奏視点
あがた祭りから1ヶ月ほど経ち、久美子先輩たちが修学旅行から帰ってきた。
「久美子ちゃ〜ん、写真できたよ?修学旅行のも。」
「ホント〜?」
「あ〜、見たいです〜!」
黒江先輩がお得意のフィルムカメラで写真を撮りまくったらしい。せっかくだし、修学旅行中の久美子先輩でも見ときますか〜。
「お〜、よく撮れてる〜!」
「自分のルーツの石神井もありますね‼︎」
「石神井公園ですね!とても良かったです!」
「後で送って〜♪」
「ごめん、フィルムだから………焼き増しはするよ!」
「焼き………?」
お〜、みんな東京に行って楽しんでる。スカイツリーに皇居、千葉のテーマパークに横浜ランドマークタワー。更には石神井君と同じ名前の石神井公園。そして珍しい物を見てはしゃぐ先輩たち。これは来年が楽しみだ!
「おっ、かなぴーと大輝君のツーショットもある!」
「「なんで⁉︎」」
と思ってたら、まさかの盗撮が判明。確かあがた祭りで花火見てる時じゃん‼︎この人、何撮ってんだよ⁉︎
「ラブラブだね〜!」
「「違います‼︎」」
「ごめんね〜。あまりに映える2人だったから、つい♪」
「「つい、じゃないです!」」
「ぷっw」
「「笑うな‼︎」」
この写真は後でちゃんと処分しておこう。もしこれが拡散したら、変な勘違いが吹部中、下手したら学校中にまで発生してしまうから。クラスメイトから大輝と付き合ってるの、とか言われた日にはもう………想像したくない。
「そういえば、真由先輩が全然映ってないですね。」
そんな事を思っていると、美玲がある事に気づかせてくれた。確かに写真には全く黒江先輩が映っていない。まるで最初から居なかったみたいに。
「あっ………私、あんまり自分が写真映るの好きじゃないの。撮るのは好きなんだけど。」
そういうことか。たまにいるよね、そういう人。写真に映る自分の顔を見るのが嫌とか。
「マジっすか〜!そんなに可愛いのに!映るのが嫌いなら、俺と写真じゃなくて記憶に残る思い出をい〜っぱい作りましょうね!」
「それは奏ちゃんと作ってね♪」
「それは嫌です‼︎」
「私からも願い下げです。」
にしても、この人って男にモテそうだよな〜。大輝は私以外の誰にでもアプローチするからともかく、クラスの男子の間でもちょっと話題になってるし。そのカメラも、元カレの趣味とかだったりして。つい思ってしまった。
その後、私たちは練習に入った。
「チューニングするとき、吹き方を変えて目盛りに合わせようとしても意味ないよ。」
「さっちゃん先輩、そうなんですか⁉︎」
「素で出した音が真ん中になるように、管の方を調整しなきゃ!そしてその時の音を、耳で覚えて………そこから、ピッチのズレを感じられるようになっていかなきゃね〜。」
「うぅ………全然できる気がしない………」
「急には難しいけどね〜。どういう時に音が高くなりやすいか知るだけで違うよ。」
「例えば暑い時とか。夏は音程が高くなりやすいって、知っておくと便利だよ。」
「「へ〜、目から鱗〜!」」
「大事なのは慣れだぜ!むしろ悪い癖の無い今がチャンス!正しい音を己の耳に叩き込むんだ!」
「「「はいよ!」」」
「葉月先輩は返事しなくていいんですよ?」
チューバでは既に2年生の3人が1年生を上手く教えていた。もちろん時々加藤先輩も。去年は大輝と後藤先輩と長瀬先輩がメインで教えてたから、これはかなりの進歩だ。
「ほ〜、先輩方って凄いですね!」
そして、それを聞いてた佳穂が驚いていた。初心者の彼女にとっては、あのレベルのことが凄いことに感じるのだろう。無理もない。私も初心者の時そうだったし。
「これは基礎だから〜、出来るようになってね。最初は大変だけど。」
「ありがとうございます、奏先輩。」
「佳穂ちゃんも頑張って!」
「はい!」
なんか、佳穂を見てると懐かしさを感じるな。自分が始めたばかりの時の。そういや大輝も私と同じ、中1の時に始めたっけ。同じ時期に始めたのに、今となっては随分差が開いちゃったな。というか、楽器始めて1年もせずにソロコンで全国とか、アイツ化け物すぎでしょ。
「それはさておき、さっきのところを1人ずつ吹いてみようか。まずは奏ちゃんから。」
そんな事を思っていると、久美子先輩の指示の下、一年の詩の練習に戻った。さてと、吹きますか〜。
そして、吹き終わると………
「奏ちゃん。今の付点4分音符、短かったよ。」
「えっ、本当ですか………?」
久美子先輩がアドバイスをくれた。あそこ、短かったんだ。全然気づいてなかった。
「うん。ターッタタッ、って感じで、もうちょっと長めにね!」
「あっ、はい。ありがとうございます。」
黒江先輩もアドバイスをくれた。久美子先輩と言ってる事同じだけど。にしても、一応オーディションではライバル同士なのに、よくアドバイスくれたな。久美子先輩はやっぱり優しい♪
「流石部長〜、敵に塩を送るなんて………器が大きいですね。」
「えっと………」
「そういうお前は器が小さい、ってな!」
「大輝はしゃしゃり出て来ないで。」
そんな事を思ってたら、本物の敵が割り込んできた。お前はチューバの練習に戻れよ。
「敵?」
そんな事を思っていると、黒江先輩が不安げな声を発した。今の言葉がそんなに引っかかったのだろうか?
