奏視点
私は久美子先輩に、今思ってることを言い始めた。
「コンバス3人って異例すぎません?しかも下手な人ならともかく、あの3人ですよ?2人でも充分じゃないですか。チューバは大輝が上手いから削ってるのに。それに、チューバよりコンバスが多いなんて、そんな事あります?どんなバランスですか?」
「滝先生がそれがいいって思ったから。コンバス特有の響きを重視したんじゃないの?」
「そんな盲信していいんですか?大輝なら間違いなく、すぐに反論してますよ。」
「盲信してるわけじゃないから。」
「それならいいんですけど………」
正直今年の滝先生は去年に比べてブレブレだ。何か迷ってるようにも感じる。大輝もそれを少し不安視してるようで、昼休みの段階で既に滝先生と昼食をとり、あーだこーだ言い合ってた。その結果をもうそろそろ伝えに来るだろう。そんな事を思ってた。
夜になり、合宿恒例花火の時間がやってきた。
「誰か〜、俺とロマンチックな花火を楽しみませんか〜?」
とりあえずいつも通り大輝が恥を晒していたので、止める事にした。
「そのまま燃えて消えたら?」
「お前が消えろや!せっかく人が女の子とイチャイチャしようとしてんのに‼︎」
「女の子側は誰も望んでないから。」
「そんな事はない‼︎何故なら俺はイケメンだから♪」
「はい、鏡。ちゃんと現実見て。」
「お^〜、カッコいい〜!自分に惚れちまったぜ♪」
「ダメだコイツ、もう手遅れだ。」
それにしても、なんでこんなに自信満々なんだろうか?これで実際に色んな人に告られたのなら分かるけど、それも全く無し。本当に意味不明だ。
そんな事を思っていると、
「奏がコンクール落ちるって、流石に有り得な〜い。」
「そもそも、コンバス3人必要?チューバ2人なのに?」
「分かる〜。皆上手いとはいえ、そんなに要らないよね〜。」
みちる達がオーディションの結果について納得がいってないようだった。そりゃそうだ。誰だってあのバランスには疑問を持つはず。
「そこの3人‼︎」
「高坂先輩⁉︎」
「大事な話があります。22時に、娯楽室に来てください。」
そんな事を思ってたら、高坂先輩がキレ気味に3人を呼び止めた。えっ、それ怒るとこ?疑問に思っていると………
「22時に娯楽室⁉︎麗奈先輩、俺が行きます!2人っきりで、いっぱい話しましょう!」
大輝がまたもややらかした。
「荒川、ふざけないで。3人には話をすることがあるから。」
「え〜‼︎この3人、何か変なこと言いました〜?」
「言った。だからドラムメジャーとして、指導する必要がある。」
「なるほど………。続きは娯楽室にしましょうや。」
「そうね。」
しかも高坂先輩とバチバチ。まるで入学した当初みたいだ。前みたいに怯まないってことは、何か言いたいことがあるのだろう。何を言うのか気になりすぎて、その後の花火は全く集中できなかった。
そして、22:00。娯楽室にて。
「で、そこの3人を庇ってまで言いたいことって何?」
「麗奈先輩………この3人が何をやらかしたか、教えてください。」
「顧問に対して、あの口の利き方は許しちゃいけない。」
「口の利き方………その場に滝先生、居たんですか?」
「それは関係ない。あれを許していたら、部員の滝先生への信頼が揺らぐ。それは演奏に出る。ドラムメジャーとして、見過ごすわけにはいかない。」
いよいよ大輝と高坂先輩のバトルは幕を開けた。
「だったら3人に言いますわ。今回のオーディションの編成理由な!コンバスの持つ特有の響きを活かして、低音のサウンドの土台を豊かにするのが狙いだってさ!あの3人だからやった、というのもあるって。そしてチューバは俺がいるから、多少人数少なくてもその響きは出せる。それでユーフォもバランス的に2人で充分だ、とのこと。つまりコンバスの多いサウンドを採用したってことさ!」
とりあえず、私が落ちた理由はコンバスを重視するため、とのこと。確かに龍聖のチューバ5人みたいに、特定の楽器を増やして特徴のある響きを作るのは分かる。今回は弦楽器の多いオーケストラのような、そんな響きを作りたかったのだろう。
「待って待って待って。それ滝先生に聞いたの?」
「そうですよ?昼休みずっと喋ってたじゃないですか?あっ、幹部を素通りして直接行っちゃったことはごめんなさい!」
