勝利の旅人:星のカービィ×NIKKE   作:Misma

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今回は一部のクライマックスのため、9000文字近くです!


7話:たいけつ!ウィスピーウッズ!

 人面樹ウィスピーウッズは、カービィを見下ろして尊大に笑った。

 

「ふっふっふっ。カービィ、今度はすぐ帰って来たな!」

 

「むぅっ!」

 

「今回の私は一味違うぞ。今度という今度は貴様を、仲間ごと捻り潰してやろう!」

 

 身体を大きく揺らすと、頭上に広がる葉の隙間から、大量のリンゴの雨が降った。

 その中のいくつかが、指揮官の顔面に直撃コースを辿る。

 

「指揮官、頭上にご注意を!」

 

 ラピがすかさずアサルトライフルを連射、リンゴを的確に粉砕した。

 

「じゃあ、こっちも遠慮なくいかせてもらうわ!」

 

 アニスの放った弾頭がウィスピーウッズの顔面に殺到する。むろん、ラピとネオンも加勢する。

 彼の顔は弾丸の雨に叩かれ、爆煙に包まれた。

 ──喋って動けるとはいえ、あくまで植物だ。効かないわけがない。

 だが煙が晴れたとき、そんな考えは希望的観測に過ぎなかったことを思い知る。

 

「なるほど、派手な花火だ。だが……それだけだッ!!」

 

 なんと、ウィスピーウッズはけろりとしていた。

 ラプチャーの装甲に穴を開ける弾を食らってなお、結果は木肌がわずかに焦げただけだった。

 

「どういうこと!? いまの、戦車砲レベルの威力よ!?」

 

 まさか、デデデ大王に渡されたという『きらきらぼし』とやらの影響か。

 指揮官が考察する間もなく、次にウィスピーウッズは大きく頬を膨らませた。

 

「ふぅっ、ふぅっ、ふぅぅんっ!!」

 

 巨大な空気の塊が連発される。

 ニケたちの近くに着弾すると凄まじい風圧と共に爆発、土壌を根こそぎ吹き飛ばす。

 明らかに、ただの吐息が生み出す威力ではない。

 一度髪を強烈に巻き上げられたネオンの瞳は、驚きに満ちていた。

 

「空気だけでこの火力とは、我々の予想を軽々超えてきますね!」

「ネオン、感心してる場合!?」

 

 火力崇拝主義者たるネオンを除き、カウンターズの表情に焦燥感が滲み始める。

 ニケならばともかく、指揮官に直撃すれば流石に無事ではいられないだろう。

 それでも、指揮官はまだ焦げている木肌に目を向けて叫ぶ。

 

「まったく効いていないわけじゃない! 攻撃の手を緩めるな!」

 

 ニケたちは引き続き周囲の木の陰で空気砲を防ぎつつ、攻撃を継続。

 カービィも果敢に飛び出し、落ちてきたリンゴを吸い込み、吐き出して反撃。実に手慣れた動きだ。

 ウィスピーウッズは総力を挙げた攻撃に頬を叩かれて一瞬、顔を背けたが。

 

「ふふ……いつもの私だと思ったら大間違いだぞ、星のカービィッ!」

 

 次の瞬間、頭上から降ってきたのはリンゴではなかった。

 もじゃもじゃしてうねうねと動く、あの──毛虫だった。

 

「わあっ!?」

 

 カービィは驚愕して逃げ惑う。

 しかし、走った先にちょうど落とされたトゲトゲの鉄球につまずいて転倒、さらに起き上がったその顔に毛虫がへばりついて視界を塞いだ。

 カービィはぴくぴくと足を震わせ、目を回しながらその場に倒れ込んでしまった。

 

「む、むきゅう……」

 

「カ、カービィ!」

 

「どうだ、毛虫とゴルドーのデスコンボは! 貴様もこれには手も足も出まい!」

 

 ラプチャーをものともしないカービィが、毛虫一匹で気絶するとは。

 指揮官は困惑しつつも急いで毛虫を払いのけ、カービィを助け起こす。

 

「おい、カービィ、起きろっ!」

 

「人のことを心配している場合か? お楽しみはまだまだこれからだぞ」

 

 ウィスピーウッズの身体が体内から黄金色に光った。

 するとその身体が脈動するようにぐん、ぐんとますます大きくなっていく。

 

「なっ……」

 

 樹齢500年は軽く超えるであろうサイズに成長を遂げた巨木は、口を大きく開けた。

 ブラックホールのようなまんまるの穴に向かって突風が吹き荒れる。

 

