奏視点
オーディションの結果は惨敗。しかも久美子先輩までソロに落ちる。
「これで、全ての発表が終わりました。では、合奏練習に入ります。コンクールメンバーは、この場で音出しを。その他の人は、移動をお願いします。」
そして、容赦なく命じられる退場。それは、私はこの場に相応しくないという、冷酷な事実。
「久美子ちゃん。あの、席、このままでいいからね。席、変わらなくていいからね。」
そんな中で放たれる、黒江先輩の無神経な一言。本当にこの人はなんなのだろうか?最初は私に近い境遇かと思ったけど、どうやらそうでもなさそう。本当にイライラする。
「黒江先輩はソリストが変更になっても、指揮者側に座るのは久美子先輩のままでいい、とおっしゃっているのです。」
「いや、ちゃんと変わろうよ。」
「でも………」
「前にも言ったでしょ。北宇治は実力順だって。」
どうにか久美子先輩の説得で、変わる事にはなった。だけど、それでも納得がいってない様子。この人は本当に、なんなのだろうか。
「それでは、失礼します。」
「奏ちゃん………」
「大丈夫ですよ。また練習後にでもお話しさせてください。」
ひとまず、実力が足りなかった私は去るべき。大輝も言っていた、下手な奴はオーディションに受かるべきじゃないって。つまり不合格だった私は下手ということ。ここにいる事は許されないくらいに。
「滝先生、俺ちょっとトイレに行ってきます‼︎腹痛くて‼︎」
「荒川大輝君*1、分かりました。合奏は戻ってきてからにしましょう。」
「あざっす‼︎」
そう思い、私は席を立ち、部屋をあとにしたのだった。
廊下に出ると、
「よっ、久石。ちょっとこっち来い。」
私は大輝から物陰に呼び出された。
「トイレじゃなかったの?ここで漏らされても困るんだけど。」
「その減らず口を叩けるなら、大丈夫だな。」
「当たり前でしょ。アンタに弱みなんか見せるかっつーの。」
「そうか。」
今更大輝が何をしにきたのか。弱みなんか見せるか、涙なんか流すか。そんなプライドを持っていたのに………
「だから………その………っ!」
「好きなようにしろ。」
彼を見た途端、そんなものは涙腺と一緒に崩壊してしまった。胸の中に溜まってた悔しさが、どっと溢れてしまった。そんな惨めな私を彼は、何も言わずに受け止めてくれた。やめてよ、優しくしないでよ。柄にもない。そう思っても、溢れ出る涙を止める事はできなかった。
しばらくして、私が泣き止むと………
「それじゃあ、全国の舞台で待ってるぞ。」
大輝はそう言って、合奏に戻っていった。
「うん、ありがと。必ずそっちに行くから。」
「はいよ!」
自分のアップの時間を捨ててでも、私のところに来てくれた。そんな彼の期待に応えるべく、頑張らないと。そう思い、私はサポートメンバーの練習に混ざったのだった。
その日の練習が終わり、私がトイレに向かって歩いていると………
「ママ先輩、さっきのソロ良かったっすよ!」
「大輝君………」
「関西大会でも頼んます!」
「うん…………」
大輝が黒江先輩と密会してるところを発見した。もちろん密会なので、久美子先輩抜きの2人っきりで。アイツは一体何をするつもりなんだろう?
