奏視点
オーディションの結果発表から数日後。いよいよユーフォソリスト再オーディションの日がやってきた。
「久美子先輩。ソリ、獲って下さい。」
「奏ちゃん、ちゃんと聴いてほしい。それで、いいと思った方に入れてほしい。」
「はい。」
ちなみに大輝はというと………
「ママ先輩、全力を出し切って下さいよ!じゃないと俺と結婚で!」
「すごい脅迫だね。ま、まあ、頑張るよ!」
ママ先輩のことを応援していた。そして………
「久美子先輩、意地見せて下さい!」
「うん。ちゃんと聴いてね!」
久美子先輩のことも応援していた。
「大輝は二股でもしてんの?」
「100股ぐらいしたいぜ!」
「で、どっち派?」
「それは特にない。その時上手かった方に入れるつもりさ!」
どうやら大輝はいつも通りらしい。冷静に残酷に、そして淡々と決めるという。だから両方に発破をかける。そして、レベルの高い競争を引き出すつもりだ。
数十分後、ユーフォのソリオーディションの時間がやってきた。ステージ上には高坂先輩と白い幕。あの中にユーフォの2人が隠れていて、どっちが吹いてるか分からない仕組みになっている。私たちは客席で、良かった方を判断するというシステムだ。
「ではまず、1番の方からお願いします。」
さてと、最初は…………。なるほど、そういう吹き方をするのか。どこか控え目で、トランペットに合わせているかのよう。どっちが吹いてるかは………分かんないな。
「では、2番の方、お願いします。」
そして続いては…………分かってしまった。こっちが久美子先輩だ。散々音を聞いてきたから分かる。私の好きな先輩の、大好きな音。ソロと合うのは1番の方かもしれないけど、やっぱりこっちの方がいいな、と、直感的に思ってしまった。
「ありがとうございました。お2人は前へ。」
そして、2人の演奏が終了した。白い幕の中から出てくる2人は、どこかやり切ったような顔をしていた。
「どちらも素晴らしい演奏でした。ですが、ソリは1名しか吹くことができません。では、これより選出に入ります。1番がソリに相応しいと思った人は、挙手を。」
私はこの2人から選ぶだけ。1番は久美子先輩じゃないだろうから、手を挙げずにいよう。周りで挙げてる人は………加藤先輩に、釜谷先輩に義井さん。そして………大輝!そっちを選ぶか!
「ありがとうございます。続いて、2番と思った人は挙手を。」
こっちは川島先輩に、梨々花にさつき。更には佳穂まで。ただ、見た感じおそらく同じくらいの数になるはず。果たして、どっちが多い………?
「あれ?」
「どうしましたか?」
「1番と2番、同数です。」
「奇数のはずですが………」
まさかの同じ。もしかして、弥生が数え間違えた?
「私がまだです。」
「そうでしたか、高坂さん。決まりましたか?」
「はい。」
そういうことか。高坂先輩も込みで奇数ね。高坂先輩はおそらく、久美子先輩の音が分かる。だから恐らく、高坂先輩は久美子先輩を選ぶと………
「1番です。」
えっ?あれ?そっちが久美子先輩だったの?私間違えた?そんな、まさか………
「わかりました。では、1番の方は、前へ。」
そんな事、あるはずないよね。そして、前に出たのは………
黒江先輩だった。
「では、全国大会のユーフォニアムのソリは、黒江真由さんに決定します。」
嘘………でしょ………?どうして、そんな………久美子先輩が、選ばれないなんて………
「これが、今の北宇治のベストメンバーです!」
「久美子先輩………」
しかも、悔しいはずなのに、凛々し顔で私たちを励ますなんて……っ!
