Ex-Pancake Party!!   作:お竹

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そんな話。
台風が近付いてますね。お気をつけて。


彩葉はかぐやの考えてることならなんでもわかる話

『──の天候は晴れ時々曇り、のちに雨になるでしょう。関東地方の一部地域では、小笠原諸島近海を通過する台風8号の影響により、24日木曜日の夕方から夜にかけて雷を伴った激しい雨が降ることが予想されます。土砂災害や河川の増水・氾濫。低い土地への浸水などに厳重に警戒して下さい。続いて今後一週間の天気です。関東地方は──』

 

 彩葉が勉強しながら聞いていたネットニュースの内容がリフレインする。ニュース番組はさ、もうちょっとわかりやすく伝えてほしいよね。0歳児にもわかるように。夜からどしゃーん!とかのがわかるじゃん。だめ?

 

「どうしたもんかねこりゃ」

 

 かぐやちゃん人生最大、いや二番目か三番目くらいのピンチ。

 

「早く帰れってこーいうことだったのか」

 

 つまり、はい。今現在まさにそのどしゃーん!って感じの空の下に一人取り残されちゃってるわけ。トリノコシティ。色もなんもなくなった歪んだ雲に塗りつぶされた世界。とかなんとなくおしゃれに言ってみたけどふつーに途方に暮れてる。

 

 いやさ聞いてよオタク共。お昼過ぎにいろPにかまって遊んで攻撃しようとしたらまさかの名前を呼んだ瞬間に「ダメ」のカウンター。まだなんも言ってないよ!? と抗議したらアンタの考えてることなんかお見通しとばっさりやられた。え、嬉しい。ツーカーってやつ? 話がずれた。まあそのくらいで諦めるかぐやちゃんではないので必中必殺の上目遣いおねだり領域を展開したら今度は目さえ合わせてくれやしない。バカな…そんな領域対策があったなんて……!

 なんでも土日はバイトで埋まってるとかで今日は本気で勉強しなきゃいけないらしい。あ、これガチのやつだとこれ以上ダダをこねこねすると追い出されるなーと察した賢いかぐやちゃんはしばらく大人しくしてたんだけどさぁ。やっぱヒマはヒマで変わらないわけで。いろPもいろPで取り付く島もないとはこのことで、ふらふら漂流船となったかぐやちゃんは仕方ないから仕方なく買い物という名の大航海に漕ぎ出たんよ。

 いろPも勉強に集中してたけどさ、いってきま〜〜す! って言ったら台風が近付いてるから早めに帰ってきなさいよと返してくれるあたりやっぱり優しいよね。まあ寄り道するつもりなのバレバレなわけだけど。やっぱりエスパーじゃね? 捕まって実験されちゃうのかぐやじゃなくない? それか二人とも? それはそれで嬉しいからできれば同じ施設がいいなぁなんて伝奇ラノベみたいなこと考えたりして。

 んでいざ買い物に出たわけだけどそもそも暇つぶしが目的なんだからいきなりスーパーに行くわけないじゃんね? せやろ? オタクたちもかぐやのこと分かってきたじゃん。まあ彩葉には及ばないけどな? そーしそーあいってやつ。んひ。羨ましかろ? は? ちげーし片想いじゃねーし! ばっちりラブってるから! 

 でなんの話だっけ? あそうそう、なんか配信ネタになりそうなもんねーかなーってあっちへぷかぷかこっちへゆらゆらしてたら近所のデカめの公園で知り合いのガキんちょ共が遊んでるのよ。そうだよ夏休みなんだから彩葉もこいつら見習って遊ぶべきなんだよね主にかぐやのために。ついでに勉強の息抜きになればウィンウィンじゃん?

 まあいかにもかぐやおねーさんがヒマしてますよーてな感じで誘ってみれば気付いたガキ1号がかぐやねーちゃんあそぼー!と見事に食いついてくるわけ。あとはもう2号3号と入れ食いよ。月人ならぬ釣り人かぐやちゃん。いやーかぐやってばツクヨミでも現実でもモテモテ♡人気者は困るねえ。おいなんで笑った?

