奏視点
それから数時間後、私はいよいよユーフォパートオーディションの時間を迎えた。なのに………
「久美子先輩が居ない⁉︎」
「はい、見当たらなくて………」
なんとトップバッターの久美子先輩が見当たらなかった。
「ママ先輩も居ないんです………」
しかも黒江先輩も居ない。
「何してんの、あの2人⁉︎とりあえず電話しないと‼︎」
あと5分で始まる。なのにどっちも居ない。まさか辞退⁉︎いや、そんな事はないよね⁉︎
「ダメだ、全然出ない………」
「探しに行きましょうか?」
「いや、それで佳穂まで間に合わなくなったら意味がない。とりあえず、違う楽器の人にお願いする。」
「わっ、分かりました!」
とりあえず、連絡がつく人は………大輝‼︎
『大輝、今大丈夫⁉︎』
『どうした、久石?なんかあったのか?』
よかった、繋がった。私の声で察したのか、いつもみたいにちょけてこない。
『久美子先輩と黒江先輩が見当たらなくて………』
『マジ⁉︎オーディション、次はユーフォだろ?』
『そうなの!』
『分かった。全員に呼びかけて探してくる。お前と佳穂は間に合わなかったらダメだから、そこで待ってろ。』
『ありがとう、助かる。』
とりあえず、大輝が動いてくれることになった。これで来てくれるといいけど。もし来なかったら………。そう思った瞬間、嫌な考えがよぎった。黒江先輩はいる事にしたら良かったのでは、と。そしたら黒江先輩は間に合わずにオーディション落選、晴れて私が選ばれる事に。
でも、そんな事して席もらっても嬉しくない。それに、そんなの北宇治のためにも自分のためにもならない。何より大輝が聞いたら怒るだろう。さっき浮かんだ下らない考えは、瞬く間に消え去った。
そして4分後………
「ごめん、お待たせ!」
「久美子先輩、心配しましたよ!トップバッターなのに‼︎」
「ごめんね。お風呂に時間かかっちゃって。」
「黒江先輩もギリギリですよ。」
集合完了時間1分前、なんとか2人は間に合ったのだった。大輝、ありがとう。この時は心の底からアイツに感謝したのだった。
オーディションを終えると、
「ヤバいぞ久石‼︎求が緑先輩を呼び出した‼︎くそっ、アイツをとっちめねえと‼︎」
その気持ちはあっという間に引っ込んだ。
「せっかく人がお礼を言おうと思ったのに。」
「あのことか。それはどうでもいい。それより、今すぐ求を妨害しねえと!」
「そんなんだから一生独身なんだよ。」
「未来は分かんねえだろ‼︎」
ホントしょうもない。そんなに嫉妬するなら、自分の魅力を磨いて彼女を作ればいいのに。いいところもあるんだからさ。
そんな事を思っていると、
「待てよ、あの物陰に行ったのは………っ⁉︎」
大輝が別の何かを目撃した。
「今度は何?」
「なんか照葉が女連れてんだけど⁉︎」
「彼女じゃないの?」
「アイツの彼女は吹部内にいたのか⁉︎くそっ、俺が特定してやる‼︎」
どうやら石神井君が、彼女と2人きりで喋るようだった。邪魔しちゃいけないと思いつつ、せめて誰かを特定するくらいはいいだろう、とイタズラ心が働いた。
「遠くから見守るだけだよ。」
「いや、分かったら近づいてやる‼︎」
「それはダメ。みっともないよ?」
「うるせえ‼︎」
ということで、私たちは草むらの陰から石神井君の彼女を特定する事にしたのだった。
そして私たちは草むらへ移動し、隠れながら石神井君の方を見た。
「久石、誰だか分かるか?」
「暗くて分かんない。けど、相手は青色のズボン履いてる。」
「同じ1年か。えっと、髪は黒のロングで………」
「身長は久美子先輩くらい………」
「そして、この声………っ‼︎」
そして、色んな情報を整理していくと、ある人物が浮かび上がった。1年生の黒髪ロングで、身長160cm前後の女の子。そして何か知ってそうな態度だった3バカ。つまりは3バカと仲の良い人物。その子の名前は………
「サリーだ‼︎」
「義井さんじゃん。」
義井沙里。まさかの人物だった。
「真面目同士のコンビだが………なんか意外だな。」
「片方は大人しめで、片方は熱血だからね。」
「それな。」
ちなみにあの2人はなんの会話をしてるんだろう?頑張って聞いてみようか………
