒に止めてくれない?」
指揮官とニケたちは互いの顔を見合わせる。知り合いというには、あまりに物騒すぎる仲だが──
「ぽよ!」
カービィはさっそく丘の上に走り、指揮官たちへ振り向いて手を振る。
一緒に行こうよ!と誘うように。
指揮官は、まだその場にとどまるラピとアニスの肩を叩いた。
「ひとまず、ここの地理に詳しいカービィを頼ろう。それにラプチャーのことも引っかかる。もしかしたら、元の場所に戻る方法も見つかるかもしれない」
──右も左も分からない状況だが、まずは一歩、踏み出させなくては。
ネオンも指揮官の意を汲んでか、自ら彼女らの手を引いてくれた。
「さぁ2人とも、のんびりしてる場合じゃありませんよ!」
カービィに少し遅れて、遂にニケたちもこの草原を歩みだす。
「じゃあね~」
住民たちは無邪気に手を振って、訪問者たちを送り出してくれた。
*
しばらくカービィに導かれて進むと、行き止まりに突き当たった。
目的の山との間には巨大な湖が横たわっている。橋はどこにも見当たらない。
「さっそく詰んだけど、どうする?」
「おっと、天才的な名案が出ました! 圧倒的火力で湖を蒸発させるというのは……」
「却下ね。指揮官、少し遠くなりますが、迂回しましょう。西からであれば問題ないかと思われます」
「ああ……仕方ないな」
ラピに指揮官が頷きかけたところで、カービィは手を天高く挙げた。
その手にはどこから取り出したのか、星型のアンテナがついた携帯らしきものがあった。
「わーぷすたー!」
きらり、と空の一点が黄金に輝いた。
直後、あのワープスターが光の尾を引いて雲を突き抜け、カービィたちの前に舞い降りる。
「ワ、ワープスター!? ドリアンとの戦闘で壊れたはずでは!?」
指揮官たちが驚かないはずはなかった。まさか再生したのか。それともスペアの類か。
彼らの疑問をよそに、カービィは一緒に乗ろうと手を振ってくれる。
だが──問題がある。隣にいるラピと見比べればよく分かる。
「……このサイズで、私たちが乗るのは無理がある。気持ちは受け取るけれど、諦めるしかないわ」
つまるところ、ワープスターの大きさが彼女のつま先から腰下くらいまでしかないのだ。
カービィはそれに気づいたのか頭を掻いて、ワープスターの背を優しくぽんぽんと叩いた。
「ふぁいと!」
すると、呼びかけに応えるようにワープスターが光り出し、ぐん、ぐん、と急に大きくなった。
どうやら本当にこの乗り物が
「……」
「うん。もう、何が起こっても突っ込まないわよ、私は!」
アニスが半ば投げやりに角を掴むと、それに続いて一同もすぐ乗り込んだ。
一斉に5人が乗ったせいでやや傾くが、空中から落ちる気配はない。
さらに、指揮官のワープスターを触る手に、不思議な感覚があった。
「……温かい。まさか、生きてるのか?」
ワープスターはきゅるるる、と音を立てて飛びあがる。
だがその軌道は数秒後、怪しい動きを見せだした。ある時は宙返りして円を描き、ある時は湖から飛び出した山にぶつかっていく。
「だ、大丈夫かこれ!? かなり運転が荒いぞ!?」
「指揮官、危険です。肩に掴まって下さい!」
「あ、私今から吐きます」
「ちょっ、ネオン、我慢しっ……」
ワープスターは空高く飛び上がる。
空に鮮やかな虹を空に描きつつ、山へ半ば墜落するように高度を下げていった。
大きな悲鳴と轟音が響き渡り、山から鳥たちが驚いて飛び出していった。
*
指揮官は、よろよろと茂みのなかからやっとの思いで這い出した。
「はぁ、はぁ……いろんな意味で地獄だった……」
彼がふと視線を奥へ動かすと、瞬間、暗闇から赤い光がいくつもこちらに向かって瞬くのが見えた。
指揮官がすぐ腰を屈めると同時に、カウンターズがその前へと飛び出した。
「エンカウンター!」
「ああもう、あんなド派手な着地したから!」
「お゛えっ……まだクラクラしますが、火力で打ち消しますっ!」
予想した通り、ラプチャーはプププランドにも侵入していた。
たちまちのうちに銃弾の応酬が展開される。
「散開! 火力集中による各個撃破を狙え!」
「了解!」
カウンターズは木を遮蔽物にしつつ敵に風穴を開ける。
カービィは真正面から迎え撃ち、ラプチャーを弾にしては吐き出していく。
アニスが装填ついでに、ちょうど隣に降り立ったカービィに叫んだ。
「カービィって、何かしら飲み込んだら変身できるのよね!?」
「うゅ! こぴー!」
「なるほど、『コピー』っていうのね! なら、これも出来る!?」
「ぁいッ!」
アニスが叫んで投げた予備の榴弾をカービィは吸い込み、飲み込んだ。
「ボム!」
カービィの頭に、クラッカーを逆さにしたような帽子が出現した。
