奏視点
全国行きが決まった翌日。学校にはのぼりが上がってた。
「すご〜い!私たちのだ〜!」
「まあ俺は、個人名で全国金ののぼりがあったけどな。」
「うっざ。」
「苗字が久石だって、指摘し忘れたな〜。」
「「それはしなくていい!」」
ちなみに大輝のソロコンの時ももちろんあった。堂々たる個人名で、大輝がアレを使ってナンパしてたっけ。もちろん収穫ゼロだったけど。
「さてと、今日も練習するぞ!」
「「はいよ!」」
そして久美子先輩の演説のおかげか、部活は今まで感じたこともないような明るい雰囲気に包まれていた。また、ドラマメジャーを変わった方がいいんじゃないかという流れも、その演説と共に消えたのだった。
そして、その日の合奏中のこと。
「はい、ここまで。今日残りは個人練習としますので、各自合奏で指摘された箇所の修正をお願いします。」
「「「はい!」」」
「それと、全国大会のオーディションですが………2週間後の日曜日に実施します。」
とうとう全国大会のオーディションの日が発表された。2週間後か。なんとしてでも、メンバーにならないと。そして………
「久美子先輩。ソリ、獲ってください。私は、久美子先輩にソリ吹いてほしいです。」
「わ、分かった!」
私は久美子先輩にエールを送り、個人練に向かったのだった。
そして、いざ個人練に取り掛かろうとしたその時。
「久石。今日からお前は俺の特別レッスンだ。」
大輝が真顔で現れた。
「えっ、何?」
「あと2週間で、お前のレベルをあの2人に追いつかせる。その為のメニューを考えた。」
「急にどうしたの……?」
「お前にコンクールメンバーになってほしいんだ。俺はお前の音が好きだから。皆にお前のことを認めてほしいんだ。」
その理由は、とんでもないエゴだった。大輝がただ個人的に私を乗せたいがための、とても珍しいエゴ。あれだけ音楽中は情を排除しているはずなのに。そんな彼が、エゴ丸出しでやってきた。
「分かった。よろしく。」
「はいよ!」
それなら、その期待に応えるしかない。そう思って、私は大輝の特別レッスンを受けたのだった。
レッスンの内容は、私の欠点を重点的に潰す内容だった。
「まずお前は付点の処理が甘い。一回16分で刻んで吹いて。」
「分かった。」
「これは均等に吹けるだろ?それを頭の中でカウントして吹いてみ?」
「………こんな感じ?」
「そう。それを頭に叩き込め。」
「うん。」
まずは付点の処理。前久美子先輩に言われてたところが、まだ甘かった。そこを大輝に全て見抜かれていた。ホント、流石だな。
「次、ダイナミクスの変化。久石は変化が他の2人に比べて乏しいから、まずは最小音量と最大音量の幅を広げる。弱音からやってみろ。」
「うん。」
次は音量の幅の増大。あの2人に比べて私はこれが狭い。故に、必然的に表現できる幅が狭くなってしまっている。ここも大輝に見抜かれた。
「その次は相手を聞く能力。これは合奏中に意識するしかない。他パートの表現を聞いて、その都度自分を合わせる能力。今回だと特に、トランペットとのソリに重要だ。」
「ソリ?ソリは久美子先輩と黒江先輩が……」
「はなから諦めるな。それに、対旋律*1の吹き方はユーフォにおいて非常に重要だ。他の箇所でも役に立つ。」
「分かった。教えて。」
「はいよ‼︎」
次は対旋律において重要になるメロディーの聞き方。それからそのほかにも色々と…………。私はノンストップで、教わり続けた。その間大輝は自分の練習もしながら、私の面倒を見てくれた。それが本当に嬉しかった。
1週間と半ばが過ぎた頃、私の音がだんだんと変わってきた。
「よしっ、効果が出てきたな。」
「なんとか出て良かったよ。ありがと。」
「まだだ。ここから更に追い込む。残り4日、死ぬ気でやるぞ。」
「うん!」
それでもまだ、あの2人には遠く及ばない事実。普通に考えて2週間じゃ間に合わないってのに、それを間に合うと信じてメニューを考えてくれた大輝。ホント、私の音だけは好きなんだから。そんな事を思いながら、私もまた彼に奮起されて、死ぬ気で練習に励んだ。
そして、いよいよオーディション当日。
「久石、行ってこい!」
「はいよ!」
いよいよ私のターンとなった。大輝に教わったことを全て発揮して、コンクールメンバーの座を掴み取るんだ‼︎
オーディションは、意外にも呆気なく終わった。そして、結果発表は次の日。そこまでの間、緊張でご飯すらもまともに食べられなかった。
「ではこれより、オーディションの結果を発表する。」
そして、松本先生の張り詰めた声により、結果が発表される。ダメだ、胸が張り裂けそうだ。
「次、ユーフォニアム。黒江真由。」
「はい。」
「黄前久美子。」
「はい。」
お願い、入っていて……………っ‼︎
「久石奏。」
「はっ、はい!」
「以上3名。」
良かった。入っていた………っ‼︎本当に、心の底から嬉しいと思った瞬間だった。大輝、ありがとう。おかげで、コンクールメンバーに戻ってこられよ!
