たわけ!ドアホ男子   作:スピリタス3世

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練習番号O かなしきブートキャンプ

  奏視点

 

 オーディションの結果は惨敗。しかも久美子先輩までソロに落ちる。

 

「これで、全ての発表が終わりました。では、合奏練習に入ります。コンクールメンバーは、この場で音出しを。その他の人は、移動をお願いします。」

 

 そして、容赦なく命じられる退場。それは、私はこの場に相応しくないという、冷酷な事実。

 

「久美子ちゃん。あの、席、このままでいいからね。席、変わらなくていいからね。」

 

 そんな中で放たれる、黒江先輩の無神経な一言。本当にこの人はなんなのだろうか?最初は私に近い境遇かと思ったけど、どうやらそうでもなさそう。本当にイライラする。

 

「黒江先輩はソリストが変更になっても、指揮者側に座るのは久美子先輩のままでいい、とおっしゃっているのです。」

「いや、ちゃんと変わろうよ。」

「でも………」

「前にも言ったでしょ。北宇治は実力順だって。」

 

 どうにか久美子先輩の説得で、変わる事にはなった。だけど、それでも納得がいってない様子。この人は本当に、なんなのだろうか。

 

「それでは、失礼します。」

「奏ちゃん………」

「大丈夫ですよ。また練習後にでもお話しさせてください。」

 

 ひとまず、実力が足りなかった私は去るべき。大輝も言っていた、下手な奴はオーディションに受かるべきじゃないって。つまり不合格だった私は下手ということ。ここにいる事は許されないくらいに。

 

「滝先生、俺ちょっとトイレに行ってきます‼︎腹痛くて‼︎」

「荒川大輝君*1、分かりました。合奏は戻ってきてからにしましょう。」

「あざっす‼︎」

 

 そう思い、私は席を立ち、部屋をあとにしたのだった。

 

 

 

 

 

 廊下に出ると、

 

「よっ、久石。ちょっとこっち来い。」

 

 私は大輝から物陰に呼び出された。

 

「トイレじゃなかったの?ここで漏らされても困るんだけど。」

「その減らず口を叩けるなら、大丈夫だな。」

「当たり前でしょ。アンタに弱みなんか見せるかっつーの。」

「そうか。」

 

 今更大輝が何をしにきたのか。弱みなんか見せるか、涙なんか流すか。そんなプライドを持っていたのに………

 

「だから………その………っ!」

「好きなようにしろ。」

 

 彼を見た途端、そんなものは涙腺と一緒に崩壊してしまった。胸の中に溜まってた悔しさが、どっと溢れてしまった。そんな惨めな私を彼は、何も言わずに受け止めてくれた。やめてよ、優しくしないでよ。柄にもない。そう思っても、溢れ出る涙を止める事はできなかった。

 

 

 

 

 しばらくして、私が泣き止むと………

 

「それじゃあ、全国の舞台で待ってるぞ。」

 

 大輝はそう言って、合奏に戻っていった。

 

「うん、ありがと。必ずそっちに行くから。」

「はいよ!」

 

 自分のアップの時間を捨ててでも、私のところに来てくれた。そんな彼の期待に応えるべく、頑張らないと。そう思い、私はサポートメンバーの練習に混ざったのだった。

 

 

 

 

 その日の練習が終わり、私がトイレに向かって歩いていると………

 

「ママ先輩、さっきのソロ良かったっすよ!」

「大輝君………」

「関西大会でも頼んます!」

「うん…………」

 

 大輝が黒江先輩と密会してるところを発見した。もちろん密会なので、久美子先輩抜きの2人っきりで。アイツは一体何をするつもりなんだろう?

 

「あと………久美子先輩にソロ辞退します、とか言わないですよね?」

「ま、まさか………言わないよ!」

「いや、違うな。今の、図星ですよね?」

「えっと………」

 

 あの人、またそんな事言おうとしてたの⁉︎そんなの言われたら、久美子先輩が傷つくに決まってるじゃん‼︎全く、この人はなんなの⁉︎

 

「そんな譲られ方しても、久美子先輩はちっとも嬉しくありません。あなたが気にしている部の雰囲気とやらも、かえって悪くなりますよ?」

「でも、久美子ちゃんが吹けた方がいいと思って………」

「それは実力で勝てた場合の話。一度滝先生に選ばれたのなら、実力で負けてるんです。それをひっくり返したら、オーディションの意味ないでしょ?何かあったんじゃないか、とか、権力でソロが揉み消されたんじゃないか、とか………」

