たわけ!ドアホ男子   作:スピリタス3世

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練習番号T よきせぬアクシデント

  奏視点

 

 久美子先輩から大輝が轢かれた話を聞いた途端、頭が真っ白になった。

 

「大輝………っ‼︎」

「奏ちゃん‼︎」

 

 そして、気がついたら走り出してた。大輝の様子が見たい。今は無事なの?生きてるの?ねえ、昨日は普通に笑ってたじゃん。普通に揶揄ってきたじゃん。なんでよ?お願い、急に居なくならないで………っ!

 

 

 

 そして、思いっきり走り出した私は………

 

「奏、どこ行くの?」

「梨々花、学校休むって言っといて‼︎」

 

 校門のところで梨々花に止められた。

 

「大輝君がいる病院、分かってるの?」

「あっ………。」

「ほら、分かんないんじゃん。滝先生か久美子先輩に聞かないと。」

「ごめん………」

「いいってことよ〜!」

 

 そうだ。私、大輝がどこに搬送されたか知らないんだった。あまりに焦りすぎてて、こんな事も頭から抜けていた。

 

「とりあえず、休む事は言っておくから。冷静に聞いた後、行ってきな。」

「ありがと。」

 

 ということで、私は無事に大輝の病院に行くことができた。

 

 

 

 

 

 病院に着くと、既に大輝の家族が着いていた。

 

「こ、こんにちは……っ‼︎」

「あっ、奏ちゃん!」

「大輝は⁉︎大輝は………っ⁉︎」

「大輝はね………あそこだよ!」

 

 大輝のお母さんが案内して下さる。お願い、大輝。頼むから生きていて……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜、俺を轢いたお姉さんがめちゃくちゃ美人でな!逃げられちまったんだけど、あの顔は忘れられねえぜ!あれはきっと俺に惚れてる!そう思うだろ、父ちゃん!」

 

 そこに居たのは、病院のベッドに横たわってめちゃくちゃ元気に喋る大輝だった。

 

「おっ、奏ちゃんじゃないか。」

「お疲れ様です。病院内の風紀が心配で、駆けつけました。」

「それは良かった!ほら大輝、奏ちゃんだぞ!」

「げっ………!」

「げっ、って何?ピンピンしてて腰抜けなんだけど。」

「うるせえな‼︎俺は病人だぞ‼︎もっと労われ‼︎」

「そんな元気な病人、居ないから………」

 

 なんかいつも通りの大輝を見たからか、思わず安心して膝をついてしまった。そして、さっきまで張り詰めてたものが、不意に解けて……

 

「だから………その……ぐすっ……」

「お、おい、久石!泣くなよ………」

「心配させないでよぉ………ばかぁ………」

 

 涙が溢れてしまった。

 

 

 

 

 しばらくした後、私の涙はようやく引っ込んでくれた。

 

「気は済んだか?」

「ありがと。」

「よしっ、それじゃあ学校に戻れ!俺はナースをナンパするから!」

「それはダメ。」

「なんだよ、ケチ‼︎」

 

 いつも通りの大輝に戻ってくれたのが、憎たらしいはずなのに、とても嬉しかった。

 

「そもそも、怪我して歩けな………っ!」

 

 だからか、とても大事な事を忘れていた。目の前で横たわる大輝。その右腕と右脚には包帯が巻かれていた。

 

「そりゃそうだな!なんせ折れてるし。全治2ヶ月、ってところかな?」

 

 右手と右脚の骨折。全治2ヶ月。しかし、コンクールは明後日。それが意味することは………大輝はコンクールに出られなくなった、という残酷な事実だった。

 

「そ、そう………」

「まあ、ナースのお姉さんが世話してくれるし、最高の時間だぜ!」

「大輝………」

 

 なんで気がつかなかったんだろう。いつもの調子で笑う彼の顔は、どこか悲しげだったことに。あれだけコンクールに向けて頑張ってきたのに、何も悪くない不意の事故でメンバーから外れる。貧乏くじどころじゃないよ。とんだ貧乏神に取り憑かれたよ。こんな目に遭ったのに、なんで私を気遣えるの………?