「続いてコントラバス。川島緑輝。」
「はい!」
「石神井照葉。」
「はい‼︎‼︎」
「………っ!」
「以上、2名。」
代わりに月永が落ちた。やはり元に戻したのか、あるいはまた別の編成にしたのか。
「続いてチューバ。」
もしかしたら、チューバが1人になるとか。いや、流石にそれは無いだろう。いくら大輝でも、1人はキツいはず。そして、加藤先輩は初のコンクールメンバーに入ることができるのか………
「加藤葉月。」
「…………っ!はい‼︎」
そして、ようやく加藤先輩の努力が報われた。
「荒川大輝。」
「はい‼︎」
「鈴木美玲。」
「はい。」
「以上、3名。」
心なしか、大輝がいつも以上に嬉しそうだった。
葉月視点
努力をしたって、報われるとは限らない。だからこそ……っ!
「葉月先輩、やっと一緒に吹けますね!」
「楽しみです!」
「よろしくね、大輝君!みっちゃん!」
報われた時が、とても嬉しいんだ‼︎
緑視点
やっぱり、コンバス3人は多いですよね………
「緑先輩、すいません………」
「求君、謝らなくていいんですよ?」
「最後に一緒に………弾きたかったです………」
「緑もです………」
求君とは、もうコンクールで一緒に弾けないのですね。そして照葉君とも、今回が最後なのですね………
「照葉君、頑張りましょう!」
「………はっ、はい‼︎自分、求兄さんの分までやります‼︎‼︎」
「照葉、頼んだぞ。緑先輩に有終の美を。」
「任されました‼︎」
そう思うと、どこか悲しくなりました………。残り少ない、2人との日々。照葉君、最後に一緒に、よろしくお願いします。そして求君、私の全てを、受け止めて下さい………
奏視点
発表後の帰り道、私は大輝と一緒に帰った。
「ありがとう!本当にありがとう‼︎めっちゃ嬉しい‼︎」
「俺も嬉しいぜ!お前や葉月先輩と吹けて!」
「今日は珍しく私が奢ってあげる♪」
「それじゃあ、回らない寿司で!」
「は?高くない?」
「お前だっていつもこのくらいの値段で食ってるだろ!」
「気のせい気のせい♪」
久しぶりのコンクールメンバー。そして、今まで以上に頑張って、自力で勝ち取ったコンクールメンバー。本当に、大輝には感謝してもしきれないのだった。ただ一つだけ、とんでもないことが起きた。
なんとソリスト発表で、波乱が起きたのだ。
「最後に、ユーフォニアム。黄前久美子、そして黒江真由。両名は後日、全部員の投票による再オーディションとする。」
滝先生が決めきれなかったという。そのため、再オーディションに。とんでもないことが起きた。しかも黒江先輩はそこでも辞退しなかった。やっぱり、この人に辞退する気なんてない。久美子先輩の口から言わせたいんだ。そう確信したのだった。