奏視点
新歓から数日後、私たちは早くもサンフェスに向けた練習に取り組んでいた。
「針谷さん、右と左が逆!」
「はっ、はい!」
「上石さん、目線真っ直ぐ!」
「はい!」
ドラムメジャー・高坂先輩の厳しい指導の中、今私たちは楽器を持たずに行進の練習をしていた。サンフェスはマーチングという、行進しながら演奏をしなければならない。そのため単純な楽器の練習だけでなく、こういった揃って歩く練習が欠かせないのである。
数分後、休憩時間になった。
「やっぱ女の子の体操服姿、眼福だわ〜♪」
「気持ち悪いから出てってくんない?」
相変わらず大輝が痴態を晒す中、
「月永先輩、可愛い〜♪」
「女の子みたいだね〜。」
月永がトロンボーンの1年女子たちにモテてた。
「求って呼んで。」
「「す、すいません………」」
そして、いつもの如く月永がキレて………
「おい求、テメェ‼︎」
「大輝、うるさいんだけど。」
大輝が嫉妬してキレてた。ホント小物だよな。どっちがモテるかなんて勝負するまでもないのに。ただ月永もさぁ、その態度はないんじゃないの?知らない後輩に当たり散らして。みっともないよ?
「お前さぁ、後輩にそれはねえだろ‼︎」
「何?僕は苗字で呼ばれたくないんだよ。」
「だからって、事情の知らない後輩にいきなりキレんな‼︎先輩や同級生と違って萎縮するだろ‼︎」
「それは………」
「いいから謝りに行くぞ。」
「………分かったよ。」
あっ、そっちで怒ってたのね。大輝、そこはちゃんと言うんだ。意外。確かに後輩ならビビるかも。いつの間にかちゃんとしたんだね。
「お〜い!羊ちゃん、ケイトちゃん!さっきは悪かったな!俺の顔で許してちょ♪」
「………ごめん。」
「「い、いえいえ!大丈夫です!」」
前言撤回。全然ちゃんとしてないじゃん‼︎というか全てがキモい‼︎何が『許してちょ♪』だ‼︎ここは私がちゃんとしないと‼︎
「ごめんね、2人とも。大輝はすぐ女の子と距離を詰めたがるから。もし何かあったら、私に言って。ちゃんと成敗するから。」
「久石、お前は口を開くだけでパワハラになるから喋んな。」
「歩くセクハラが何を言ってんだか………」
「2人とも、この2人の痴話喧嘩は軽く聞き流す程度でいいよ。」
「「黙れ月永‼︎」」
「「はい‼︎」」
「「はいじゃない‼︎」」
そう思ったのに、私が月永に揶揄われたんだけど‼︎しかもなんか、1年生2人とも笑ってるし‼︎私たちそういうのじゃないから‼︎あったまきたから久美子先輩のとこ行こっと‼︎そろそろパート練習の時間でもあるし‼︎
久美子先輩は体育館の上の通路にいたので、私はハシゴを登って声をかけることにした。
「意外と合理的だよね、真由ちゃんって。」
「ズボラとも言う〜。」
そこでは久美子先輩と黒江先輩が話していた。これは危険だ。早く久美子先輩を助けてあげないと。
「そろそろパート練習の時間ですよ〜。」
「わざわざ上がってこなくても、下から言ってくれたらいいのに〜。」
「いえいえ〜。そばに私がいなくて先輩が寂しいかと思いまして♪」
「奏ちゃんこそ、大輝君がそばにいなくて大丈夫?」
「あれはむしろ居ない方がいいです‼︎」
と思ったら、助けようとした相手に攻撃された。
「ずっとそばに居ると、心臓がもたないのかな?」
「それだ、真由ちゃん!」
「違います‼︎」
しかも黒江先輩にまで攻撃されて。アイツにドキドキなんかしないっつーの‼︎するのはイライラだけ‼︎
「なんだか羨ましいな〜、大輝君と奏ちゃんの関係って。」
「この関係を羨むなんて、今までどんな過酷な環境で生きてきたんですか?」
「真由ちゃん、それ分かるよ。」
「じゃあ久美子先輩は告白して下さい。」
「えっ⁉︎久美子ちゃん好きな人いるの⁉︎」
「へっ⁉︎い、居ないよ‼︎///」
「嘘つき〜♪」
「この〜っ‼︎///」
とりあえず、久美子先輩には反撃しておいた。これで少しは懲りるでしょう。
パート練習後、私は梨々花を連れてきて、休憩していた。
「奏〜、カップルの間に入るのは申し訳ないんだけど〜。」
「梨々花、私がコイツと2人きりは嫌って分かってるでしょ?」
「りりりん。こんなクソガキは放っておいて、俺とデートしようか。」
「嫌で〜す♪」
「Nooooooo‼︎」
後輩が入ってから張り切って恥を晒す大輝はさておき、
「そういや、そっちの後輩はどう?」
私たちは後輩の話をすることにした。
「みくちゃん*1は凄いよ〜!練習熱心で、リード作りが趣味!しかも楽器が上手!毎日がサイコーだよ〜♪」
「もうそんな仲良くなったの?はやっ。」
「私が可愛くて申し訳ない!」
「りりりんはちゃんと可愛いからな。どこぞの顔だけど違って。」
「顔すらダメな奴に言われたくない。」
どうやら梨々花はもう仲良しな様子。もう1人のファゴットの子とも仲良くしてたし。ダブルリードは平和そうだ。
「で〜、低音は〜?」
「皆いい子だな。俺と付き合ってくれないのが残念だが………」
「じゃあ石神井君と付き合えば?」
「何故そうなる⁉︎」
「あと、あの子たちすぐ私たちのこと揶揄ってこない?」
「そりゃそうでしょ〜。ツンデレカップルはイジりたくなるって〜♪」
「「ツンデレでもカップルでもない‼︎」」
そして、低音の4人。性格面は………まあ及第点としよう。イジってくる以外は、まあ明るい子で済む範疇だし。
「演奏面については、コンバスの照葉が凄まじいな。去年の緑先輩よりちょい下くらいあるし*2。」
そして、石神井君は大輝にめちゃくちゃ評価されてる。流石は強豪中学出身、といったところか。おかげで低音の安定感が凄まじいことになっている。
「他の初心者3人の中だと、やっぱりすずめちゃんかな。圧倒的な肺活量からくる音量がピカイチで、雑さを取り除けばワンチャン、コンクールメンバーに入れると思う。」
「もうそこまで分析出来てるの〜?はやや〜!」
「佳穂ちゃんと弥生ちゃんの分析は出来てないからな。まだまだだよ。」
その安定感の筆頭は、演奏に能力を全振りした大輝と、可愛らしい見た目に反して圧倒的な実力を持つ川島先輩であることは間違いないだろう。今年はこの2人を筆頭に、激しいコンクールメンバー争いが繰り広げられそうだ。
その数日後、いよいよコンクール曲が発表された。
「今年のコンクールは、課題曲が『スケルツァンド』、自由曲が『一年の詩 〜吹奏楽のための〜』でいきます。」
今回もまた変わった曲というか、一筋縄ではいかないような曲だった。課題曲はリズム取りが難しいし、自由曲はなんといってもユーフォとトランペットのソリがある。これはまた、今年も大変になりそうだ。そう思った日だった。
ちなみに、奏3年次のコンクール曲は既に決まっています。実在する吹奏楽の曲です。何になるかは、お楽しみに!