奏視点
久美子先輩から大輝が轢かれた話を聞いた途端、頭が真っ白になった。
「大輝………っ‼︎」
「奏ちゃん‼︎」
そして、気がついたら走り出してた。大輝の様子が見たい。今は無事なの?生きてるの?ねえ、昨日は普通に笑ってたじゃん。普通に揶揄ってきたじゃん。なんでよ?お願い、急に居なくならないで………っ!
そして、思いっきり走り出した私は………
「奏、どこ行くの?」
「梨々花、学校休むって言っといて‼︎」
校門のところで梨々花に止められた。
「大輝君がいる病院、分かってるの?」
「あっ………。」
「ほら、分かんないんじゃん。滝先生か久美子先輩に聞かないと。」
「ごめん………」
「いいってことよ〜!」
そうだ。私、大輝がどこに搬送されたか知らないんだった。あまりに焦りすぎてて、こんな事も頭から抜けていた。
「とりあえず、休む事は言っておくから。冷静に聞いた後、行ってきな。」
「ありがと。」
ということで、私は無事に大輝の病院に行くことができた。
病院に着くと、既に大輝の家族が着いていた。
「こ、こんにちは……っ‼︎」
「あっ、奏ちゃん!」
「大輝は⁉︎大輝は………っ⁉︎」
「大輝はね………あそこだよ!」
大輝のお母さんが案内して下さる。お願い、大輝。頼むから生きていて……………
「いや〜、俺を轢いたお姉さんがめちゃくちゃ美人でな!逃げられちまったんだけど、あの顔は忘れられねえぜ!あれはきっと俺に惚れてる!そう思うだろ、父ちゃん!」
そこに居たのは、病院のベッドに横たわってめちゃくちゃ元気に喋る大輝だった。
「おっ、奏ちゃんじゃないか。」
「お疲れ様です。病院内の風紀が心配で、駆けつけました。」
「それは良かった!ほら大輝、奏ちゃんだぞ!」
「げっ………!」
「げっ、って何?ピンピンしてて腰抜けなんだけど。」
「うるせえな‼︎俺は病人だぞ‼︎もっと労われ‼︎」
「そんな元気な病人、居ないから………」
なんかいつも通りの大輝を見たからか、思わず安心して膝をついてしまった。そして、さっきまで張り詰めてたものが、不意に解けて……
「だから………その……ぐすっ……」
「お、おい、久石!泣くなよ………」
「心配させないでよぉ………ばかぁ………」
涙が溢れてしまった。
しばらくした後、私の涙はようやく引っ込んでくれた。
「気は済んだか?」
「ありがと。」
「よしっ、それじゃあ学校に戻れ!俺はナースをナンパするから!」
「それはダメ。」
「なんだよ、ケチ‼︎」
いつも通りの大輝に戻ってくれたのが、憎たらしいはずなのに、とても嬉しかった。
「そもそも、怪我して歩けな………っ!」
だからか、とても大事な事を忘れていた。目の前で横たわる大輝。その右腕と右脚には包帯が巻かれていた。
「そりゃそうだな!なんせ折れてるし。全治2ヶ月、ってところかな?」
右手と右脚の骨折。全治2ヶ月。しかし、コンクールは明後日。それが意味することは………大輝はコンクールに出られなくなった、という残酷な事実だった。
「そ、そう………」
「まあ、ナースのお姉さんが世話してくれるし、最高の時間だぜ!」
「大輝………」
なんで気がつかなかったんだろう。いつもの調子で笑う彼の顔は、どこか悲しげだったことに。あれだけコンクールに向けて頑張ってきたのに、何も悪くない不意の事故でメンバーから外れる。貧乏くじどころじゃないよ。とんだ貧乏神に取り憑かれたよ。こんな目に遭ったのに、なんで私を気遣えるの………?
