「すみれ?ご飯よ?少しでいいから部屋から出てきて?」
「……。」
暗い、暗い部屋に一人。
もう、どこにも行きたくない。
もう、なにも見たくない。
もう、いじめられたくない。
誰とも話したくない。
なにも感じなくなれば、傷つくこともない。
だから私はこの暗い部屋へと身を隠した。
なにも見ないために。
なにも感じないために。
なにも考えないように。
「すみれ、お願いだから少しでも顔を見せて?」
薄い扉の向こうから聞こえる母の悲痛な声を聞きながら私は重たいからだを、布団から起こした。
もう何日間ここから出ていないのだろうか。
今日は何日なんだろうか。
あぁ、そうか。
それも私には関係ない。
この世の中はもう、私の世界じゃない。
まだ覚めきっていない頭のまま机に向かい、
真っ白な紙を取り出す。
気のおもむくままに。
考えずに、思いを形に。
「……ご飯、ここに置いておくわよ?」
不安げな母の声は私の思考を止めさせる。
真っ白な紙を見つめながらぼぅっとしたまま、なにも考えずにただ、あの懐かしい笑顔を思い出していた。
「あいつはまだ、学校に行ってるのかな。」
そして誰にも聞こえない、心の声を呟いた。
「……あいつに、会いたいな。」
部屋の中で呟かれたその小さな声を、すみれの母は聞き逃さなかった。しかし自ら動くことはなく、幼いときから仲のよかった、あの男の子のことを思い出していた。
「……亮太君…」
ここにはいない彼の姿を、すみれの母は思い描いていた。
きっといつか、来てくれると信じて。
無言のまますみれの母は、リビングへと下りていった。
階段を下りていく足音を聞いて私は警戒しながら扉に向かった。
ギィ…という錆びたちょうつがいの音を響かせながら私は薄い扉を開いた。
扉の横に置いてある食事の乗ったお盆を取り、すぐに部屋の中へと戻っていく。
一面黒く染まったその部屋に光がともるのはこの食事の時間と本を読むときだけ。
それ以外の時間は、ずっと真っ暗。足下も見えない。
それもいいと、私は思う。光に照らされるよりも、闇の中にいた方が私らしい。
そう考えながら箸を手に取る。
どこかうつろな目のままおかずを口に運んでいく。
その間も、考えるのはあいつのこと。
無邪気で、明るくて、いつも隣にいてくれたあいつのこと。
「……早く、ここに来てよ。りょう君。」
泣きそうな声で、あいつの名前を呼ぶ。
あの頃は、いつも側にいてくれたのに。
いつも笑って、励ましてくれたのに。
「…りょう君の、ばか。」
誰にも聞こえない心の声を、私はつぶやき続ける。
あいつが、りょう君が来てくれるまで。
はい。というわけで2話です。
元ネタが元ネタなのでもう後2、3話ぐらいで終わると思います。あくまでも予定ですが。…予定ですよ?続編書くかもですよ?…書く気があればですけど。
これで今回は失礼させていただきます。
それでは次のお話で。