奏視点
福岡から帰ってきた日、大輝は皆に歓迎されていた。
「荒川君、おめでとう!全国だね!」
「流石荒川。」
「あざっす!」
「で、かなぴーとの進展は⁉︎」
「福岡でどんなデートしたんですか⁉︎緑気になります!」
「デートじゃないっすよ!ただ中洲の屋台で博多ラーメン食べただけです!」
「それ以外は何もありません。」
「「「ホントにそれだけ〜?」」」
「「それだけですよ!」」
なんか皆何かを期待してるみたいだけど、本当に何も無いし何かする気もないから。ただご飯を奢ってもらえればそれでよし。本当にそれだけでいいのだから。
「そういや奏ちゃん、明日夏紀先輩のとこ行く?」
そんな事を思っていると、久美子先輩が懐かしい名前を言った。
「えっ、どういうことなんです?」
「実は受験が終わった優子先輩と希美先輩が、アンコンでまだ決まってない子のために出ることになったんだよ。」
「お〜、それはいいですね〜。」
「ただ、その2人が勝手に夏紀先輩の名前を書いたから、一応確認をと思って〜。」
どうやらグループが決まってない子たちのために出てあげるみたい。というか受験もう終わったんだ。早いな。まだ10月末なのに。まあいいや。とりあえず行ってあげるか〜。
「なるほど、そういうことでしたか。仕方ないですね、行ってあげます。」
「夏紀先輩に会えるんですね⁉︎俺も行きます‼︎」
「また鼻の下伸ばして〜。着いて来なくていいのに。」
「お前があの人に無礼を働かないか心配だしな。」
「うるさい。」
なんか余計なのが着いてきたけど、いっか。どうせいつも通りやらかして、いつも通り笑われるだけだから。気にしないでおこう。
次の日の休み時間、私と久美子先輩は夏紀先輩の教室に来た。
「えっと………」
「おっ、黄前ちゃん!それに久石夫妻まで!久しぶり!」
「「夫婦じゃないです‼︎」」
そして、いきなり揶揄われた。こんな事になるなら来るんじゃなかった。
「で、どうしたの?」
「昨日優子先輩が楽器室に来たんですけど〜、何か聞いてませんか?」
「えっ、別に?」
というかこの人、私が髪切ったのに気づいてくれないし………
「その前に何か無いんですか?」
「ん?」
「後輩がおめかししてわざわざ教室まで来たのに。」
「それって荒川君のためじゃなくて?」
「違います‼︎昨日美容院で髪切ったんですよ‼︎5mmくらい。」
「荒川君は分かったの?」
「美容院行くって聞いてたのに大して変わってなかったんで、金の無駄って言ったら怒られました!」
「そりゃ怒るでしょ〜。ダメだよ〜、そんな事言っちゃ〜。」
「気づかなかった人が言わないでください。」
「5mmなんか分かるか〜‼︎」
まあ、気づかれるとも思ってないけど。大輝よりはマシだからいっか。
その後、久美子先輩が事情を話すと………
「優子、何勝手に人の名前書いてくれちゃってんの〜⁉︎」
「優しさでしょ〜。あ〜、夏紀先輩はお気持ちだけで充分なんで、って言われないための♪」
「そんな事言って、ウザいOG化してんのはアンタの方じゃないの?黄前ちゃん、遠慮なく言っていいからね。う・ざ・い、って‼︎」
「誰がよ⁉︎」
いつもの通り夏紀先輩と吉川先輩の痴話喧嘩が始まった。もはや3年生の間でも風物詩になっており、
「アイツら、またやってるよ………」
「だね〜。ホント元気だよね〜。」
「梨子先輩、お久しぶりです‼︎あと一応後藤先輩も。」
「皆、久しぶり〜!」
「ごめんなさい、後藤先輩。彼の生意気は治せませんでした。」
「相変わらずなんだな………」
その様子を後藤夫妻も眺めていた。
「で、夏紀先輩………、参加の方は………?」
「別にいいけど、出来たらコイツと別だと嬉しい‼︎」
「はぁ〜?今なんて言った〜⁉︎」
「だからアンタと一緒が嫌だって言ってるの‼︎」
にしても、いつも喧嘩してんな。そこだけは私と大輝みたい。
「オッケーっと。奏ちゃんと荒川君、行こ。」
「いいんですか、ほっといて?」
「うん。いい。」
「ほな、ずらかりますか〜♪」
ということで、私たちは先輩方の前から去っていった。
その後、私はアンコンの練習、大輝はソロコン全国大会の練習と、お互いに会わない時間が増えていった。
「滝先生。ここアッチェレ*1かけようと思うんですが、ついてこれます?」
「どのくらいかけます?ちょっとやってみて下さい。」
「わかりました。」
今や大輝は完全に滝先生の相棒みたいな関係だ。歳は20近く離れているのに、そんな事を感じさせないような雰囲気。お互いが敬語なのもあって、お互いをリスペクトしながら、更に高め合ってゆく。あそこまで対等にやり合えるのは、本当に凄いなぁ。予選で聞いた時よりも、更に上手くなってる気がする。
「私も、あそこについていけないと………」
「美玲、いきなりアレは無理でしょ。」
「それは分かってる。」
実際後藤夫妻が抜けて、大輝の次に上手いのは美玲になった。だが、その差は歴然。正直大輝と美玲の差は、美玲とさつきや加藤先輩の差の倍近くあるのではと思ってしまう。そして、それを美玲自身は分かってる。
「奏、私たちもアンコンで全国行こう。そして、荒川に追いつかないと。」
「そうだね。アイツだけが上手いって言われるのも癪だし。あと、全国行くだけじゃ足りないよ。」
「そうだね。私たちが行けるか分からない全国も、あの人にとっては簡単に足を踏み入れられる舞台だもの。その先に行かないと。」
「だね。」
だからこそ、闘志を燃やす。大輝とその他大勢のその他にならないためにも。飄々と皆と過ごす中で、私は内なる闘志を秘めていたのだった。
そして更に1ヶ月が経ち、本番当日がやってきた。
「さっすがですね〜、チーム高坂!」
私はシャドーボクシングをしながら、久美子先輩に話しかけていた。
「あら奏ちゃん。」
「この前、演奏を聞いてて思いました。これは負けられないな、って。」
「チーム高坂って言うんだ、私たち。じゃあ奏ちゃんのところはチーム久石?」
「いえいえ。うちはトップは居ませんので、言うなれば『チーム平和主義』かと。」
「それだとかえって、なんかあるっぽく聞こえるけど。」
ちなみにこのシャドーボクシングは大輝撃退用にやってるやつだ。アイツがいつかキモい言動をしながら接近してきた時、これで倒そうと思っている。
「こういう少人数の演奏って、意外な人が上手かったりして面白いですよね。」
「う〜ん、それは私も思った。」
「滝先生も部員の実力を見極めて、自由曲も決めやすくなった………って言いたいですけど、大輝につきっきりでしたね。」
「そうだね。奏ちゃんも寂しいよね。」
「寂しくなんかありません。むしろ居なくて最高です!」
「素直になりなよ〜。」
「超素直ですよ、私。」
「そだね〜、そういうことにしといてあげる〜。」
にしても、この人は本当に私と大輝をくっつけたがるな〜。何がいいのやら、あんな奴。
「それじゃあ今日は、勝負です!」
「はいよ!」
「大輝の真似しなくていいんですよ?」
「あれ、流行ってるからさ〜。」
「なんで流行ってるの………?」
まあいいや。とにかく頑張らないと。全国金、取るために‼︎