奏視点
ホテルのロビーにて、私と大輝は滝先生から部屋の鍵を渡された。
「それじゃあ、これが部屋の鍵です。荒川君がこれで、久石さんがこれです。それではまた明日、会いましょう。」
「「はい。」」
幸い部屋は3人別々みたいだ。予約の都合か、滝先生は違う階という。それで、私と大輝は隣の部屋。
「お前、覗くなよ?」
「それはこっちのセリフ。自分の部屋で大人しくしてて。」
「仕方ねえな。ナンパは明日にとっといてやるよ。」
「明日もやるな‼︎」
ぶっちゃけ私が別の階のがよかったな。そしたら大輝と滝先生で打ち合わせも出来るだろうし。まあ、久美子先輩のイタズラで、私と大輝が同じ部屋にならなかっただけマシか。
部屋に着いてスマホを開くと………
『かなぴー、荒川君の部屋には遊びに行くの⁉︎』
『奏が行かないわけないじゃ〜ん♪』
『流石奏。』
1年のグループチャットで私がW鈴木と梨々花からイジられてた。
『人を勝手に変態扱いしないでくれる?というか、誰か代わって欲しかったんだけど。』
『いや〜、その日は用事が入る気がして〜♪』
『りりりん、奇遇だね!私も!』
『そんな奇遇あるか‼︎』
『私は塚本先輩とのデートが入ってたし……』
『みちる*1はその妄想をやめな!』
なんでどいつもこいつもイジるかな、私たちのことを‼︎そんな関係じゃないっつーの‼︎私がアイツのこと下の名前で呼んでるのも、中学の時にもう1人荒川がいたからだし‼︎あとみちる‼︎塚本先輩は久美子先輩にゾッコンだから‼︎諦めな‼︎
というか、大輝はなんで反応しないの?こんな事言われたら、黙ってるわけないと思うんだけど…………
『皆、福岡に着いたよ☆もしかして、俺がいなくて寂しいのカナ?寂しいよね⁉︎だから、俺渾身の自撮りをあげるよ☆福岡の俺を、とくとご覧あれ♡』
と思ってたら、くそ気持ち悪い文章と自撮りが送られてきた。見てるだけで吐きそうだ。
〜久石奏が荒川大輝を退会させました〜
だから私は彼をグループチャットから退会させた。そして安心して、眠りについたのだった。
翌日、怒った大輝が部屋の前で待っていた。
「おい、カス石‼︎人のこと勝手に退会させてんじゃねーよ‼︎」
「何、怖いんだけど。つーかここ、ホテルの廊下。静かにして。」
「じゃあ俺をグループに入れろ。」
「あんなキモい文と自撮りを送らないならいいよ。」
「分かった。次はカッコよく撮ってやる。」
「そうじゃない‼︎」
本当にバカだなぁ。そろそろ自分のことを理解したらどうなんだろうか?あと予選当日だよ?もっと緊張しろよ。これじゃあ私がサポートするまでもないじゃん。
実際にその通りで…………
「続いて本選に出場する人を発表します。1番、京都府北宇治高等学校1年、荒川大輝。」
大輝は普通に予選を突破した。あっという間の全国だ。
「おめでとう、大輝。」
「おめでとうございます。」
「あざっす!本選ではもっとレベル上げて、全国金の男になりますよ!」
「期待してます。」
しかも全然緊張せず、ミスもせず。1番目の奏者という、コンクールで1番評価されにくい出番なのにも拘らず余裕の通過。昨日とても気持ち悪い自撮りを送った人と同一人物とは思えないくらい、凄い人だ。
「それじゃ、中洲でナンパしてきますわ〜♪」
「久石さん、彼の監視をお願いします。」
それ以外は悪い意味で凄いけど。
「滝先生も来て下さいよ。この怪物、1人じゃ抑えられないです。」
「若者の青春を大人が邪魔するのは良くないですからね。」
「青春じゃなくて苦行なんですけど………」
「滝先生が久石と同行すればいいんじゃないですか⁉︎」
「ちょっと、妻と昔訪れた場所に行きたくて………」
「「私たち(俺ら)が勝てない理由出すの、やめてもらっていいですか⁉︎」」
にしても、福岡に来てまでコイツと2人っきりとか嫌なんだけど。滝先生を連れてきたかったけど、それ言われたらどうしようもないし。確か奥さん亡くなってるんだよね?大輝が言ってた*2な。だから彼は珍しく嫉妬発言をしていない。
「ということで、明日の集合時間まで解散です。ただし、お二人は未成年ですので、10時までにホテルに戻るように。」
「「はい。」」
「あと、なるべく2人で行動して下さいね。これは揶揄ってるわけではなく、その方が安全だからです。分かりました?」
「「はい。」」
それはさておき、福岡での地獄の2人きりの時間が幕を開けた。
2人きりでの行動といっても、今はソロコン予選が終わって夜6時。明日は朝の新幹線で帰るため、正直あと3・4時間くらいしか観光の時間は残されていない。
「くそっ!コイツが隣に居たら、ナンパ出来ねえじゃねえか‼︎」
「その言葉が聞けただけで、私は嬉しいよ。」
「うるせえ‼︎まあ、お前がいても関係ねえけどな♪」
「関係大アリだよ。」
ここから観光地とかに行くのは正直厳しい。だから福岡グルメの方にしようかな?その方がこの辺で食べられるし、大輝に奢らせることができるし………
「それにしても迷うな〜。博多明太子か、とんこつラーメンか………」チラッ
「何?俺に奢れと?」
「別にそんなことは言ってないけど〜♪」チラッ
「千円までならいいぞ。」
「は?そこは一万でしょ。」
「1人で一万使う高校生なんかいねえよ‼︎どんな高級食材だ⁉︎」
「ちょっと食いしん坊なだけ〜♪」
「ちょっとで済むかぁ‼︎」
胃袋的にはぶっちゃけラーメン食べて明太重食べる余裕はある。だけど、店の場所と並ぶ時間的に10時までに帰ってこれない。さて、究極の2択………どっちだ?