 

「だからお前も、俺なんか気にしないで………」

「私見てないから。胸でも背中でも好きに使いな。」

「だからさ、俺なんか………」

 

 彼の張り詰めてた笑顔が解けて、涙が溢れる。そりゃそうだ。こんな目に遭って、泣きたくないはずがない。いくら情を捨てて音楽したって、無理があるに決まってる。だから今は、皆が見ていない今は………

 

「あぁ………コンクール、吹きたかった………お前と一緒に、吹けたのに………葉月先輩と初めて、一緒に吹けたのに………」

「お疲れ様、大輝。本当に今まで、ありがとう。」

 

 好きに泣いても、気にしないから。

 

 

 

 

 

 その後私は一旦学校へ戻り、放課後の練習後に低音の皆と梨々花を引き連れて、大輝の病室を訪れた。

 

「あっ、皆さん!お疲れ様です!俺は生きてますよ!」

「お疲れ、大輝君!災難だったね。ひき逃げなんて……」

 

 ちなみに大輝が青信号の横断歩道を渡っていたところに、相手が赤信号に気づかず*1直進。完全に0-100で相手が悪い事故。大輝にとっては、本当にとんだ災難だ。

 

「久美子先輩、なんとか生きてますよ!まあご存知の通り、コンクールには出られませんけどね。」

「大輝君!」

「さっちゃん、どしたの?」

「さっきオーディションして、大輝君の代わりは私が吹くことになったから!私、頑張る!」

「おっ、頼むぜ〜、さっちゃん‼︎」

 

 そして、大輝の代わりはさつき。今日緊急でオーディションして決めた。コンクールの全体の人数を増やさなければ、直前のメンバー変更は可能だ。もっとも今回みたいに、よっぽどの理由がないとやらないけど。

 

「先輩、当日は来れそうですか?」

「まあ、車椅子を押してもらう感じになるな!打楽器の運搬とかはできねえけど、聴くだけなら!」

「「おお!」」

「じゃあ担当は奏先輩ですね!」

「私コンクールメンバーだから、ほとんど一緒に居られないと思う。」

「俺の両親が押してくれるって。だから気にすんな!」

「別に気にしてないから。」

「「素直じゃないな〜!」」

「素直だよ!」

 

 全く、皆は私のことをなんだと思ってるんだか………。本当に、全然気なんてないんだからね!

 

「葉月先輩………」

「ん?どしたの?」

「いや、なんでもないです!頑張って下さい!」

 

 そして、大輝が加藤先輩に何かを言おうとしてやめたな。恐らく気を遣った感じか。全く、らしくないことをするんだから!

 

「大輝、言いなよ。他の皆はたいさ〜ん!」

「えっ、ちょっ、何⁉︎」

「奏が言うなら!」

「みっちゃんまで⁉︎」

 

 ということで、私は他の皆と一緒に病室から出て…………

 

「で、大輝君、どうしたの?改まって………」

「葉月先輩、その…………いや、こんな事言ってもあれなんですけど……

…コンクール、一緒に吹きたかったです………」

「ごめんね、上手くなるのが遅くって!私、大輝君の分まで頑張るから!」

「ありがとうございます………っ!」

 

 大輝と加藤先輩の時間を作ってあげたのだった。

 

「奏ちゃん、いい女だね。」

「久美子先輩ほどでは〜。」

「血相変えて飛び出たんだって、奏ちゃん?」

「それほどでもないですよ、黒江先輩。」

「いやいや〜、めちゃめちゃ焦ってたじゃ〜ん!」

「僕も見てた。」

「すごい顔してたよね。」

「うん!」

「うるさいな〜‼︎」

「愛しの人の元に全力で駆けつける………」

「これぞロミオとジュリエット‼︎」

「ぷっw」

「違う‼︎」

「参考に致します‼︎‼︎」

「いや、参考にしない方がいいから!無事故が一番‼︎」

「「「それはそう!」」」

 

 大輝のためにも、全国金を獲らないと。じゃないと、彼の不運が報われない。

 

「それじゃあ皆さん。大輝に全国金、届けましょう!病院だから小さい声で………」

「「「「はいよ!」」」」

 

 幸い私は大輝のおかげで、コンクールメンバーになることができた。やるんだ、私‼︎彼に全国金の栄冠を見せるために‼︎

*1
スマホ見ながらのながら運転のため、気がつかなかった




次回、長かった第三楽章も終わります!お楽しみに!
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