「にげっ……!」

 

 常識外れの吸引力を前に、逃げきることは叶わなかった。

 指揮官たちの前に暗闇が広がったと思うと、直後、凄まじい衝撃に揺さぶられ──

 

「そぉれっ!!」

 

 乱暴に外界へと吐き出された。

 一行は何本も木を薙ぎ倒すほどの勢いで吹き飛ばされ、地面に転がった。

 

「が、があっ……」

「指揮、官……」

 

 ラピの助けを借りて何とか立ち上がった指揮官の口からは血が滲んでいる。

 身体中がズキズキと痛む。

 ニケたちに庇われていなかったら、果たしてどうなっていたか。

 

「……くそっ!」

 

 朦朧とした意識で視線を上げると、ウィスピーウッズの姿は消えていた。

 

「……上ですッ!」

 

 ラピの叫びに上空を見上げると、巨木は空高く飛び上がっていた。

 それが着地した瞬間、凄まじい地鳴りが地表を揺らし、周囲の樹木が薙ぎ倒され軒並み『整地』される。もはや、身を隠す遮蔽物すらなくなってしまった。

 

「それそれそれそれそれぇっ!!」

 

 そこへ追い打ちをかけるように、毛虫とゴルドーの津波が執拗に繰り出された。

 なんとか迎撃して間を抜けようとする一同を、ウィスピーウッズは見下ろして嘲笑する。

 

「ほれほれ、足下がガラ空きだっ!!」

 

 地中から突き上げられた根っこの先が、槍のようにニケたちへ襲い掛かる。

 

「っ……!」

「指揮官、私たちの後ろに!」

 

 ニケたちは四方八方からの攻撃を迎え撃つが、この物量の前には指揮官を護るので精一杯だ。

 ──そういえば、カービィは。

 ふと指揮官が違和感に気づいて振り向くと。

 大量の根っこがカービィを円状に取り囲んで分断、逃げ場を塞いでいた。

 

「しまった!」

 

 敵の真の狙いはカービィだった。

 それらは一斉に襲い掛かり、カービィに蛇のように巻き付いて雁字搦めにした。

 

「わぁ~ッ!!」

 

 カービィは抜け出そうとするも抜け出せない。

 根っこは、抵抗する彼を少しずつ地中へ引きずり込もうとする。

 思わずアニスが悲鳴をあげる。

 

「カ、カービィッ!」

 

 ウィスピーウッズはニケたちに見せつけるかのように、カービィをゆっくりと締め付けて引きずり込んでいく。

 

「……さて、貴様らはどうする。まとめて養分にしてしまうのも手だが」

 

 先ほどまでの傲慢さは鳴りを潜め、静かな語り口はまるで指揮官たちを試すかのよう。

 地獄のような沈黙が数秒ほど続く。

 指揮官がぎり、と歯を食いしばった。

 

「……指揮官! この状況では無茶です。カービィの救出は後に回し、まずは戦略的撤退を!」

 

「そうよ、私たちが指揮官様のそばを離れたら、それこそあの木は指揮官様を……!」

 

 ラピとアニスの発言に、ウィスピーウッズが一瞬、目を細める。

 一方の指揮官はその変化など気にすることすらなく、彼女たちの揺らぐ目の色をまっすぐに捉えた。

 

「2人とも。カービィを援護だッ!」

 

 ウィスピーウッズが目を見開く。

 力の限りの号令に、彼女らが凍りついたように指揮官を見つめた。

 

「君たちはいま、私の護衛を言い訳に罪悪感から逃げようとしている。ここでカービィを見捨てたら、きっと一生、自分を許せなくなるだろう」

 

 彼女たちの視線が泳いだ。やはり、図星のようだ。

 

「彼に申し訳ないと思っているなら、その身をもって行動しろ。それがあの恩人への最大の償いだ」

 

 未だ迷う彼女たちの背を押すように言葉をかけつつ、指揮官はネオンへと笑みを浮かべて振り返る。

 

「大丈夫だ。ドリアンの時のようなことにはならない。そうだよな?」

 

 ネオンも、元気よく胸を叩いてみせる。

 

「……ええ、師匠! 3人分の火力なんぞ、私がこの手ですぐ出してみせますとも!」

 

 ウィスピーウッズはそのやり取りを聞いたあと、どこか満足げに笑う。

 

「お喋りは終わったか。では……こちらも全力で行かせてもらうぞ!!」

 

