たわけ!ドアホ男子   作:スピリタス3世

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 皆が知ってそうな曲を中心に、プチコンサートを構成しました。


練習番号C かもがわプチコンサート

  奏視点

 

 月日が経ち11月の中頃。(あか)く染まる嵐山から吹きつける風は、ここ鴨川の青い水に紅い葉のアクセントを添えていた。

 

「みんな〜!今日のステージはここだよ〜!」

 

 そしてそここそが、私たちの最初の舞台だ。先輩方の居ない初舞台をここに決めたのは、

 

「っしゃあ‼︎観光客をナンパしまくるぜぇ‼︎車椅子系男子、参上‼︎」

 

 ひとえに大輝の下心だった。

 

「川に突き落とすよ?」

「ふざけるなよ、カス石‼︎」

 

 一応鴨川沿いでイベントが開催されるので、そこへのゲスト演奏として出演することになっている。鴨川は観光客も多いし、より多くの人に聴いてもらうには最適。本当に理にかなっている。自分の下心のために完璧な理論武装をしてきた大輝。そのことがとても腹立たしかった。

 

「皆。このバカをここに置いて、ステージ設営をやるよ。」

「俺が居るところが指揮者の位置な‼︎」

「オッケ〜?」

「「「「はいよ!」」」」

 

 ちなみに大輝は相変わらずの車椅子生活。治るまでにあと1ヶ月かかるため、今回の舞台では演奏しないことになっている。なんなら骨折したその日から楽器は吹いていないため、私は彼の音を久しく耳にしていない。早く聴きたいなと思いつつ、あのバカが元気になって痴態を晒しまくるのを心配していた。

 

 

 

 

 設営が終わると、皆で軽い音出しとリハーサルをしていた。

 

「3年生が引退してから1ヶ月。ようやく慣れてきた様子ですね。音にもそれが出ています。良いことです。この状態で最初の本番を迎えられることを、とても嬉しく思います。荒川大輝君はどう思いますか?」

「滝先生と同じっすね!あとはお客様を楽しませる!これ最優先で!」

「いい心がけですね。それを意識していきましょう。」

「「「「「「はい!」」」」」

 

 滝先生の指揮の元、リハーサルが進む。ちなみに大輝は演奏できない事もあってか、前にいて皆の演奏を指導していた。ちょけた事を言いながらも、指導はちゃんとやる。そして、滝先生とのいいコンビネーションを発揮する。それはまるで、橋本先生のようだった。

 

「そういやさっきのとこ、クラとサックスでズレてたぞ!気をつけてな!」

「「「「はい!」」」」

「あとホルン!まだ楽器が温まってないな。寒い影響が出てる。念入りに音出ししといて!」

「「「「はい!」」」」

「逆にトランペットは飛ばし過ぎ。張り切るのは分かるけど、やり過ぎるとバテるから、ほどほどに休んで!」

「「「「はい!」」」」

 

 ただ、大輝の指導は橋本先生よりは滝先生に近い。少しでも間違ってると指摘したり、割と理詰めなところがあったり。喋り口調は陽気でも、間違いは徹底的に正してくる。そのためか、高坂先輩より優しいと油断した他パートの人らがミスを指摘されまくり、考えを改めるという現象が起きていた。

 

 

 

 しばらくすると、リハーサルの時間が終わった。

 

「それでは、本番まで15分ありますので、残り10分は各自練習。5分前になったら集合するようお願いします。」

「さっき言ったこと、よろしくな!」

「「「「はい!」」」」

 

 残りは各自練習する時間か………

 

「低音の皆、大輝に指摘されたところやるから、ちょっとだけ時間貸して。」

「「「「はい!」」」」

 

 と思ってたら、我らがパートリーダーに呼び止められた。美玲はあの日以降、普通にちゃんとパートリーダーを全うしている。なんなら大輝が居なかったらドラムメジャーを出来るくらいには、指導が上手い。こんな凄腕の2人に、同じ最上級生としてついていかなきゃいけないのか。そう考えると、気が重くなった。

 

 

 

 そして数分後、いよいよ本番の時間がやってきた。

 

「それじゃあみんな〜、集合〜♪」

「「「「はいよ!」」」」

 

 梨々花の気の抜けた声が、緊張をほぐしてくれる。流石、久美子先輩以上の癒し系部長だ。中身は意外と小賢しいけど。

 

「えっと〜、さっき大輝君が言ってくれたことを意識して頑張りましょ〜!」

「「「「はいよ!」」」」

「それでは〜、北宇治ファイト〜、」

「「「「オー!」」」」

 

 ということで、私たちの初舞台が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 予め用意されていた席に着くと、そこからは30人くらいのお客さんが見えた。しかしその大半が3年生で、たまに足を止めて聴いてくれそうな観光客がいるくらい。ホームなのかアウェーなのか、よくわからない雰囲気だった。

 

 そして、最初は司会の挨拶から。このイベントのスタッフの人が、私たちを紹介してくれるみたいだ。

 

「続いては、北宇治高校吹奏楽部の演奏です。」

 

 司会の人が言うと、お客さんが拍手をしてくれた。温かい拍手だと思いつつも、コンクールの時と比べるとその人数の少なさからか、少し寂しく感じてしまった。しかし、そんな事で落ち込んでる場合じゃない。まずは目の前のお客さんを楽しませないと!