 そっからはサッカーしたり追いかけっこしたりいい感じの棒を探したりひと通り遊び倒して薙ぎ倒して無双してたらガキんちょ達も満足したのか解散。やー子供っていいね。いやかぐやは生後半月とかそこらだけどさ。気分だよ気分。

 まあ配信ネタにはならなかったけどさー。さすがになんもわかってないちみっ子を出すのはさ。昆布らいあん酢?ってやつ。賢かろ? どや。で、ひとしきり遊んでそれなりに満足したからスーパーで食材やらなんやら買ってさて帰るかなーと歩いてたら急に空がゴロゴロ言い出したのよ。かぐやの宇宙的天才頭脳があっヤベとIQ3な解答を弾き出したので急いで線路下のトンネルに駆け込んだら五秒と待たずにどしゃーんときてさぁ。さすが天才頭脳、のんびり解答出してたら間に合ってないなこりゃと自画自賛してたら状況が詰んだことに気付いて今こうしてるってわけ。はい回想おしまい!

 

「うーん、雑談配信のノリでやってみたけど思った以上にむなしい……」

 

 観客のいないソロトークショーに飽いてしゃがみ込むと、かぐや自慢のキューティクルな一房もぺしょりと倒れ伏す。両手にはパンパンに膨らんだレジ袋。取っ手が指の関節に食い込んで地味にしんどい。かといって地面に下ろすのは料理人としてのプライドが許さない。

 

「台風ってやべーなー」

 

 とかなんとか言いながら半円形にくり抜かれた空を眺める。公園で遊んでた頃は青と白のマーブル模様だったそれが、いまやすっかり濃厚な灰色に塗りつぶされてる。まだ明るい時間帯のはずなのに太陽がどこにいるかさえわかんない。降りしきる雨は小さな滝みたいになってて、マイナスイオン効果がありそう。マイナスなのはテンションだけど。傘持ってくればよかったなーでも両手塞がってるから意味ないなー。

 

 ここからあのボロアパートまで今の全力かぐやちゃんダッシュでも五分くらいかかるから、私自身はまあいいとして荷物がずぶ濡れのなるのはよろしくない。

 だから待つしかないんだけど、台風ってどんくらいで終わるんだろ。二十分とか? 生肉があるからせめて三十分くらいで終わってくれたらいいなー。

 

「スマコン持ってくればよかったなー」

 

 あって何がどうなるもんじゃないけど、あれば彩葉にメッセージは送れるから迎えに来てもらうとか……いやでも勉強に集中してたからね。ログインしないとわからないツクヨミ内のメッセージに気付くわけないか。やっぱり詰んでるじゃん。

 ていうかそろそろスマホ欲しいな。買ってすぐ使えるスマコンと違ってキャリア契約? とかなんやらかんやらホニャララがあるからかぐや一人じゃどうにもならないんだよね。マイナンバーとかいるらしいし。かぐやちゃん無国籍児なので。彩葉にお願いしよっかな。お金は出すからさー。ふじゅ〜もそんくらいはよゆーで溜まってるし。

 

「さてどうしたもんかねこりゃ」

 

 でふりだしに戻るってわけ。

 

 腕を組みながらうんうん唸る。荷物はスニーカーの上。まあギリセーフってことで許してちょ。さすがに手が痛くて我慢できんかった。かぐやのぱーぺき美白ボディの一部が拷問受けたみたいに赤く変色してわりとエグい跡がついちゃってるからね。

 じっとしてるのもアレだからなんかアイテムないかなーと近くを見回してみてもカビ臭いトンネル内の同居人はアリとダンゴムシとぶっ壊れた放置自転車だけ。かぐやプログラミングは大得意だけどこーゆー物理的にダメなやつはどうしようもないんよね。

 

