奏視点
私たちは楽器体験の後、いつも通り目標を決める時間となった。滝先生の登場で1年生が賑やかになった後、久美子先輩が場を鎮めて仕切り始めた。
「では、今日はこれから、この場の活動方針を決めたいと思います。北宇治高校吹奏楽部では毎年、活動の目標を自分たちで決めることにしています。結果を求めて厳しい練習に励むか、結果よりも部活を楽しむことに重点を置くか。具体的に言えば………全国大会金賞。これを目指すかどうかを、毎年多数決で決めています。自分の気持ちに正直に、後悔のないよう選んでください。」
1年前に別の人から聞いた言葉を久美子先輩は反芻する。もちろん私の中で、どっちに挙げるかは決まっている。
「それでは、決を取りたいと思います。全国大会金賞を目標に頑張りたいと思う人は、挙手をお願いします。」
そして、去年と同じように………こっちに挙げる人が圧倒的多数だった。もちろん私や大輝も含めて。そしてだんだんと挙げる人が増えていき、最終的には全員になった。
「では満場一致で、今年の北宇治高校吹奏楽部は、全国大会金賞を目標とします。」
そして、私たちの目標が決まった。全国大会金賞。はっきり言えば、去年のリベンジだ。
「はぁ………終わったぁ〜。」
「部長、まだ終わってないぞ。」
「あっ………」
そして、気の抜けた声を出す久美子先輩。こういうところは、去年と違うかもしれない………
「全国で金を取ることは、決して楽なことではありません。でも、えっと………」
「では、あとは私からお話ししても?」
「あっ、はい!」
いや、久美子先輩下げられてるじゃん!何してんの?ホント締まらない人だなぁ〜。まあ、そこがいいんだけどね♪
「部長も言っていた通り、全国金を獲ることは容易ではありません。ですが、皆さんは今日、今、目指すと決めたのです。その事を、忘れないでください。皆さん、分かりましたか?」
「「「「はい‼︎」」」」
「それでは改めまして………新入部員の皆さん、北宇治高校吹奏楽部へようこそ。」
そして北宇治は、新入生を迎えて新たな一歩を踏み出したのだった………
と思っていた次の日のこと。
「福岡の清良女子から来ました。黒江真由って言います。ユーフォやってました。よろしくお願いします。」
なんとどこかで見たことあるような転入生がやってきた。髪の長いそのお姉さんは、久美子先輩と同じ3年生。そして、この姿は………っ‼︎
「お久しぶりです、真由先輩!俺のこと覚えてます⁉︎」
「あの………もしかして、中洲の屋台でラーメン食べてたカップルの……?」
「カップルじゃないですけど、あの時いたイケメンの方です!女はコレですね!」
「コレって言うな、指差すな。久石奏です。コイツとは何の関係もないんで。よろしくお願いします。」
「よろしくね、大輝君に奏ちゃん!」
福岡に行った時に大輝がナンパした人だ‼︎まさかこんなにも早く再会するなんて。というか、最悪な覚えられ方してるし‼︎カップルじゃないっつーの‼︎問題児とその世話係だから‼︎
「大輝君*1ってもしかして、ママちゃんの知り合いなの⁉︎」
「ママちゃん⁉︎」
「そう呼ばれることが多くてね〜。」
「それはそうと葉月先輩、この人は俺が福岡でナンパした人です!」
「された人だよ♪」
「奏ちゃんが隣にいるのにナンパ⁉︎ダメだぞ〜‼︎」
「あの、加藤先輩。私を理由に使わないでください。」
「はいよ‼︎」
「本当にちゃんと分かってるのかな〜?」
にしても黒江先輩、なんか怪しいんだよな。どこかふわふわとしていながらも、ユーフォを手に取って分かるその圧倒的なオーラ。私の直感が危険と叫んでいる。これは事情聴取をしないと………
