奏視点
私たちは楽器体験及び軽い自己紹介を軽く終えた後、パート練習用の部屋に連れてこられた。
「ここが低音パートの練習教室。パート練習って言われたら、基本的にはここでやるから集まって。」
「はいよ!」
「おっ、寿司屋の大将⁉︎いい返事だね〜!」
「あざっす、葉月先輩‼︎うへへ………」
加藤先輩に褒められて鼻の下を伸ばす大輝。控えめに言って気持ち悪い。先輩方からすれば、後輩だから可愛いで済むのだろうか?同級生の反応は………
「よ〜し!私も元気だけは負けないようにするぞ〜!みっちゃんも元気だそっ!」
「いや、私はいいから………っ!」
美玲が普通ね。明らかに引いてるし。逆にさつきはなんでそんなに元気なの?引けよ。
そして、もう1人の同級生…………
「そういや、緑。」
「なんですか、葉月ちゃん?」
「あの子が月永君?」
「はい。龍聖でコンパスやってたみたいで、バッチリ経験者です!」
「あの、すいません。」
「はい?」
はだいぶ冷めた、どころかちょっと怒ってるような雰囲気だった。まあ無理もない。同級生の、しかも吹部で希少な男子にこんなのが居たら腹立つだろうから…………
「僕のことは求って呼んでもらえますか?」
えっ、そこ⁉︎
「えっ、名前呼び………」
「その方がしっくりくるので。」
「なるほど!サファイヤ川島と同じようなもんだね〜!」
「緑ですぅ〜!」
しかもしっくりくるって。何かあったのかな?気になる………
「おいゴルァ月永ァ‼︎テメェ俺よりモテてるからって調子乗ってんじゃねえぞ‼︎」
「は?なんだよ急に……っ!つーかさっき下の名前で呼べって……」
揶揄ってみようと思ってたら、大輝が急にブチギレ始めた。そういやコイツ、イケメン嫌いなんだった。理由は自分よりモテるから。本当に器の小さい男だ。
「そうやって女の子との距離を詰めてたんだろ‼︎ふざけやがって‼︎」
「違えよ‼︎苗字で呼ばれたくないだけだし‼︎」
「そっか………それならまあ、許そう!」
「許すんだ…………」
「ただ俺は、イケメンと彼女持ちの男が嫌いだからな。そこんとこ覚えといてな!」
一応
「こんな小物の言うことなんか聞かなくていいよ、月永君♪」
「は?」
「求、コイツこんな感じの性格だから。気をつけろよ。」
「なんか似たもの同士だな………」
「「はぁ⁉︎」」
「ほら。」
反撃されたんだけど⁉︎ムカつく‼︎誰がコイツと似てるって‼︎どう見ても違うでしょ‼︎
「そういや、後藤先輩は大丈夫なんですか〜?」
「葉月、余計なことを言うな‼︎」
「後藤先輩。あなた、まさか彼女が………」
「分かった。言うよ。俺には彼女がいるぞ。隣に。」
「それって梨子先輩のことじゃ………?」
「うん///」
「あぁぁぁぁぁぁ‼︎ずるいずるいずるい‼︎梨子先輩、俺と二股しませんか⁉︎」
「それは無理だね!ごめんね!」
「どうしてだよぉぉぉぉぉぉ‼︎」
「そりゃそうでしょ。」
ほら、私あんなアホじゃないし。なんで彼氏持ちの人に二股持ちかけるんだよ。しかも彼氏の目の前で。なんなら初対面で。絶対成功するわけないのに。
「そんな事より、練習時間などの他のこと説明するぞ〜。」
「そんな事より⁉︎後藤先輩、アンタって人はぁぁぁぁ‼︎」
「と言いつつ、メモと筆記用具の準備はするのな。」
「なんだかんだ真面目なんだね〜。」
「部活の時だけですね。」
ちなみに大輝は練習中だけはちゃんとしている。ずっとそうだったらいいのに。つい思ってしまった。
しばらくすると、練習時間の話になった。
「いつも何時までやってるんですか?」
「平日は18:00まで。6月からコンクールが終わるまでは18:30までだよ。」
「休日は朝9:00からだな。」
「でも、皆それよりも朝早く来て、音出ししてるよ〜。」
「じゃあじゃあ、先輩たちはいつも朝早く来てやってるんですか〜?」
「低音は楽器持って帰って練習ってのも、出来ないからね〜。」
どうやら練習時間は普通みたい。また低音は楽器が重すぎる都合上、家に持ち帰るのは至難の業だ。ユーフォは本体で5kg、ケース入れて8kgくらいだからまだしも、チューバなんかは本体で10kg、ケースを入れたら20kgなんてことも。大輝もよく楽器運ぶ時ひーひー言ってたな〜。
「居残りや朝早くの練習って、義務なんですか?」
そんな事を思っていると、美玲がめんどくさい質問をした。時間外練習ね。中学の時は自由と言いつつ強制だったけど、ここはどうなんだろう?
