奏視点
初の幹部会をした翌日の練習にて、私たちは久美子先輩の司会のもと、1・2年生の前で幹部になったことを報告することになった。私たちが前に立つと、沢山の期待の眼差しで見られた。その視線のためか、自分の心音がいつもより大きく感じた。
「それでは、次の幹部を発表します。まずは部長、剣崎梨々花さん!」
「部長になりました〜!剣崎です!あと、梨々花です!これから1年頑張りますので〜、よろしくお願いしま〜す!」
「続いては副部長、久石奏さん!」
「副部長になりました。久石奏です。よろしくお願いします。」
「最後に副部長の旦那………」
「「違います!」」
「じゃなかった、ドラムメジャーの荒川大輝君。」
「ど〜も、ドラムメジャーになったイケメン魔神・荒川大輝で〜す!カッコいいと思った方は、今週末デートを!」
「誰も居ないから。」
そして、いよいよ私たちに幹部がバトンタッチする時となった。
「それでは、これからの司会は新部長にお願いします。」
「お願いされました〜。」
梨々花のゆるふわな挨拶に、場の空気が和む。久美子先輩以上の癒し系部長を、皆が歓迎しているようだった。だが、彼女にはここで空気を変えてもらおう!
「さて〜、北宇治では、毎年目標を立ててやってま〜す!しか〜し!それは去年も今年もコンクールの間だけでした〜!ですが来年は〜、違います!この時期から、もう決めちゃいましょ〜!」
周りがざわつき始める。そりゃそうだ。例年4月にやってた目標決定を、コンクールが終わったばかりの今決めるのだから。ちなみに滝先生の許可も貰い済。なんなら今この場に来てもらっているし。
「具体的には〜、来年の吹奏楽コンクールで全国金を目指すか、それとも音楽の楽しさに重点を置いてやるか〜、を選ぶことになりま〜す!目を瞑って、よ〜く考えてから手を挙げて下さいね〜。」
任命早々例年に無いことをやる。その事実に不安を覚えながらも、私は皆を見守ることにした。
「すいません!」
「はい、平沼さん!」
「来年の1年生はどうするんですか?」
「新歓の時に、この目標を言いながら活動しま〜す!そして、これに納得した人だけを入部させるつもりで〜す!」
「なるほど…………ありがとうございます。」
そして、当然の質問が出る。これも昨日やった通り。目標を話した上で、それに納得してついていく気力のある子だけを入れる。この方針を踏まえた上で、皆は納得してくれるか………
「では〜、全国大会金賞を目指す人〜!」
そして、目の前に広がったのは…………ほぼ全員がすぐに手を挙げるという景色だった。やはり、今年の結果を受けて、リベンジしたかったのだろう。それが分かっただけでも、大きな収穫だった。
「は〜い!賛成大多数でしたので〜、来年の北宇治は全国大会金賞を目指しましょ〜!それでは滝先生!」
「はい。私は皆さんの自主性を重んじる指導をしています。今回はこの時期からコンクールで全国金賞を目指すと理解しました。大変ですが、1年間頑張りましょう。」
「「「はい!」」」
この日、私たちはコンクールへのリベンジを誓ったのだった。
目標決めが終わると、
「それでは〜、ドラムメジャー!お話お願いしま〜す!」
「はいよ!」
梨々花から大輝にバトンタッチとなった。
「改めまして、イケメンです‼︎」
「余計なこと言ってないで、さっさと話して。」
「怖い副部長はさておき………コンクールを目指すといっても、いきなり課題曲と自由曲をやるわけじゃありません‼︎皆には例年みたいなコンサート、いや、例年以上のコンサートをやってもらおうと計画中です!今回はその賛成をいただきたく!メリットはこの3つ!まずは………」
そして大輝は、昨日話した話を皆にした。皆もそれを聞いて納得したらしく、大輝の意見に賛成してくれた。ここまでトントン拍子で進んだので、ちょっと拍子抜けしてしまった。それが正直な感想だった。
その日の練習後、私たちは美玲に話しかけられた。
「ねえ、3人とも。」
「ど〜したの〜、みっちゃ〜ん?」
「まさか俺に告白………?」
「告発の間違いじゃない?」
「ちょっと疑問に思うところがあって………」
何か落ち度でもあったかな?全体の方針に関わることなら……いや、美玲ならちゃんとその場で言ってくれるか。なら、別のことだろう。果たして一体………?