 リンゴと毛虫の荒波が、指揮官めがけて再び放たれた。

 ネオンが散弾を猛烈に弾き出して迎え撃ち、ラピとアニスが飛び出した。

 

「指揮官様、作戦はあるのよね!?」

「当然だ! アニス、あそこの地面を見てみろ!」

 

 アニスは、指揮官の指さした方向を睨んだ。

 カービィの周囲で草むらが急速に枯れている。根が養分を吸い取っているせいだろう。

 

「……なるほどね。ラピ、援護お願い!」

「了解!」

 

 アニスはラピの援護射撃を背に、枯れた茂みへ弾頭を撃ち込んだ。茂みは当然爆発、炎上する。

 

「この期に及んで火遊びか。残念だが狙いを外したようだな!」

 

 嘲笑をよそに、ラピはアニスの意図を瞬時に理解して叫んだ。

 

「カービィ、吸い込みよ!」

「なっ!」

 

 ウィスピーウッズも感づいてうろたえたが、もう遅い。

 カービィはなんとか根っこの間から顔を出すと、アニスが作った炎に向かって口を開いた。

 

 きゅおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 

 すべての炎が、一瞬にして大口の中へ収まった。

 

「ファイア!」

 

 カービィの頭に現れたのは、焔揺らめく王冠。灼熱の炎が髪の毛のようにたなびいた。

 アニスは思わずガッツポーズを決めた。

 

「よっしゃあッ、予想通り!」

「な、な、なんだとぉっ!?」

「火だるまスピンっ!」

 

 カービィは自らに炎を纏わせて飛び上がり、絡みついていた根っこを燃やし尽くした。

 ウィスピーウッズの顔は、あの傲岸不遜さを完全に失って青ざめていた。

 

「う、う、うおおおおおおっ!!」

 

 悪足掻きとばかりに彼が枝を振り、リンゴと毛虫とゴルドーの荒波が再びカービィへ迫る。

 だが、今のカービィにとっては何の問題にもならない。

 

「バーニングアタック!」

 

 リンゴと毛虫を炭化させ、ゴルドーをも弾き返す。

 隕石のようにそのなかを突き抜けて懐へと飛び込み──炎を纏った丸い身体は、あっという間にウィスピーウッズの真正面に陣取った。

 

「そ、それだけは……」

 

 慌てふためくウィスピーウッズ目掛け、カービィは思いっきり息を吸い込んで。

 

「ぼーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

 カービィの背丈を遥かに超える火炎放射を噴き出した。

 

「わああああああああああああッ!!」

 

 灼熱の業火が森のヌシを包み込み、絶叫が森林に響き渡った。

 

「……クリア」

「やったぁっ!」

「やりました! 絆の火力が、遂に打ち勝ちましたよ!」

 

 指揮官はニケたちと共に勝利の余韻を味わう。

 ……だが、歓喜と安堵の表情も長くはもたなかった。

 

「ぎゃああああああああああついいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃっもえるぅぅぅぅぅぅぅぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああああ!!」

 

 炎の海に響き渡る、ウィスピーウッズの絶叫。

 アニスは、気まずそうに笑顔を引っ込めた。

 

「……なんていうか、環境破壊ってカンジで後味悪いわね……」

 

 程なくしてウィスピーウッズは鎮火。身長も、元通りに縮んでいく。

 最後に彼が涙を一滴垂らしてけほっと咳をすると、口の中から虹色に光り輝く星が飛び出した。

 

「あれが、『きらきらぼし』……!?」

 

 指揮官だけでなくニケたちも言葉を失うほど、完璧で美しい光だった。

 

「わぁい!」

 

 カービィがきらきらぼしへ駆け寄る。飛び跳ねてそれに触れると、虹色の光は身体のなかへ吸い込まれた。

 彼は、おもむろにウィスピーウッズの前へ陣取る。

 ──この流れ。ネオンが早くも察知して振り向いてくる。

 

「おっ。アレ、またやるみたいですよ?」

 

「えぇ……よりによって、泣いてる相手の前で……?」

 

 アニスは若干引き気味だが、まぁ仕方ないかと見守ることにする。

 そして、肝心のカービィは──

 音もなく、3人に、分裂した。

 

「「!?!?」」

 

 理解を超えた現象に指揮官たちが口を開けたまま凍り付くなか、

 

「うぃゆうぃゆうっううー、うぃゆうぃゆうっううー♪」

 

