奏視点
そんなこんなで、合宿はあっという間に幕を閉じた。しかし部のピリピリした雰囲気は拭えず、どこか息苦しさを感じていた。サポートメンバーの私ですらそう感じるのだから、きっとコンクールメンバーはもっとだろう。
「みんな〜!次はコンクールメンバーになるために、曲をじゃんじゃん練習するよ〜!」
「「「はいよ!」」」
低音パートは加藤先輩が仕切ってくれるから、多少のモチベーションは保ててるものの………それもいつ崩壊するか、不安だ。去年は関西大会でダメだった。今年も同じ成績なら、この先は無いかもしれない。加藤先輩に至っては、コンクールに一度も乗れずに引退するかもしれない。先の見えない不安が、どうしても続いていた。
だからか、大輝や梨々花と一緒に食べる昼休みが数少ない癒しになった。
「くそっ!なんで俺とご飯を食べてくれる可愛い女の子が、りりりんしかいないんだ⁉︎」
「1人忘れてるよ。」
「お前は顔だけだ。」
「顔は認めてるんだ〜♪ラブラブ〜♪」
「「ラブラブじゃない!」」
揶揄われるのはムカつくけど。
「それより〜、夏休みの宿題は大丈夫なの〜?」
「私は大丈夫。大輝は?」
「今、ここから始めるぜ!1から………いいえ、ゼロから‼︎」
「カッコつけてる場合か⁉︎」
ちなみに、大輝は去年も最終日まで宿題をやらなかった。なんなら出さなくてもいいだろ、とゴリ押そうとしてた。ホント、音楽以外はダメな奴だ。
「というか、なんでそんなに堂々としてられるの?」
「そりゃ、隣に答え写させてくれる奴がいるからな!」
「今年は見せないから。というか、文理違うから宿題も違うでしょ?」
「お前ならやれるだろ。違うか?」
「はっ倒すよ?」
しかもそれでも堂々としている。悪びれもせず。よしっ、こんな時は………っ!
「まあ、いいよ。」
「マジ⁉︎」
「但し、条件付きで。今度駅前に、新しいイタリアンのお店が出来るんだけど………予算3万で食べさせて♪」
「3万⁉︎お前殺す気か⁉︎」
「選んで。宿題を自力でやるか、私に殺されるか。」
「自分でやります…………」
これでヨシ!最近私のせいですっと金欠だったからね!こうなると思ったよ!
「お〜!流石奏〜!大輝君の扱いに慣れてるね〜。」
「分かりやすいからね。」
「お前には言われたくない‼︎」
「これはいっそ、結婚した方がいいんじゃな〜い?」
「「それは嫌‼︎///」」
というか、私ってそんなに扱いやすい?そうは思えないんだけど。黒江先輩にも分かりやすい、って言われたし。ホント納得がいかない。
「あっ、あそこで照葉がサリーにあーんしてる‼︎くそっ、とっちめなきゃ‼︎」
「はいはい、はしゃがない。」
「奏が大輝君にあーんすればいいんじゃ?」
「嫌。梨々花がやって。」
「俺もりりりんがいい!」
「それは無理なので〜す♪」
「「残念、多数決で!」」
「さっちゃんみっちゃん〜!助けて〜!」
「「あっ、援軍呼ぶのずるい‼︎」」
こうして、私たちは束の間の休息を楽しんだのだった。
それから数日が経ち、いよいよ関西大会当日がやってきた。ここはリハーサル室。本番前の最終調整場所だ。
「私は、北宇治の音楽が、皆さんの演奏が素晴らしいものであると、信じています。結果は気になるでしょうが、まず、自分たちの納得のいく演奏にしましょう。」
「「「「はい!」」」」
そして、最終調整終わり。滝先生が励ましの一言を言ってくれた。これを糧に、大輝たちは頑張ってほしいな。
「あの、少しだけいいですか⁉︎」
「もちろんです。」
そんな事を思っていると、久美子先輩が手を挙げた。どうやら部長として、何か言いたいことがあるのだろう。
「部長の黄前です。えっと………落ち着け、落ち着け、落ち着け……」
「久美子!声に出てるよ!」
「あっ、その………私昔から思った事を言っちゃう癖があって………///」
そして、久美子先輩はまたもや思った事を口に出していた。加藤先輩に言われて気付いた様子。そうやって照れてる姿が、なんだか可愛らしい。