「照葉君、その………///」
「えっと………どうした、沙里………?///」
いや、2人ともモジモジして照れてるだけじゃん‼︎初心か‼︎なんか石神井君に何かあるのかと思ったけど、気のせいだったよ‼︎2人とも純粋な高校生だね‼︎
「くっそ、やらしい雰囲気になりやがって‼︎邪魔してくる!」
「いやらしくないから。あと邪魔しない。」
「久石、俺の手を離せぇぇぇ‼︎」
そして、それを見てますます嫉妬する大輝。本当にこのアホは‼︎なんとか止めないと、あの2人の邪魔になっちゃう‼︎
「「へっ⁉︎せっ、先輩方⁉︎///」」
あっ………。大輝がデカい声出してせいで、あの2人にバレちゃった。
「あ、いや、ごめん!このアホがうるさくて。」
「照葉、許さぁぁぁん‼︎サリーと付き合ってるなんて………」
「デュクシ。」
「ぐへぇ………」バタン
「あとは2人でお楽しみを〜♪」
「「はい………」」
ということで、私は大輝を気絶させてその場から退散したのだった。
翌日、私は低音2年で集まっていた。ちなみに隣のテーブルには1年生もいる。
「お前ら、聞け。照葉の彼女を発表する。」
「「えっ⁉︎」」
「大輝先輩‼︎まだ彼女からの許可が………」
「見られちゃったからいいよ………///」
「そうか………///」
「「ありゃりゃ〜、バレましたか〜!」」
「ということで、義井さんでした。」
「「「おお‼︎」」」
そして、私はその話を暴露した。
「サリーちゃんに石神井君!お似合いだよ〜!」
「お幸せに。」
「「ありがとうございます……///」」
「というか、なんで奏達は知ってたの?」
「コイツが石神井君の邪魔しようとストーキングしたから、取り締まろうと思って。そしたらつい。」
「相変わらず大輝は小物なんだな。久石いるんだから我慢しろよ。」
「むしろ、かなぴーには我慢しなくてよくない?」
「ぷっw」
「「絶対によくない‼︎」」
オーディションの結果発表がもうすぐ発表されるというのに、それを感じさせないゆるい雰囲気。皆気にしていないのか、それとも目を背けているのか。そんな違和感だらけの雰囲気の中、遂にその時を迎える事になった。
合奏を行っている研修室で、滝先生の口からオーディションの結果が発表された。
「それではこれより、オーディションの結果発表を行います。大会毎にメンバーを変えるのは、北宇治初の試みです。苦労することもあるかもしれませんが、これが最良だったと思えるようにしたいと考えております。では、発表します。まずはトランペットから。」
そういえば、滝先生がメンバーの名前を自らの口で発表するのは初めてかもしれない。いつもは松本先生だったし。そんな事を思いながらも、メンバーは次々と発表されていった。
「続いては、ユーフォニアム。」
そして、次はユーフォの番だ。
「3年、黄前久美子さん。」
「はい。」
「3年、黒江真由さん。」
「はい。」
さて、次は私の番。お願い、呼ばれて………………っ!
「以上、2名です。」
ダメ、だった。呼ばれなかった。オーディションに………落ちた………
「続いてチューバ。2年、荒川大輝君。」
「はっ、はい!」
「2年、鈴木美玲さん。」
「はい。」
「以上2名です。」
黒江先輩の予想的中。やっぱりユーフォは2人。そして………勝てなかった。
「続いてコントラバス。3年、川島緑輝さん。」
「はい!」
「2年、月永求君。」
「はい!」
「1年、石神井照葉君。」
「はい‼︎‼︎」
「以上、3名です。」
私の席は月永へと流れたか、あるいは………。ダメだ、もう何も聞く気にならない。何もやる気が起きない。
「では続いて、ソロメンバーを発表します。自由曲。クラリネット。3年、高久ちえりさん。」
「はい。」
「コントラバス。3年、川島緑輝さん。」
「はい!」
「マリンバ。3年、釜谷つばめさん。」
「はい。」
「トランペット。3年、高坂麗奈さん。」
「はい。」
せめて久美子先輩のソロだけは………
「ユーフォニアム。3年、黒江真由さん。」
「…………はい。」
それも叶わなかった。久美子先輩はソロに落ち、私はオーディションに落ちる。その日は、人生最悪の日となった。