 カービィ()()は、楽しげなフレーズを口ずさみながら跳ね、転がり、ステップを踏み──

 

「うぃゆうぃゆうっううーうっ、うっううっうーうぃっ!」

 

 宙返りしたあと、満面の笑みで片手を挙げて決めポーズ。

 3人の動きに、ブレは一切なかった。

 ラピは指揮官の隣で棒立ちになったまま、その一言を辛うじて搾り出した。

 

「……楽し、そうですね」

 

 

 ダンスが終わると、何事もなかったかのようにカービィは一人に収まった。

 

「ス、スゴイデスネーカービィ。そんなことも出来るなんてーこ、これもかかか火力ノチカラー」

 

「ネオン、あんたが混乱してどうすんの! あんたがボケられなかったら一巻の終わりよ!」

 

 アニスが白目を剝きかけたネオンの肩を揺さぶるのを、指揮官とラピは敢えて背後に聞き流す。

 ウィスピーウッズはパチリと瞬きすると姿勢を正し、一転して穏やかな眼差しを向けた。

 

「ふぅ、実にお見事だった。カービィ、そしてそこの方々」

 

 人面樹の口から突然飛び出した紳士的な口調に、ラピが眉を上げる。

 

「え……どういうこと? まるで試していたかのような口ぶりだけれど」

 

「まさに君の言う通りだ。ワケを話すと、カービィが旅に出たその日、デデデの手下に『きらきらぼしを預かれ』といきなり押し付けられてな」

 

 ウィスピーウッズは、やれやれという風に深い溜息をつく。

 

「いい加減、デデデのわがままに付き合うのは懲りたものでね。内心、カービィが来たらさっさと渡してしまおうと思っていたのだよ」

 

「それでいざ見たら、隣に私たちがいた……というわけね」

 

 ラピが言葉を繋ぐと、ウィスピーウッズは静かに頷いた。

 

「そう。つまるところ、君たちが本当の意味でカービィの仲間なのか確かめるために、ああいう真似をさせてもらったのだ」

 

 ウィスピーウッズは、幹をしならせ頭を下げた。

 

「さっきは無礼を働いてしまい、本当に申し訳ない。この通りだ」

 

 指揮官は、首を横に振る。

 ──秘宝を狼藉者から守るためであれば、当然の対応だ。恨む気持ちなど毛頭ない。

 

「気にしないでくれ。身体は痛まないか?」

 

 指揮官が気遣うと、ウィスピーウッズはゆさゆさと枝を揺らして気丈に笑った。

 

「身体はムダに丈夫なものでね。まぁさっきのは久しぶりに熱かったがね、ははは!」

 

 ……結構熱がっていたようにも見えたが、本人がそう言うのならば問題ないのだろう。

 

「どうも様子を見ていると、カービィのことをよく知っているようだな。長い付き合いなのか?」

 

「うむ。かれこれ30年以上の付き合いだ。まぁ、昔からリンゴをたかられるわ、勝手に誰かの手下にされるたびボコボコにされるわ、散々だがな」

 

「……それは結構なお友達ですこと」

 

 アニスの皮肉にウィスピーウッズは苦笑いするが、過去の因縁を引きずるような暗い影は微塵もなかった。

 

「トモダチはケンカだってするものだ。そこから仲直りして、またケンカして。何だかんだで続いていくものだ。そうだろう?」

 

「……仲、直り」

 

 呟いたアニスの目線が、カービィへ向く。

 少し躊躇いがあったものの、彼女は唇をきゅっと結び──

 

「……そ、その……ごめんッ!」

 

 彼女は、カービィへ深く頭を下げた。隣のネオンが驚いて目を見開いた。

 

「出会うなり騒いで、閉じ込めて、騙して、銃まで向けて……イヤ、だったわよね。本当に……本当に、ごめんなさい!」

 

「……おやおや、アニス。今になって点数稼ぎですか?」

 

「こ、心からの謝罪よ! その……言うタイミングを……逃してたから……!」

 

 続いてラピも目を伏せると、膝を折り、カービィに視線を合わせた。

 日頃の軍人らしいクールな目つきとは違う、誠実かつ懸命に語り掛けようとする瞳だった。

 

「……カービィ。私も、これまでの敵対的な態度、発言、憶測、全てを撤回するわ。この場を借りて謝罪する。あなたから何か要求があれば、可能な限り……」

 

 ラピの言葉は、最後まで続かなかった。カービィが、ぽけっとした顔で首を傾げたからだ。

 

