奏視点
北宇治の吹部に入部してから数日経ったある日のこと………
「以上が、コンクールとサンライズフェスティバルの概要です!」
私たち1年生は、黄前先輩と加部先輩からコンクールとサンライズフェスティバル、通称サンフェスについて聞かされていた。
「お〜!色んな高校が来るってことは、そこのJKと連絡先交換し放題ですね!」
「ま、まあ、問題にならない程度にね〜。」
「黄前先輩。彼の辞書に自重という言葉はありませんので、禁止したほうが良いかと。」
「そだね〜。奏ちゃんの命の元、荒川君のナンパを禁じます!」
「おいゴルァ、カス石ィ‼︎余計な事言うなや‼︎」
「私はサンフェスの風紀を守っただけだから。」
例の如く大輝が頭悪い事を言う中………
「すいません。」
「どうしたの、美玲ちゃん?」
「コンクールメンバーはオーディションで選ばれると書かれていますが、本当ですか?」
「本当です。何か気になる?」
「あの、その………言ったままの意味ですけど………」
美玲が真面目な質問をした。オーディションね。よく揉める内容だ。現に私も中学の時揉めたし。多分美玲の言葉だけだと足りないから、私から補足しよう。
「つまりオーディションにおいて、学年や人間関係などの、実力以外の要素でメンバーが決まるのかという質問だと思います。もっと言えば、上級生が優先されるのかということです。」
「………です。」
「………っ!」
「無いです!実力のある者が学年に関係なく選ばれる。それだけです。」
「ありがとうございます。」
あっ、今黄前先輩、ちょっと言い淀んだな。これはちょっと怪しい気がしてきた。
「ありがとな、みっちゃん!流石に全国金目指す以上、そうじゃなきゃ困りますよ〜♪」
「荒川、その名前で呼ばないで。」
「え〜、つれないな〜♪俺はお前と、もっと仲良くしたいって思ってるぜ☆」
「美玲、キモいと思ったらシカトかパンチしていいからね。」
「ありがとう、奏。」
「おいゴルァ‼︎誰がキモいって⁉︎」
大輝はちょけてるけど、かつて中学の時これでキレたからな。当時下級生だった私が選ばれたコンクールで結果が振るわなくて、3年生を出しとけば良かったって言われたっけ*1。そしたら帰りのバスで大輝がブチギレ。しかも女子相手に。そうして必死に私を庇ってくれたなぁ。その時は珍しくカッコいいって思ったのを、今でも覚えている。
そこから数週間が経ち、私も練習に慣れてきた。そして、大輝と同じパートにも慣れてしまった。
「大輝。さっきのとこ、聞いててどうだった?」
「う〜ん、全体的にアタックが不明瞭ですね。アクセントがついてない箇所でも、もっとはっきり吹かないとダメだと思います。中でもアタックが苦手なのは………梨子先輩と葉月先輩、それからさっちゃんですね。その3人は特に意識してください。」
「はい!」
「ありがとう!」
その実力を買われた大輝は、もはやチューバの中ではドラムメジャー的なポジションになっていた。先輩方の意地はないのか、と思いつつも、彼の圧倒的な実力には降参せざるを得ないか。そうどこかで納得してしまった。
「ねえ、荒川君。私はどう?」
「夏紀先輩ですか?先輩は音程が不安定なのと、全体的な音量が小さめですね。ただこれは曲を吹きながら直すより、基礎練でロングトーンを増やした方が効果的です。」
「ありがとう、助かる!」
ただ、中川先輩。確かにユーフォとチューバは似てるとはいえ、一応違う楽器。なんなら黄前先輩や私にも教えてもらってるし。意地とか無いんかな?正直ちょっと気にくわない。
「おっと、そろそろ練習の終わる時間だ。この後は18:30まで自主練可能だから、各自よろしく。」
「「「「はい!」」」」
「では、お先失礼します。お疲れ様でした。」
そんな事を思っていると、18:00になった。ここからは自主練。美玲はいつも通り帰るとして、大輝はいつも通り残っていくんだな………
「ちょいと今日は用事がありまして〜。俺も失礼します!」
と思ってたら、意外な事を言われた。嘘でしょ、用事⁉︎
「アンタに用事なんかあったんだ〜。」
「いいだろ、別に。」
「かなぴー、何か知ってる?」
「さつき、なんで私に聞くの⁉︎知らないよ‼︎」
「かなぴーの知らない予定………」
「別に知らないこともあるでしょ‼︎」
「久石は全く関係ないぞ。」
どうせコイツはギャルゲーするかエロ本買うかしかやる事ないのに。もしかして何かの発売日?
「何故ならナンパをするからなぁ‼︎」
そう言い放つ大輝。その視線の先には美玲。その瞬間、私の頭の中で点と点が繋がった。コイツ、美玲と2人きりになって口説くつもりだ‼︎
「ごめんなさい、私も用事が出来ちゃいました〜。」
「おっ、これは女の勘ってやつかい⁉︎」
「緑、ドキドキしちゃいます‼︎」
「違います‼︎ただの風紀を守る活動です‼︎」
「お前はついてくんなよ‼︎」
「嫌だね‼︎」
「お、お疲れ………」
「「お疲れ様でした‼︎」」
なんか皆にあらぬ誤解をされてるけど、そんなのお構いなし‼︎なんとしてもコイツの幸せを阻止………じゃなかった、美玲を守らないと‼︎そういう思いで、私は大輝についていった。
しばらくすると、
「みっちゃ〜ん♪一緒に帰ろ〜♪」
アホがアホしたので、
「うわ…………っ。」
「ごめんね、美玲。このアホがキモくて。」
「うん。本当に気持ち悪いからやめてほしい。」
「わ、分かったよ、美玲。大人しくするから………」
「このまま一生喋んないでほしいね、美玲♪」
「いや、そこまでは言ってないけど………」
シバいといた。ようやくまともな対応したか。これで私も少し安心した。にしても、大輝はなんで美玲に用があるんだろう?
