奏視点
10月になり、暑さも和らぎ始めた日のこと。いつものように練習場所に向かおうとしていると、
「荒川君。ベートーベンのB、Aと変化をもっと表現して欲しいです。」
「分かりました。」
大輝と滝先生が練習しているところを通りかかった*1。2人の雰囲気は真剣さながらで、コンクールの時以上に張り詰めてるめのを感じていた。
「滝先生、ここもっと裏拍を軽くできます?ちなみに、左手の表拍はそのままで。」
「分かりました。」
「あと、ここ聞いててどうでした?テンポが速すぎて、音のメロディーがぼやけてないか不安で。」
「そうですね。旋律自体ははっきり聞こえていると思います。少なくとも指を適当に動かしている感じはありません。」
「ありがとうございます。」
そして、滝先生とも対等な関係で練習する大輝。普通顧問とあの関係になれる人なんて中々いない。音楽的な意味でも、精神的な意味でも。だが彼にはそれを可能とする技量と知識がある。
「凄いなぁ〜。」
「かなぴ〜、惚れてるの?」
「惚れてないから。」
「さつき、これは照れ隠しだと思う。」
「みっちゃんもそう思うよね!」
「W鈴木、黙らっしゃい。」
こうしていざ別行動となると、なんだか彼が別世界に行ってしまったような気分になる。実際レベル的には完全に別次元なんだけどさ。演奏面だけなら正直、私が大輝の腰巾着と言われても文句は言えない。だから、私ももっと頑張って、アイツに追いつかないと。
練習場所に着くと、そこでは久美子先輩がぼやいていたので、話しかけることにした。
「なんか決まってしまった。とはいえ不満は出る時には出るし、しっかり前もって説明して………」
「何が出るんですか?」
「な、なんでもないよ………」
はぐらかされた。私にも教えてくれたらよかったのに〜。
「部長〜、いますか〜?メンバーの報告に来ました〜。」
そんな事を思ってると、梨々花がやってきた。どうやらアンコンのメンバーを報告しに来たらしい。昨日言ってからの今日だよね?早すぎない?
「えっ、もう決まったの?」
「お願いします。」
「あれ、奏ちゃんとは組まなかったの?」
「私は組みたかったんですよ〜。でも奏が金管やりたいって〜。」
「騙されてはいけないんですからね。この子が木管五重奏*2やるって言ったんですからね。」
「えっ、奏が先だって〜。荒川君にフラれて私のところに………」
「フラれてないから。アイツが勝手にソロコン出ただけ。」
ちなみに私は梨々花を誘ってない。ユーフォとオーボエがいるアンサンブルが少なすぎるからだ。ユーフォが出るとしたら、金管のアンサンブルがメイン。だから私もそのつもりでいた。
「えっ、それじゃあ奏ちゃんは?」
「ホルンをこの子に取られて。」
「あぁ〜、そういうこと………」
「だって木管五重奏には〜、ホルンが必要なんだも〜ん。」
でも、ホルンの
「可愛い私で申し訳ない!」
「無視して下さいね。」
「えっ、ひど!荒川君と一緒に居られないからって〜、八つ当たりだよ〜。」
「ストレスフリーで快適すぎて、つい。」
だから私も金管のメンツ選びで迷う羽目に。なんならチューバも大輝がいなくて、誰誘うか迷ったし。結局美玲にしたけど。曲は金管七重奏のティータイム。放課後に練習するティータイムだ。この曲で部内予選を勝ち抜いて、府大会に行くつもりだ。
数日後、多くの部員のメンバーが決まってき始めた頃………
「ソラシラソラシラソラシラソシラソファソラソファソラソ〜♪」
高速でブツブツ歌いながら歩く大輝を目撃した。
「何ブツブツ言ってんの?怖いんですけど。」
「お前の方が怖いだろ。」
「はぁ?私は人畜無害なJKだし。」
「鬼畜有害なBKだろ。」
「BKって何?そんな高校生居ないんだけど。」
「馬鹿。」
「うるさい‼︎」
本当にストレスの溜まる男だ。せっかくストレスフリーな環境に居たのに。なんでこうして
「ちなみにアンサンブルは順調そうか?」
「まあね。チーム高坂が強敵だけど、なんとか倒すよ。」
「チーム高坂?」
