たわけ!ドアホ男子   作:スピリタス3世

32 / 32
練習番号O かなしきブートキャンプ

  奏視点

 

 オーディションの結果は惨敗。しかも久美子先輩までソロに落ちる。

 

「これで、全ての発表が終わりました。では、合奏練習に入ります。コンクールメンバーは、この場で音出しを。その他の人は、移動をお願いします。」

 

 そして、容赦なく命じられる退場。それは、私はこの場に相応しくないという、冷酷な事実。

 

「久美子ちゃん。あの、席、このままでいいからね。席、変わらなくていいからね。」

 

 そんな中で放たれる、黒江先輩の無神経な一言。本当にこの人はなんなのだろうか?最初は私に近い境遇かと思ったけど、どうやらそうでもなさそう。本当にイライラする。

 

「黒江先輩はソリストが変更になっても、指揮者側に座るのは久美子先輩のままでいい、とおっしゃっているのです。」

「いや、ちゃんと変わろうよ。」

「でも………」

「前にも言ったでしょ。北宇治は実力順だって。」

 

 どうにか久美子先輩の説得で、変わる事にはなった。だけど、それでも納得がいってない様子。この人は本当に、なんなのだろうか。

 

「それでは、失礼します。」

「奏ちゃん………」

「大丈夫ですよ。また練習後にでもお話しさせてください。」

 

 ひとまず、実力が足りなかった私は去るべき。大輝も言っていた、下手な奴はオーディションに受かるべきじゃないって。つまり不合格だった私は下手ということ。ここにいる事は許されないくらいに。

 

「滝先生、俺ちょっとトイレに行ってきます‼︎腹痛くて‼︎」

「荒川大輝君*1、分かりました。合奏は戻ってきてからにしましょう。」

「あざっす‼︎」

 

 そう思い、私は席を立ち、部屋をあとにしたのだった。

 

 

 

 

 

 廊下に出ると、

 

「よっ、久石。ちょっとこっち来い。」

 

 私は大輝から物陰に呼び出された。

 

「トイレじゃなかったの?ここで漏らされても困るんだけど。」

「その減らず口を叩けるなら、大丈夫だな。」

「当たり前でしょ。アンタに弱みなんか見せるかっつーの。」

「そうか。」

 

 今更大輝が何をしにきたのか。弱みなんか見せるか、涙なんか流すか。そんなプライドを持っていたのに………

 

「だから………その………っ!」

「好きなようにしろ。」

 

 彼を見た途端、そんなものは涙腺と一緒に崩壊してしまった。胸の中に溜まってた悔しさが、どっと溢れてしまった。そんな惨めな私を彼は、何も言わずに受け止めてくれた。やめてよ、優しくしないでよ。柄にもない。そう思っても、溢れ出る涙を止める事はできなかった。

 

 

 

 

 しばらくして、私が泣き止むと………

 

「それじゃあ、全国の舞台で待ってるぞ。」

 

 大輝はそう言って、合奏に戻っていった。

 

「うん、ありがと。必ずそっちに行くから。」

「はいよ!」

 

 自分のアップの時間を捨ててでも、私のところに来てくれた。そんな彼の期待に応えるべく、頑張らないと。そう思い、私はサポートメンバーの練習に混ざったのだった。

 

 

 

 

 その日の練習が終わり、私がトイレに向かって歩いていると………

 

「ママ先輩、さっきのソロ良かったっすよ!」

「大輝君………」

「関西大会でも頼んます!」

「うん…………」

 

 大輝が黒江先輩と密会してるところを発見した。もちろん密会なので、久美子先輩抜きの2人っきりで。アイツは一体何をするつもりなんだろう?

