奏視点
サンフェス本番直前のこと。
「求!」
「樋口………」
月永が学ランの男の子に話しかけられてた。どうやら龍聖の生徒みたい。月永は返事だけして、すぐさまその子から離れようとした。
「メッセージ送っただろ。演奏前に顔だけでも出してくれって。」
が、龍聖の子は頑張って引き止めていた。
「いつ行くなんて返事した⁉︎」
「なんでだよ⁉︎源ちゃん先生、本当に心配して………」
「関係ない‼︎」
「関係あるだろ‼︎源ちゃん先生は、求のおじいちゃん………」
「うるさい‼︎」
「とにかく、皆お前のこと待ってるからな!それじゃあまた!」
なるほど、そういうことね。やっぱりあの人、月永の爺ちゃんだったんだ。そして、苗字を嫌うこの感じ………間違いなく家族間で何かあったのだろう。
「求君………」
「兄さん………」
「すみません、演奏前なのに………。緑先輩にこんなところを………。照葉もごめん。」
そして、わだかまりを残したまま、私たちはサンフェスの本番を迎えたのだった。
そして、サンフェス本番後のこと。
「武川さん。」
「こっ、高坂先輩⁉︎」
「すごく良かった。時間のない中、頑張ってくれてありがとう。初心者のあなたがここまで出来るって見せてくれたから、皆も頑張れたんだと思う。」
「ありがとう………ございます!」
「コンクール出場メンバー目指して。楽しみにしてる。」
「はい!」
武川さんが高坂先輩に褒められていた。あの人大輝と似てて、忖度とかしないからな。きっと本音で言ってるのだと思う。なんだ、ドラムメジャー向いてるじゃん。
「ゆきちゃん、良かったね!」
「ありがとう、サリーちゃん!」
そして、そんな彼女を支えていた義井さん。この子同級生として、色んな1年生の面倒を見ているな。決めた。来年は1年生係やってもらおう。面倒見のいいさつきとセットで。この2人なら、なんとかなるだろう。そう思った日だった。
帰り際、低音2年でまとまっていると、
「ねえねえみっちゃん、求君どこ行ったのかな?」
「ごめんさつき、分かんない。」
「まさかあの野郎、ナンパに………っ‼︎」
「大輝じゃないんだから。」
月永の姿だけが見当たらなかった。
「どこ行ったんだろう………心配だよ〜!」
「ほっといたら?どうせお爺ちゃんと何かあったんでしょ。」
「「お爺ちゃん⁉︎」」
「そうらしいよ。龍聖の顧問の。」
まあ、どうせ家庭の事情か何かだろう。変に踏み込むことでもないし。
そういや、あそこにいるのは緑先輩と久美子先輩と………龍聖の男の子?一体何を話してるんだろう………
「求の姉ちゃん、亡くなってるんです。3年前に。」
そんな事を思っていると、男の子からまさかの話が飛んできた。お姉ちゃんが亡くなった………。でも、それだけでああなるものなの?ただの喧嘩なら、いっそ分かりやすかったのに。
その後も話を聞いてる感じだと、お爺ちゃんは孫が心配で龍聖に転勤したそう。そこまでしてるのに拒絶するとか、ホント有り得ない。
「ねえ、私月永君にガツンと言ってきていい?ちょっとムカついて!」
「まあ待て、久石。ちょっと落ち着け。」
「きっとそれだけじゃない事情があるんだよ〜。」
「ただ、事情を知らない後輩に当たられても困るし………全部とはいかないけど、多少話した方がいいと思う。」
「だな。」
あれは単なるわがままだと思う。ああいう自分が甘やかされてるのに無自覚な人、本当に嫌い。とりあえず、事情を聞いてシバくか………
ということで、
「それでは改めまして〜、第一回・荒川大輝の中間テストサポート会議を始めたいと思います‼︎」
「アンタが偉そうに仕切らないで。」
私たち5人は大輝の家で勉強会をする事にした。
「良かったの、かなぴ〜?他の女の子を大輝君の部屋にあげちゃって?」
「私たちは何もしないけど、やっぱ気にすると思って……」
「1mmも気にしてないから‼︎」
「僕、帰ろうか?」
「帰るな、残れ‼︎」
「W鈴木が俺の部屋に居る………素晴らしい。」
「大輝は帰って。」
「ここが俺の帰る場所だ‼︎」
いきなり月永のことで、って呼び出すと警戒されるからね。幸い大輝のおかげか、この4人とはある程度話してくれるし。ここで事情を根掘り葉掘り聞くとするか。
「では早速………俺にテスト範囲を教えたまえ‼︎」
「またそこから?いい加減授業聞いて。さつきもコイツが集中してなかったら、怒っていいから。」
「私も寝てるから分かんない!」
「ダメじゃん‼︎」
「2組の2人をみっちりしごいた方がいいね。」
「そうだね、美玲。」
「「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」」
そうして、私たちの勉強会は幕を開けた。
そしてしばらく時間が経った時………
「そういや求。」
「何?」
「お前、家のことで何かあったの?」
大輝がついに切り出した。月永家の事情だ。
「お前には関係ないだろ。」
「多少はあるだろ。」
「なんでだよ⁉︎」
「合奏において、人間関係は意外と影響するからな。」
「そんな事ない。」
「ある。緑先輩と俺だったら、どっちとの方がやりやすい?」
「緑先輩。」
「だろ?演奏能力は同じくらいでも、人によって変わるもんなんだよ。全部教えてくれとは言わん。言いたくないなら言わなくていい。ただ………もうちょい俺らに心を許してくれていいんじゃないか?」
なんとか頑張って、大輝が話を聞き出そうとしてくれてる。これで少しくらい、話す気にならないかな?