 

 そして、ここからは私たちの時間になる。最初は滝先生の指揮の元、サンフェスでも吹いた大江戸捜査網のテーマ曲。吹き慣れてる上に盛り上がる曲を先頭に持ってきたわけだ。

 

 その曲が終わると、心なしかさっきより拍手が大きくなった気がした。どうやらお客さんの心は掴めたようだ。まずは一安心かな?

 

 

 

 さてと、次は……………私と大輝の出番だ。私は席を立ち、ステージ袖で車椅子で待機していた大輝のところへ駆け寄る。なんでこんな事をするのかというと………

 

「皆さ〜ん、こんばんは〜‼︎」

「こんにちはだよ。」

 

 コンサート中は、2人で司会をやるからだ。

 

「北宇治高校、吹奏楽部です‼︎今日は暑い中お越しくださり、ありがとうございます‼︎」

「むしろ寒くない?皆コート着てるよ?」

「どうやら俺の顔を見て、足を止めてくれたようで………感謝です‼︎」

「演奏を聴いてくれたんでしょ。誰もアンタの顔に興味はない。」

 

 何故か3バカを中心に私たちを司会に推す声が多かったため、こうなった。絶対弥生とかの方がいいのに。私たちのやり取りの何が面白いのだろうと、疑問が絶えない。あと、骨折中の人間を車椅子でMCに出していいのか?ちょっと心配してたが、それは大輝のトーク力により杞憂に終わった。

 

「この(うるさ)い人はさておき、俺は今日このあとナンパをする予定です‼︎彼女を作らなくちゃいけませんからね!」

「それでは聴いてください。『ミッション・インポッシブル』。」

「誰が不可能なミッションだって⁉︎」

 

 それはさておき、2曲目が始まった。ミッション・インポッシブル。直訳すると不可能なミッション。彼女を作るという不可能なミッションに挑み続ける、大輝にぴったりな曲だ。5/4拍子というちょっと変わった拍子が、練習してて少し難しかった記憶がある。でも今は………めっちゃ楽しい!お客さんが楽しんでる姿を見て、自分たちまで楽しくなってくるよ!

 

 その次、3曲目は………有名なアイドルグループ・嵐のメドレー。男子部員に歌とダンスをさせるということで、大輝がめちゃくちゃ踊りたがっていたのだが………顔も頭も足も悪い。余裕の戦力外通告だった。

 

 ちなみにメンバーに選ばれたのは、北山タイル、月永求、荒川康太、浅野勇高、滝昇の5人。なんと皆の要望で滝先生が選ばれるという。生徒の自主性に任せるというスタイルのせいで断りきれず、汗をかきながら中年の身体を動かし、必死に若者についていこうとする先生の姿は、見ていてちょっと面白かった。

 

 あと、滝先生の代わりは美玲が指揮をしている。本当なら大輝がすべきだが、ご覧の通り骨折しまくってるのでこうなった。

 

 そして3曲目が終わった時、またもや大輝との憂鬱な司会の時間がやってきた。

 

「以上ミッション・インポッシブルと、北宇治が誇るイケメンたちによる嵐メドレーでした。」

「おかしいぞ、久石。イケメンの中に俺が入ってないんだが………」

「おかしいのはアンタでしょ。そんなんで入れると思う?」

「怪我が治れば‼︎」

「治っても無理だよ。」

「うるせえ‼︎」

 

 こんなのただの日常会話じゃん。コンサートでやるべきじゃないって。皆今日の演奏を機に反省してほしい。

 

「とにかく、俺は恋から逃げねえからな!」

「逃げてよ。恥ずかしいけど役に立つと思うよ。」

「ということで最後の曲‼︎星野源さんの、『恋』‼︎」

 

 そんな事を思いながら、私たちは最後の曲を始めたのだった。ちなみにこの曲では、男女一組が恋ダンスを踊ることになっている。3バカのせいで、危うく私と大輝が踊ることになりそうだったが、幸い大輝が怪我してくれてたので、石神井君と義井さんのペアになった。本当に助かったと、心の底から思ったのを覚えている。

 

 

 

 

 そんなこんなでその曲は順調に進んでいき、特に大きな失敗もなくコンサートは終わった。

 

「いい夫婦漫才でしたね!」

「あの2人、付き合ってるんですよ!いつも息ぴったりで………」

「どおりで!」

 

 久美子先輩が観客席で知らない人に余計な事を言った以外は、いいコンサートだった。そう思った日だった。




商店街のコンサートは次回です!@大阪、お楽しみに!
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