 

「あと………久美子先輩にソロ辞退します、とか言わないですよね?」

「ま、まさか………言わないよ!」

「いや、違うな。今の、図星ですよね?」

「えっと………」

 

 あの人、またそんな事言おうとしてたの⁉︎そんなの言われたら、久美子先輩が傷つくに決まってるじゃん‼︎全く、この人はなんなの⁉︎

 

「そんな譲られ方しても、久美子先輩はちっとも嬉しくありません。あなたが気にしている部の雰囲気とやらも、かえって悪くなりますよ?」

「でも、久美子ちゃんが吹けた方がいいと思って………」

「それは実力で勝てた場合の話。一度滝先生に選ばれたのなら、実力で負けてるんです。それをひっくり返したら、オーディションの意味ないでしょ?何かあったんじゃないか、とか、権力でソロが揉み消されたんじゃないか、とか………」

「そう………かな?」

「せっかく選ばれたんですし、実力で全国への扉こじ開けて、皆を黙らせちゃいましょうよ!私は上手いんだぞ、って♪久美子ちゃんよりも私の方が凄いんだぞ、って♪俺はママ先輩のこと、応援してますから!」

「ありがとう、大輝君………」

「それじゃあまた!」

 

 なんとか頑張って大輝が理詰め、もとい説得したみたい。飴と鞭を使い分けて、先輩ですらも丸め込む。さすがだ。

 

 そして、ようやく黒江先輩も大人しくなったか………

 

「あの………っ!」

「へっ⁉︎どうしたんです、ママ先輩⁉︎」

「大輝君は奏ちゃんのこと、どう思ってるの⁉︎オーディションとか……」

 

 なってない‼︎今それ聞くの⁉︎私のせいで落ちた、とか思ってんのかなぁ⁉︎

 

「俺はアイツの音が好きです。だから落ちた時は正直悲しかったっすね。」

「やっぱり………」

「だからといって、久美子先輩やママ先輩、それに滝先生を恨むのは違います。確かにお2人は久石より上手い。そしてユーフォは2人いれば充分。それ故、お2人がアイツを落としたという事実はあります。」

 

 黒江先輩だけでなく、久美子先輩にもそんな事言うなんて………。いや、事実は事実か。でも、久美子先輩にはそんな事思いたくないな。これは単なる私のわがままだけど。

 

「しかし全国金を目指す上で、事実に感情を乗せるのは無駄です。そこを恨んだ結果、演奏やオーディションに悪影響が出たら本末転倒です。だから俺はママ先輩が選ばれた事、全然悪く思ってないですよ!むしろ嬉しいです!全国金を獲るために、良い選択をしたって!」

「なんか、大輝君って変わってるね。音楽に対して、淡々と向き合ってる感じが。」

「まあ音楽なんて、俺にとってはモテるための手段の一つですから!他の皆とは違ってある程度割り切れるのも、それがあるかもしれません。」

「なるほど………」

 

 そして、相変わらず音楽については冷たい大輝。前にも言ってたなぁ。男しかいないところじゃ、演奏する意味が無いって。どんだけ女好きなんだよ、って思ったっけ。ほんと、一貫してる男だ。

 

「ということで………、ママ先輩、俺と付き合ってください!」

「えっ⁉︎ごめん、それは無理かな?」

「嘘………だろ⁉︎絶対いける流れだと思ったのに‼︎」

「あはは……ごめんね♪」

「そんなぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 いい意味でも悪い意味でも。

 

 

 

 

 その後、私は久美子先輩のところに行く事にした。

 

「………っ!」

 

 そしてそこには、早足で歩く久美子先輩がいた。

 

「そんなに早く歩くと危ないですよ。」

「奏ちゃん………」

「黒江先輩に何か言われたりしました?」

「いや、何も。」

 

 良かった、大輝が止めた効果はあったみたいだ。久美子先輩は余計なストレスを抱えずに済んだ。

 

「それは良かったです。あの人、何をしでかすか分からないので。」

「別に怖い人じゃないでしょ。何かしたわけじゃないし。オーディションだって………あっ。」

 

 そして、久美子先輩は何を思い出したんだろう?

