奏視点
アンコン部内予選から数週間が経ち、いよいよ大輝のソロコン当日がやってきた。舞台は埼玉県川越市。私は予選の時と同じく、大輝のマネージャーとして前日入りしていた。
「それじゃあ、プレゼント期待してるよ!」
「任せとけ!」
そして、最後のチューニングも終わり、大輝は舞台袖へ、私は客席へと向かった。
客席に着くと、その近辺には既に梨々花や低音の皆が座っていた。
「おっ、荒川君の奥さんじゃ〜ん。お疲れ〜♪」
「奥さんじゃないから。」
「かなぴー、この後どこか行くの⁉︎」
「行くんでしょ?」
「行かないから‼︎」
「久石、別に僕は止めないよ?」
「月永君は関係なくない⁉︎」
もちろん1年生だけじゃない。
「うひゃ〜、これがソロコンの全国か〜!荒川君すごいね!」
「ですね!緑、とってもドキドキします!」
「なんか出てないのに緊張してきたよ〜。」
「なんで久美子が緊張するの?」
「麗奈には分からんだろうね〜。」
「うるさい。」
2年生もいるし、
「ソロで全国か〜。ホント凄いね、荒川君は。」
「
「
「梨子、受験終わってないのによかったのか?」
「卓也君、いいの♪」
「あっ、リア充のクリスマスデートだ♪」
「これは席変えないと〜♪」
「おい、お前らなぁ…………」
「2人とも行かないで〜!」
「みぞれ、楽しみ?」
「うん………希美も?」
「もちろん!」
なんなら3年生もいる。
「奏〜、荒川君の出番っていつだっけ〜?」
「確か1番。」
「トップバッター⁉︎めちゃくちゃ緊張するじゃん‼︎」
「しかもトップバッターの人は全体の基準になるために、厳しめに審査されやすい………」
「予選もそうだったよ。」
「えっ、すごっ⁉︎」
「流石………」
また、大輝は今回も1番を引いていた。大変だろうに、本人は全く気にしていなかった。何も知らないわけじゃなく、全部知った上でそれくらい余裕だと感じさせる。そんな姿が、本番前の彼にはあった。
そして、そんな事を考えているうちに………
「1番。京都府北宇治高等学校1年、荒川大輝。演奏する曲は、モンティー作曲、チャルダッシュ。」
あっという間に大輝の出番がやってきてしまった。大輝の滝先生の2人が入ってきて所定の場所に着いた後、数秒の静寂の後に、大輝のチャルダッシュは始まった。
まずは滝先生のピアノによる和音。それが4音奏でられた後に、上昇音形で上がってゆく。そしてゆったりとした伴奏の提示の後……いよいよ大輝の音が始まる。
「…………っ!」
それを聴いた瞬間の、凄まじい色気。ゆっくりとしたテンポの哀愁漂うメロディーは、まるで何かを欲しているかのよう。テンポが一定かと思いきや、歌に合わせて動かしてくる。それはまるで心の機敏を表してるかのようだった。たったこれだけの単調なメロディーに、ここまで詰め込めるのか。滝先生の伴奏と相まって、既に心が揺り動かされていた。
そして、そのゆっくりしたメロディーが終わると、あの有名な超高速フレーズが………
「はや………っ⁉︎」
嘘でしょ⁉︎こんなに速かったっけ⁉︎思わず声が出ちゃた。速いのに正確で、しかもそれがメロディーとして主張してくる。滝先生の伴奏がリズム感を演出し、それに乗せて大輝が高速で駆け抜ける。凄い、凄すぎる。朝一番だというのに、会場の雰囲気が既に大輝一色なのを肌で感じる。ヤバい‼︎
そして、大輝の高速メロディーが終わった後は、滝先生のソロタイム。あの人ピアノもあんなに上手いんだ。主役が抜けることによる変化を上手く表現している。凄い‼︎その後に同じメロディーを大輝が吹く。ピアノの元気良さとは対照的に、とても静かでおとなしく。この後まるで嵐が起きるかのように…………
そして、嵐は起きた‼︎さっき演奏した超高速メロディーが帰ってきたのだ。しかもテンポを上げて。凄い、凄すぎる‼︎何もしなくても、心が勝手に揺り動かされる‼︎しかも一度落として、さらにアップ‼︎ダメだ、テンションが昂るのを抑えられない‼︎上がったテンションは頂点に達して、最高音のハイD*1を気持ちよく伸ばし、2オクターブ*2一気に跳躍して下のDで会場を包み込み、締める。この最後の音の圧倒的迫力。本当に凄かった。
「好き………」
拍手と共に、思わず心の声が漏れてしまうような圧巻の演奏。やっぱり私は、彼の音楽が好きだ。
演奏終了後、大輝は私たちのところに戻ってきた。
「どうだった、俺からのクリスマスプレゼントは?」
「ま、まあ、良かったんじゃない………?ありがと///」
