奏視点
オーディション結果発表後、色んなところで歓喜と落胆の声が上がっていた。
「緑先輩、すいません………」
「求君、まだ終わったわけじゃありませんよ!諦めちゃダメです!」
「ありがとうございます………。そして照葉………」
「な、なんですか?
「頑張れよ。」
「ありがとうございます‼︎‼︎自分、超全力を尽くします‼︎‼︎緑師匠、ソロお願いしますよ‼︎」
「緑、任されました!」
コンバスでは、意外にも石神井君が気まずそうにしていたが、月永からの励ましを聞いて奮起した。あと月永、彼も大人になったな。昔なら照葉と口きかなかっただろうに。
「みっちゃんに大輝君、集合!」
「「は、はい!」」
チューバは選ばれた2人が加藤先輩に呼ばれていた。どこか泣きそうだがそれを堪える加藤先輩。それが分かっているからか、選ばれた2人もどこか緊張していた。大輝も普段情の無いことを言っておきながら、いざこうなるととても混乱していた。あれは情なのか………?
「加藤葉月が命ず、全力で関西大会を取ってこい‼︎」
「私からもお願いするよ!みっちゃんに大輝君!」
「先輩方、頼みましたよ!」
「ご活躍、目に直火で焼き付けます‼︎」
「「はいよ‼︎」」
いや、違うな。チューバが2人なことにびっくりしている顔だ。恐らく大輝の予想では、3番手で加藤先輩か、あるいはさつきが選ばれると思ってたはず。ひょっとしたら、天才と評価していたすずめとかも。しかし蓋を開けてみれば、その全員が選ばれなかった。きっとその事だろう。
そんな事を思いながら、私はユーフォのメンバーで集まった。
「久美子先輩、ソリおめでとうございます。」
「ありがとう。」
ちなみに3楽章のソリは久美子先輩になった。ここはトランペットとの掛け合いで、府大会では高坂先輩と久美子先輩のコンビが見られる事になったのだ。
「一緒にいい演奏にしようね。」
「もちろんです!」
そして、私もメンバー。久美子先輩と共にいい演奏をして、関西大会への切符を手に入れるんだ!
「ホントよかった〜。私と久美子ちゃんの2人だけだったら、どうしようって思ったの。」
そんな事を意気込んでたら、黒江先輩が余計な事を言い始めた。人がせっかくやる気になってるのに、この人は………っ‼︎
「それは、私は落ちると思っていたということですか?」
「違うよ!ただ、この編成だとユーフォは2人くらいかなって思ってたから。」
「なるほど〜、つまり私が温情で選ばれた、と。」
「奏ちゃん。落ち着いて。」
「いえ、黒江先輩があまりにも素晴らしい性格をしていたので、つい。」
久美子先輩に宥められはしたものの、やっぱり納得がいかない。どうやら黒江先輩の中で、私は自分より下手ということだ。それは確かに分かってるし、大輝に言われても納得するけど………。この人自身から言われるのが、なんか嫌だ。
「佳穂ちゃん!まだチャンスはあるから、頑張ってね!」
「はい!でも正直、今年は先輩たちの演奏を聴くだけで充分って気持ちですけど………」
そして、この中に入っちゃった佳穂。私が言うのもなんだけど、経験者3人を相手に初心者が抜かすのは困難だ。それこそ、よっぽどな天才くらい。例えば、そう………
「久美子先輩‼︎」
「どうしたの、大輝君?」
「滝先生にオーディションの結果の理由、聞いてきていいですか?いいですよね?行ってきま〜す!」
「う、うん、行ってらっしゃい……」
大輝みたいな。
その日の帰り、私は大輝&梨々花と一緒に帰ってた。
「りりりん、おめでとな!初のコンクールメンバー!」
「ありがと〜!久石夫妻もおめでと〜!」
「「まとめるな!」」
ちなみに梨々花は選ばれている。当然だ。鎧塚先輩が居なくなった今、オーボエで一番上手いのは梨々花なんだから。
「にしても、チューバは2人なんだね。」
「それ〜!3人目は誰だろ〜って考えてたら、呼ばれる事なく終わってた〜。」
そして、チューバ2人という異例の編成。私たちが入る前は2人だったらしいけど、それは加藤先輩が初心者で、コンクールメンバーになれるレベルの人が後藤夫妻しか居なかったからだ。しかし今回は明確に違う。入れそうな人が3人以上いるからだ。
