練習番号A つぎへのマーチング
奏視点
コンクールが終わった2日後、私は大輝や梨々花と登校していた。
「さあ〜、オフシーズンですねぇ〜。もう始まってるけど〜。」
「長い休み………は無いね。」
「吹部ですもの〜。」
コンクールの無いオフシーズン。これが意外と長い。今年は関西大会が終わった9月から、次のコンクール曲が発表されるであろう来年の4月まで。実に半年以上、かなり長期だ。
「なんか、北宇治はアンコンやるって聞いたんだけど……」
「アンコンか。確かに出てたな。」
そして、先輩らの話をちらっと聞く感じ、ここはアンサンブルコンテスト、通称アンコンをやるらしい。少人数で曲を完成させるアンサンブルは、普段の大編成とはまた違った面白さがあって、それはそれで面白い。
「これはバリチュー二重奏*1ですなぁ〜。」
「久美子先輩と加藤先輩の二重奏ってこと?」
「こらこら〜、とぼけるのはダメですよ〜♪」
「絶対私を大輝と組ませようとしてるでしょ‼︎」
「あっ、バレたか〜♪」
「りりりん、俺とボエチュー二重奏はどうかな?」
「そんなのこの世に無いでしょ〜。」
「というか、ネーミングセンス悪っ………」
「うるせぇ‼︎」
ただ、大輝と2人っきりで練習だけは嫌。厳密には練習や演奏だけならいい、むしろやりたいけど、それ以外がキツすぎる。だってアンコンってなったら、自ずと練習以外の時間も一緒にいることが増えるだろうから。このアホと音楽以外を2人っきりでなんて、とんだ罰ゲームだ。
「まあいいや。実は俺、アンコン出ないつもりなんだ。」
「アンコン出ない………?どういうこと〜?」
そんな事を思っていると、大輝が急に真面目な口調になった。アンコンに出ない。やっぱりそうか。出ようとしてるんだね。
「ソロコンに出るんでしょ?」
「その通りだ。」
「おぉ〜!」
3度目のソロコンに。アンコンとソロコンはどっちも10月〜3月にかけて行われるため、両方出るのは相当厳しい。だから片方に照準を合わせなきゃいけないけど………
「中1の時は全国銅、中2が全国銀。そして中3は申請しようとしたら、受験に集中しろと先生に突っぱねられた。だから今年こそは出場して、全国金を取りたいんだ。」
「すごいね〜。1人で全国なんて〜。」
「あざっす!」
大輝は元々ソロコンに出たがってた。理由は評価が全て自分に向くから。そして何より………
「梨々花、コイツモテたくてソロコン出てるだけだから。」
「たりめえよ‼︎ソロコンで全国金を取ったら、さぞ色んな人から告られるんだろうな〜。」
モテたいから。本当に打算的な奴だ。
「とこんな感じで、ずっと叶わぬ夢を追っかけてるんだよ。」
「そうなんだ〜。」
「うるせえ‼︎全国金取れるかもしれねえだろ‼︎」
「そっちじゃない‼︎全国金取ったところで、大輝に彼女は無理‼︎」
「んなわけねえだろ‼︎俺だぜ?現状でも皆が遠慮しちゃうくらいなのに、全国金ときたらこりゃ………うへへへへ♪」
「ね、頭悪いでしょ?」
「うるせえ‼︎」
「仲良しだね〜♪」
「「違う‼︎」」
大輝がモテないのは演奏が下手だからじゃなくて、顔と性格と頭と言動が悪いから。それをコイツは頑なに受け入れようとしない。本当にアホな奴だ。きっと50過ぎてもおんなじ事言ってるんだろうな。
「そういや〜、曲は決まってるの〜?」
「もちろん!」
「何やるつもり?」
そんな事を思ってると、梨々花が大輝に質問した。確かに、ソロコンでどんな曲をやるのかは重要だ。基本的に学校側から強制されない限り、自分で選ぶことになる。それは即ち、選曲からソロコンは始まっており、最初から最後まで自分の責任だということ。大輝は決まってるっぽいけど、果たして何をやるつもりなんだろう?
「チャルダッシュだ。」
「「嘘でしょ⁉︎」」
そして、彼の口から語られたのは………超絶技巧で有名な曲だった。チャルダッシュ………モンティ作曲で、元はヴァイオリンのソロのために書かれた曲だ。特徴はなんといっても中間部の超高速メロディー。その圧倒的な難しさと完成した時の盛り上がりはトップクラスで、一時期人気過ぎて禁止令が出た、とも言われている。
「あれチューバでやるの⁉︎」
「木管でも難しい*2のに〜。それをチューバでなんて………」
「技術と表現力の両方を要求されるが、出来た時の盛り上がりはハンパない。だからコンクール受けがいい、言い換えたら上手く吹けたら金を取りやすい選曲だな。」
「でも逆に言えば、出来なかったらボロクソじゃん。」
「それはまあそう。ハイリスク・ハイリターンだ。」
そんな曲をリスク承知でやるなんて………コイツ、本気だ。本気で全国金を取ろうとしている。彼のこういう姿勢は本当に尊敬する。
「だが全国金取ったら超モテモテ‼︎下心だけは誰にも負けねえぜ‼︎」
「その下心を奏に向けてあげな〜。」
「却下。即刑務所送りにするから。」
「お前のがなりそうだけどな。詐欺とかで。」
「うるさい‼︎」
それ以外は全く尊敬出来ないけど。
「あと、お前らには先に言っとくよ。」
「「何を?」」
そんな事を思っていると、大輝が何かを言い始めた。この真面目な眼差し。多分音楽関係だ。一体何を言うつもりなんだろう?
「滝先生、しばらく借りるから。」
「「えっ?」」
どういうこと?意味不明なんだけど?
「ソロコンの伴奏者だ。今回は滝先生に頼むつもりだからな。」
ソロコンの伴奏者か。確かソロコンはピアノの伴奏だけ許可されてたな。言われてみれば、チャルダッシュも伴奏ありだし。だから伴奏者も自分で用意したんだね。
「奏は〜?」
「中学の時に頼んだけど断られた。」
「私ピアノ弾けないし、他の楽器で伴奏は禁止だし。」
「お〜、そういうことか〜。」
ちなみに中1の時は、一番最初に声をかけられたのが私だった。意外にも大輝は、一緒に吹くなら私とか言ってくれる。あれだけ技術があるなら私よりいい人なんているだろうに。そこだけはホント不思議だ。
「話を戻すと、滝先生は音楽教師だからピアノが弾けなきゃいけない*3。みぞ先輩や松本先生とも迷ったけど、やっぱり音楽面ならあの人かなって。」
「本気の編成だね〜。」
「コイツ、音楽だけはちゃんとしてるの。」
「他もちゃんとしてるだろ。」
「どこが⁉︎」
そして、滝先生を選ぶ理由も納得。まあ顧問や教師としての時間の都合があるから、オッケーしてくれるかは分かんないけど。
「とりあえず、まずは部長達に相談だ。正顧問の時間をかなり奪うことになるし。」
「そうね。高坂先輩も嫉妬するだろうし。」
「えっ、どういうこと〜?」
「お子ちゃま梨々花には分かんないか〜?」
「お前の方がお子ちゃまだろ。」
「うるさい‼︎大輝には言われたくない‼︎」
「ちょっと2人とも〜、麗奈先輩のこと教えてよ〜!」
その後、大輝はソロコン出場用紙を久美子先輩に提出したのだった。