 

「残念だったね、コンクールメンバー。」

「今更ですか。会ったらすぐに慰めてくれると、期待して声かけたのに。」

「そうだったの?ごめん。」

「本気にしないでください。冗談です。」

 

 そのことか。やっぱり久美子先輩はいい人だなぁ。ちゃんと言ってくれるし。

 

「だよね〜。大輝君が既に慰めてくれてるもんね〜。だって恋人同士だもの!」

「それとこれとは別です!あと恋人じゃない!」

 

 前言撤回。アイツとの関係を揶揄うな‼︎

 

「全く。こうなるなら、最初からコンバスを3人にしておけばよかったものを。」

「求君に文句があるの?」

「違います。むしろ滝先生です。」

「滝先生………?」

 

 それはさておき、私が落ちた理由でも話そうか。

*1
フルネームの理由は、荒川康太もいるから

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ダブルリードの苦労人(作者:桜紅月音)(原作:響け!ユーフォニアム)

北宇治高校吹奏楽部に所属する彼こと鈴木拓哉は苦労人である。▼部長である小笠原晴香や同じダブルリードのパートリーダーである喜多村来南、同級生の吉川優子を始めとした吹奏楽部のメンバーに苦労している。▼更には、部活の雰囲気も変わって更に苦労が…▼分岐ルートは、原作、アニメが混ざっております。▼ご視聴の際はご注意願います。▼*投稿済みの話を順次進行形で修正中▼久美子…


総合評価:345/評価:7.36/連載:126話/更新日時:2026年06月16日(火) 00:00 小説情報

カリスマチート転生者先輩 in 北宇治(作者:山田太郎)(原作:響け!ユーフォニアム)

カリスマチート転生者先輩を小笠原世代に生やして、早いうちに吹奏楽部を改革します。▼ガールズラブタグは超保険です。必須タグなので入れましたが、殆ど0です。そこを期待している方はすみません。▼テンポ優先のため、アニメで描かれた部分は必要な部分だけ書きます。未視聴の方はアニメを観ましょう。▼原作2年目で完結しました。3年目はあまり書けるパートがなさそうなので、思い…


総合評価:1827/評価:8.54/完結:8話/更新日時:2026年02月20日(金) 20:00 小説情報

いつか途切れた、音の続きを(作者:いつかの音色)(原作:響け!ユーフォニアム)

 中学二年生のあの時、私は間違えた。私の行動一つで部が崩壊してしまうと、あの時の私は知らなかった。そして、私は逃げてしまった。▼ 周囲への気配りが足りなかった。みんなが何を考えているか、なんて全然考えていなかった。何より、心が弱かった。▼ もう二度と、同じ過ちは繰り返さない。私はもう絶対に、逃げたりしない。▼ ▼△▼ 南中出身、音楽チートの主人公を黄前世代に…


総合評価:3550/評価:8.99/連載:22話/更新日時:2026年06月21日(日) 20:00 小説情報

響け!元野球部のクラリネットパート!!(作者:桜紅月音)(原作:響け!ユーフォニアム)

中学では野球部だった主人公の工藤浩輔。▼北宇治に入学し、野球部に行くつもりが、気づいたら吹奏楽部に入っていた。▼知識はあるものの、吹部自体は初心者である彼は、無事に吹奏楽部でやっていけるのか▼不定期更新▼*小説タイトル変更有り▼


総合評価:24/評価:-.--/連載:4話/更新日時:2026年06月16日(火) 00:00 小説情報

想いを音色に乗せて(作者:猫柳/nekoyanagi)(原作:響け!ユーフォニアム)

▼ 両親を早くに亡くし、バイトと勉学、音楽の両立に四苦八苦しながら北宇治高校吹奏楽部で己の理想の音色をトランペットで表現しようと頑張る男の子の物語。▼ 原作終了後、大学以降の物語も書きたいなぁと思っております。▼ クロスオーバーは迷っているので念の為です。原作の間に出すことは恐らくないです。▼ キャラタグ一旦消去させていただきます。▼ 青のオーケストラ要素ち…


総合評価:1841/評価:8.96/連載:18話/更新日時:2026年03月09日(月) 19:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>