「はいよ‼︎」
柄にもなく照れてしまった。本当にらしくない。でも、それだけ凄かったということだ。
「奏〜、好きって言ってたもんね〜。」
「だよね⁉︎言ってたよね⁉︎」
「私も聞こえた。」
「僕も。」
えっ、ちょっ、あれ聞こえてたの⁉︎皆に⁉︎
「えっ……⁉︎///」
「あ、あれは、お、音が好きって意味だから‼︎勘違いしないで‼︎///」
「俺に惚れちゃったか〜♪まあしゃ〜ない!俺イケメンだし‼︎」
「だから違うって‼︎///」
「でもな〜、忘れんなよ?俺が女を選べる立場にある事を‼︎」
「そんなわけないでしょ‼︎」
「「ひゅ〜!」」
「うるさい‼︎」
別に誤魔化したりもしないけど、勘違いされるのだけはやめてほしい。私は彼の音が好きなのであって、決して彼のことを好きなわけじゃないから。本当に。それだけは、どうしても皆にわかって欲しかったのだった。
数時間後、いよいよ表彰式の時間がやってきた。
「なんか、緊張するね〜。」
「自分の出番じゃないのにね。」
「みっちゃん、金取れるかな⁉︎」
「分かんない。求は分かる?」
「いや、僕も分かんないよ。」
皆自分が出ていないのに、何故か緊張している。かくゆう私もそうだ。壇上で喋ることも許されずに待ち続ける大輝の方が、よっぽど緊張するだろうに。
「それでは、只今よりソロコンテスト金管楽器部門の結果を発表いたします。プログラム1番、北宇治高等学校1年、荒川大輝…………」
さて、大輝の結果はどうなる…………?
「ゴールド金賞‼︎」
なんと、金賞‼︎2年越しのリベンジ、達成の瞬間だった。
「「「「よっしゃぁぁあ‼︎」」」」
集まっていた北宇治の人たちが歓喜に沸く。私たちがコンクールで達成出来なかった目標を、たった1人で達成してしまった。自分の全てを曝け出して、他の誰も庇ってくれない状況で。本当に凄いよ、大輝は。今までの悔し涙を洗い流すような、そんな嬉し涙が大量に溢れ出てきたのだった。
コンクール終了後、私たちは会場の外で大輝を出迎えた。
「メリークリスマ〜ス♪全国金のサンタクロース、荒川大輝で〜す♪」
「「「「おめでと〜‼︎」」」」
「ありがとぅ〜っす‼︎」
分かりやすく調子に乗ってる。でもまあ今日くらいは、調子に乗らせてもいいか。
「私たちからのプレゼントは………じゃじゃん、奏ちゃんです!」
「久美子先輩⁉︎」
「あっ、結構です。」
「それはそれでムカつく。」
やっぱやめとこ。ウザいし。
「でもまあ、最高のクリスマスプレゼントだったよ。ありがと。」
「はいよ‼︎」
「珍しく私がご飯奢ろうか?今まで奢ってきた分、1食で取り返す?」
「そんな食えるかぁ⁉︎」
「部長命令を伝達します。この後2人でクリスマスデートをしなさい。」
「「嫌です‼︎///」
聖なる夜に、最高の想い出をくれた。本当に本当に、とても良かった。次は私がコイツと一緒に、コンクールで全国金を取る。そして、一緒の立場で喜ぶんだ‼︎そんな事を思った日だった。
それから3ヶ月後のこと。3月末に、
「夏紀先輩、後藤先輩、梨子先輩、卒業おめでとうございます‼︎今までありがとうございました‼︎」
「「「「「「ありがとうございました‼︎」」」」」」
私たちは卒業生を見送った。
「うぅ〜、美人な先輩が2人も居なくなっちゃう〜‼︎」
「まあまあ〜!荒川君、元気でね〜♪」
「後藤先輩の事も言いなよ。」
「くっ………!お、お幸せに‼︎」
「ありがとな。お前も頑張れよ。」
「はい‼︎」
「久石ちゃ〜ん、私には何か無いの〜?」
「ウザいので無しです。」
「夏紀先輩、ホントすいませんね‼︎コイツがクソガキで‼︎」
「人のこと言えないでしょ。」
この人たちが居ない時間は、半年間の部活で慣れたつもりだった。でもやっぱり寂しい。
「とにかく、俺が全国金取ったので、次のコンクールは俺目当てでいっぱい優秀な人が来ると思います!期待しててください!」
「「はいよ!」」
「ほら、卓也君も♪」
「は、はいよ………」
「「「「おお………っ!」」」」
「そんな驚くなよ………」
また、この人たちと入れ替わりで次の子たちがやってくる。初の後輩。もしかしたら転入生もあり得るかも。どんな子が来るのだろう。不安と楽しみが入り混じりながら、次の曲が始まったのだった。
これで第二楽章は終了です‼︎大輝は無事全国金を取ることができました‼︎
また、次はアニメ準拠のため、長めになります‼︎第三楽章「新たなユーフォと一年の詩」、お楽しみに‼︎