「長い髪のヒト、金色のヒト。随分と深刻に考えているようだが、カービィは、たぶんこれっぽっちも気にしちゃいないよ」

 

 優しい声で呼びかけたのはウィスピーウッズだ。

 

「それでも申し訳ないと思ってるなら、心から出た素直な言葉のまま謝ればいい。そして、『もう一度トモダチになろう』と言えばいいのさ。それだけで、カービィには十分に伝わる」

 

 ラピは静かに頷くと、ゆっくりと息を整えてから、

 

「今まで……冷たくして、ごめんなさい。これから、あなたと仲直りして……トモダチに……なっても、いいかしら」

 

「私も、いいかな? これから、もっと……あんたと、仲良くするから」

 

 かつてカービィを疑い、騙し、殺そうとした2人。彼女たちが恐る恐る、手を差し出すと──

 カービィは、ぱっと花が咲いたような笑顔を見せて「いーよっ!」と、迷わず手を繋いだ。

 

「……カービィ……」

 

「ほんとに、いいの?」

 

 カービィは何度も頷いて手を振り、ラピとアニスの謝罪を一点の曇りもなく受け入れた。

 

「りんご、りんご!」

 

 カービィはさっそく、手に取ったリンゴをラピへ差し出した。彼女はそれを受け取ると、そっと目の前の木を見上げた。

 

「ウィスピーウッズ。いいかしら」

 

「もちろん。いくらでも食べてくれ」

 

 ウィスピーウッズが身体を傾けてゆすり、カウンターズにその熟れた果実を落として渡してくる。指揮官も、試しに一口だけかじってみた。

 

「……美味しいな。これまで食べた、どんなものよりも」

 

「……はい」

 

「ホント。パーフェクトで再現したのなんて比べ物にならないわ」

 

 そう答えるラピとアニスの目許は、柔らかく緩んでいた。

 ネオンはそれを見て、隣のカービィへ笑いかけた。

 

「ふふ、やっと一件落着ですね」

 

「たぁやい!」

 

 

 一通り腹ごしらえが済んだところで、双方の事情をすり合わせた。

 カービィはデデデ大王からパーティーへの招待状を受け取り、会場『エデン』への入口となる次元の穴を通った。

 しかし、それは罠だった。デデデ大王はカービィをこちらの世界へ追放しつつ、きらきらぼしを手下たちへと分け与えてしまったらしい。

 

 ──となると、ある疑問が浮上する。

 

「ウィスピーウッズ。まず、その穴……『ディメンションホール』を開けたのは、デデデ大王なのか?」

 

「いいや。そんな芸当がヤツだけで出来るとは思えん。最近になってこの星に居着いたマホロアという奴なら可能なはずだ」

 

「マホロア……ここでその名前が出てくるか」

 

 指揮官の脳裏で、糸が繋がる。

 

「では、デデデ大王はマホロア、マルクとも結託している可能性があるわけか」

 

「……ふむ。マルクの名前まで出てくるとは、思っていたより大ごとかも知れん。すまないが、私から一つお願いしてもよいかね」

 

「ああ。聞かせてくれ」

 

「きらきらぼしは、プププランドの大切な秘宝だ。決して、誰か一人だけのものであってはならない。どうか、カービィと一緒にそれを取り返してほしいんだ」

 

 ──難しい判断だ。アンチェインドに加えて異世界の秘宝までも探す必要がある。もしかしたら、身体がいくつあっても足りないかも知れない。

 

「指揮官」

 

 悩む指揮官の耳に、ラピの声が届いた。振り向くと、彼女は真っすぐこちらを見据えていた。アニスとネオンも同じだ。

 

「どうぞ、ご命令下さい。私たちは、指揮官の選ぶ道について参ります」

 

 指揮官の視界に、次は足下からこちらを見つめ上げるカービィの顔が入った。

 純粋無垢な青い瞳を見れば、こちらを完全に信頼していることがありありと伝わってくる。

 それで、彼の腹は決まった。

 

「──アンチェインドが最終目標であることには変わらない。だが、きらきらぼしがそれへ繋がる糸口となるなら、追う価値は絶対にある。何よりも……我々をカービィと会わせてくれた、この世界へ恩返しをしたい」

 

 反論はなく、ニケたちは頷いた。ウィスピーウッズも目を細めて、

 

「ありがとう。きらきらぼしは、それら同士が近くにあればあるほど光を強く発する。それを目印にすればいい。カービィも、くれぐれも気を付けるんだぞ」

 

