奏視点
大阪の商店街のコンサートから2週間後。クリスマス目前のその日に…………
「俺、復活‼︎」
大輝は完治した。リハビリも終えて、完全に歩けるようになったのだ。
「おめでとう。」
「ありがとな、久石‼︎これでナンパし放題だぜ‼︎」
「それはダメ。怪我させるよ?」
「お前が加害者じゃねえか‼︎」
ずっと車椅子を押す必要が無くなった反面、コイツが自由に暴れられるようになってしまった。本当に心配だ。
「それじゃあ早速…………皆〜、俺とクリスマスデートしない?」
ほら、早速やらかす‼︎
「ナンパするなって言わなかったっけ?」
「久しぶりに3歩歩いたんだぞ?そんなの忘れるに決まってるだろ‼︎」
「アンタは鶏か⁉︎」
どうやら脳みそにもリハビリが必要らしい。いや、要らないか。元々こんなもんだったし。ホント、副部長としての仕事が増えちゃうよ。
「大輝先輩はそりゃ奏先輩とデートでしょ!」
「久しく久石と遊んでないぜぃ!2年2組、荒川大輝です!」
「ぷっw」
「おいこら3バカ。余計な事言うな、笑うな。」
「というか、他の女性を誘ったら浮気になりませんか‼︎⁉︎」
「ならねえよ‼︎俺はコイツの男じゃねえ‼︎」
そして、介護期間を通してさらに仲が深まったと勘違いされる始末。本当にやめて欲しい。決してコイツの事は好きにならないから。
「くそっ!そうだ、こうなったら久しぶりに楽器を吹いて………」
そういや、大輝は2ヶ月ぶりに楽器を吹くんだっけ。3日あったら充分ブランクになると言われているのが楽器。それが2ヶ月ってことは………相当下手になってるはず。もしかしたら、私でも追いつけるくらいに………
「えっ………すごっ………」
そう思った自分が甘かった。彼の圧倒的な表現力と技術力は、聴いてるだけで人々を惚れ惚れさせるものだった。この男、本当になんなんだ………っ!
「ヤベェな、ブランク忘れてた。流石に2ヶ月はキチいぜ。」
「それ、本気で言ってる?」
「本気だろ。」
「皆、すごい顔してるよ。」
「うわっ、ホントだ。」
2ヶ月ブランクがあってこれ?本当にヤバすぎる。意味が分からない。ここからすぐに勘を取り戻して成長するのかと思うと、ゾッとした日だった。
それから数日後。クリスマスの日…………
「奏〜、私がいていいの〜?せっかく大輝君とのデートチャンスなのに〜?」
「幹部会兼勉強会。もうすぐ3年0学期*1だからね。」
私はいつもの3人で集まっていた。
「久石、帰ってくれ。俺とりりりんのラブな関係を邪魔するな。」
「梨々花はアンタのこと好きじゃないと思うよ。」
「私はただ〜、2人の恋を応援したいだけなのに〜!」
「「その気遣いは無用よ(だ)!」」
ちなみに場所はいつもの通り大輝の家。集まりやすい場所にあるからね。その事でパートのみんなに揶揄われたけど。ホントムカつく。いっそのこと、私が大輝以外の人と付き合っちゃおうかな?そうすれば、イジりも減るだろう。まあ、恋愛には興味ないけどね。
しばらく勉強していると、
「そういや〜、2人って何か相談とかされるの〜?」
梨々花が変な事を聞き始めた。相談、か。
「3人の時はそうだけど、1人の時は全然無い。まあ大輝のこと以外はとっつきにくいと思われてそうだし。」
「奏はそうなんだ〜。大輝君は?」
「俺は音楽のことだけだな。恋愛相談とかも欲しいんだが………」
「さっすがドラムメジャー!」
そういやあんまり無いな。私って後輩から見たら怖く見えるんだろうか?それか、梨々花が話しかけやすすぎるのか。
「私はありまくりだよ〜!解決してないのもいっぱ〜い!」
とりあえず、どんな悩みなんだろう?