虚無から手に取り出すは、球型で導火線がついた、原始的で典型的な手榴弾。
それを、カービィはラプチャーへ次々と投げ込んだ。
爆風の嵐が巻き起こり、ラプチャーたちを分解していく。
「おおおお! 今回はさらに火力に特化したコピーですね!」
──火力崇拝主義者のネオンにとっては垂涎必至のコピーであろう。
それに背中を押されたように、カウンターズは視界内のラプチャーを一掃した。
銃声の止んだ森の戦場で、ラピは辺りにラプチャーの熱源反応がないことを確認した。
「クリア。では指揮官、前進を……」
不意をついたように、黄金色のブーメランが飛んだ。
「危ない!」
カービィが、咄嗟に飛び跳ねそれを躱す。
ちょうどその背後にいた指揮官も、ラピが身を挺して庇い、倒れ込んだことで難を逃れる。
「やいやい、カービィ! そこのお友達も止まりなぁ!」
金色の兜に手足のついたような生き物が、返ってきたブーメランをキャッチ。兜のトサカにして付け直した。
続いて、先ほど出会ったポピーやワドルディの同族たちが、茂みの中からぞろぞろと出てくる。
彼らの丸い手にはいずれも、導火線のついた丸い爆弾や槍が握られていた。
「さーきぶる!」
「お前らもきらきらぼしが欲しいのか!?」
「この先は、ボクたちが通さないよ!」
ラピは、彼らに向かって銃を構える。
引き金に指をかけこそするが、視線に鋭い殺意はない。
「……プププランドの住民を発見。デデデ大王の手下であると推定されます」
「彼らは絶対に撃つな。そちらは拘束を優先……」
「ばくだんなげッ!」
指揮官が指示しかけた瞬間、カービィは住民に迷いなく爆弾をぶち込んだ。
それも、1個どころでなく大量に。
「ぎゃーっ!!」「ひいーっ!!」「うわぁーっ!!」
一方的な蹂躙だった。至る所で爆音と火柱が上がる。光と炎が、呆然とする指揮官たちの瞳に幾度も映った。爆発に巻き込まれた手下たちは派手に吹っ飛ばされ、そのまま星屑になって消えてゆく。
そうして、たった数十秒間の出来事が終わったあと。
カービィは「おわり!」と、掃除でも終わったかのような笑顔で振り向いた。
カウンターズ一行の顔は、完全に青ざめている。
「カ、カ、カービィ。さっきの子たち、死……」
「うんゃいっ!」
アニスの震える声に、カービィは手を挙げて答えた。
「う、嘘、だろ……」
指揮官の声もどこ吹く風、カービィは何事もなかったかのように先へと歩いていく。
*
「りんごー!」
カービィは道中に落ちるリンゴを見つけると、一口でぱくりと飲み込んでは、また向こうに落ちているリンゴへ向かっていく。
「……指揮官。私には、カービィという存在が分からなくなってきました」
指揮官も、ラピと同じ思いだった。
爆風のなかでも自分たちを庇ってくれた姿と、手下たちを躊躇なく爆殺した姿。
同じ小さく丸い背中なのに、それらがまったく異なるものに見えて結びつかない。
「ここでいう『ともだち』ってのは、私たちが思ってるようなのとは違うのかもね」
アニスの言葉から滲む暗い予感が、冷たい風となって指揮官の背中を撫でる。
もし自分たちが彼にとっての『ともだち』でなくなったら、カービィは、いったいどういう顔で我々をどうするのだろうか。
その時、横の茂みから不意にがさり、と物音がした。
「いって〜っ」
頭をさすりながら茂みをかき分けてきたのは、今しがた爆発の渦に巻き込まれたはずの、金色の兜をかぶる住民『サーキブル』だった。
「はぁい!」
「ああ、カービィか。ったく爆弾はずりぃだろ~、爆弾は~」
唖然とする指揮官たちをバックに、カービィとサーキブルは軽く挨拶を交わす。
「ゆ、ゆゆ、ゆうれ……」
「指揮官。そんなわけがありません。存在しないと仰ってください」
ラピの構える銃の先は、明らかに震えている。
サーキブルはそんなニケたちをよそに、カービィの隣に寝っ転がって思いきり伸びをした。
「ふぁ~。刺激を求めたはいいけど、やっぱデデデの手下なんてやめよっかな~。いつも通り、森をちびちび手入れしてんのが性に合ってる気がするぜ」
「んゃ!」
「はは、その方がきっと楽しいって? ありがとよ」
カービィとサーキブルは、さも古くからの親友のように明るく笑い合った。
「え……え、ええ……?」
「お。新しい旅のお仲間、さっきは失礼したな。改めてよろしく!」
カウンターズへ挨拶したサーキブルの視線が、次に途中から地面に落ちるリンゴに向けられた。
「ん、リンゴ? なんでこんなとこに……あ、ちょーっと待ってくれよ」
リンゴの落ちる先を目で辿るうち、何かに気づいたようだ。
彼は起き上がると少し背伸びして草を搔き分け、リンゴが描く道の向こうをじっと覗いた。