「義務ってわけじゃないよ。」
「なら結構です。」
「まあでも、皆やってるけどね〜。」
「そうですか。でも、私はいいです。」
うおっ、きっぱり断った。すごっ。普通断れないよ。初対面の先輩相手に。別に私は出なくてもいいと思ってるけど、いきなりこんな風には言えないし。
「なぬっ!みっちゃんとは一緒にいれる時間が短いのか‼︎くぅ〜!じゃあ部活の時間にたっぷり喋るしかねえな!」
「は?荒川、急に何?」
「俺は女の子を1秒でも長く眺めるために、早く来て遅く帰るからな‼︎」
「えっ………?」
「美玲、気にしないで。そもそもコイツが吹部に入った理由、モテそうだからの一点だし。」
「たりめえだろ‼︎あっ、先輩方!ちゃんと練習するのでご安心を!」
「何から何まで下心なんだね、荒川君………」
「もちろんですとも、久美子先輩‼︎」
「褒められてないから。」
ちなみに大輝はゴミ。まあ練習はちゃんとしているので、誰も文句は言えない。それがなんか悔しい。あと美玲、ごめんね。そいつそういう奴だから。諦めて。
その後は、川島先輩がコンクールの話をして、パートの説明は終わった。
しばらくした後、私たちは合奏室へと戻ってきた。
「は〜い!それじゃあ改めて………部長でトランペットの吉川優子です!」
「コイツのサポートをしてま〜す。副部長でユーフォの中川夏紀で〜す。」
「コイツって言うな!」
「おっとごめんなさい、部長様♪」
「アンタねぇぇぇぇぇ‼︎」
どうやら部長と副部長が夫婦漫才をやってくれるらしい。あと中川先輩、副部長だったんだ。知らなかった。
「なんかあの2人の関係、奏ちゃんと大輝君に似てるね。」
「黄前先輩、変な事言わないでください。絶対違います。」
なんて酷い風評被害だ。私たちはあの2人みたいにあんなに息合ってないし。絶対に。
「それはさておき、今年の目標について話そうと思います。北宇治では毎年、生徒が立てた目標に沿って活動をします。これは顧問の滝先生の指導方針です!」
そんな事を思っていると、吉川先輩が真面目な話に戻した。目標、か。一体どんな目標なんだろう?
「去年の目標は全国大会出場でした。ですが今年は………やるからには本気でやりたい。ここで決めた目標を最後までやり抜きたい。」
そう言って先輩は、全国大会金賞と書いた。なるほど、これはすごい目標だな。去年の北宇治は全国大会に出て銅賞。そこから更に2段階上げるとは………
「多数決を取るので、手を挙げてください。これから1年緩くやるのか、それとも………全国大会金賞を目標にするのか!」
でもまあ、やり甲斐もある。私も去年は全国大会銅賞止まりだった。身近にいる人でも、大輝のソロコン全国銀賞が最高。その上を目指すなら………手を挙げるしかないよね!
「全国大会金賞を目指す人、挙手!」
そうして、多くの部員が手を挙げた。まあ、そうなるよね!
「では今年の目標は、全国大会金賞とします!これから大変なこともいっぱいあると思いますが、きっと乗り越えられると信じています!頑張りましょう!」
「「「「「はい!」」」」」
「では滝先生、よろしくお願いします!」
「分かりました。」
そして、部屋の端っこの方で聞いていた滝先生が前に出てきた。この人が顧問か。大輝が嫌いそうなほどのイケメンだな〜。
「くそっ、女子がメスの顔をしてやがる………っ!」
やっぱり、すごい悔しそうな顔をして見ている。諦めなよ。滝先生とアンタとじゃ、全国大会金賞と府大会にも出れないくらいの差があるんだから。
「荒川君、どうかしましたか?」
「いえ、なんでもありません‼︎‼︎ただ………」
「ただ………?」
「全国金取るためには、あなたにも指摘することがあるかもしれないので、よろしくお願いします‼︎‼︎」
「おい大輝、お前………っ!」
「後藤君、大丈夫ですよ。荒川君、ありがとうございます。私にも改善点があったら、遠慮なく言ってくださいね。」
「はい‼︎‼︎よろしくお願いします‼︎‼︎」
性格面、もね。本当に大きな差だ。今のやり取りを聞いて、大輝を嫌い、滝先生を好きになった人が何人いるのだろうか。
ただ、彼は顧問にも余裕で指摘できるレベルの知識と技量がある。ソロコンとはいえ全国銀以上を獲ってるし、3年の時には私たちを初の関西大会銀賞以上………どころか全国の切符まで取らせてくれた。そんなアイツがどう動くか………これからが楽しみである。
麗奈視点
なんなの、あの1年………っ‼︎滝先生に逆らうなんて、あり得ない‼︎合奏が終わったら言ってやる………っ‼︎
ちょっとミスあったので訂正。全国銀以上の経験者は緑もでしたね(3年連続全国金、エグいって)。すんません。