「そう………かな?」

「せっかく選ばれたんですし、実力で全国への扉こじ開けて、皆を黙らせちゃいましょうよ!私は上手いんだぞ、って♪久美子ちゃんよりも私の方が凄いんだぞ、って♪俺はママ先輩のこと、応援してますから!」

「ありがとう、大輝君………」

「それじゃあまた!」

 

 なんとか頑張って大輝が理詰め、もとい説得したみたい。飴と鞭を使い分けて、先輩ですらも丸め込む。さすがだ。

 

 そして、ようやく黒江先輩も大人しくなったか………

 

「あの………っ!」

「へっ⁉︎どうしたんです、ママ先輩⁉︎」

「大輝君は奏ちゃんのこと、どう思ってるの⁉︎オーディションとか……」

 

 なってない‼︎今それ聞くの⁉︎私のせいで落ちた、とか思ってんのかなぁ⁉︎

 

「俺はアイツの音が好きです。だから落ちた時は正直悲しかったっすね。」

「やっぱり………」

「だからといって、久美子先輩やママ先輩、それに滝先生を恨むのは違います。確かにお2人は久石より上手い。そしてユーフォは2人いれば充分。それ故、お2人がアイツを落としたという事実はあります。」

 

 黒江先輩だけでなく、久美子先輩にもそんな事言うなんて………。いや、事実は事実か。でも、久美子先輩にはそんな事思いたくないな。これは単なる私のわがままだけど。

 

「しかし全国金を目指す上で、事実に感情を乗せるのは無駄です。そこを恨んだ結果、演奏やオーディションに悪影響が出たら本末転倒です。だから俺はママ先輩が選ばれた事、全然悪く思ってないですよ!むしろ嬉しいです!全国金を獲るために、良い選択をしたって!」

「なんか、大輝君って変わってるね。音楽に対して、淡々と向き合ってる感じが。」

「まあ音楽なんて、俺にとってはモテるための手段の一つですから!他の皆とは違ってある程度割り切れるのも、それがあるかもしれません。」

「なるほど………」

 

 そして、相変わらず音楽については冷たい大輝。前にも言ってたなぁ。男しかいないところじゃ、演奏する意味が無いって。どんだけ女好きなんだよ、って思ったっけ。ほんと、一貫してる男だ。

 

「ということで………、ママ先輩、俺と付き合ってください!」

「えっ⁉︎ごめん、それは無理かな?」

「嘘………だろ⁉︎絶対いける流れだと思ったのに‼︎」

「あはは……ごめんね♪」

「そんなぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

 いい意味でも悪い意味でも。

 

 

 

 

 その後、私は久美子先輩のところに行く事にした。

 

「………っ!」

 

 そしてそこには、早足で歩く久美子先輩がいた。

 

「そんなに早く歩くと危ないですよ。」

「奏ちゃん………」

「黒江先輩に何か言われたりしました?」

「いや、何も。」

 

 良かった、大輝が止めた効果はあったみたいだ。久美子先輩は余計なストレスを抱えずに済んだ。

 

「それは良かったです。あの人、何をしでかすか分からないので。」

「別に怖い人じゃないでしょ。何かしたわけじゃないし。オーディションだって………あっ。」

 

 そして、久美子先輩は何を思い出したんだろう?

 

「残念だったね、コンクールメンバー。」

「今更ですか。会ったらすぐに慰めてくれると、期待して声かけたのに。」

「そうだったの?ごめん。」

「本気にしないでください。冗談です。」

 

 そのことか。やっぱり久美子先輩はいい人だなぁ。ちゃんと言ってくれるし。

 

「だよね〜。大輝君が既に慰めてくれてるもんね〜。だって恋人同士だもの!」

「それとこれとは別です!あと恋人じゃない!」

 

 前言撤回。アイツとの関係を揶揄うな‼︎

 

「全く。こうなるなら、最初からコンバスを3人にしておけばよかったものを。」

「求君に文句があるの?」

「違います。むしろ滝先生です。」

「滝先生………?」

 

 それはさておき、私が落ちた理由でも話そうか。

*1
フルネームの理由は、荒川康太もいるから

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