「ここにいる全員で決めた、言い逃れのない最強メンバーです!これで全国へ行きましょう!そして、一致団結して、必ず、金を、全国大会金賞を、取りましょう‼︎」
どうして、そんな………毎回毎回貧乏くじばかり引きたがるんですか……
その日の夕方、私は久美子先輩に話しかけた。
「久美子先輩………」
「どうしたの、奏ちゃん?オーディション受かったのに浮かない顔だね。」
「悔しくないんですか?私は久美子先輩にソリ吹いて欲しかったのに……っ!」
「でももう、前を向くしかないじゃん。そうでしょ?」
「………はい。」
泣きたいのは久美子先輩のはずなのに、なんでここまで気丈に振る舞えるんだろう。本当に、あなたって人は………っ。久美子先輩のことを思うと、オーディションに受かったはずなのに、涙が止まらなかった。
それでも、涙を止めて前を向かねばならない。自分が負けたわけではないのだから。自分はコンクールメンバーになれたのだから。そう決心し、私は次の日から、また練習に集中した。
そして、とうとうコンクールの3日前になった。私は大輝と2人で練習していると………
「あっ、久美子先輩。またあの曲吹いてる。」
「ああ。いつものやつ?」
「うん。ちょっと行ってくる。」
「はいよ!じゃあその間はナンパしてくるぜ!」
「それはダメ!」
久美子先輩のいつもの曲を聞いて、部屋を飛び出た階段を駆け降りた。私もあの曲吹きたい。そんなちょっとした思いがあったからだった。
階段を降りると、既に久美子先輩は黒江先輩とお取り込み中だった。
「こんにちは♪」
ということで、邪魔した。
「「奏ちゃん⁉︎」」
「抜け駆けは許しませんよ。その曲は私もいつか吹きたいと思っていたんですから。」
「大輝君とのイチャラブ練習では満足できなかったか〜?」
「不倫?」
「違います!」
「ぷっw」
「あっ、佳穂ちゃん!来てたんだね!」
「バレちゃいました……っ!」
とりあえず、教わろう。そして吹こう。そんな事を思いながら、私は久美子先輩と黒江先輩の隣に椅子を置いた。
「部員みんな知ってますよ。何かあると久美子先輩、いつも1人でその曲吹いてるんで。」
「えっ、そうなの⁉︎」
「うん。大切に吹いてるな、って思ってた。」
「「ですよね。」」
珍しく黒江先輩と意見が合う。本当に久美子先輩にとって、この曲は特別みたいだ。
「あ、あの、久美子先輩!私もこれから、何かあった時吹いてもいいですか⁉︎」
「うん。これからは皆に吹いてほしい。ずっと、繋がっていってほしい。大切に吹いていってね。大事な曲だから。」
「はい‼︎」
良かった。許可が下りた。久美子先輩のあの曲を吹ける。それが何より嬉しかった。
「たとえば、大輝君と喧嘩した時とか!」
「それじゃあいつもじゃないですか。」
「ぷっw」
「笑うな!」
「大輝君とデュエットするのも面白そうだね!」
「うるさいですよ、黒江先輩‼︎」
でも、なんか揶揄われた。全く、大輝が居なければこんな事にはならなかったのに‼︎まあ、大輝が居てくれたおかげで、コンクールメンバーにもなれたけど。感謝と憎悪が入り混じる中、私は久美子先輩から『響けユーフォニアム』を教わり、その日の練習は終わったのだった。
そして次の日。コンクール2日前のこと。
「あれ、珍しく居ない。」
朝登校すると、いつもは一番に来て練習しているはずの大輝が居なかった。もしかして、寝坊したのかな?全く、コンクール前で気が緩んだか?それとも、誰かとデートしてたり………いやいや、そんな事は無いな。大輝だし。とりあえず、練習しよっと。
「はぁ………はぁ……。いた、奏ちゃん‼︎」
そんな事を思っていたら、息を荒げた久美子先輩がやって来た。どうやら走って来たらしい。寝坊したかと思ったけど、目が真剣そのものだ。
「どうしたんです、久美子先輩?」
「奏ちゃん、落ち着いて聞いて。」
一体何があったんだろう…………
「大輝君が、車にはねられたって。」
久美子先輩から発せられた言葉は、とても信じ難いものだった。