 てか台風ってまさか数十分とかじゃなく? 数時間とかかかる感じ? 全っ然、空が変わんないんだけど? 良くなるどころかなんか風まで吹いてきたし。え、台風やば。

 ざんざか雨がトンネルの上から降り注いでカーテンみたいな幕になってる。これがボロアパートからの景色なら単純に雨やべーって笑えたんだけどな。いやどうだろ、あのボロだと雨漏りしてきそう。まあそれはそれでネタ的に笑えるからいいか。

 

「うわっち、やびやび」

 

 ぼーっと考えごとしてたら足元まで雨水が流れ込んでた。慌てて荷物を抱えて退避。真ん中らへんは地面が凹んでてよろしくないので壁際にもたれかかる。まだ夕方だから真っ暗ってわけじゃないけどあと1時間もすればいよいよ身動き取れなくなりそう。

 

「いーろはー……」

 

 つい心細くなって名前を呼んでしまう。届くわけないのにね。これが聞こえてたらマジもんのエスパーだよ宇宙人なんかメじゃないよ。でも心配かけちゃってるかも。

 

 ……心配、してくれてるかな。かぐや迷惑かけてばっかりだから、ざまーみろって笑ってたり。それはなんか悔しいけど、いろはが笑ってるならまあいいかなって。かぐやちゃんの心は芦ノ湖より広いので。私が原因でいろはが悲しむのはイヤだから。まぁでもちょっとくらい慰めて欲しいかなって。

 

 ……いかんいかんナーバスになりすぎ。こんなのハイテンションぶっこわれライバーかぐやじゃない。天気に引っ張られた。

 で、こっから五分か。まあ、いけるか? いけるよな? よし!

 そうと決まれば雨に降られて黒Tシャツから黒々Tシャツに進化したお気に入りの服をまくりあげて荷物をつっこむ。紙パックの角やらごつごつしたものがお腹に当たって痛いけどまあ背に腹はかえられぬってやつでござる。犠牲になってるの腹だけど。コラテラルダメージ。

 

「んじゃいっちょ走りますかー!」

「はいストップ」

 

 クラウチングスタート、は腹に一物ならぬ荷物を抱えてるからできなくてスタンディングで出走しようとしたらピピーとホイッスルが吹いた。一人しかいないのにフライングも何もないじゃん!と審判員に食ってかかろうとして振り返り、

 

「いろは……?」

 

 そこには審判員ではなく彩葉が立っていた。なんで? 錯覚? 恋しいあまりに幻見ちゃった? イマジナリーフレンド?

 宇宙的天才的頭脳が疑問符で埋め尽くされる。まじまじと見返してみてもやっぱりそこに立っている彩葉は本物で。幽体離脱とかじゃなくて。

 まさかテレパシーどころかテレポートまで? マジやば。宇宙人とかメじゃないって。

 

「えっなんで、勉強は……?」

 

 理解が追いつかなさすぎてどうでもいい疑問が抜け駆けスタートダッシュを決める。いや気にはなるけどそれどう考えても最優先じゃないよ、いいとこ二の次だよ。

 

「誰かさんがいないおかげで予想以上に捗ったので今日の分は終わりましたー」

「そ、それはようござんした」

 

 口調までおかしくなる。かぐやはもうダメです。 あ、でも勉強終わったんだ。なら夜は遊んでくれるかな? いやだから違うって!

 

「えーと、どうやってここに?」

「歩いて」

「いや見りゃわかるよ!」

 

 いつものパジャマとも見慣れた制服とも違う、動きやすそうなパーカーにハーフパンツ。そういえば彩葉って運動もめちゃできるもんね。スポーティな格好も似合っててかわいい。何着てもかわいいのずるいって。ずる! ってだから違うそうじゃない!