「ずっと文句を言ってたってこと?」
「文句というか、自分の考えと違ったので。せめて理由を聞いて納得したかったんです。」
そして、大輝は滝先生とも徹底的に話し合うタイプだ。ソロコンの時だってずっと話してた。全く遠慮せず。だからこそ、全国金を獲れたのだろう。
「つまり、滝先生を信頼してない、と。」
「どうしてそうなるんです?滝先生のことはかなり信頼してますよ?じゃないと、ソロコンの伴奏に選びません。」
「じゃあ、なんで文句を言ったの?」
「前にも言ったじゃないですか。全国金目指す上では意見だって言う。あの人だって人間、完璧じゃないんですよ?」
「だからって、あの人への信頼が揺らいだら演奏の質は落ちる。それは分かるでしょ?」
「信頼と盲信は違います。言われた事を何も考えずにはいはい言ってたら、それこそ融通の効かないロボットの出来上がりです。それでいいんですか?そんなんで、全国金獲れると思ってるんです?」
その実績があるからか、高坂先輩にも強気に対応する。あまりに折れないからか、高坂先輩も更にイライラし始めた。
「別に融通が効かないとは言ってないでしょ‼︎そもそも最終的な判断は滝先生が決めるんだから‼︎」
「それはそうですね。まあぶっちゃけオーディションについては、俺が奏者側のこともあって、決断を下すまでの間に相談に乗ることができないんですけどね〜。だから相談無しに、言われた事をそのまま受け入れるしかない。」
「それはそうでしょ。オーディションで奏者がメンバー決めに関わったら、ただの癒着だし。」
もし大輝がマネージャーとかなら、滝先生のサポートであれこれ相談に乗ってただろう。現状は奏者として、指揮者に言える意見しか言ってないし。
「とりあえず、俺は滝先生を傷つけたいとか、そういうのじゃないです。確かにあの人はイケメンでやたらモテてて美人な奥さんとも結婚してすごいイライラしますが、音楽面についてはちゃんとしてる人です。」
「一応信頼はしてるのね。それは安心した。」
「とはいえ、信頼している人でも疑問に思うことは絶対にあります。それを簡単に蓋するのだけはやめて下さいね。いいですか?」
「別に蓋してるわけじゃないんだけど………」
「あんまりちゃんとしないと、俺がドラムメジャーになっちゃいますよ?」
「………分かった。それだけはさせない。私がドラムメジャーをやるから。」
「いいっすね〜、そういうの!俺、大好きです!」
そして、大輝は強引に押し切った。恐らく大輝の中で、高坂先輩よりも自分の方がドラムメジャーになるべきかも、と思い始めているのだろう。それは大輝だけじゃない。今の1・2年生の間には、どこかそういう雰囲気が漂い始めていた。
「ということで、話も終わったことだし………さぁ、麗奈先輩♪俺とデート、しましょっか♪みちる達もどう?」
「「「「キモっ。」」」」
「ごめんなさいね、ゴミにはちゃんと蓋しておきますから。」
「久石さん、お願い。彼を制御できるのはあなただけだから。」
「おい久石、俺の邪魔すんなやぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
また、大輝がキモいという雰囲気も漂い始めていた………いや、これはずっとか。そんな事を思いながら、私は大輝を片付けたのだった。
娯楽室から出た後、私と大輝は部屋に向かって戻っていた。
「おい久石!お前がいなかったら確実に付き合えてたぞ!」
「どこが?脈なんて、全然無かったよ?死人みたいに。」
「うるせえ‼︎」
さっきまであんなに高坂先輩と喧嘩してたのに、すぐさま告る頭のおかしさ。まるで二重人格じゃないか。ついそう思ってしまった。
「ちなみに、ドラムメジャーやる気はあるの?」
「まだ麗奈先輩をどかすほどじゃない、が………」
「ちょっとでも気が変わったら、やるつもりでしょ。」
「まあな。全国金獲るために俺に変えた方がいいと判断したら、そうするまでだ。」
「ホント冷酷だよね。」
「お前には言われたくない。」
そして、ドラムメジャーの交代。普通はコンクールも近いのに3年生から2年生に交代するなんて、あり得ない。でも、大輝ならそれを可能にする実力がある。彼の気がいつまで持つか、私も気になるところだ。