「まあいいや。とりあえず中洲の屋台でラーメン食うぞ。それなら奢ってやる。そっちのが安いし。」
「は〜い、ありがと〜♪」
おっ、屋台のラーメンだ!嬉しい♪柄にもなくテンションが上がるのを、肌で感じていた。
そして私たちは、河川敷にずらっと並ぶ中洲の屋台街までやってきた。
「めちゃくちゃあるじゃねえか………」
「凄いね、これ。」
夜の暗い川と屋台の明るい光のコントラストがとても綺麗で、夜空の静けさと街の賑やかさがとても対照的な、とても素敵な光景だった。オシャレでありながら、どこか大衆的。漂うおでんやラーメンの匂いは、人の食欲を刺激するには充分すぎるほどだった。
「ねえ大輝。」
「何?」
「私、1店舗とは言ってないからね?」
「そこの川に突き落とすぞ、お前。」
こんなの見せられたら、屋台全部回らなきゃ失礼だと思う。うん、そうだよね。絶対そうだ。そしてお酒以外の全メニューを頼まなきゃいけないと思う。
「とにかく、俺が選んだ1店舗だけな。」
「ちぇっ。」
「ちぇっ、じゃねえだろ。それが奢られる態度か?」
「アンタの世話係やったんだから、これくらい普通でしょ。」
「頼んでねえっつーの、このクソガキ‼︎」
そう思っていたが、残念ながら1店舗だけとなってしまった。悲しみに暮れながら、私は大輝と共に屋台の暖簾をくぐったのだった。
暖簾をくぐると、そこには屋台らしい、シンプルなカウンターがあった。この大衆的な雰囲気、とてもいい。
「へいらっしゃい‼︎」
「すいません、2人で!」
「はいよ!メニュー決まったら呼んでな!」
気前のいいおっちゃん大将の挨拶が、またいい。大輝の『はいよ‼︎』とは違う、本家の『はいよ‼︎』は気持ちがいい。これだから大衆系の店は好きなんだよな。もちろんお洒落なイタリアンも大好きだけどね。自分が大人になった気がするし。
さてと、何を食べよっかな〜♪おっ、これとかこれとかいいな!決めた………
「お姉さん、可愛いですね!どうっすか?この後、俺とデートしません?」
って思ってたら、大輝が隣に座ってた髪の長いJKをナンパし始めたんだけど⁉︎相変わらず何してんの⁉︎
「えっ⁉︎えっと………今、デート中じゃなくて?」
「「違います‼︎」」
「そ、そうなんだね………」
相手のJKも困惑してるし‼︎そりゃそうでしょ‼︎仮にも女の子が隣にいるのにナンパする奴とか、頭おかしいからね‼︎
「あっ、大将!ご馳走様でした!」
「いつもありがとな、真由ちゃん‼︎」
「はい!」
「真由さんって言うんですね!俺大輝って言います!よろしくお願いします!」
「こら、余計なこと言わない。気にしないでくださいね。」
「う、うん………」
「それじゃあまた、どこかで!」
「はいよ!」
「はいじゃないよ。」
ということで、なんとかJKは逃げ切れたみたいだった。
「あの人、俺の嫁になるかもしれない。」
「そんなわけないでしょ。」
そして、どうやら大輝は運命の出会いだと思ってる様子。もしその言葉通りなら、きっと悪い意味だろう。相手のJKにとっては、ね。
「で、決まったから注文早くして。」
「相変わらず厳しいな。」
「当たり前でしょ。」
「当たり前にするな。大将、注文いいっすか⁉︎」
「はいよ‼︎」
「とんこつラーメン1つ、バリカタで!久石は?」
「とんこつラーメン1つ、バリカタで!更に替え玉が3玉‼︎あとは餃子10個とライス特盛りで‼︎」
「おお‼︎嬢ちゃん、気合い入ってんな〜‼︎」
まあいいや。とりあえず頼むのは、基本のセットにしよう‼︎あと、隣の屋台からおでんを貰いたかったけど……また今度だね‼︎
「お前ふざけんなよ⁉︎少しは自重しろ‼︎」
「自重してるよ。1店舗だけだし。」
「もっとだ‼︎」
「おいおいあんちゃん、男ならそんくらいパーっと払っちまえ‼︎」
「そんな事言われても………」
「大将の言う通り〜♪」
「お前なぁぁぁぁぁぁ‼︎」
そして、たくさん運ばれてきた本場の博多ラーメンは…………それはもう、めちゃくちゃ絶品だった。濃厚な豚骨の匂いが鼻と口の両方から入り、身体の中を満たしてくれる。そして、秋の夜の寒さを忘れさせてくれるような熱々のスープと、それに上手く絡むバリカタの細麺。さらにはネギにチャーシュー、紅生姜にキクラゲもいいアクセントになっていて、街の光の如く煌びやかにラーメンを彩っていた。
「大輝、ありがとね♪」
「どういたしまして………」
こんな絶品を