「はい。オーディションはこれからですから。クラとかバチバチらしいですよ。1年に上手い子入ってきたとかで。」
「だよね………」
部活の雰囲気を心配しているのか、消え入るような声で返事する黒江先輩。そんなに恐れる割には、たまに天然で爆弾発言を投下してくる。
「やっぱり私、辞退した方がいいのかな?」
ほら、こんな感じで!あのさぁ、なんでそんな事聞くのかなぁ⁉︎しかもまるで、自分は落ちないと言わんばかりの!ホントなんなの⁉︎あったまくる‼︎
「ダメです‼︎俺たちにはママ先輩の力が必要なんです‼︎だから全力で頼みますよ!」
怒りに任せて反論しようとしたら、大輝が先に黒江先輩の説得を始めた。
「でも、私が受かって他の人が落ちたら………」
「それは落ちた人の実力が足りなかっただけ‼︎長くいる人が選ばれた方がいいとか、全国金目指すのにそんな遠慮は要りません‼︎もしそれで変な雰囲気になったら、俺がぶち壊しますから!」
「でも、私が選ばれて嬉しい人とかいるのかな………?」
「はい、ここに居ます‼︎今の実力のママ先輩がオーディション受かったら、俺は嬉しいです!」
もしかしたら、大輝は久美子先輩じゃなくて黒江先輩派なのかな?久美子先輩とも仲良いけど、どっちかというと黒江先輩と話してる時の方がテンション高いし。音楽に関しては、あんま誰かに肩入れしないと思うけど………
「今の実力の………?」
「下手になったら嬉しくないって意味です!」
「えっと…………」
「超冷たい言葉で言い換えると、下手くそはオーディションに受かるなって意味です!」
いや、怖いな。こういうとこ、やっぱり情は無いよね。逆に安心した。
「大輝、ちょっと怖いよ。」
「は?お前の方が怖いだろ。」
「うるさい。」
「とにかく、全力を出して下さい‼︎じゃないと、毎日ママ先輩の家に泊まります‼︎」
「それを言ったら、奏ちゃんが手を抜いちゃうんじゃ………?」
「
にしても、大輝が毎日家に泊まりに来るとか、どんな地獄だよ。朝起きたらコレが隣にいるんでしょ?そんな生活は嫌だ。そう思いながら、私はオーディションまでの日々を過ごしたのだった。
それから月日が経ち、オーディションの日すらも流れるように過ぎていった。そしていよいよオーディションの結果発表の日。今日で府大会のメンバーが決まる!
「次、ユーフォニアム。」
緊張していると、いよいよユーフォの番になった。ここで久美子先輩と一緒に吹けるかが決まる………っ‼︎
「黄前久美子。」
「はい。」
「黒江真由。」
「はい。」
とりあえず、先輩2人は選ばれた。果たして、3人目があるかどうか…………
「久石奏。」
あった。よかった。
「はい。」
「以上3名。」
佳穂は入らなかった。流石に4人は多過ぎるか。まあ仕方ない。
そして、私はオーディションに受かったからか、ほっと一安心した。
「次、コントラバス。川島緑輝。」
「はい!」
そういや、チューバ飛ばすんだね。松本先生のミスかな?
「石神井照葉。」
「はい‼︎‼︎」
「…………っ!」
「以上2名。」
コンバスは2人。月永だけが落ちたようだ。元々他2人は中学の時全国常連校だったし、相手が悪かったとしか言いようがない。
「次、チューバ。」
あっ、これは飛ばしてたな。間違いに気づいてしれっと戻ってるし。さてと、誰が選ばれるんだろうか…………?
「荒川大輝。」
「………あっ、はい‼︎」
「鈴木美玲。」
「はい………」
「以上2名。」
嘘…………でしょ?チューバがまさかの2人………?