「で、何の用?まさか私に自主練をさせる、と?」
そういう事じゃない気がするけど………
「当たらずとも遠からず。」
そうなんだ。意外だな。大輝は出来てれば何してもいいって考えだから。私もむしろそっち派だし、無理矢理自主練に引っ張ってこようとは思わない。
「言われても私は参加しないけど。」
「もしかして、唇あんまもたない?」
「は………?いや、特にそんな事はないけど………」
「そうなんか。」
唇のスタミナ、か。確かに金管楽器は唇の振動で演奏する。そのため唇のスタミナはめちゃくちゃ重要だ。あまり長い時間吹きすぎると唇が痛くなるため、かえってしない方がいい。でも美玲はそういうわけじゃなさそうだな。
「じゃあ、最低限の練習はしてるからオッケー、的な?」
「そこまでじゃないけど………私なりに練習の時間は少ないけど、質を上げてやってきたつもり。荒川もそっちタイプかと思ってたけど。」
「それで足りるなら、の話だ。」
となると、美玲のクオリティーの話か。美玲は私からしても上手いと思う。現状の北宇治のレベルを考えたら、大丈夫な気もするけど………
「コンクールの55人編成において、チューバの人数は3人が普通。多くて4人。単純に考えて上手い順に並べたら、俺→後藤先輩→梨子先輩→美玲→葉月先輩→さっちゃんとなる。つまり、そもそも美玲は現状の北宇治ですら、オーディションのメンバーの当落線上だ。」
「それは………」
「更に言えば、目標とする全国金に届いてる人は俺含め誰も居ない。その中で4番手。どう?実力、足りてないっしょ?まさか1年だから入れなくて当然、とかは思ってないよね?」
「…………」
いや、全然大丈夫じゃなかったっぽい。そもそも現状の北宇治のレベルがダメなのか。上手いと思ってた美玲も、大輝に粉々に砕かれて返す言葉も無くなってる。あとこのモードの大輝、ちょっと怖い。滝先生みがある。
「美玲が頑張ってない、サボってるなんて思わない。むしろ限られた時間である程度の実力を出してるのは凄いと思う。でも、その程度じゃ足りない。その程度で満足されちゃ困る。そして、実力を上げるには練習の量を増やすか質を上げるか、なんだけど………簡単なのはどっち?」
「量を増やす方………」
「正解!つーかぶっちゃけ、美玲用の今より質を上げるやり方がまだ思いつかん!」
「考えてたんだ。」
「全員の分を考え中だからね!」
「すごっ………」
大輝は指導も上手いんだよね。現に自分がドラムメジャーをやった中3の時は全国連れてってくれたし。その凄さを日常生活で活かしてほしい。
「それじゃあ、あとは分かるよね………って言いたいけど、何かありそうな顔してるね〜。どしたん、話聞こか?」
「チャラ男か。」
「そりゃそうさ!なんせ数多の女性を落としてきた、天才モテ男なんだから!」
「誰一人落とせてない、天災ブサ男の間違いでは?」
「うるさい久石‼︎人がせっかく美玲を口説いてるんだから‼︎」
「うわ〜、それ言うのキモ〜。」
にしても美玲は美玲自身、言いたいことがあるみたい。話聞こか、してみようか。
「なんで皆は、あんなに出来てないさつきや葉月先輩を評価してるんですか?私より下手なのに、あんなに楽しそうに………。」
そういうこと、ね。意外と輪に入れてないの、気にしてたんだ。繊細ちゃんじゃん。私と同じだと思ってたのに。ちょっとつまんないな。
「評価………?俺の評価はさっき言った通りだけど………?他の人も、演奏面の評価は違うでしょ。」
「えっ………?」
「美玲は評価されていない、と会話の輪に入れていない、をごっちゃにしてない?それに、皆思っている以上に、お前とも話したがってるよ?現に俺は今ナンパしてるし………」
「荒川は女好きだから、私に話しかけたんだと思ってた。」
「それは合ってる!」
「「笑顔で言うことじゃないでしょ。」」
おお、タイミングバッチリ。美玲には大輝を押し付けてもいいな。
「まあいいや!それじゃあ明日から、久石に虐められるってことで話しかけてもらおう!きっと皆、心配してくれるよ!」
「荒川の間違いでしょ。」
「いいツッコミだね、美玲。大輝のお世話係、頼んだよ!」
「それは嫌。」
「おいゴルァ、クソ石‼︎俺が傷ついたやんけ‼︎」
「なんか情けないね、荒川。」
「誰が情けないってぇぇぇ、この下手クソがぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「見てなよ。貴方より上手くなってみせるから。」
「やれるもんならやってみろやぁぁぁぁ‼︎」
ということで、美玲の珍しい笑顔が見れた日でした。また!大輝を煽れる人が増えましたとさ。めでたしめでたし!
お互いまだハッピーアイスクリームを知らないので、同じ事言ってもそのままです。
また実力順は、作中でみっちゃんが葉月のことだけを「先輩なのに私より下手。」と言ってたので、残る3年2人はみっちゃんより上にしました。後藤と梨子の並びはリーダーが後藤なのでそう決めました。実際あの2人だけで三日月の舞をやってたので、相当な実力者ですね。