「幹部3人に加えて、夢が居る。」
「権力と実力の寄せ集めみたいなチームじゃねえか。」
「それ。」
ちなみに久美子先輩は高坂先輩たちととんでもないチームを組んでた。トランペットの二大巨頭を組み込んだ、目下最大のライバルだ。
「大輝は順調そう?」
「俺は大丈夫だ。」
「流石西中の虎。」
ちなみに大輝も大丈夫そう。まあ、元より全く心配してなかったけど。
「なんせ2週間後には、博多美人の彼女を手に入れてるからな‼︎」
そんな事を思ってたら、急に心配する羽目になった。
「はぁ?」
「予選会場が青森か埼玉か福岡の3か所から選べてな。せっかくなら美人で有名な街にしてやったぜ‼︎」
「バカじゃないの⁉︎」
「博多弁も練習したぜ〜!アンタのこと、好いとうよ☆せやけん、一緒にデートしようや!」
「気持ち悪っ‼︎」
女目当てで予選会場選ぶ奴いる⁉︎確かに全国金行くなら、どこでもいいんだろうけどさ‼︎本当に下心丸出しなんだから‼︎あと関西予選無いの⁉︎それが何気に意外なんだけど‼︎
「本番が終われば、楽しいナンパの始まりだ〜♪」
「滝先生がそれをさせないでしょ。」
「そんなの説得してみせる‼︎」
「無理。絶対無理だから。」
「おっ、荒川君に久石さん。お疲れ様です。」
「「滝先生‼︎」」
おっ、ちょうどいいところに滝先生が。いい機会だし、律してもらおう。
「久石さん、ちょうどよかったです。」
「はい?」
そんな事を思ってたら、私に用があるみたいだった。なんだろう?私何かやらかしたっけ?それともアンコンのことでアドバイスでも…………?
「荒川君の予選当日、マネージャーとして来てくれませんか?」
ソロコンのことで、最悪のお願いだった。
「えっ、嫌です。」
「黄前さんから頼まれまして。彼のパフォーマンスを最大化させるべく、ぜひご同行願えますか。」
「嫌なものは嫌です。」
しかもまた久美子先輩が揶揄ってきたし‼︎自分だって塚本先輩のこと言われたら照れるくせに‼︎
「はぁ⁉︎俺だって嫌ですよ‼︎わざわざ福岡に行ってまでコイツと一緒⁉︎そしたら本番後にナンパできないじゃないですか⁉︎」
「久石さん、お願いします。彼は演奏面はとても素晴らしいですが、性格面に難がありまして。」
「うるせえ、この粘着イケメン悪魔‼︎俺は福岡で女を捕まえるんだ‼︎」
もういい、あったまきた‼︎
「分かりました、同行しますよ。」
「はぁ⁉︎」
「ありがとうございます。よろしくお願いしますね。」
「福岡の風紀を守らなきゃいけませんからね。」
「いい加減にしろや、この自称風紀委員がぁぁぁぁぁ‼︎」
ということで、私は大輝の福岡予選に同行することになったのだった。
そして、福岡予選の前日。
「「「それじゃ、いってらっしゃい!」」」
「はいよ‼︎」
「荒川君、久石さん、よろしくお願いしますね。」
「「はい。」」
「博多デート、楽しんで〜♪」
「「違う‼︎」」
学校で皆に見送られた後、私たちは前乗りで福岡へと向かっていた。最初は在来線で京都駅まで向かった後、そこで新幹線に乗り換えた。
「席はここですね。」
「「はい。」」
ちなみに座席は3人がけの席。通路側が滝先生、真ん中が大輝、そして端が私。滝先生が私に配慮して好きな席を選ばせてくれたらこうなった。せめて大輝が通路側だったらよかったのにと、つい思ってしまう。あと大輝の楽器はすぐ後ろにある大型荷物のスペースに置いており、近くに座ることで盗難のリスクを避けている。
「2人とも。まず着いたら近くの公民館で練習をするので、そこまで自由に過ごして下さい。」
「「はい。」」
さてと、福岡着くまで暇だな。新幹線の中で座ってるだけだし、寝るとするか………
その後私たちはあっという間に福岡に着き、公民館での練習を終えた。練習中は録音したり時間の管理をしたりと、簡単なお手伝いくらいだった。ただ、この2人に音楽に関しての意見を求められた時は、ちょっとドキッとしたけど。
そして、私たちは今日宿泊するビジネスホテルへとやってきた。