「一応滝先生には理由を聞いた。そしたら、俺がいるから削っても大丈夫だと。木管低音やコンバスも充実してるし、高音楽器を増やしたかったんだと。」
そういう理由か。確かに大輝がいれば、低音の安定感は段違いだ。更には川島先輩までいる。それにこんな事を言うのはあれだけど、今回の曲は低音重視かと言われたらそうでもない。だから削ったのか。
「にしても、いくら俺が上手いからって、人間が出せる音量には限りがある。だから俺はチューバを3人にすると思ったんだが………」
「大輝でも予想が外れることがあるんだね。」
「意外〜。」
「あるぞ。去年の龍聖の台頭だったり。そもそも滝先生と100%意見が一致するなら、ソロコンであんなに練習してないし。」
「だからこういうことも普通、と。」
「そう。」
それにしても、滝先生が大輝に寄せる信頼は厚いな。ひょっとしたら、大輝1人で2人分くらいカウントしてるんじゃないか?まあ、ソロコン期間であのパフォーマンスを見せられたら、無理もないだろう。
そんな事を思っていると………
「葉月ちゃん、泣かないで下さい!緑、葉月ちゃんの舞台を作ってきますから!」
「緑、ありがとう………」
公園で泣いている加藤先輩と、それを宥める川島先輩を見かけた。あの人にとっては3年生のコンクール、ひょっとしたらこれで最後だったかもしれないのに。沢山練習したのに、コンクールメンバーになれずに引退するかもしれない。そりゃ泣きたくなるだろう。
「大輝、行かなくていいの?」
「いい。早く行くぞ。」
「どうして〜?」
「あの人は、俺たち後輩の前では笑って送り出してくれた。その気持ちを尊重すべきだろ。」
皆の前では涙を隠していた先輩を立てて気遣う。情が無いと思われた大輝だが、意外にもあったみたいだ。
「お〜、流石だね〜。」
「アンタに情なんてあったんだ。」
「あるぞ。というか俺、葉月先輩を尊敬しているし。いつも明るくて周りが見えてて、それでいて努力家で。なのにメンバーに選ばれなくて、あんな泣きたい状況なのに、笑って後輩を立ててくれた。そんなんカッコ良すぎるだろ。」
「お〜!想いがアチアチだね〜。りりりんもみぞ先輩だ〜いすき♪」
「私も久美子先輩大好き。」
「皆、先輩に恵まれてよかったな。」
むしろありまくりだった。私が久美子先輩を尊敬するように、月永が川島を尊敬するように、梨々花が鎧塚先輩を尊敬するように、大輝もまた、加藤先輩を尊敬していたのだった。
「今はひとまず、府大会を抜けるしかねえ。北宇治ファイトー、」
「「オー‼︎」」
そして私たちは、大好きな先輩方に想いを馳せ、府大会へ向けて気合を入れたのだった。
それから数日後、
「関西大会への切符、貰ったぜ!」
「だね。ホント良かった。」
「そうだな!」
私たちは無事府大会を突破することができた。
その後、お盆前の練習で、幹部の3人が皆の前で関西大会について話していた。
「関西大会のオーディションは合宿1日目、発表は2日目にやります。」
「ソリストもその時に決まります。」
「オーディションによってメンバーの入れ替えも起きるかもしれませんが、それは北宇治がよくなっているんだと、私は思います。それは、えっと、つまり、その………まずは関西大会に集中して頑張りましょう!」
塚本夫妻の巧みなコンビネーションによって、説明がスムーズに流れていく。なるほど、勝負は合宿1日目か。正直、次はメンバーになれないかもしれない。悔しいけど、黒江先輩の言う通り、ユーフォは2人が普通。そして、久美子先輩と黒江先輩は私よりも上手い。でも、諦めない。もし2人になったなら、必ず黒江先輩を蹴落として、久美子先輩と一緒に吹いてやる‼︎
そんな事を思いながら、私は練習を終えて、楽器を片付けていると………
「あれ、もう片付けてる⁉︎」
「だからもっと早く来た方がいいって言ったじゃん!
「うるさい!
なんともまあ、懐かしい2人が出現したのだった。
第三楽章は長いので、ここで一旦区切ります。