「だから、思っている事を話します。正直に、そのまま。」
そして、それを吹き飛ばし、堂々と話す姿もとてもいい。
「私は、1年生も3年生も同じ土俵で競え合えて、一つの目標に向かって進める北宇治が大好きです!その北宇治で全国金を取りたい。2年間ずっと思ってきたけど、でも、どうしてもそこに届かなかった。ここにいる2年と3年、そして滝先生も思ってる。なんでだよ、って。」
思えば去年のこと………あれだけやったのに、全国にすら届かなかった。それが悔しかった。それは今でも覚えている。
「だから何かを変えなきゃいけないって、幹部でそう考えて……今年はこのオーディション形式を提案しました。それが間違っていたとは思いません。より北宇治らしい方法だとも思いました。」
そういや言ってたな。実は幹部がこのオーディション形式にしたって。
「ただ、その事で戸惑いを感じた人がいたのも事実です。部長として、この場で謝らせて下さい。すみませんでした。」
そして、そのことについて謝る久美子先輩。そんなに悪いことじゃないのに。大好きな先輩が頭を下げている姿は、心にくるものがあった。
「「すみませんでした。」」
更に、それを見た塚本先輩と高坂先輩も頭を下げた。幹部が全員頭を下げる姿に、多くの部員がびっくりしていた。
「今更謝られても、納得できない人だっていると思います。でも、それでも………私は北宇治で全国金を獲りたい‼︎」
そして、久美子先輩の演説。北宇治で全国金を獲りたい。それは皆の中にある、揺るがない思い。
「わがままかもしれない。でも、ここにいるメンバーと、不満も戸惑いも全部吹き飛ばす、最高の演奏をして全国に行きたいんです‼︎1年間、皆を見ていて思いました。こんなに練習しているのに、上手くならないはずはない。こんなに真剣に向き合っているのに、響かないはずない。北宇治なら獲れる。私たちならできるはず。だから自信を持って‼︎今までやってきたことを信じて。」
これだけやってきたんだ。だからきっと獲れるだろう。いや、獲ってくれるだろう。あれだけ頑張ってきた皆なら。
「だから、私が伝えたいことは…………っ!」
「私も全国行きたいぞ〜!」
「緑もです〜!」
そして、久美子先輩が言葉に詰まった瞬間、3年生たちがどんどんと想いをぶつける。そして拍手する。去年のリベンジを果たすために、皆ここまでやってきたんだ‼︎
「それではご唱和ください‼︎北宇治ファイトー、」
「「「「オー‼︎」」」」
そして、コンクールメンバーは戦いに向かったのだった。
その日の夕方、遂に結果が発表された。表彰式で隣にいるのはいつも通り、梨々花と大輝だ。
「18番。京都府代表、北宇治高等学校。ゴールド鑑賞。」
まずは第一関門、突破だ。
「よしっ!」
「まずは一安心、だね〜。」
「問題は次だ。」
しかしもう1段階関門がある。残りの学校の賞を発表し終えたところで、いよいよその時はやってきた。
「続きまして、来る10月に行われる全国大会に出場する3校を発表します。」
全国大会出場校の発表。去年はここでダメだった。果たして今年は、この先に行けるのか?
「1校目。5番。大阪府代表、明静工科高等学校。」
最初は有名な強豪校。今年もここが来たか。
「2校目。9番。京都府代表、龍聖学園高等部。」
そして次はまたもや龍聖。もはや完全な強豪校だ。
「最後に、3校目………」
そして、これが最後。頼む、入ってて…………っ!
「18番。京都府代表、北宇治高等学校。」
やった!入ってた!良かった〜!
「やった〜!」
「っしゃあ‼︎」
「これで全国、だね。」
「だね〜!」
「そうだな!」
去年は突破できなかったところを、今年はなんとか突破した。といっても、私は演奏してないから、突破してくれたが正しいけど。次の全国では、私が吹くんだ!その想いを胸に秘め、その日は終わったのだった。