「こりゃあ罠だな。ほらカービィ、木の上をよく見てみろ。リンゴで釣って毛虫まみれにしてやろうって魂胆だぜ、ありゃ」
「け、けむし……」
サーキブルが木のなかに蠢くトゲトゲの集団を指さしてみせると、カービィは珍しく怯えた表情を見せた。
「はは。今回はかなり気合が入ってんな、ウィスピーウッズさんは。んーと、確か、あのヒトのいる方角は……」
彼はやがて、別の方向にあった茂みに目を付けた。
「正しい道はこっちだ。ほら、そーらよっと!」
サーキブルが頭からぶん投げたカッターが、茂みを一気に切り開く。
「あぃがとっ!」
「いいってことよ。お仲間さんも、気をつけて行けよ!」
そう伝えると、サーキブルは気さくに手を振って、森の中へ姿を消した。
*
しばらく、サーキブルが示してくれた道を進み続ける。
鼻歌を歌うカービィ以外は、黙り込んで裏道を通っていたが。
「もう、無理」
アニスが立ち止まって、ぼそりと呟いた。直後、かっと目を見開いて。
「突っ込まないと言ったけど、さすがに無理! なんでしれっと軽いノリで生き返ってんのっ!? 雑草かなんかなのあいつらは!?」
堰を切ったように溢れ出すツッコミを前に、ネオンがすっと目を閉じる。
「……アニス、もう諦めましょう。きっとこれはお約束という奴です。『不思議』を大切にした世界観なんですよ」
「不思議すぎるわーッ!!!!」
思い切り地面を両拳で殴りつけたあと、アニスは疲れ果てたように肩を上下させていた。
カービィは「ぉよ?」と純粋な疑問の眼差しで彼女の顔を覗き込んでいる。
指揮官は頭の中で渦巻く思考をいったん止めて呼吸を整え、ラピと目線を合わせる。
「と、とにかく、襲ってくるプププランドの住民に対しては、気兼ねなく攻撃していい……ということか?」
「……あまりにも不条理極まりないですが……そう、判断するしかないようです」
カウンターズの行軍は、その後も順調に進んだ。
*
しばらくして、一行は開けた場所に出る。
広場の中心には、リンゴがたわわに実った大木が生えていた。
「そろそろここで休憩しよう」
「きゅーけーきゅーけー!」
笑顔で木漏れ日のなか座り込んだカービィの両手には、ケーキと団子がある。
これらはいずれも、
「らぴ、けーき!」
「……必要ないわ」
「あにしゅ、ねお! だんご!」
「だ、大丈夫。ダイエット中だから」
「そういや私もそうでした~」
「しきかん?」
「……ありがとう。だが、遠慮なく食べてくれ」
カービィはカウンターズにそれを勧めてきたが、さすがに手に取る者はいなかった。
「ホント、何もかもが私たちの地上とはまったく違うわね」
断られるや否や不思議そうな顔をして「ま、いいか」とばかりに自身の口にお菓子を放り込むカービィ。
木にもたれて呟くアニスの言葉には、ひしひしと実感が籠っていた。
「食べ物はたくさんそこら辺に落ちてるし、住民は死んですぐ生き返るし、木に顔はついてるし……」
最後の感想は、上を見上げてふと出た自然なものだっただろう。
だが、それを聞いたカービィ以外の全員が怪訝な顔になった。
「……ん?」
瞬間、目を細めていたアニスの顔にリンゴが直撃した。
「いったぁーっ!?」
「フン。カービィを潰すつもりが、ブクブクしたお友達の邪魔が入ったか」
「だ、誰がブクブクですって……!」
鼻を押さえて振り向いたアニスの表情が、一瞬で変わった。
人面樹だ。
1本の小さな枝を鼻として、3つのうろがその木の目と口を構成している。
それがただの飾りでないことは、口にあたるうろが動いたことから明らかだった。
「まさか、これが……!」
ラピが素早く銃を構え、指揮官の前に進み出た。
「そうだ。ワタシこそがこの森のヌシ……」
人面樹は不敵に笑い、わさわさと枝をしならせた。
「ウィスピーウッズだっ!!」
あまりにも違いすぎる世界の理に戸惑うカウンターズの前に立ちはだかるは、あの毎度おなじみウィスピーウッズ。いつも泣かされてきた彼だけど、今回はちょっと違いそう……?
オリジナル設定として、本作のカービィ世界の住民は「肉体の死≠本当の死」です。はい、世界そのものがチートすぎますね……。昔から、カービィや仲間たちが「ミス」しても死んでるというイメージが全く湧かないんですよね。ゲームオーバーになっても、起こされるまで気持ちよさそうに寝てるだけだし(笑)。というわけで考察動画などの影響もあって、本当に雑草みたいに生えてくる設定になりました。ニケたちからしたら本当に不条理だなこれ……。
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