奏視点
そして、あがた祭りの日がやってきた。
「奏〜、ごめんね〜。大輝君と一緒じゃなくて〜。」
「全然いい。むしろこの方がいい。ずっと一緒にいて。」
私は梨々花とサシで祭りを回ってる。ちなみに浴衣は私が赤、梨々花は白と、紅白で映える組み合わせだ。
「それは無理〜。後半はダブルリードの会なのです〜。」
そして、途中で裏切られることが判明した。
「嘘でしょ⁉︎」
「愛しの後輩に誘われたら、断れないのですよ〜。」
「わかった。じゃあ私は前半……1時間半くらいで帰るね。」
「そうはさせない!既に男子グループに話を通して、大輝君を奏と合流させる手筈になってるのです〜!」
「余計なことしないでくれる⁉︎」
しかも後半からアイツの面倒を見なきゃいけないの⁉︎最悪なんだけど‼︎こうなったら、意地でもアイツを置いて帰ってやる!
「ということで、手を繋いで〜!」
「くっ、逃がさないつもり⁉︎」
「もちろ〜ん!」
「梨々花め………っ⁉︎」
と思ったら、まさかの梨々花に強引に手を掴まれて、逃亡を阻止されたのだった………
後半大輝との公開処刑が確定している私は、前半のうちに全力で楽しむしかない。この時間を大切に過ごすんだ!
「よしっ、梨々花。まずは屋台の食べ物を片っ端から食べよっか。」
「お〜!」
「あそこが焼きそばで、隣がべっこう飴。その隣はわたあめで、さらに隣は大判焼き。全部美味しそう♪端から端まで多分30店舗くらい、全部食べよ!」
「って、そんなに食べられないよ〜!」
「梨々花は好きなやつ食べたらいいよ。」
ということで、私は祭りで食べまくることにした。やっぱり祭りといえば食べ歩きだよね。色んな美味しいものを食べて、楽しまなきゃ!
「というか、そんなにお金無いでしょ〜。」
「お金なら………」
この日のために、お年玉を貯めて………
「あっ。」
「どうしたの?」
「財布忘れた。」
って、家に置いてきちゃった〜‼︎
「ウケる〜。」
「うるさい!」
こういう時はいつも勉強会のお礼として、大輝に奢らせてたんだった!だから財布をあんまり持ち歩いてないんだよね。うっかりしてた!
「大輝君に奢られ慣れてるからって〜、油断しちゃダメだぞ〜。」
「ホントそれ。」
「これで、彼と一緒にデートする大義名分が出来たね。」
「デートじゃないけどね。」
「素直になりなよ〜。」
「素直だから。」
ということで、悲しいことに私は大輝と一緒になる未来が確定したのだった。
「財布忘れたなら、もう合流する〜?」
「いや、いいよ。梨々花の時間もあるし。遊んでるとこそばで見ててあげる。」
「なんか見られると緊張しますな〜。」
「梨々花が緊張することなんてあるんだね。」
「ありまくりだよ〜。」
その後、私はしばらく梨々花の射的やら金魚すくいをただ眺めるという、謎の時間が発生したのだった。
「せいっ!」
「梨々花、下手くそ〜。」
「奏ったら、ひど〜い!」
しかもめちゃくちゃ下手。射的は景品に全然当たんないし、金魚すくいはすぐポイを破るし、輪投げはちっとも入らない。普段したたかでエリートな彼女の、なんとも意外な一面だ。わざとやってる可能性もあるけど。
「これは〜、大輝君に取ってもらうしかありませんな〜。」
やっぱり。大輝をカッコよくするための演技じゃん。
「私、ご飯しか興味ないから。」
「でた、食いしん坊〜。」
「太らないからいいのです。」
「ずるい〜!女の敵〜!」
「仕方ない仕方ない。」
そんなことしても、無駄だというのに。アイツはちょっとカッコつけたくらいじゃ、欠点を帳消しできない。梨々花がいくら努力しようと、私がアイツに惹かれることだけはないんだからね。
「りりりん先輩〜、お疲れ様で〜す!」
「「「ダブルリードの会の時間です!」」」
そんな事を思っていると、オーボエ1年の加千須さんが、ファゴットの3人を連れてやってきた。どうやら梨々花とのお祭りはここまでのようだ。
「おっ、みくちゃ〜んにみんな〜!おつかれ〜!」