「まあいいです。それより黒江先輩、同じパートの人間として話しておきたいことがあるので、隣の部屋へどうぞ。」
「あっ、うん。分かった!」
ということで、私は黒江先輩を取り調べることにした。
教室に着いてすぐ、私は黒江先輩を尋問した。
「どうして、北宇治を選ばれたんです?」
「お父さんの仕事の都合で京都に来たの。それでここら辺では、吹奏楽が1番強いからかな〜?」
「では〜、やはり最初から吹部狙いで〜。」
「そうとも言い切れないけど、やるんなら上手いところの方がいいと思って〜。私、合奏が好きだから。」
なるほど、やはりある程度ここに狙いを定めてきたというわけか。
「そういえば、奏ちゃんは大輝君とどういう関係なの?」
って、なんで今それを聞く⁉︎
「本当に何もないです。中学が同じだっただけで。」
「なるほど〜、馴れ初めは中学の時か〜。」
「馴れ初めじゃないです‼︎たまたまあのアホが突っかかってきただけですから‼︎」
「向こうからアタックしてきたんだね!」
「そういう意味じゃないです‼︎」
「それで〜、2人での福岡旅行はどうだったの〜?」
「あれはただのソロコンの予選です。アイツが関西予選が無いからと、博多美人を捕まえに福岡にしたんです。ラーメンはその帰りに奢ってもらっただけ。」
「奢ってもらったんだ〜!とても仲良いんだね〜♪」
「だから違いますって‼︎アイツへの罰ゲームです‼︎私結構食べるので‼︎///」
「結構食べるの知ってて奢ってくれたんだね!凄いな〜、めちゃめちゃ好きじゃん!」
「誤解しないで下さい‼︎そもそも、部長の久美子先輩が勝手に私をアイツのマネージャーとして、福岡に行かせただけなので‼︎」
「部長公認カップルなんだ!」
「あのですねぇ⁉︎」
全く、この人はなんなの⁉︎いちいち人の揚げ足取ってこないでよ‼︎私と大輝は違うって言ってんじゃん‼︎腹立つなぁ‼︎
「奏ちゃ〜ん、そろそろ皆で練習しない?」
「久美子ちゃん!」
そんな事を思ってたら、久美子先輩が帰ってきた。助かった。よしっ、練習に戻るか………
「ご心配なく。丸裸にしておきましたので。」
「えっと…………」
「丸裸⁉︎ママ先輩の⁉︎俺に見せろ‼︎」
「久美子先輩、あのバカは捨てましょう。」
「じゃあ、奏ちゃんお願いね〜。」
「嫌です。私はゴミ処理業者じゃないので。」
「おい、久石‼︎お前嘘ついてんじゃねえよ‼︎」
「変態の分際で、文句言わないでくれる?」
「久美子ちゃん、これが部長公認カップルなんだね!」
「そだよ〜。」
「「違います‼︎」」
って、全然助かってないし‼︎あのバカのせいで最悪な目に遭ったんどけど‼︎ホント、碌でもない奴なんだから………。いい加減まともになって欲しい。
「それにしても、低音パートは皆いい子だね!」
「でしょ?いい子が多いから……」
「ですよね、若干一名を除いて。」
「そうですね。若干一名を除き、いい子の集まりです!」
「2人とも、ホント仲良しなんだから。」
「そうだね〜♪」
「「違います‼︎」」
にしても、黒江先輩はやっぱり危険だな。今後とも警戒を怠らないようにしよう。
「私も皆と仲良くなりたいな〜。」
「私と先輩は、既にいい関係だと思いますよ〜。」
「じゃあ私のこと、真由先輩って呼んでくれる?」
「黒江先輩という呼び方も、とても素敵だと思いますけど〜。」
「ママ先輩、すいません‼︎コイツホント生意気なんです‼︎あとで懲らしめておくので、ご安心下さい‼︎」
「自分だって、イケメンと彼女持ち男子には生意気なくせに〜。」
「なんか2人とも似てるね!」
「「似てません‼︎」」
ということで、牽制をしておいた。揶揄われたけど、これでヨシ‼︎
その後、その日の練習は無事に終わったのだった。