「なんで私がパートリーダーなの?大輝だと思ったけど………」
それか。それは………
「コイツに音楽以外のことが出来ると思う?」
「出来るに決まってるだろ‼︎」
「出来てないから言ってるの‼︎」
大輝じゃ音楽以外は役に立たないから………じゃないんだよね。
「久石の戯言は置いといて、俺はドラムメジャーだから全体の音楽を指導しなきゃいけない。」
「でも、今年は高坂先輩がパートリーダーも兼務してたよね?」
「それはそうなんだが、来年はちょっと違ってな。俺が時々他パートの練習に行って指導しようと思っているんだ。だからちょくちょくパート練の時間に居なくなる。」
「それで私に白羽の矢が立ったと。」
「まあ、そんな感じだな!」
来年は大輝が他のパート練習にも顔を出す。自分の耳で聴いて指導をしたいんだと。合奏の色んなパートしか混ざってない中で聴くのは難しいし。
「分かった。その代わり音楽以外もビシバシ指導するよ。例えば赤点で練習に来られない人の対策とか。」
「いや、それはやらなくていいんじゃないか………?」
「美玲、お願い。このバカは私だけじゃ面倒見きれない。」
「うるせえ久石‼︎誰がバカだ⁉︎」
「分かってる。大輝は受験のことも意識させなきゃね。音大志望でも他の教科はあるし。」
「やめろぉぉぉぉ!やめてくれぇぇぇぇぇ!助けてりりりぃぃぃぃん!」
「嫌で〜す♪」
それに、美玲がビシッと言ってくれれば大輝も変わるでしょう。というか変わってくれ。コイツが最上級生として暴れられたら、本当に面倒だから。後藤先輩や川島先輩みたいに、ビシッと言ってくれる人ももう居ないんだし。
「それじゃあ〜、みっちゃん!梨々花と一緒にか〜えろ♪」
「オッケー、梨々花。」
「私も一緒に帰るよ。」
「奏は大輝君とでしょ〜?」
「奏が居なくなったら、誰が大輝の車椅子を押すの?」
「別に1人で帰ればよくない?」
「介護要員の交代を希望する‼︎頼む‼︎」
「私からもお願い。」
「「ダメ!」」
「「なんで⁉︎」」
にしても、いつまで私は大輝の面倒を見ればいいのか。全治2ヶ月だから、だいたい12月の半ばまで。本当に長い。まあ車椅子だから、あっちこっち行ってナンパしないのだけは助かるけど。そんな事を思いながら、私は大輝の車椅子を押したのだった。
それからしばらくは、各種コンサートに向けて練習が始まった。コンクールシーズンとは打って変わって、楽しい曲のオンパレード。特に有名なアイドルの曲をやる時は、部活の中の雰囲気がいつも以上に明るかった。
そして練習後のこと。
「よしっ、この曲のダンスは俺だな!なんせアイドル級の顔だし!」
「絶対ダメ。お客さんがしらける。あと車椅子でしょ。」
「うるせえ‼︎治ったら踊るんだ!」
「一生骨折してて。」
「理不尽過ぎるだろ‼︎」
大輝がいつも通り頭悪い事を言ってると………
「りりりん部長!ちょっと相談が………」
「どうしたの〜?」
1年生が梨々花に相談しにきた。
「恋愛相談か⁉︎なら俺が彼氏になってやろう!」
「えっ………?」
そして大輝が恥を晒した。
「ごめん、大輝は始末しておくから。梨々花、あとよろしく。」
「は〜い!」
「くそっ、久石‼︎ふざけるな‼︎俺のリア充チャンスがぁぁぁぁぁ‼︎」
「自己中メンズは黙ってて。」
にしても、これが幹部か。本当に恥ずかしい。あとで美玲に怒ってもらおう。そんな事を思いながら、私は大輝を引き剥がしたのだった。
ちなみに後日梨々花から相談内容を聞いたところ、本当に恋愛相談だったらしい。幹部になるとこんな事もしなきゃいけないのか。去年の久美子先輩は、本当に大変だったんだなぁ。そんな事を思ったのだった。