「それじゃあ、私は財布のところに行くね。」
「そんなこと言わないの〜!」
「「奏ちゃんってツンデレだったんだ。」」
「違う‼︎」
そして、出会った瞬間にファゴットの2年2人に揶揄われた。頼むからやめて。1年生2人が勘違いするから。
「えっ、でも好きだよね?」
「ソロコンの時告白してたよね?」
「あれは音楽が好きってこと!それ以外は嫌い‼︎」
「2人きりの時しかデレないらしいよ〜。」
「梨々花も変なこと言わない!」
「「恋愛の参考にさせていただきます!」」
「何も参考にならないよ⁉︎」
ほら、勘違いしちゃった。全く、余計な事を言うなっつーの‼︎私のことを揶揄う後輩は3バカ*1だけで充分だ‼︎どこをどう見たら私が大輝と付き合ってるように見えるんだか………
「頼む、お前ら‼︎もっとナンパをさせてくれ‼︎
ほら、アレだよ?ナンパのために人前で大声で土下座。男として魅力ある?無いよね?自分たちが嫌だからって、私に押し付けないでほしい。
「大輝君〜、こっちこっち〜!」
「あっ、りりりん!ちょうどよかった、俺とデートしてくれ!」
「それは無理〜、だってここに奏がいるもの〜♪」
「げっ…………」
「げっ、って何?それが勉強を教わった人に対する態度?」
「そんな可愛い浴衣着て、おめかしもしてさぁ‼︎絶対
「別に、私は勉強を教えてくれたお礼が欲しいだけだよ。」
「な〜んだ、そんなことか………」
「あと、財布忘れた。」
「やっぱ美人局じゃねえかぁぁぁぁぁぁ‼︎」
とりあえず、ナンパの方は全く上手くいかなかったのだろう。そりゃそうだ。周りに男子部員しか居なかったし。あと可愛いって言ってくれたの、ちょっと嬉しかった。その後のセリフで、その気持ちは吹き飛んだけど。
「ということで〜、ダブルリードは〜!」
「「「「退散!」」」」
「俺たちも行くか!」
「「「「うっす。」」」」
「ちょっと待ってくださいよぉぉぉぉぉぉ!」
「大輝、食べたいものがあるんだけど………いいよね♪」
「よくねぇぇぇぇぇぇぇ‼︎」
ということで、あがた祭後半戦が幕を開けたのだった。
私は大輝と一緒に、屋台を回っていた。
「お前さあ、少しは申し訳なさそうにしろよ。」
「それ言うなら、日頃からちゃんと勉強して。」
「財布忘れるのと勉強しないのは違くねえか⁉︎」
「同じ同じ♪」
ちなみに大輝からは1店舗1品までの最大4店舗と言われた。ケチだなと思いつつ、焼きそば&フランクフルト&わたあめ&大判焼きの簡単お祭りセットが楽しめるので、まあいいかと思った。
「で、相変わらず食い意地張ってんな。太るぞ。」
「私は太らない体質なので〜♪」
「それ、他の女子の前で言うなよ?」
「梨々花には言ってる。」
「可哀想に、りりりん………」
にしても、大輝って意外と浴衣似合うんだな。ダークな紺色の浴衣にシンプルな下駄。そして爽やかな黒の短髪。普段見慣れない服装だからか、それとも祭で気分が高揚しているのか、黙っているとちょつとカッコいいと思えてしまう。
「それにしても………照葉、アイツの彼女は誰なんだ⁉︎ストーカーして邪魔してやる‼︎」
黙っていれば、ね。
「可哀想だからやめてあげて。」
「くそっ、俺のがカッコいいのに………」
「あんなみみっちいこと言う人がカッコいいと思う?」
「後輩のくせに俺より先に彼女を作るのが悪い‼︎」
「先輩のくせにキモいのが悪いんでしょ。」
「うるさい‼︎」
にしても、本当に綺麗な夜空だな。雲一つない、透き通った黒。宇宙の広さを感じられるような、真っ暗なキャンパス。そんな場所には………
「おっ、花火だ。」
「綺麗〜。」
「綺麗な金色、だな。」
煌びやかな花火がよく似合う。真っ黒な空に光り輝く金色の花火。そのあまりの綺麗さは、思わず手で掴みたくなるほどだった。
「なぁ、久石。」
「何、大輝?」
「今年こそは全国金、獲るぞ。」
「もちろん。」
そして私たちは、金色の花火に金色の賞を添えることを誓ったのだった。