「どんなの?」
「例えば〜、恋愛相談とか〜、親との関係とか〜。友達との関係もあるかも〜。」
まあ、よくある相談だ。去年の黄前相談所みたいに、今年は剣崎相談所が大人気なのだろう。ただ、私たちがやることかというのもあったり………
「部長として頼られてる証拠じゃん。」
「まあ、そうなんだけどさ〜。」
しかし、梨々花はどこか不安げな様子。なんだかんだ責任を感じているのだろう。ちゃんと解決しなきゃって。このまま1人に背負わせるほど、私は鬼畜じゃない。
「なら、私たちも協力するよ。後輩にとっては話しにくいかもしれないけど、梨々花ばっかりに大変な思いをさせるわけにはいかないし。」
「それに、りりりんが舐められてるなら、久石と俺で引き締めたらいいしな。」
「舐められてる…………ね〜。」
そんな中、大輝がすごい事を言った。確かに梨々花は優しくて話しかけやすい。裏を返せば、舐められやすいってこと。私はとっつきにくそうだし、大輝は圧倒的な実力から舐められない。
「それは…………あるかも…………」
「まあまあ、落ち込むなよ!正直幹部3人が全員キツいタイプだったら、部の空気が終わる。役割分担さ!りりりんと俺が飴で、久石が鞭。」
「大輝は鞭でしょ。正直高坂先輩よりもビビられてる気がする。全部的確に当てるから。」
「そうか?」
どころかちょっと怖がられてる。気さくなくせにバリバリ指摘してくる。サボりが全部バレる。それなのに上手く空気を緩和してくる。その完璧な振る舞いが、かえって恐ろしいのだ。
「とりあえず、相談事は全部共有して、3人で解決しよう!3人で共有するのを拒否されたら乗らない!部長だって、キツいって言っていいんだぜ!」
「ありがと〜!とりあえず、相談した子には言っておくよ〜!」
「よろしく!」
それはともかく、梨々花が抱えすぎないといいけど………
「いざとなったらぶちまけたら?何でもかんでも相談するなって。私たちはなんでも屋じゃないんだぞ、って。そうしたら皆の気も引き締まると思う。」
「確かに〜!それもありかな〜?」
「ありだぜ!」
私や大輝は割と正直に言えるけど、梨々花はそうでもない。だから上手く不満が溜まりすぎないように、私と大輝がそばで支えてあげないと。そんな事を思った。
それから1週間後。私たちは年越しの瞬間を、神社にて3人で迎えていた。
「あけまして〜、おめでとうございま〜す!」
「今年もよろしく。」
「それじゃあ新年初ナンパ、行ってくるぜ!」
「行くな!」
2018年。もうそんな年かと思ってしまう。21世紀が始まってすぐに生まれて、もう17年になろうとしていた。
「それはさておき、」
「おくな。」
「今年も祈るか!彼女が出来ますようにって。」
「神様も困るでしょ。そんな事言われちゃ。」
「困るわけねえだろ‼︎むしろ、『なんでこんないい子に彼女が出来ないのかな〜?』って悩んでくれるはず‼︎」
「梨々花、コイツ置いてく?」
「だ〜め!奏は彼女でしょ〜!」
「「違う!」」
そして、今年が最後の年だ。コンクールに出られる。今年負けたら、もう次はない。その事実が、肩に重くのしかかった。
「ちなみに俺は、全国金取れますようにとか祈らねえからな。」
「なんで?」
「神様に取ってきてもらうもんじゃない、自力で獲るもんだ。だから祈らん。全て自力でやってみせる。」
「お〜、いいね〜!」
そして、大輝の覚悟を決めた目。去年不運で怪我した人間が言うと、ものすごい説得力がある。あの時の言葉通り、神をも倒さんとする勢いだ。そして、それは私も一緒。
「よかった、一緒の考えで。」
「そうか。」
「私も賛成〜!」
「それじゃあ、何を神に祈ろうか………?」
「奏と大輝君が付き合えますように〜!」
「「それは嫌!」」
全国金、絶対にリベンジしてみせる。そう誓った、新年の日だった。
原作とは違い、目標を予め決めた&前回のリベンジを果たしたいという想いの影響で、あんまり部の空気も弛んでないです。そのため原作よりは、梨々花の負担が多少減ってますね。
あと、コンクールの賞については一貫して「獲る」の方の字を使ってます。自分の力で獲得するという、強い意志を表すために、敢えてこうしてます。
さあ、次からはこの章の本番、沖縄コンサートの話になります!お楽しみに!