「だからお前も、俺なんか気にしないで………」
「私見てないから。胸でも背中でも好きに使いな。」
「だからさ、俺なんか………」
彼の張り詰めてた笑顔が解けて、涙が溢れる。そりゃそうだ。こんな目に遭って、泣きたくないはずがない。いくら情を捨てて音楽したって、無理があるに決まってる。だから今は、皆が見ていない今は………
「あぁ………コンクール、吹きたかった………お前と一緒に、吹けたのに………葉月先輩と初めて、一緒に吹けたのに………」
「お疲れ様、大輝。本当に今まで、ありがとう。」
好きに泣いても、気にしないから。
その後私は一旦学校へ戻り、放課後の練習後に低音の皆と梨々花を引き連れて、大輝の病室を訪れた。
「あっ、皆さん!お疲れ様です!俺は生きてますよ!」
「お疲れ、大輝君!災難だったね。ひき逃げなんて……」
ちなみに大輝が青信号の横断歩道を渡っていたところに、相手が赤信号に気づかず*1直進。完全に0-100で相手が悪い事故。大輝にとっては、本当にとんだ災難だ。
「久美子先輩、なんとか生きてますよ!まあご存知の通り、コンクールには出られませんけどね。」
「大輝君!」
「さっちゃん、どしたの?」
「さっきオーディションして、大輝君の代わりは私が吹くことになったから!私、頑張る!」
「おっ、頼むぜ〜、さっちゃん‼︎」
そして、大輝の代わりはさつき。今日緊急でオーディションして決めた。コンクールの全体の人数を増やさなければ、直前のメンバー変更は可能だ。もっとも今回みたいに、よっぽどの理由がないとやらないけど。
「先輩、当日は来れそうですか?」
「まあ、車椅子を押してもらう感じになるな!打楽器の運搬とかはできねえけど、聴くだけなら!」
「「おお!」」
「じゃあ担当は奏先輩ですね!」
「私コンクールメンバーだから、ほとんど一緒に居られないと思う。」
「俺の両親が押してくれるって。だから気にすんな!」
「別に気にしてないから。」
「「素直じゃないな〜!」」
「素直だよ!」
全く、皆は私のことをなんだと思ってるんだか………。本当に、全然気なんてないんだからね!
「葉月先輩………」
「ん?どしたの?」
「いや、なんでもないです!頑張って下さい!」
そして、大輝が加藤先輩に何かを言おうとしてやめたな。恐らく気を遣った感じか。全く、らしくないことをするんだから!
「大輝、言いなよ。他の皆はたいさ〜ん!」
「えっ、ちょっ、何⁉︎」
「奏が言うなら!」
「みっちゃんまで⁉︎」
ということで、私は他の皆と一緒に病室から出て…………
「で、大輝君、どうしたの?改まって………」
「葉月先輩、その…………いや、こんな事言ってもあれなんですけど……
…コンクール、一緒に吹きたかったです………」
「ごめんね、上手くなるのが遅くって!私、大輝君の分まで頑張るから!」
「ありがとうございます………っ!」
大輝と加藤先輩の時間を作ってあげたのだった。
「奏ちゃん、いい女だね。」
「久美子先輩ほどでは〜。」
「血相変えて飛び出たんだって、奏ちゃん?」
「それほどでもないですよ、黒江先輩。」
「いやいや〜、めちゃめちゃ焦ってたじゃ〜ん!」
「僕も見てた。」
「すごい顔してたよね。」
「うん!」
「うるさいな〜‼︎」
「愛しの人の元に全力で駆けつける………」
「これぞロミオとジュリエット‼︎」
「ぷっw」
「違う‼︎」
「参考に致します‼︎‼︎」
「いや、参考にしない方がいいから!無事故が一番‼︎」
「「「それはそう!」」」
大輝のためにも、全国金を獲らないと。じゃないと、彼の不運が報われない。
「それじゃあ皆さん。大輝に全国金、届けましょう!病院だから小さい声で………」
「「「「はいよ!」」」」
幸い私は大輝のおかげで、コンクールメンバーになることができた。やるんだ、私‼︎彼に全国金の栄冠を見せるために‼︎
次回、長かった第三楽章も終わります!お楽しみに!