 

「どうして場所がわかったか分からないって顔してる」

「具体的すぎる! それどんな顔!?」

「今度は図星で当てられて焦った顔」

「おおん……やっぱり彩葉はエスパーだ……超能力者だ……」

「宇宙人よりは現実味あるかもね」

「宇宙人かぐやちゃんが証言するけど彩葉のがヤバいって」

「ヤバい言うな。危ない人みたいじゃない」

「かぐやにとってはいつでも危ないよ」

「何が」

「彩葉の貞操が」

「て…っ!? ああもう、心配して損したこのバカ!」

 

 ……心配、してくれてたんだ。

 よく見ればスニーカーの上、膝の近くまで泥が跳ねちゃってる。歩いてきたならそうはならないよね。車が跳ねちゃった? いやいや彩葉はしっかり者だからそんなん避けちゃう。

 

「で、調子は戻った?」

「……なんのことですかなトスカーナ?」

「ヤチヨの真似してごまかすな〜」

「ぅぐ、いつからいらっしゃったので……?」

「スマコンのあたりから」

「結構前だぁ! 声かけてよ!?」

「しょぼくれてるかぐやが面白かったからつい」

「ひどーい!!」

 

 声をかけるまで少し待ってたのも、もしかして息を整えるため? 肩から下げてるトートバッグ、迎えに来ただけならいらないよね。タオルがちょっぴりはみ出てる。

 

 優しい、大好きないろは。大好きな人に想われてたのが嬉しくって、外は相変わらずどんより灰色なのに、かぐやの心は太陽が顔を覗かせる。これでよくチョロ葉とか言えたもんだよね。

 

「でもほんとなんで? かぐや、スマコンも置いてきちゃったし」

「あんたがいっつも連れてるやつ忘れたの?」

 

 いつも。なんだろ。まさかこの黒T? エアタグ仕込まれてるとか? え、こわ。とかシャツをバサバサやってたらあからさまに呆れた感じでため息吐かれた。いやこれは流石に私でも彩葉の考えてることわかるよ。すっごいバカにされてる。

 

「んぬぎぎぎ……ぎぶあっぷ……!」

「はぁ、かぐやが持ってる犬DOGEの位置情報。パソコンと連動してるでしょ」

「あ? あー!! うわーありがとう犬DOGE!!」

 

 答えを教えてもらってハッとする。いつもポケットに突っ込んでる携帯ゲームキットの犬DOGE。一緒に歩けば歩くほど成長するとかそういうやつ。

 犬DOGEはツクヨミと違ってこっちでできることはほとんどないからお守りみたいな感じなんだけど、まさか彩葉に居場所を教えてくれていたとは。まさに狛犬だ。今度ツクヨミで撫でくりまわしてやろう。

 

「さ、これ以上だらだらしてたら本格的に帰れなくなるからね、帰るよ」

「ぅへー、いろはと相合傘だー」

「ちょっと、くっつきすぎ!」

「だってかぐや両手塞がってるもーん」

 

 寝る時以外にぴったりできる機会はそんなにないから、こんなレアイベントを逃す手はないと肩を寄せる。ちょっと歩きにくいけど、その感覚がまた新鮮で楽しい。

 

「何をそんなに買ったのよ」

「えーと牛肉とー玉ねぎとーじゃがいもとー、キャベツにパン粉! あ、じゃがいもは男爵いも!」

「なに、コロッケ?」

「せいか〜〜い!」

「びっくりするくらい手間がかかるやつだ……」

「ね。スーパーだといっこ百円なのマジびびる」

「ちなみにコロッケな理由は?」

「台風の日はコロッケらしいよ?」

「何それ」

「なんかオタクが言ってたー」

「オタクゆうな」

 

 一つの傘の下、二人並んで歩いていく帰り道。

 荷物の重さでふらふらする体を、さりげなくくいっと引っ張ってくれて、その言葉足らずな優しさがいっとう嬉しくて。

 ふと見上げた視界に映る、やわこい笑みを浮かべた横顔がとってもきれいで。

 そんな太陽に、私の心までさんさん晴れにされちゃって。雨はちっとも止んでないのに、そこだけ虹がかかってるみたい。

 

「ねぇかぐや」

「んー?」

「明日スマホ買いにいこっか」

「んぇ……?」

 

 やっぱいろは、エスパーだって。そうけらけら笑いながら歩いた、雨の散歩道。

 

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