練習番号A うつけなナルシスト
奏視点
圧倒的な技術力、感動的な表現力。聴くもの全てを虜にするようなチューバを吹く男。そんな彼の致命的な弱点は………
「北宇治の皆さ〜ん‼︎世界一のイケメンが来ましたよ〜♪」
絶望的な頭の悪さだった。
「「「「「……………」」」」」
さっきまで新歓ムードで賑やかだった音楽室が、一気に静かになる。そりゃそうだ。こんなアホが入ってきたら、絶句するだろうから。隣にいる影響で、私までこの男と同類だと思われないか心配である。
「おや、皆照れてるのかな〜?」
「引いてるんだよ。」
そんな男の名は
「うるさい、久石‼︎つーか、高校でも俺の邪魔をするつもりか⁉︎」
「それはこっちのセリフなんですけど〜。あの学力でよく受かったね。もしかして、裏口入学?」
「試験官の先生が俺に惚れちまったからな!それよりお前こそ、よくその性格で受かったな。」
「受験に性格は関係ないから。」
また楽器は上手いものの、それ以外は壊滅的なアホ。そのくせ、よく私につっかかってくる。高校も一緒になってしまったのが、本当に残念だ。
「えっ、えっと〜、君たちはどこの楽器希望かな?」
そんな私たちを見たポニーテールの先輩が、困った顔をしながら聞いてきた。無理もない。こんなアホ見たら、普通そうなる。
「俺はチューバです!コイツは………久石、お前はユーフォのままか?」
「ま、まあ一応………」
とりあえず、自分たちの希望でも言うか。私はちょっと迷ってたけど、昨日上手い先輩の音も聞いたし、一応中学の時と同じ楽器を希望しとくか……
「えっ⁉︎ユーフォにチューバ⁉︎2人ともうちのパートじゃん‼︎こっち来て‼︎」
えっ、嘘でしょ?この先輩の言うことが正しければ………
「「えっ?チューバとユーフォが同じパート?」」
私はコイツと同じパートじゃん‼︎確かにユーフォとチューバは構造的には似ている。ユーフォの大きい版がチューバだし。でも曲の中ではチューバが低音域、ユーフォが中音域を担当し、違うフレーズを吹くことが多いため、同じパートなことはあまりない。実際に私の中学時代はユーフォとトロンボーンが同じパートだった*1。
「そうだよ。それがどうかした?」
「「つまり…………」」
なのに、ユーフォとチューバが同じパートってことは………
「「コイツと一緒のパートってことですか⁉︎」」
このアホと同じパートになるってこと。本当に最悪なんだけど‼︎一緒に居なきゃいけない時間が増えるじゃん‼︎最悪私が世話係にさせられるかもしれないし!現に中学の頃違うパートなのにさせられたし‼︎
「そうだよ!にしても息ぴったり〜!2人、仲良しだね!」
「「違います‼︎」」
「とりあえず、こっち来て〜。皆に紹介するから!」
「「はい…………」」
しかも仲がいいと勘違いされる始末。本当に勘弁して欲しい。そんな事を思いながら、私は自分のパートのところへ向かった。
そこでは、既に先輩方が楽器を持って待っていた。新歓恒例、楽器体験だ。初めて来る新入生にとりあえず楽器を吹かせてやりたい楽器を見つけてもらうという、吹部の定番だ。
「えっ、君チューバなの⁉︎やった〜!梨子先輩、後藤先輩、聞いてくださいよ〜!この子もチューバですって!」
「ほんと〜⁉︎チューバが3人、初めてだよ!」
「こんな大人数になるなんて、すごいな………で、なんでチューバを?」
「中学の頃やってました!西中で!」
「マジか………」
「おお!経験者3人衆!こりゃ頼もしいですねぇ!」
「だね!」
早速大輝は先輩方に歓迎されてるようだった。というかそんなにチューバいるんだ。珍しいな。普通全学年合わせて3・4人とかなのに。しかも全員経験者。すごい確率だ。
「西中のチューバ………?もしかして、荒川大輝君ですか?」
そして、ベージュ髪の小さな先輩が目を輝かせる。西中のチューバで経験者。その中でも、コイツは意外にも知名度がある。何故なら………
「あ、はい!そうですけど………もしかして、俺に惚れちゃいました?」
「えっ、えっと………」
「ごめんなさい、先輩。彼、頭がものすごく悪いんです。小学生の戯言だと思って、大目に見てください。」
「そう言うこの女は性格が悪いんです。すぐ毒を吐きますが、子供だと思って許してあげてください。」
「ふ、2人とも、仲良いね!」
「「違います!」」
「でしょ?」
「「同調しないでください!」」
アホだからじゃなく…………
「緑が知ってたのは、彼がソロコンで2年連続全国出場だからです!」
「「「「ソロコンで2年連続全国出場⁉︎」」」」
とんでもなく楽器が上手いからだ。
「いや〜、3年の時も出たかったんですけどね〜。先生から受験に集中しろって却下されちゃいまして〜。」
ソロコンテスト、通称ソロコン。個人の技量を競い合う大会で、例年10〜1月頃に開催される。自分のミスが全て丸裸にされる過酷な環境において、コイツは2年連続全国出場という凄まじい実績を叩き出した、とんでもない化け物なのだ。
「お前、めちゃくちゃ凄いな………」
「これは、コンクールメンバー争いが熾烈になるね!」
「みっちゃん、聞いた⁉︎あの荒川君だって‼︎ヤバいよヤバいよ!」
「いや、まあ、聞いてたけど………」
当然近隣の中学でも噂になった。今や彼は、ちょっとした有名人だ。
「ということで皆さん!俺の実績を聞いて付き合いたいと思った人は挙手‼︎」
「「「それはちょっと………」」」
「え〜、なんでですか⁉︎俺ですよ⁉︎」
「ごめんなさい。彼の定期的な発作です。見ての通り馬鹿ですので、つける薬がありません。なので我慢して下さい。」
「この性悪女のことも、な‼︎」
「仲良しだね〜。」
「「違います‼︎」」
演奏能力に全振りで他が壊滅的な、天才かつ天災。そんな彼との地獄の吹部生活が、またリスタートしたのだった。
荒川大輝のプロフィールです。
名前 荒川大輝(あらかわだいき)
誕生日 10月17日
身長 172cm
血液型 AB型
担当楽器 チューバ
好きな色 赤、黒
趣味 ギャルゲー、妄想、音楽鑑賞
特技 チューバの演奏
好きなもの 女の子
嫌いなもの イケメン、彼女持ち男子