「分かったよ。そこまで言うなら話してやる。まず、どこまで知ってる?」
「姉ちゃんが亡くなったとこまで。あと、喧嘩してるわけじゃないってことも。」
「姉ちゃんが吹奏楽やってたことは?」
「それは知らない。」
「そっか。ならそこから教えるよ。」
どうやら話してくれるみたいだ。一体彼は、何を考えていたのだろうか………?
「僕は元々、爺ちゃんとは仲良かったんだ。そして、爺ちゃんが教えてた姉ちゃんが大好きだった。楽しそうに演奏する姉ちゃんが大好きだった。だから大好きな姉ちゃんが爺ちゃんの指導する高校に進学するって聞いた時は、とても喜んだよ。」
なるほど、元は仲良かったんだ。意外。てっきり彼のことだから、ひねくれてるのかと思ったよ。
「だけど、姉ちゃんが爺ちゃんの贔屓なんじゃないかって言われ始めてから、姉ちゃんはどんどん追い詰められていった。そんな事実はないのに。そして、姉ちゃんは音楽の楽しさを失ったまま、亡くなった。」
なるほど〜、身内贔屓ね。確かにそう思われてもおかしくないか。ただ、事実は違うのに周りからのそういうバッシング。恐らく虐めにもなっただろう。お姉さんのことを考えると、ちょっと気の毒だ。
「だから、お爺ちゃんの元で吹奏楽をやりたくなかった。なんか姉ちゃんが想像していた楽しい吹奏楽をやらなきゃ、姉ちゃんに悪い気がして。」
それで、龍聖に残らずにこっちに来たってわけか………
「緑先輩とかには話したの?」
「そう思ったんだけど………緑先輩、姉ちゃんに似てるんだよ。緑先輩を見ていると、姉ちゃんが夢見た吹奏楽部って、こんな感じだったんじゃないかって。音楽が好きで、楽しくて。皆と一緒に上手くなりたいって考えていて。」
「それで師匠か。」
「そう。だから緑先輩には、今のままでいて欲しい。」
そして、緑先輩に亡き姉を重ねていた、と。これが月永の事情か。
「うぇぇぇぇぇん!求君、大変だったねぇぇぇぇぇ!」
「さつき⁉︎そんなに泣いて………」
「みっちゃんも涙出てるぅぅぅぅ!」
「さつき………美玲………」
って、W鈴木は大袈裟じゃない⁉︎何泣いてんの⁉︎嘘でしょ⁉︎大好きなお姉さんが亡くなって泣くのは分かるけどさ‼︎それ以外に泣く要素無くない?
そうだ、大輝は………
「なるほどな!ちなみに、じっちゃんやあの友達とは喧嘩してるわけじゃねえんだろ?」
「まあ、そうだけど………」
「なら連絡しろ。お前が心配かけてんだから、ちゃんと言ってやれ!」
「分かったよ。」
おお、良かった。普通だ。ここで姉ちゃんを寄越せとか言ったら、流石にボコボコにしてたし、泣いてたら正気を疑ったよ。
「ちなみに北宇治は、そんな身内贔屓はねえから!もしあったら俺が絶対に無くす‼︎だから、お前も北宇治のために、いい演奏しろよ‼︎」
「分かった。」
「よしっ、それじゃあ………この話はこれにておしまい!あとは俺に勉強を教えること!まずは………分数の割り算から!」
「小学生からやり直して来い!」
とりあえず、月永のあのわがままは無くなりそうかな?それならまあいいか。そんな事を思いながら、私はバカに勉強を教えたのだった。