「はぁい!」

 

 元気よく返事したカービィが空へ手を振ると、再びワープスターが降りてくる。

 

「……これでお別れだな。ウィスピーウッズ、今度は友人として会おう」

 

「ふふ。私も、それを望んでいるよ」

 

 カウンターズはワープスターに乗り、ウィスピーウッズと手を振って別れた。

 びゅうと駆け抜ける風と共に、地上が遠ざかった。

 

「まずはカービィの行った場所を調べてみよう。そこにディメンションホールが残っていれば、元の世界に戻れるかも知れない。カービィ、行けるか?」

 

「はぁい!」

 

 彼らは森から雲へ、そして幾重にも連なる山脈へ。かつてカービィが飛んだ道を辿っていく。

 

「皆さん、あれを!」

 

 ネオンが指さしたのは、山頂にある立派な城の上空。

 空間の歪みが亀裂となり、星型の穴が鎮座している。

 

「よし! カービィ、飛ばしてくれ!」

 

 カービィが頷いてワープスターを叩くと、応えるように速度が上がる。

 そのままの勢いで、彼らは穴の中へ飛び込んだ。

 

 

 ディメンションホールから弾き出されたワープスターは、再び灰色が支配する世界へ戻ってきた。

 そのまま、付近にあったビルの廃墟に激突。壁を突き破ってそれは砕け散り、カウンターズとカービィは投げ出されるように建物の床に転がった。ワープスターがクッションとなってくれたお陰か、彼らに傷は一つもない。

 やがて、アニスとネオンがむくりと起き上がり──

 

「か、か、帰ってきた! 帰ってきたわよ!!」

 

「すーはーすーはー! うーん、このむせるような火力の臭い、やはり私にはこの世界が故郷です!」

 

 一緒になって快哉を叫ぶ。ラピも指揮官を助け起こしつつ、

 

「……パピヨンはどうなったのかしら」

 

 指揮官の胸中に靄がかかった。

 通信アプリにも彼女のアカウントは登録していなかった。アークに情報を持って帰ったのか。それとも、あの乱入した部隊にあそこで……。

 

 その時、指揮官の懐に振動を感じた。携帯端末の入っているポケットだ。

 メッセージが溜まっていたのか、ぶぶ、ぶぶ、と通知が連続で鳴る。

 

 急いで端末を取り出して開くと、メッセンジャーに見覚えのないアカウント名『Butterfly』からいくつもメッセージが送られていた。

 

『ハニーへ』

 

『襲撃者は、噂の失楽園=楽園エデンの部隊『インヘルト』。彼らはアンチェインドをエデンに持ち帰る』

 

『マルクとマホロアは、エデンに『虹色の星』を持ち込んだ。件の侵食やラプチャーと関係する可能性あり』

 

『今からエデンへ行く。内部から連絡できるかは不明。でも、私は生きてる。ハニーも生きていて』

 

 そこで、メッセージは途切れていた。

 

「……パピヨン」

 

 指揮官は思わず端末を握りしめた。

 

「楽園エデン、か。奇しくも、カービィがもらった手紙にあった会場の名と同じ……」

 

「……臭うわね」

 

「アニス。身体は洗った方がいいですよ? 特に下半身は入念に」

 

「違うわよ!! 偶然の一致にしちゃ出来すぎってこと!!」

 

 ネオンの余計な一言はともかくとして、指揮官はある一文を指さす。

 

「特にここは重要だ」

 

 マルクとマホロアがエデンに持ち込んだという、虹色の星。恐らくはきらきらぼしだ。

 

「ウィスピーウッズの言う通り、きらきらぼしを道標にしよう。そうすればエデンに、ひいては奪われたアンチェインドに辿り着けるはずだ」

 

「んー。なんだかこうしてみると、RPGみたいになってきたんじゃない?」

 

「そうとなれば、火力をもって前進あるのみですね!」

 

「ぼーけん、ぼーけーん!」

 

 面白がるアニスに、拳を振り上げるネオンとカービィ。彼らの脇でため息をつくラピ。

 何はともあれ、行くべき道はハッキリした。

 彼らは、荒廃した地上を再び歩み出した。




???「環境破壊は気持ちいいZOY!」
とりあえず、カービィとカウンターズの話は一区切り。こちらをメインsideとして、次回はサブsideです。お楽しみに!
次回は金土日いずれかで投稿予定です。サブsideが5話あるので、その時はまた連日投稿するかも……。

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