扉のムコウの君   作:コハク

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第3話

「ふぅぅぅぅ……」

 

俺は大きなため息をついた。

ドーナツの箱を片手にすみれの家の前に立っている俺。

おまけにため息までついて、周りから見ればかなりの不審者なんだろうな。

 

そんなことを考えながら俺は意を決してチャイムのボタンへと手を伸ばしていた。

 

ーーピーンポーン……ピーンポーンーー

 

しばしの沈黙。そして……

 

がちゃりと小さな音とともに扉が開き、すみれの母が顔をのぞかせた。

 

「あら、りょう君。久しぶりね。」

 

少しやつれたような笑みで、すみれの母は俺を迎えた。

家に上がらせてもらいながらすみれの母はぽつりぽつりと話し始めた。

 

「すみれはね、最近ずっと部屋から出てきてないみたいなの。お風呂やトイレはいない間に行っているみたいで……顔はずっと見ていないの。」

 

「そうだったんですか…」

 

ドーナツの箱を渡しながら、俺は思考を巡らせていた。

あの輝く笑顔が消えた理由は学校だろうな、と。

すみれは学校でいじめられていたと聞いている。

背が高いのに柔和でおとなしい性格のすみれはいじめの対象としては最高なものだったのだろう。

 

しかしどんなことをいわれても、どんなことをされても、すみれは「しょうがないよ。」と無理矢理に笑って愚痴をこぼしはしなかった。

今思えばあの時、無理にでも言わせた方がよかったのかもしれない。

 

「りょう君?どうしたの?」

 

そう言うすみれの母の声で、俺は我に返った。

 

「あ、いえ。なんでもないです。」

 

すみれの母は小さく笑って言った。

 

「そう。二階に行きましょうか。」

 

すみれの部屋は二階にあったはずだ。

 

「はい。」

 

俺はそう返事をしてすみれの母とともに階段を上がっていった。

 

 

ーーーーーー

 

 

ベッドの上で本を読んでいたときだった。

コンコン、と静かな部屋にノックの音が響いた。

 

「すみれ?りょう君が来てくれたわよ?」

 

「………え…?」

 

りょう君?りょう君ってあの、りょう君?

あいつが、来たの…?

 

「すみれ?いるのか?」

 

「っ………!!!」

 

その声を聞いて、私は飛び起きた。

なぜか暗い部屋をうろうろとしながら頭を抱えていた。

そのひょうしに本の山がバランスを崩して床に散乱したが、それにも気づかないぐらいに私は動揺していた。

 

あいつが、あいつが来た。ずっと待っていた、あいつが。

それでも、私はこの扉を開くことはできない。

いわばあいつは光、私は影。光と影は交わることはない。

そもそも私は話すことなんてない。体育大会も、合唱会も、部活にも行っていなかったんだから。

 

それにあいつの話を聞いていても辛くなるだけだと私は知っている。まだ学校に行っていた頃に一緒に帰ると、りょう君が楽しそうに話をするたびに胸が苦しくなって、泣きたくなってくる。

それがいやで。

楽しい話ができない私が憎らしくて、悔しくて。

 

「すみれ、俺だよ。亮太だよ!!」

 

扉の向こうで叫ぶその声を聞きたくなくて。

私は耳を塞いで、震えながら泣いていた。

 

 

ーーーーーー

 

 

「……出ませんね。」

 

「そうね…。」

 

でも起きてはいるのだろう。中で物音が聞こえたから。

もう少し粘ろうかと考えたがやめておいた。

これ以上ここにいたら、すみれの負担になる。

そう考えた俺はすみれの母に言った。

 

「今日はもう、帰りますね。」

 

「…そう。あの、りょう君。」

 

「明日も、来てもいいですか?」

 

すみれの母が言い終わる前に俺は言った。

すみれの母は驚いたように目を見開いたが、すぐに笑って

 

「えぇ。そうしてくれると嬉しいわ。」

 

と言った。

 

 

ーーーーーー

 

 

それからあいつは、毎日ここの前に来た。

ずっと私の名前を呼んで、ずっと部屋の前にいた。

部活や勉強で大変なはずなのに。いつもいつも、どんなに疲れていてもあいつは私の名前を呼びに来た。

なぜなのか、私にはわからない。

あいつも、母親と同じなんだろうか。

同じ気持ちで、私が置かれていた状況を理解しているのだろうか。

わからない。わからないから、

 

私はまだ、扉を開かない。

 

 

ーーーーーー

 

 

あれから俺は、すみれの家に通い続けた。

部活があっても、休日も、遊びに誘われても、

どんな日も、俺はすみれの部屋に向かった。

いつか、出てきてくれると信じて。

俺は今日も扉に向かう。

それでも君は、

 

まだ、扉を開いてくれない。




はぁぁぁぁぁぁ……

みなさん、お久しぶりです。はい。コハクです。
だいぶあいてしまってすみませんでした…。
いろいろあったんですよ。リアルの方で。
疲れましたよ。

さてはて、次のお話は最終回となる(はず)。
とうとうすみれちゃんが出てきてくれる…はずです。
ヒキニートからの脱却なるか!?

というわけで、ありがとうございました。
また次話もお願いします。
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