「あと………久美子先輩にソロ辞退します、とか言わないですよね?」
「ま、まさか………言わないよ!」
「いや、違うな。今の、図星ですよね?」
「えっと………」
あの人、またそんな事言おうとしてたの⁉︎そんなの言われたら、久美子先輩が傷つくに決まってるじゃん‼︎全く、この人はなんなの⁉︎
「そんな譲られ方しても、久美子先輩はちっとも嬉しくありません。あなたが気にしている部の雰囲気とやらも、かえって悪くなりますよ?」
「でも、久美子ちゃんが吹けた方がいいと思って………」
「それは実力で勝てた場合の話。一度滝先生に選ばれたのなら、実力で負けてるんです。それをひっくり返したら、オーディションの意味ないでしょ?何かあったんじゃないか、とか、権力でソロが揉み消されたんじゃないか、とか………」
「そう………かな?」
「せっかく選ばれたんですし、実力で全国への扉こじ開けて、皆を黙らせちゃいましょうよ!私は上手いんだぞ、って♪久美子ちゃんよりも私の方が凄いんだぞ、って♪俺はママ先輩のこと、応援してますから!」
「ありがとう、大輝君………」
「それじゃあまた!」
なんとか頑張って大輝が理詰め、もとい説得したみたい。飴と鞭を使い分けて、先輩ですらも丸め込む。さすがだ。
そして、ようやく黒江先輩も大人しくなったか………
「あの………っ!」
「へっ⁉︎どうしたんです、ママ先輩⁉︎」
「大輝君は奏ちゃんのこと、どう思ってるの⁉︎オーディションとか……」
なってない‼︎今それ聞くの⁉︎私のせいで落ちた、とか思ってんのかなぁ⁉︎
「俺はアイツの音が好きです。だから落ちた時は正直悲しかったっすね。」
「やっぱり………」
「だからといって、久美子先輩やママ先輩、それに滝先生を恨むのは違います。確かにお2人は久石より上手い。そしてユーフォは2人いれば充分。それ故、お2人がアイツを落としたという事実はあります。」
黒江先輩だけでなく、久美子先輩にもそんな事言うなんて………。いや、事実は事実か。でも、久美子先輩にはそんな事思いたくないな。これは単なる私のわがままだけど。
「しかし全国金を目指す上で、事実に感情を乗せるのは無駄です。そこを恨んだ結果、演奏やオーディションに悪影響が出たら本末転倒です。だから俺はママ先輩が選ばれた事、全然悪く思ってないですよ!むしろ嬉しいです!全国金を獲るために、良い選択をしたって!」
「なんか、大輝君って変わってるね。音楽に対して、淡々と向き合ってる感じが。」
「まあ音楽なんて、俺にとってはモテるための手段の一つですから!他の皆とは違ってある程度割り切れるのも、それがあるかもしれません。」
「なるほど………」
そして、相変わらず音楽については冷たい大輝。前にも言ってたなぁ。男しかいないところじゃ、演奏する意味が無いって。どんだけ女好きなんだよ、って思ったっけ。ほんと、一貫してる男だ。
「ということで………、ママ先輩、俺と付き合ってください!」
「えっ⁉︎ごめん、それは無理かな?」
「嘘………だろ⁉︎絶対いける流れだと思ったのに‼︎」
「あはは……ごめんね♪」
「そんなぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
いい意味でも悪い意味でも。
その後、私は久美子先輩のところに行く事にした。
「………っ!」
そしてそこには、早足で歩く久美子先輩がいた。
「そんなに早く歩くと危ないですよ。」
「奏ちゃん………」
「黒江先輩に何か言われたりしました?」
「いや、何も。」
良かった、大輝が止めた効果はあったみたいだ。久美子先輩は余計なストレスを抱えずに済んだ。
「それは良かったです。あの人、何をしでかすか分からないので。」
「別に怖い人じゃないでしょ。何かしたわけじゃないし。オーディションだって………あっ。」
そして、久美子先輩は何を思い出したんだろう?
「残念だったね、コンクールメンバー。」
「今更ですか。会ったらすぐに慰めてくれると、期待して声かけたのに。」
「そうだったの?ごめん。」
「本気にしないでください。冗談です。」
そのことか。やっぱり久美子先輩はいい人だなぁ。ちゃんと言ってくれるし。
「だよね〜。大輝君が既に慰めてくれてるもんね〜。だって恋人同士だもの!」
「それとこれとは別です!あと恋人じゃない!」
前言撤回。アイツとの関係を揶揄うな‼︎
「全く。こうなるなら、最初からコンバスを3人にしておけばよかったものを。」
「求君に文句があるの?」
「違います。むしろ滝先生です。」
「滝先生………?」
それはさておき、私が落ちた理由でも話そうか。